ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

文字の大きさ
511 / 553

歌手さん一名追加

しおりを挟む

 まあ、ゲーマーなんて女性耐性低いのがどうしても多くなりがちな界隈だ。
 ソンさんは見るからに若いので、若手歌手――アイドルなのだろう。
 ファンなのかなあ、と察して微笑ましいものを見る淳とバイソンとエギュン。
 そんなエンロイの様子にソンさんもすぐに戸惑った表情から、まだ困惑の残る笑顔になる。
 
「遅刻してしまってごめんなさい。VRゲーム初めてで、アバターを作るのに手間取りました。もう始まりますよね?」
「まだあと二人来ていないので大丈夫ですよ。今、ゲームシステムやダンジョンの説明をしていました。他のお二人もVR機に苦戦しておられるのかもしれませんね」
「そんなことないと思うんだよな~。少なくともカルト・アマンジェッタはさっき開会式前にキャラクター作成だけは済ませているはずだし」
 
 淳がフォローしたのに、バイソンがさらりと否定してしまった。
 笑顔のまま一瞬固まってしまったが、すぐに「レッスン終わりでお疲れのようでしたものね」と続けてごまかす。
 問題はレッスン終わりで仮眠し、そのまま爆睡したパターン。
 恐らくバイソンもそれを案じているのではないだろうか。
 
「しかしいつまでも待っていられませんよね。あと五分、待ってリンソとアメリカの歌手が来なければこのまま始めましょう」
「いいのか? エギュン」
 
 晶穂がエギュンを訝しそうに見る。
 コクリ、と迷いなく頷かれた。
 実際淳が時間稼ぎしても一人しか歌手が来ない。
 他国の歌手がどういうマインドで来ないことを選択したのだろう?
 
「バイソンさんもいい?」
「ああ、まあ、仕方ない。エキシビションマッチは報酬も出ないからなぁ。それにしたってキャラクター作成までしておいてドタキャンってのは……」
 
 ああ、そうか、と納得。
 海外の“プロ”は報酬に関してシビアだ。
 エキシビションマッチは報酬がないと言っていたので、それを理由に断られていると言われるとなにも言えない。
 
「まあ、仮眠でそのまま爆睡しているのかもしれませんし。お疲れのようでしたから。仕方がありませんよ」
「う、うーん」
「あの、もしかして他の歌手の方もすごい遅刻ですか?」
「多分? 連絡がないんだよな。ゲーム内にも連絡があるのか?」
「外部メッセージ機能はありますね」
「それならチームにどうなっているのか確認のメッセージを送ってもらうか。その上で五分待っても来ないなら、運営も続行許可をくれるだろう」
「あ、それならその場合、歌い手も二人いますから選手二人、歌バフ要員一人の3V3にしてみるのはいかがでしょう? 今回のエキシビションマッチのアピールポイントは、来年実装予定の高性能翻訳機能です。異なる国のメンバーで二つの陣営に分かれての勝負の方が決着も早く着きそうですし」
「「「「それいい」」」」
 
 淳の提案に、全員から賛成の声。
 じゃあそうしよう、ということに決定。
 配信モニターに向かって晶穂が「ということに決定した。そちらから指示がなければ五分後にダンジョンに移動して開始する」と話しかける。
 宙に浮いている配信モニターはしばしの沈黙。
 
『あー、えー、司会の萌黄です! そのようにしていただいて問題ないとのことです! お時間を取らせて申し訳ありません』
「了解した。音無くん、武具屋に案内してくれ。その間にチーム分けを決めよう」
「わかりました。ソンさんはSBO初めてですよね。先ほど選手の皆さんにも説明していたのですが、歌バフについて説明しますね」
「あ、はい! よろしくお願いします」
 
 歩き出し、町唯一の武具屋に案内する。
 ソンさんは淳よりも一歳年上の十八歳。
 本当に若手で、人気ドラマの主題歌と主演を務めているらしい。
 主演すごいですね、俺も演技は嗜んでいるんですよ~と会話しながら歌バフシステムを説明。
 武具屋に到着すると、なんと品揃えが本サーバーとは違う。
 
「銃がある!」
「銃だ~!」
「俺も銃にしようかな」
「杖があるので、歌バフの俺たちは杖を買いましょう」
「はい! わかりました!」
 
 ソンさん、道すがらでだいぶ打ち解けてくれた。
 システムの話と演技の話しかしていないんだけれど。
 
「オトナシさん、イケメン、優しい、かっこいい」
「ソ、ソンさん……」
「あ、えーと……武器を購入できたので、ダンジョンに移動しましょうか」
「はい♡」
「「「「……………………」」」」
 
 気まずい。
 というか、ソンさんは淳よりもエンロイに媚びた方がいいと思うのだが。
 あと、中国のソンジェンファンに怒られそうなのでやめてほしい。
 
「チーム分けはどうなったんですか?」
「俺とバイソン、エンロイとエギュン。って分け方になった。歌手がいるのは日本と中国だけだからな」
「バランスがいいですね」
「ああ」
 
 FPSプレイヤーの秋保と頭脳派のバイソン+淳。
 戦闘能力バチボコの秋保と戦略を立てることができるバイソンのチーム。
 TPSプレイヤーのエギュンと、カードゲーマーのエンロイ+ソンジェン。
 空間認識能力の高いエギュンと、こちらも戦略立ての得意なエンロイのチーム。 
 いいバランスだと思うが、経験者の淳とVRゲーム自体が初めてのソンさんでは明確に差ができるのではないだろうか。
 
(まあ、プロゲーマーが相手なのだから俺もしか役に立てないだろうしなぁ)

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...