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お色気研修デート(8)
しおりを挟む「お疲れー。なんか戻ってくるの早かったな?」
「お疲れ様です。うわあ! 松田先輩、めちゃくちゃさっぱり爽やかな印象になりましたね!
「う……うん、まあ……」
カフェ『クミン』で石動と松田が合流してきた。
石動プロデュースの松田はイメージカラーのライトグリーン。
松田は「表には出ないのに……」とぶつくさ言っている。
確かに、Vtuberの松田は表には出ないし、ガワがあるので髪色なんて無意味。
けれど淳たちが立ち寄った店よりも、モール内ではワンランク高いお店で購入したのだろう新作の夏服。
シンプルで無地の白いTシャツと、白いラインの入ったダークブルーの七分丈ハーフパンツ。肩かけレーザーバッグ。
眼鏡もコンタクトに変えられて、本人は居心地悪そうだがかなり好青年になっている。
伸びた髪もかなり爽やかな短髪に切り、本当に見違えた。
元々身長も高く、スラっと……いや、足は長いがひょろがり系眼鏡オタクだったが、日々のレッスンで程よく筋肉もついてきたのでスタイルは抜群にいい。
そして元とはいえ芸能科に入学できる程度には顔も整っているので、隣に石動がいるのも手伝って相当人目に晒されてきたのだろう、ちょっぴり泣いている。
「でも、正直眼鏡キャラは眼鏡を取らないでほしい欲はありますよね。でも、これはこれで顔がよくて、イイ……!!」
「よかったじゃん。ドルオタには好評だぞ」
「う……」
「でも確かに、コンタクトにしたのはよくないのでは? 私も眼鏡キャラには眼鏡をはずしてほしくない信条はよくわかります。眼鏡キャラは眼鏡があってこそでしょう」
「ああ、そういう勢力があるらしいな。だが知らん」
男前すぎる。
だがコンタクトの松田もこれはこれでいい。
それは認める。
「で? そっちはなにか得るものはあったか?」
「あ、はい! 朝科せんぱ……じゃなくて、旭さんに服の選び方や色っぽく見える角度やポーズ、声の出し方を教わりました。神野様や宇月先輩に教わったことも参考にすれば、結構演技に幅が出るんじゃないかな、と思います!」
「演技、ね。まあ、ガキにはこのくらいが限界だろうな」
「ええ……?」
結構自信満々い言ったのに、石動にはガキ扱いされてしまった。
さらに小声で「朝科も童貞だし」とか言って朝科に「ちょっとぉ!」と叱られている。
とりあえず聞かなかったことにしたけれど。
「そっちこそ、松田くんの見た目だけ変えて満足しただけなんじゃないの? それで色気の出し方がなにか変わると思っているの?」
「見た目がクソダサいままじゃあ色気もくそもないじゃん。まず人目を集める容姿にして、見られ慣れさしてからだろ」
「う……。それはそう」
陥落が早い。
「別に俺は前には出ないのに……」
「ごちょごちゃうるせえ」
「ひいいぃ……!!」
アイアンクローを喰らう松田。
笑顔でアイアンクローのあたり、一緒にいる間もさぞやごちゃごちゃ言っていたのだろうな、と察してしまう。
石動、基本他人に興味が薄いので実力行使レベルに怒ることがない。
鼻を摘ままれる程度のお叱りを受けることはあるけれど。
「とりあえず、松田はその格好を一ヵ月間維持! もしグダグダになったら強制合コンの刑」
「ごごごごごごご合コン!? 無理です無理! 絶対に無理! 嫌です、無理です!」
「だったら一ヶ月、その格好を維持しな。言っておくが服装もユニシロでもいいから買い足して手ぇ抜くなよ。抜いたらその瞬間合コンメンバー集めるからな」
「石動くん、そんな伝手あるの?」
「北雲の去年の生徒会長の連絡先知ってる」
「ほほほほ北雲ンンン!?」
北雲学院。正式名称は私立北雲女学院。
そう、女子高だ。
なんでそんなところの元生徒会長の連絡先を知っているんだ。
朝科がジトリ、と睨んでいると「定期ライブの時に渡された」と目を逸らされる。
「そういうのって受け取っちゃダメなんじゃないの?」
「去年の普通科の生徒会長に連絡がつかないことがあるし、文化祭の時に依頼したいからって言われて」
「ハアーーーーーー!? そんなの普通に学校を通すべきではぁ!?」
「営業かと思ったんだよ! 一年の時だったし!」
定期ライブ、普通に生徒も屋台で買い物をするので声をかけてくるお客さんもいる。
だが、一年生の時から目をつけて連絡先を渡すとは……その北雲の元生徒会長は先見の明があるのか。
「っていうか、そういうこと言うっていうのがホンット見た目に反して真面目よな、朝科」
「一言余計だよ。っていうか、そうだよ! 私は普通に真面目にアイドルをやっているよ! ファンを裏切るような真似は絶対にしないよ! アイドルだからね!」
ふん、と顔を背けて宣言する朝科。
実際、魔王軍のアイドルはあの色気を持ちながらも硬派だ。
というか、去年の魔王軍フルメンバーは全員女性免疫がなさそう。
一見チャラ男にい見える朝科もこの様子。
「そういう石動くんはまさか……」
「まあ……二年生くらいから自棄入ってきてたし、柴の目を盗んで法に触れない程度の悪いことは一通り……♪」
「もおおおおお! 学院や事務所に迷惑をかけるからそういうのはもうやってはいけないよ!」
「はいはい。一通りやって別に刺激的にも感じなかったからもうやらないって」
なるほど、同じ『危険な男の色気』カテゴリだと思っていたが、実績の有無でも印象が変わってくる。
ぷんぷん怒る朝科を見ながら、松田が俯きながら「こいつら顔がいい……」と絶望に染まった目で呟いたのを、聞いた。
淳、無言真顔で強めに頷く。
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