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歌手さん一名追加
しおりを挟むまあ、ゲーマーなんて女性耐性低いのがどうしても多くなりがちな界隈だ。
ソンさんは見るからに若いので、若手歌手――アイドルなのだろう。
ファンなのかなあ、と察して微笑ましいものを見る淳とバイソンとエギュン。
そんなエンロイの様子にソンさんもすぐに戸惑った表情から、まだ困惑の残る笑顔になる。
「遅刻してしまってごめんなさい。VRゲーム初めてで、アバターを作るのに手間取りました。もう始まりますよね?」
「まだあと二人来ていないので大丈夫ですよ。今、ゲームシステムやダンジョンの説明をしていました。他のお二人もVR機に苦戦しておられるのかもしれませんね」
「そんなことないと思うんだよな~。少なくともカルト・アマンジェッタはさっき開会式前にキャラクター作成だけは済ませているはずだし」
淳がフォローしたのに、バイソンがさらりと否定してしまった。
笑顔のまま一瞬固まってしまったが、すぐに「レッスン終わりでお疲れのようでしたものね」と続けてごまかす。
問題はレッスン終わりで仮眠し、そのまま爆睡したパターン。
恐らくバイソンもそれを案じているのではないだろうか。
「しかしいつまでも待っていられませんよね。あと五分、待ってリンソとアメリカの歌手が来なければこのまま始めましょう」
「いいのか? エギュン」
晶穂がエギュンを訝しそうに見る。
コクリ、と迷いなく頷かれた。
実際淳が時間稼ぎしても一人しか歌手が来ない。
他国の歌手がどういうマインドで来ないことを選択したのだろう?
「バイソンさんもいい?」
「ああ、まあ、仕方ない。エキシビションマッチは報酬も出ないからなぁ。それにしたってキャラクター作成までしておいてドタキャンってのは……」
ああ、そうか、と納得。
海外の“プロ”は報酬に関してシビアだ。
エキシビションマッチは報酬がないと言っていたので、それを理由に断られていると言われるとなにも言えない。
「まあ、仮眠でそのまま爆睡しているのかもしれませんし。お疲れのようでしたから。仕方がありませんよ」
「う、うーん」
「あの、もしかして他の歌手の方もすごい遅刻ですか?」
「多分? 連絡がないんだよな。ゲーム内にも連絡があるのか?」
「外部メッセージ機能はありますね」
「それならチームにどうなっているのか確認のメッセージを送ってもらうか。その上で五分待っても来ないなら、運営も続行許可をくれるだろう」
「あ、それならその場合、歌い手も二人いますから選手二人、歌バフ要員一人の3V3にしてみるのはいかがでしょう? 今回のエキシビションマッチのアピールポイントは、来年実装予定の高性能翻訳機能です。異なる国のメンバーで二つの陣営に分かれての勝負の方が決着も早く着きそうですし」
「「「「それいい」」」」
淳の提案に、全員から賛成の声。
じゃあそうしよう、ということに決定。
配信モニターに向かって晶穂が「ということに決定した。そちらから指示がなければ五分後にダンジョンに移動して開始する」と話しかける。
宙に浮いている配信モニターはしばしの沈黙。
『あー、えー、司会の萌黄です! そのようにしていただいて問題ないとのことです! お時間を取らせて申し訳ありません』
「了解した。音無くん、武具屋に案内してくれ。その間にチーム分けを決めよう」
「わかりました。ソンさんはSBO初めてですよね。先ほど選手の皆さんにも説明していたのですが、歌バフについて説明しますね」
「あ、はい! よろしくお願いします」
歩き出し、町唯一の武具屋に案内する。
ソンさんは淳よりも一歳年上の十八歳。
本当に若手で、人気ドラマの主題歌と主演を務めているらしい。
主演すごいですね、俺も演技は嗜んでいるんですよ~と会話しながら歌バフシステムを説明。
武具屋に到着すると、なんと品揃えが本サーバーとは違う。
「銃がある!」
「銃だ~!」
「俺も銃にしようかな」
「杖があるので、歌バフの俺たちは杖を買いましょう」
「はい! わかりました!」
ソンさん、道すがらでだいぶ打ち解けてくれた。
システムの話と演技の話しかしていないんだけれど。
「オトナシさん、イケメン、優しい、かっこいい」
「ソ、ソンさん……」
「あ、えーと……武器を購入できたので、ダンジョンに移動しましょうか」
「はい♡」
「「「「……………………」」」」
気まずい。
というか、ソンさんは淳よりもエンロイに媚びた方がいいと思うのだが。
あと、中国のソンジェンファンに怒られそうなのでやめてほしい。
「チーム分けはどうなったんですか?」
「俺とバイソン、エンロイとエギュン。って分け方になった。歌手がいるのは日本と中国だけだからな」
「バランスがいいですね」
「ああ」
FPSプレイヤーの秋保と頭脳派のバイソン+淳。
戦闘能力バチボコの秋保と戦略を立てることができるバイソンのチーム。
TPSプレイヤーのエギュンと、カードゲーマーのエンロイ+ソンジェン。
空間認識能力の高いエギュンと、こちらも戦略立ての得意なエンロイのチーム。
いいバランスだと思うが、経験者の淳とVRゲーム自体が初めてのソンさんでは明確に差ができるのではないだろうか。
(まあ、プロゲーマーが相手なのだから俺もしか役に立てないだろうしなぁ)
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