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二年目夏の陣、最終日(5)
しおりを挟む敗者復活からの十二グループが一回戦で半分になる。
残り六グループ。
三回戦を勝ち抜くと、シード枠確定。
次の二回戦の相手は今売り出し中の『ガイア』。
大地の女神をテーマにした壮大な曲が多い。
なんというか、お金がかかっている。
事務所のバックアップの厚さが窺える。
だが当然知名度は星光騎士団の方がはるかに上。
『ガイア』がデビューしたのは今年の二月なのだ。
メンバーが毎年入れ替わるも、名前は残り続けて早十年だ。
名前が残り続けるというのは、プロのアイドルグループのように『解散』がないという強い安心感を与えてくれる。
ドルオタやアイドル好きにとってもっとも悲しくて、推すのをやめたくなるのは推しの不誠実さと『解散』だ。
基本的に『解散しない』星光騎士団を始め、東雲学院芸能科のアイドルグループへのそういう“信頼”は大きい。
「Blossomはもう『いいね』の数が他のグループの五倍くらいついているもんね。Bブロックには勇士隊もいるけど、もうお通夜空気が出てない?」
「出てますね」
「ねえ、待って! 魔王軍負けたんだけど!? なんで!? 確かにさっきの対戦相手は一昨年デビューした去年も三日目に残ったグループだけれど魔王軍は新曲と新振付ですっごいよかったじゃん! 長緒くんと緋村くんと飯葛くんも新衣装でいかにも魔王軍らしい色気あるパフォーマンスだったし負け筋なかったのになんでーーー!」
「音無先輩が叫んでる……」
「ドルオタの発作だから気にしないでください、柳くん」
控室とはいえ結構な声量。
それでなくともボイトレ効果込みで相当通る声になっているというのに。
淳に謎の夢を抱いてそうな柳はだいぶびっくりしている。
いや、今までも結構ドルオタモードのハイテンションは見ていたが、悲しみに暮れるタイプのハイテンションは見たことがなかったのだろう。
確かにちょっとあまり見ないタイプのドルオタモードかもしれない。
「星光騎士団のみなさーん、出番の準備をお願いいたします」
「はーい」
「パフォーマンスが終わりましたらすぐにインタビューが入りますので、リーダーの方ともうお一方、インタビュールームにそのまま行ってください。よろしくお願いします」
「あ、わかりました。……誰にしよっかな~。元気な人~~~」
スタッフさんが扉を閉めたら宇月が振り返ってメンバーを見回す。
思い切り目を背ける後藤と魁星と周。
柳も目線をさ迷わせ、ノートPCとフルフェイスマスクVR機で格ゲー練習中の鏡音はそもそもまだ気づいていない。
さすがに肩を叩いて気づかせる宇月。
「すみません、やめます」
「次のパフォーマンス終わったらインタビュー回ってきたけど、ドカてん行く?」
「えーーーーーーーと…………………………」
「あ、オッケー。まだ頭働いてなさそうだねぇ? ナッシー、インタビューおねがーい」
「はーい」
スマホをしまって鍵つきロッカーに入れ、まずは三日目二回戦。
魁星、周は去年この時点でグロッキーだったがさすがに今年はパフォーマンスになんの陰りもない。
そして今年の一年生ズは去年の一年生……淳たちに比べてやはり体力も精神力もある。
一年生とは思えない安定したパフォーマンスをやってのけるのは、やはり経歴の場数だろうか。
『やっほー、星光騎士団団長、可愛い担当、宇月美桜だよ~! みんなのおかげで二回目の登場! ねえねえ、次の曲はねえ、初日に歌った新曲なんだけれど勇士隊の二年生、御上千景くんが星光騎士団のために作ってくれた曲だよ~。かけ声があるから~、みんなも一緒に歌ってね~! お返事は~?』
と、宇月が客席にウインクつきで語りかけるとちょっと聞いたことのない歓声が上がる。
せっかくのお祭りだ。
お客さんも一緒に楽しむのがアイドルとしての礼儀というやつだ。
『うんうん、お客さんもいい声出てるねぇ~! そうこなくっちゃねぇ! 僕らが歌い終わったら“いいね”と投票もちゃんとしてよぉ? それじゃあいっくよぉ~~~!』
CM時間をそれなりに残して次の曲を始めるのも一つのテクニック。
一回目のMCで自己紹介を終わらせているため、テンポを優先させた。
あえて情報を与えないのも作戦。
そもそも常連になりつつある星光騎士団の情報は結構転がっている。
意識しなくても、拾える情報とパフォーマンスで興味を持ってもらうのだ。
『~~~♪ ~~~♪ はい!』
マイクを客席に向ける。
客席からは想像以上の歌声が聞こえてきて、これがパフォーマンスをする側にとってかなりテンションが上がるものだった。
それを聞いた瞬間、少なくとも淳と魁星の歌声の質が変わる。
非常に感情の乗った歌声。
ダンスにもキレが出て、笑顔が無邪気になった。
こういう魁星の、アイドル然としたところが本当に“アイドル”らしい。
『~~~♪』
非常に奇麗にパフォーマンスが終わり、一休み……と思ったら、宇月に腕を引かれる。
親指を後ろに向けて「インタビュー」とだけ言われた。
あ、と変な声が出る。
忘れていた。
そりゃあ宇月も真顔になる。
先ほどまでアイドルの可愛い笑顔が舞台袖に戻った瞬間この不満顔。
さすが宇月美桜、この切り替えの速度、見習いたい。
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