ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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フルボッコ確定『決闘』(7)

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 投票が始まり、SAMURAIサムライのメンバーが投票のルールや投票のやり方を懇切丁寧に説明する。
 その間に星光騎士団、魔王軍の選出メンバーがステージに合流。
 
「そういえば魔王軍は茅原先輩来てないの?」
 
 と、淳が長緒に聞いてみる。
 するとあっさりと「うん。魔王軍は格下・・にわざわざ魔王は出てこないもんだからね」と言い放つ。
 ぎょっとする魁星と周。
 淳も笑顔で「そっかぁ」と返す。
 星光騎士団、勇士隊は比較的『可愛い』に対応できるメンバーがいたものの、魔王軍は色気とヤンデレ感に特化したメンバー。
 出てこないことで魔王の格上感を出す戦略も魔王軍らしい。
 そんなふうに言われてWalhallaヴァルハラのメンバーはジトっと睨みつけてくるが長緒を振り返ろうともしなかった。
 相当「煽り散らかしてこい」と命じられているんだろう、とわかる。
 
「ねえねえ、投票中で悪いんだけど~、こっちも例のモノ、用意始めてもいいかなぁ?」
「はい? 例のモノ……?」
 
 両手を組んで左の頬に押し当て、顔を傾けるぶりっこ仕草で宇月が芽黒に許可を求める例のモノ。
 そのあまりの笑顔にSAMURAIサムライの三人の口元が心なしかひくつく。
 その嫌な予感は当たりだ、と星光騎士団の二年生ズが遠い目になりつつ、後藤が裏から持ってきた子ども用プールに空気を入れ始める。
 淳たちも一度舞台袖に戻ってポットを並べていく。
 一年生たちは空気を入れられていくプールの消毒。
 顔をだんだんと青くしていくSAMURAIサムライWalhallaヴァルハラのメンバーたち。
 
「え、ええと……あの……そ、それは、まさか……」
「約束通り作ってきてあげたよぉ♪ センブリ茶のプ、ゥ、ル♡」
「ッッッ……!?」
 
 SAMURAIサムライWalhallaヴァルハラのメンバーたち、全員唖然として、ドン引きしている。
 芽黒が震えた声で「え、ええとぉ……宇月先輩……こ、これ、ほ、本当に敗者側に飲ませるんですか……?」と聞くと唇に指を当てがった宇月が「当たり前だよぉ♪ そのために作ったんだもん♪」と言い放つ。
 
「っていうかー、そうじゃないと罰ゲームにならないでしょぉ~? 僕たち相手に限らず、星光騎士団の特権である『決闘』を使うならどんな責任が伴うのかをしっかりと思い知っておいてもらわなきゃあ」
 
 全校生徒よ、震えるがいい。
 宇月この人は、マジだ。
 マジでこのプールに敗北者の顔面を叩き込むつもりだ。
 ちなみに、ここでいう“敗者”は最下位のグループメンバー。
 2位と3位のグループはお咎めなしとされている。
 そして『決闘』制度を用いて敗北した者を徹底的に制裁するのは、ある意味ケジメであり“ネタ”として完結させる救済処置でもあるのだ。
 なので人前でアイドルがやっていい範囲で極限にヤバいものを選択してある。
 センブリ茶も健康にはいいが、飲みすぎは当然健康を害するのでマジでプールを飲み干せとは言わないだろうが、顔面に叩き込むくらいはマジでやるのが宇月美桜。
 ついでに麻野も「キャハハハハハ! このお茶マジで味覚狂うくらい苦いから、最下位は覚悟しとけよなぁ」と腰に手を当てて笑っている。
 魔王軍も固定ファンが多い。
 麻野は所謂『アホの子』枠で逆にこういう目に遭わせたくなるというファンが一定数いるので、宇月に「お前は笑ってない方がいいんじゃないのぉ?」と言われている。
 
「安心しろ! 最悪センブリ茶を常飲している俺が全部美味しくいただくからな!」
「そうだった。蓮名の味音痴にはご褒美だった」
「相変わらずこの茶を常飲しているとか味覚狂ってやがる……無敵かよ……」
「はーはっはっはっはっは!!」
 
 そしてここで衝撃の事実発覚。
 勇士隊君主リーダー蓮名和敬はすなかずたかは味音痴……もとい苦味が好き。
 センブリ茶は彼の常飲飲料。
 魁星が「アレを常飲!? 舌狂ってんの!?」と大声で聞いてしまう。
 
「あの苦いのがいいんだがな! なんでみんなあの苦味のよさがわからないのだろうか! あの苦味を乗り越えた先に、新たな自分がいるような気がしないか!? ほら、辛い物好きも同じこと言うだろう!?」
「世の辛い物好きが聞いたら全力で言い返したくなると思うけどな」
「僕からすると苦い物好きも辛い物好きもどっちもドМだよぉ」
「苦い物好きの方が珍しいしね……」
「ううむ……なぜか伝わらんもんだな! 抹茶とか、親しみやすい苦味もあると思うのだが」
「お前いつか絶対賞味期限一年くらい過ぎた食べ物食べて病院行になるよぉ?」
「その時はその時だなぁ!! はーはっはっはっはっは!!」
 
 潔いのか悪いのか。
 二年生たちはみんな苦笑い。
 一年生たちはわかりやすくドン引き。
 
「師匠、センブリ茶ってそんなに苦いんですか!?」
 
 師匠。
 玖賀が蓮名をそう呼んだことで、一同の目が丸くなる。
 いや、確かに相性はよさそうだったけれども。
 
「試飲させてもらうといい! きっと新たな世界が見えてくるぞ!」
「押忍! 星光騎士団の先輩方、一杯いただいてもいいでしょうか!?」
「嘘でしょ!? 正気で言ってる!? センブリ茶だよ!? マジで苦いよ!? 自分から飲むもんじゃないよ!? っていうか、人が飲むものじゃないよ、本来! 絶対拷問用だよ、これ!」
「新しい世界が見えるどころか味覚音痴の口車に乗って気軽に挑戦したら三途の川見ちゃうよぉ!?」
「想像の千倍苦いですよ? センブリ茶の命名由来は千回思い出しても苦い、ですよ? 本当に苦いですよ? 舌が痺れて少なくとも明日の夕方までは味覚が戻らないと思いますよ」
「トラウマになるから……やめな……!?」
 
 魁星と宇月、周と後藤がガチで反対するので、さすがの玖賀もちょっとビビり顔。
 なお、それを最下位グループに飲ます気は満々だという事実に他の一年生が気づいて顔色をさらに悪くしている。
 まあ、不味くなければ罰ゲームにはならないのだけれど。
 それにしたって酷い言われようである。

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