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新グループ(2)
しおりを挟む「なのでひと足先に彼だけデビュー予定なんですよね。うちの事務所から」
「ほ、ほう……?」
「まぁ、表で触れる必要はないです。コラボ企画は予定していますが、あくまでも音無くんと石動くんは来年デビュー予定なので。ただ、Blossomと同じくIG夏の陣で“あのレベル”を披露していただきます。なので今から練習を開始してほしいのです」
「っ……!」
去年のIG夏の陣でBlossomが独走を貫いたのは、初日から最終日までほぼ新曲だったからだ。
今まで彼らを知らなかった層にとっては新曲かどうかもわからないが、初日初戦で殿堂入り主催グループ『CRYWN』メンバーから「コレ歌える!?」と絶賛される実力をいきなりぶち込んだインパクト。
あのレベルを、淳に求められている。
それは確かに一年の準備期間は必要。
なにしろ、学生の方の活動もある。
「石動くんもレッスンをしながらモデルや俳優のレッスンもしてもらっているんですけど、そういうわけで音無くんにも相応の活動を求めます。我が事務所のセカンドアイドルグループ『Frenzy』のリーダーとして、やってくれませんか?」
「フレイジー」
“狂乱”――それが春日芸能事務所の、二代目アイドルグループ。
の、リーダー?
「……リーダーって言いました?」
「言いました。音無くんが一番年下になりますが、石動くんが『リーダーはやだ』っていうんですよね。三年務めたから、って。音無くんがやってみて無理そうなら交代する、と言質はもらってるんですけど……個人的に三年間芸能科で『勇士隊』の君主を勤め上げた石動くんと一年生の半分で普通科に転科した松田くんって相性がよろしくないというか」
「そ……そんな二人をなんで同じグループにしようと思ったんですか……!?」
「能力だけで決めました」
キリッ! と笑顔で言い放たれてぐうの音も出なくなる。
すべて数値化したスペックで選出した、と言われるとそれはある意味会社側からすると当たり前なのかもしれない。
しかし、性格的に合わないのを一緒にしたところで、上手くいかないのでは意味がないのでは?
そう思っていたのが顔に出ていたのか、春日社長には「だから三者三様、メンバーの各活動には不干渉な、フルメンバーで集まるのがレアなグループ、という形で売り出すつもりなんですよ」と言われてしまった。
合点がいってしまって肩が落ちる。
「基本的にデビュー後もアイドルグループとして活動する、というより個人活動を中心にしてください。僕から見ても石動くんと松田くんは性格の相性が悪いです。混ぜるな危険というか」
「ええ……」
「それを制御できるくらいに、君が成長することを望む反面しばらくは無理だとも思っています。君ならできるようになるでしょうが、今の君には無理です」
ごく、と息を呑む。
はっきりと言われる、それがまるで予言かのように聞こえてくる。
この人の、こういうところが不思議だ。
ともかく、事務所としては『Frenzy』のメンバーには個々で活動をしてほしい、という意向。
松田は近くVtuberとしてデビューする。
Vtuber名は『松竹梅春』。
すでに“ガワ”の納品も済んでおり、グッズの展開用の春日芸能事務所オンラインショップも準備が終わっているらしい。
芸能事務所がVtuberまで抱えるというのは、前代未聞。
本当に手広すぎる。
さらにここに淳のため、ミュージカルも可能な舞台の建設とミュージカル劇団の買収までやっているというのでビビり散らかす。
お金ありすぎでは?
「まあ、音無くんが嫌、と言うのなら……この企画自体頓挫するんですけどね。石動くんにはソロでデビューしてもらってもいいかもしれないんですけど、今の時代ソロは弱い。Vtuberの数も増やしたいので、オーディションは募集準備をしている最中ですけど……さて、全部音無くんの判断次第。別に今日、お返事をほしいとは言わないんですけど、今月中には色良いお返事があればと思っています。準備もありますしね」
「えっと、曲は――」
「実は楽曲の方は九曲、完成済みです。あとは覚えて収録してもらって、という感じですね」
さすが。
ここまで準備万端。
すべては淳の返事次第、ということらしい。
正式に所属になった場合の待遇の説明や、レッスンのスケジュールなども聞いて悩む。
当然星光騎士団の現リーダー、宇月ともスケジュールについては話し合わなければならないだろう。
ただ、宇月や後藤もすでに所属事務所が決まっている。
二人も事務所からの仕事を優先する傾向が強い。
例外的なのはIGだろうか。
アイドルとしてあれより大きな祭典は、今のところない。
所属になれば、淳もこちらを優先するようになる。
それに対して困ることは――
「定期ライブでライブが観に行けなくなるんですよね……!」
「悩む理由はそこですか……? いいですよ、別に。定期ライブの日にレッスン予定を入れない、とかレッスン時間を夕方以降にするとかしていただいて」
「その手が……!」
「あとうちの事務所の上のフロアにレッスンルームがあるんですけど、栄治も利用しているので遭遇率は高まると思いますよ」
「それはオタクとしてちょっと! 推しに認知されるのはオタクとして命を掴まれているかのような感じなんです!」
「そうなんですか? オタクって大変なんですね……?」
心底憐れむような眼差し。
あまりそんな目で見られる経験がないので複雑な気持ちになる。
ともかく、家族や学校、星光騎士団のメンバーとも相談してきなさい、と言われてこくりと頷いた。
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