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卒業式と送祝祭(3)
しおりを挟む二時半。
講堂ステージに星光騎士団の二年生と一年生が三年生のいるステージに登る。
次の騎士団長になる宇月と、副団長になる後藤が大きな花束を持って綾城と花崗に手渡した。
「珀先輩、ひま先輩、今まで大変お世話になりました。ご卒業、おめでとうございます! 大学とお仕事の両立は大変だと思いますが、お二人の今後のご活躍を楽しみにしております!」
「うわあ……ありがとう!」
「あんがとさん~」
宇月と後藤から花束を受け取り、ほんの少し、綾城と花崗が涙を滲ませた。
昨日の卒業式では誰も泣いていなかったのに、グループ活動の方はなにかやはり、込み上げるものがあるらしい。
「ほな、そろそろ最後になるさかい、今日来てくれたみんなにも改めてご説明やで。このあとわしらは一時間の休憩もらうんやけど、三時から『SBO』ゆう東雲学院芸能科と提携しとるVRMMO内の『ファーストソング』いうところで東雲学院芸能科三年生による卒業ライブやるでー。これは現地に来れないファンの人向けのイベントやさかい、内容は今日、みんなが観てきた内容と同じなんやけど、サイン会と握手会と写真撮影会があるんやで。ゲーム内やから可能なんよ。VR機持っとるご家庭はぜひぜひ参加してぇなぁ~?」
と、花崗が手を振りながら宣伝すると、初めて知ったらしき層から奇声が上がった。
綾城がさらに「今後は現実ではなく、SBO内でこういった触れ合いのイベントが開催されると思います。ゲーム内の方が安全ですので」と花束を抱えたまま伝える。
現実で触れ合いができなくなるのは、それはそれで寂しいが別に定期ライブがなくなるわけではない。
その代わりに、SBOというゲーム内で触れ合いイベントを増やす。
これは全国から、いや、全世界から時間を合わせれば東雲学院芸能科のアイドルに会える――という利点がある。
他にもアイドルの安全性が保障されているため、ここからプロ事務所の方もゲーム内でのファンサービスが増えていくだろう。
なぜなら数年前から、いわゆる”ガチ恋勢”によるストーカー行為が男女問わず増加傾向にあるからだ。
実際、綾城の炎上騒動の前には女性アイドルに対するストーカー殺人未遂事件や、握手会、ライブ出演時に硫酸をかけられたりナイフで顔を切りつけられるなどの襲撃事件も多発。
これらの事件で警備が増強されるも、襲撃件数は減ることもなく、また警備費用の総額に圧迫されて芸能事務所は女性アイドルの売り出しを縮小。
自然、女性アイドルの数が激減した。
現在男性アイドルグループが増え続けているのは、そういう背景もある。
しかし、綾城珀炎上騒動から男性アイドルグループにもその兆しがある。
ファンとの触れ合いイベントはプロ・セミプロ・地下系関わらず年々減少。
このままではアイドル文化も廃れかねないと、『CROWN』がお金を出して、七年前からアイドルグランプリを主催。
年に二回、夏の陣と秋の陣を開催するようになってから、アイドル人気自体は盛り返してきている。
やはり減っているのは触れ合いイベント。
そこを改善するのに、ゲーム内で、というのはアイドルと触れ合いイベントを望むファン側とファンとの触れ合いを望むアイドル側との、双方の要望に合うものになっている。
ファンイベントは今のところ無料で参加可能だし、交通費もかからない。
襲撃が遭っても現実のアイドルの身は安全。
襲撃犯はゲームiDから出禁にもできる。
ゲーム内で課金すればアイドルの収入にもなるしで、いいこと尽くめ。
花崗と綾城でコントのようにゲーム内での利点を説明。
今まで知らなかった層に「お手数だけれどVR機と『SBO』というゲーム買ってね~」と宣伝も忘れない。
その時、客席から「なんでそのゲームなのー?」という質問の声が聞こえてきた。
「SBOは”声”の再現度が、他のゲームと比較にならないんです。歌によるバフがゲームの主旨なので、我々のようなアイドルと非常に親和性が高いんですよね」
「そうそう。ゲームのプロモーションやってるのが星光騎士団出身の神野栄治先輩と鶴城一晴先輩なのもデカいよなぁ」
「うん、そうだね~」
そう、本当にそれもデカい。
淳にしてみたらSBOを始めた理由が神野栄治――と、鶴城一晴――がプロモーションをやっていたからだ。
「それに、開発会社さんが神野先輩と鶴城先輩と事務所経由で、東雲学院芸能科との提携が決まっています。これにより東雲学院芸能科のアイドルは、自由にゲーム内でライブができるんです。これは我々男子アイドルだけでなく女性アイドルグループも含まれます。向こうでも同じ説明はしていると思いますが、これを機会に東雲学院芸能科の女性アイドルグループにもぜひ、興味を持って見てみてくださいね~」
「せやね。わしらは今日が最初で最後。ほんま、もうゲームをダウンロード済みやったら絶対会いに来てな~~~」
綾城と花崗が花束を抱えたまま手を振る。
客席から今日イチの歓声が上がり、何人かは駆け足で会場から去っていく。
多分ゲーム買いに行ったんだろうなぁ、と微笑ましく見てしまう。
「俺も早くログインしたいんだけれど、学校のパソコン室のやつ借りちゃダメかなあ……」
「ナッシー、出演者側じゃなく客席側に行く気でしょ? 私用でのパソコン使用はダメだよぉ」
「ですよねぇ…………」
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