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瑠璃も真実も照らせば光る⑨
しおりを挟むぶうううん!!
『ぎゃん!!!』
乾いた弦音に耳をつんざくような音が続いて、飛んできた矢が黒い煙の塊を直撃した。その瞬間かっ!! と光って堕神が吹っ飛ばされ、エリオットから完全に離脱する。
落ちてきた矢の先端は鏃ではなく、筒状で何か所か穴を開けた飾りがついていた。鏑矢と呼ばれ、扶桑では主に開戦の合図や、音によって場を浄めるために使われるものだ。そしてアヤカシや、堕ちかけた神霊の調伏などにも用いられる。
しかし、高い機動力を誇る己に、これを当てられたのはただ一人のみ。そしてその相手は、すでにこの世にいない――はず、だった。
「――よし、久々だったけど何とか当てられたな。大丈夫ですか、お嬢さん」
「ああ、はい、私は全然……って、御者さん!? 何してるんですか!?」
礼拝の間はここまでの屋内よりさらに天井が高く、ステンドグラスをはめ込んだ窓が壁一面を飾っている。そこに渡した回廊からひょい、と飛び降りてきたのは、間違いなく輿入れに付き添って荷物を持ってくれた、フィンズベリー家のベテラン御者だった。これだけは見慣れない、身の丈ほどもある大弓を手に持っている。巾着モドキを抱えて仰天するユーフェミアに、慌てた様子もなくにこっと笑ってみせた。
「いえね、奥様が『無事に送り届けたんなら、帰る前に大神殿に寄っとくれ』って言ってこられて。今日のあさイチでこっちに馬車を持ってこさせてもらったんですよー」
「うわあ、おば様ってば人使いも馬使いも荒い……じゃ、なくて! なんでそんなに弓得意なの! 聞いてないんだけどっ」
「すいません、ちょっと内緒にしないといけなくて。どうやらもう良いみたいですけどね。……さてと、行けるか? 最後は自分で決めたいだろ、お前さん」
「――当ったり前でしょうが。あんたはその子たち連れて下がってなさい、手ぇ出すとケガするわよ!!」
「……えっ?」
随分と親しそうな呼びかけに、不敵な調子で応えた声が賢者のものだ、と気付くのに数秒かかった。
ついさっきまでやっていた念話ではなく、実声だった驚きもある。が、それだけではない。この、柔らかいけれど凛とした綺麗な声を、自分は聞いたことがある。
強い既視感を覚えたのはユフィだけではない。吹っ飛んで床に這いながらも、未だに煙の塊状態を維持している堕神が、赤い一つ目を見張って驚愕の声を上げる。
『きっ、貴様! その声、斎宮か!? 連れ合いともども崖下に埋めてやったはず……!!』
「まさにそう思わせたかったからいろいろやっといたのよ。さっきから黙って聞いてやってれば、国の中枢乗っ取るだの扶桑ではあと少しだっただの、ほんっと好き勝手言ってくれやがるわね……!
大言壮語も甚だしいッ!! 今ここで引導を渡してくれる、覚悟するがいいわ!!!」
味方まで居住まいを正しそうになるほどの迫力で大喝し、携えていた長い杖で思い切り床を打つ。それを合図に、敷き詰められた大理石の石板を押しのけて、下から勢いよく光の柱が立ち昇った。魔法には特に詳しくないユフィでもなんとなくわかる。これは床下にあらかじめ描いてあった、巨大な魔方陣のようなものが起動した余波だ。
「《あはりや あそばすともうさぬ あさくらに 万の草の祖神 あれましませ》!!!」
ド ン !!!!
発動の瞬間、真下から閃光が迸った。先ほどの光柱を何十本も束ねたような規模で、地響きまで伴う凄まじい威力だ。見ているだけでも眩暈がするというのに、散々に叩きのめされて弱り切った堕神が、これに耐え切れるはずがなかった。
『い゛ぃぃぃぃや゛ぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!』
煙の塊がどんどん削れて小さくなり、しまいには情けない断末魔と共にすべてが掻き消える。凶悪なほどの光が収まって、何かがこつんと落ちてきた。そうっと近づいて観察してみると、どうやら手のひらに載るほどの黒い石、のようだ。
「……これが本体、ってことでしょうか」
「多分な。あれは元々山の神だったらしいから、おそらくそこで採れていた鉱物か」
「ご名答です、クライヴ殿。あいつの山にはいろんな鉱脈があって、特に質のいい黒曜石が採れることで有名だったそうです。
二人とも、手伝ってくれてありがとう。そちらの小さくて可愛い子たちも。……さーて、ノリと私怨でやりたい放題だったけど、片付けが大変だなぁこれは~~」
『めぇ』
『いえいえ、滅相もないっス。……えーっと』
「――お母さん。ついでにお父さん」
ぎっくう!!!
「えっ!?」
『めっ?』
『……あら~、やっぱり?』
妙に白々しい口振りで踵を返そうとする賢者に、こちらもまたやけに平坦な言い方で呼びかけたユフィのセリフが突き刺さった。背後の方では何故か御者までびくついていたりするのだが、それはともかくとして。
「あっやっぱり! 聞いたことある声だと思った、何やってんのこんなとこで!!」
「……い、いやー、これにはいろいろと事情があってね?? それよりその、よく分かったね? きっかり十年も離れてたのに……」
「分かるに決まってるじゃん、毎日聞いてたんだから!! ていうかホントに今まで何してたの、崖の事故は!? 賢者ってどゆこと!? おとーさんなんて顔も声も全ッ然変わってるしっ」
「いやっ、別に整形したとかじゃないぞ!? 母さんに幻術の符、ってのを作ってもらって、襟の後ろのとこに張ってるだけだから! なっ」
「そ、そうそう! ほーら、泣かない泣かないー」
「泣いてないーっ!! いいから説明ーっっ」
「あの、お三方! 特にユーフェミア、ちょっと落ち着いてくれ!!」
……いかん。これは誰かが間に立たないと、どんどん泥沼化するパターンだ。
未だに事態を飲み込めないながら、世話好きの本能でそこだけは察知したクライヴは、先ほどの作戦なんかよりよっぽど必死の覚悟で割って入ることにしたのだった。
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