ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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不安な現場(1)

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 台本に目を通してからステージに行くと、他のグループも勢揃いしていた。
 さすがに三十人以上がステージに集まっていると圧がすごい。
 というより、よく席が全員分用意されたな、と感心していると――。
 
「すいませーん、椅子が一つ足りないんですけどー」
 
 と、勇士隊の蓮名が手を挙げてスタッフに話しかける。
 一グループにつき二段から三段の席が台座の上に用意されていたが、星光騎士団の方は二人分……一年生の分の椅子がない。
 仕方なく淳も「すみません、うちも二つほど椅子がなくて……」と手を上げる。
 すると魔王軍からも「うちも一人分の椅子がないでーす」と日守が手を挙げた。
 もうこの時点で顔を見合わせてしまう。
 まさか東雲学院側へのなんらかの嫌がらせか、と勘繰ってしまうほどに東雲学院アイドルにばかりこんな不備が起こるなんて。
 と眉を顰めそうになった時、西雲学園側の方からも「すみません、椅子が足りないです」という声。
 手を挙げていたのはRE・CrazyRリ・クレイジーアールのリーダー真雪だ。
 
「す、すみません。明日までには搬入されると思います。今日はこのまま進めさせてください」
「そうですか。わかりました」
 
 淳が誰よりも早く笑顔で答えると、スタッフが安堵した顔をする。
 が、淳を後ろからじとりと睨みつける気配が。
 魔王軍の茅原だ。
 麻野ももちろん不機嫌そう。
 蓮名を始めとした勇士隊は純粋に「そっかあ~~~」と信じて「今日は座らずに立って見ていよう」と話し合っている。
 蓮名のやり方に反発して二分化しているという話だったが、パフォーマンスの方向性以外は仲良しこよしらしい。
 西雲学園側の方を見ると、あちらも顔を見合わせてはいるが大人の対応をするようだ。
 だが茅原が睨んでくる理由もわかる。
 だって“椅子が足りない”なんてありえない。
 ここは町のセンターホール。
 様々なイベントが年間通して行われる場所。
 確かにステージにあがる人数としてはかなり多いが、こういう場所はパイプ椅子が大量に置いてあるはずなのだ。
 それがない。足りないなんてありえないだろう。
 
(まあ、どちらにしてもなにかしらのトラブルがあって足りないのだろうし、こういうトラブルに即対応するのも現場叩き上げ主義の東雲学院芸能科ならではだよね。明日椅子が届かなかったら、それはちょっと心配だけれど……)
 
 最悪そうなったら星光騎士団用ミニバンに入っている簡易パイプ椅子を持ち込むしかない。
 魔王軍、勇士隊にもそういう備品があるから、あれ以上突っ込んでこないのだろう。
 こちらの椅子が足りれば、今ある椅子を西雲学園の方に渡せばいい。
 
(――あ)
 
 視線を流す。
 倉庫の扉が開いており、大量のパイプ椅子が搬入口の方へ運ばれていく。
 そうそう、そのパイプ椅子。
 それを使えばいいんじゃないだろうか、という話だ。
 だがよく見るとどれもボロボロだ。
 四方峰町センターホールといえば建設されてから四十年以上と聞いたことがある。
 備品も相当に古くなっているのだろう。
 そういうものを撤去して、新しくしたものを搬入する予定なのだとしたら明日、それが届くのかもしれない。
 まあ、それならそれで「明日新しく椅子が届くので」とでもスタッフが答えればいいと思うのだが。
 末端のスタッフにそれを突っ込んで聞いて困らせるのも申し訳ない。
 
「では、明日の流れですが――」
 
 スタッフが台本を取り上げ、司会進行を務めるのが江花陽翔えはなはるとである点。
 魔王軍、RE・CrazyRリ・クレイジーアール、勇士隊、春歌、星光騎士団、Lethalリーサルという順で入場し、都度メンバー自己紹介をしてもらう点。
 クイズ、パフォーマンス、パンチングマシーンの点数バトル、パフォーマンス……と流れを説明される。
 パフォーマンスの順番は入場と同じ順。
 ゲームの総合点数で、対決の勝者を決める。
 ちなみに勝者側には一週間の特大ポスターをセンターホール内に貼る権利が与えられるらしい。
 それを聞いて各自が「え? 一週間……?」と思った顔をしたが、センターホールは連日多くのイベントが行われる場所なので、様々な兼ね合いもあるだろうと言葉を飲み込んだ。
 ただ、ここまでくると宇月だけでなく茅原や苗村、麻野の表情も少しずつ無表情に近くなる。
 そう……今回の仕事、でかい割に――渋い。
 だがそこはみんなプロ。
 笑顔を崩すことなく素直に台本確認に協力している。
 
「以上がエンディングです。ここまでの流れで質問のある方は……?」
「はーい! パフォーマンスの順番も交互に、ってことですけど~、ステージ前方でパフォーマンスをするんですよねぇ? パンチングマシーンやランニングマシーンで走りながらクイズに答える~とか、色々備品が並んでいると思いますけど、そのあたりの撤去って大変そうだなって思うんですよ。特にパンチングマシーン。相当重いものだと思いますけどぉ、スペースとか大丈夫そうですかねぇ?」
 
 手を挙げた宇月が質問すると、スタッフが固まる。
 どうして固まるんだろうか?
 パンチングマシーンは淳も思っていた。
 殴ってパワーを測定する機械なのだから、相当に重さが必要なものだろう。
 そんなに簡単に設置と撤去ができるものなのだろうか?
 ランニングマシーンは自宅にもあるので、軽い物があるのも知っているが。
 宇月の質問に西雲学園側からも「俺もそれ気になってた」「俺も」と声が上がる。
 
「え、ええと、その~~~……か、確認しておきます」
「はーい、よろしくお願いします~」

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