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ああ、素晴らしき妖生⑥
しおりを挟む端で見ている理咲がそう感じたくらいだ、面と向かって言われた側がなんとも思わないわけがない。少なくとも望んだ反応でなかったのは確実である。なんせ聖女様、かろうじて保った笑顔がもろに引きつっているので。
そこはかとなく空気がひんやりした所へ、見守っていた王太子が口を開きかける。しかしそれが音になるより早く、廊下の奥で物音がした。ものが倒れるような乱雑な音、何事か言い争うような声に続いて、バタバタと走ってくる足音が――
んみゃああああ~~~……
「うわっでっか!!」
「……はぁ? 何言って――っぎゃあああああ!?!」
とっさに手元にあったノルベルトのマントにしがみつく。音源に背中を向けていた聖女《セイラ》は不快そうに顔をしかめたが、振り返った瞬間にいろいろ台無しな絶叫を上げた。
まあそれも無理からぬ事で、廊下の奥からやって来るソレ――黒くてふさふさした毛に全身を覆われた、頑張ればネコ科の何かに見えなくもない生き物なのだが、とにもかくにも巨大だった。理咲の感覚だと二階層分はある高さの天井に、今にも頭がくっつきそうなのだ。それがあっちへふらり、こっちへふらりと、千鳥足のようなステップを踏みながら近づいてくる。
「ななな何ですの、何なんですのあれ!! ここは結界で護られてるからモンスターは入って来れないんじゃありませんの殿下!?」
「ああ聖女、その通りだとも。あの子は魔物ではないから安心すると良い。まあ、ちょっとだけ大きいが」
「ちょっとなんてもんじゃありませんでしょっっ」
「……殿下、護衛の衆と共にお下がり下さい。我々で対処いたします」
「良いのかい? すでに廊下が大惨事なんだが」
「ええ、落ち着いて当たれば問題ないかと。こちらには賢者殿も居られますゆえ」
「ノルベルトさんっ!?」
「おお、彼女が! そうだったのか、先日は大変失礼した! また改めて見舞いと埋め合わせをしよう、くれぐれも気をつけて!!」
「え、あ、はい、どうも……??」
しれっととんでもない紹介をしてくれた隊長殿に声がひっくり返る。その間に謝罪と約束と気遣いをしてくれ、急いで撤退していく殿下はさすがに行動が早かった。そんな彼に手を引かれて避難しつつ、聖女の方はこっちに目もくれない――かと思ったら、肩越しに火を噴きそうな目つきで睨まれた。わたしのせいじゃないんだってのに!
「――おおい、旦那!」
「バルト殿、ご無事であったか。一体何が?」
「出会い頭に済まん、だが居合わせてくれて助かった。茶を淹れて戻ってきたら、お嬢がこうなっていてな。おそらく原因は……」
「えっ? あの、知り合いなんですか!? ていうか女の子なんですか!?」
奥から走ってきた、同年代かつ同業者と思われる男性と素早くやり取りしているのに、堪えきれず突っ込んでしまった。見た目での判断が難しいのはしょうがないとして、問題は前者の方だ。
さっきの今だしさすがに気分を害したか、と思ったのだが。ノルベルトはさっぱり怒った様子もなく、きちんと丁寧に説明をしてくれた。
「説明が後回しになって申し訳ない、いかにも『彼女』は知己でして。猫妖精と呼ばれる、北方に住まう魔術を得手とする一族と聞き及びます」
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