大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝

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プロローグ

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 (……どうして上手くいかないんだろう)

 華やかなざわめきの中、カレンはそっとため息を吐く。もし色を付けるなら、今宵のドレスと同じ、深い紺青だ。

 (派手な色合いがお嫌いだと聞いたから、仕立ててもらったのだけれど……)

 舞踏会用の衣装だ、あまりにも地味だと相手に恥をかかせてしまう。だから地の色を引き立てるように銀糸で刺繍をし、光を弾く鉱石のビーズを要所にあしらった。糸の色と揃いのアクセサリーで統一感も出した。勇気を出したくて、婚約が決まった時に母からもらった、誕生花の髪飾りも着けた。

 なのに。婚約者である侯爵令息は、一目見るなり露骨に顔をしかめて、言い放った。

 『何だ、その喪服みたいなドレスは! 成り上がりの娘ごときが、オレを馬鹿にしているのか!!』

 連れて歩く価値もない、絶対視界に入るなと、一曲も踊らず壁際に放置した。それからずっと、顔見知りらしき令嬢とばかり踊っている。

 (……もう五回目だわ、レナート様)

 こうした場で配偶者、もしくは婚約者以外の相手と、三回以上踊るのは御法度である。舞踏会は貴族たちの社交場であり、まだ決まっていなければ、結婚相手を探す大切な場でもある。その出会いを奪ってはならないという、暗黙のルールなのだ。

 それを公衆の面前で、しかも許婚のいる身で、堂々と破って平気な顔をしている。それはレナートが、この国で最も高い地位を持つウェルナー侯爵家の嫡子であり、現国王の甥という身分も併せ持つからだ。血のつながった身内か、もっと高位の王族でもない限り、直接の苦言は呈せまい。

 (そう、言わないから。――わたくしが言えないから、何度だってああいう事をする)

 ひそひそ、こそこそと、あちこちで囁く声が上がっている。踊っている二人と、壁の花になったカレンへ、無遠慮に好奇の目を向けてくる人々がいる。
 公の場に出たら動揺してはいけないと、分かっているはずなのに涙が零れそうで、カレンはそっと広間を出た。

 二階にある舞踏室は、バルコニーから庭園に降りられるよう、階段が備えられている。丁寧に世話された庭木や草花は、朧な明かりの元でさえ端正な姿を見せていた。どこかから薔薇の香りがする。

 (やさしい香り……庭師の腕が良いのね)

 好きな植物の気配に、少しだけ気持ちが上向きになった。

 婚約者に蔑ろにされる令嬢など、誰もダンスに誘わない。どうせ散会までひとり、ぼんやり過ごして帰ることになる。光と人目が届く範囲で、庭園を見て時間を潰そう。

 ドレスの裾を捌き、階段に足を掛けた、そのときだった。

 どん!!!

 「えっ……!?」

 背中に、突如衝撃があった。真後ろから突き飛ばされたのだ、と気づいたのは、体勢を崩して倒れこみ、階の角に打ち付けられてからだった。

 ばりんと音がする。何かが砕けた感覚が伝わってくる。これはお気に入りの髪飾りか。

 (――違う)

 壊れたのは頭の外ではなく、中。激しい痛みと一緒に、今まで眠っていた記憶がどっと押し寄せてくる。

 (わたくし、……にも、どこかで)

 温かいものに受け止められた。医師を呼んでくれ、と指示を飛ばす声が、おぼろに聞こえる。

 そこまでを辛うじて認識して、カレンは意識を失った。


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