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第3章 虚ろの淵より来たるもの
炎に焦がれる
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「何故だ! 何故貴様が!? ここに居たのは、確かにリィンスタットの兵士だった筈だ!」
先程までの余裕を完全に失った様子のデイガーが、取り乱したように叫ぶ。それを見た男――赤の王は、デイガーに視線を投げて挑発的な笑みを浮かべた。
「そうとも。私はたった今まで、確かにアグルム・ブランツェだったからな」
「っ、まさか! 幻惑魔法でも使ったと!?」
驚愕の目を向けて来るデイガーに、王が目を細める。
「察しが良いではないか。その通りだ。故に、称賛されるべきは見事な腕前で魔法を完成させたランファ王と、この茶番に付き合ってくれたリィンスタット王だな」
そう言った王の腕によじ登ったトカゲが、そのまま肩まで移動し、その頬をぺちぺちと叩いた。
「ははは、そう怒るな。敵を欺くにはまず味方からだと、よく言うだろう。ああ、悪かったとは思っているとも。キョウヤにも随分心配を掛けてしまったようだしな。なあ、キョウヤ」
王に名を呼ばれた少年だったが、残念ながら現状の彼では返答をすることができないようで、ただひたすら、ぽーっとした目で王を見つめるばかりだった。
その表情が、ありありと彼の思いを伝えている。
(……きれい…………)
赤の王は、元々とても美しい男だ。見た目がどうとか、そういうことではない。仕草だとか、態度だとか、纏う空気だとか、醸し出す雰囲気だとか。そういったものが全て合わさって、この王の美しさが構成されているのだと少年は思っていた。
だが、今の王は違う。眼帯に隠れていない普通の目でもありありと判るほどに、王の全身が炎の輝きを放っている。初めてそれを見たときほどではないが、それに通ずるほどの鮮やかさで、躍動する光が王の全身を覆っている。
そこで少年は、ふと気づいた。王の髪の毛が、くすんだ炎のような色から鮮やかに燃え盛る緋色へと、色を変えつつある。それはまるで、せめぎ合いを見ているかのようだった。毛先からじわじわと鮮やかに変化する色は、しかし中ほどのところで、まるで変わることを拒むかのように進退を繰り返している。
それが何を意味しているのかは知らない。だが少年は、そんな王の姿をただただ美しいと思った。
「……あなた、きれい……」
王の呼びかけに応えず、独り言のようにとろりと溶けたその言葉に、王が柔らかな微笑みを浮かべる。
「ああ、私もお前を愛しているよ」
だが今は惚けている場合ではないな、と続けた王が、軽めに少年の頬を叩く。二、三度そうすれば、ぱちぱちと瞬きをした少年の目に正気が戻り、次いで彼は見る見るうちに真っ青になって王を見た。
「あ、あな、あなた!?」
「ああ、私だ。確か、以前にも似たようなことがあったな。あのときと言い今回と言い、私はどうにも重要な局面で遅刻をする節があるようだ。苦労を掛けてすまない」
飄々とした調子で言う王に、しかし少年は珍しく大きめな声でそれを遮った。
「そ、そんなことは良いから、あ、あなた、こんなところに居て大丈夫なの!? ここ、魔法が、使えなくて、そ、それに、リィンスタット王陛下が、あなたは身を隠していないと、危ないって、」
言い詰める少年の唇を、王の指先がそっと塞ぐ。そして王は、ぱちりと片目を閉じて笑ってみせた。
「お前が心配するようなことは何もない。全て私に任せておけ」
そう言って少年の額にキスを落とした王に、少年が押し黙る。こういうことをされてしまうと、どうにも言葉を続けにくいのだ。それを判ってやっているのだとしたら、なかなかに性質が悪い。
そんな二人の様子に、デイガーも少し落ち着きを取り戻したのだろう。彼は嘲るような笑みを浮かべて王を見た。
「任せろも何も、この空間で精霊魔法を使えないのは貴様も同じだろうに。兵士だろうと王だろうと、魔法が使えない身で私に敵うと思っているのか?」
デイガーの言っていることはもっともだ。そう思った少年だったが、しかし王は普段と変わらぬ様子でデイガーを見据えている。
(……あれ? でも、この人がアグルムさんじゃなくなったときって、炎が……)
魔法が使えないなら、あの炎は一体何だったのだろう、という疑問を抱いた少年だったが、それを口に出す前に王が言葉を発した。
「この空間、貴公が創ったものではないな? ありとあらゆる次元に存在するという精霊を全て遮断するなど、およそ人の成せる業ではあるまい。……さしずめ、この空間を生み出したのは例のウロという人物で、貴公が担っているのはこの空間への道を繋ぐ役目くらい、といったところだろうか」
デイガーを挑発するようなわざとらしい台詞選びは、確かに効果があったようだ。僅かに頬を紅潮させたデイガーが、ギッと王を睨む。
「黙れ! だからなんだと言うのだ! 貴様が魔法を使えないことに変わりはない!」
「貴公は大変判りやすくて重宝するな。故に、できることならばもう少し泳いでいて貰いたいものだが……、状況を考えると、そうもいくまい。このまま泳がせるには、貴公の能力は優秀すぎる」
そう言った王が、すっと腕を横薙ぎに振るう。すると、王の足元からぶわりと炎が噴き上がった。それに驚いたのは、デイガーと少年である。
「なっ!?」
ここには精霊がいないのだ。だというのに、王は悠々と、まるでそれが当然であるかのように炎を生み出している。
絶句するデイガーに、王がゆるりと笑んだ。
「どうした? 私を殺すのだろう?」
穏やかな声が、いっそ無機質な響きを持ってデイガーの鼓膜を震わせる。炎を統べる王を前に、彼は化け物を見るような目をして叫んだ。
「お、お前がいかに王と言えど、この空間で魔法を使うことは不可能なはずだ! 精霊がいなければお前らは魔法が使えない! それが何故!?」
「何故、など。私に訊かれても困るな。ただ、私は私がこの力を使えることを知っている。それだけだ」
王の髪が熱気に煽られて揺れる。少年の目には、その度に彼の髪の色が揺らいでいるのが判った。
「ふ、ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるな!!」
絶叫したデイガーが、地面にいくつもの巨大な魔導陣を展開させる。そして、怪しい光を放つそれらから、次々と魔物が溢れ出してきた。
まるで、金の国で遭遇したあの事件の再現のようだ。あのときと違うのは、陣のサイズとそこから出て来る魔物の大きさだろうか。
魔導陣の中心に生じた空間の歪みから現れたのは、先程ようやく一頭倒した一つ目の巨人に並ぶ大きさの魔物たちだった。一つ目の巨人と同じ種族だろうものから、四つ脚の獣のような見た目のものまで様々であったが、この世界には存在しない生き物であることと、正気を失っている点は共通しているようだ。
魔物の周囲に使役主らしき魔導師が存在せず、ぎらついた目で少年たちを睨んで来るということは、やはり彼らも使役主を殺されて怒りの矛先を失ってしまったのだろう。
「……愚かな。一体このために、どれだけの民を犠牲にした」
低く唸るような声が、王の唇から漏れた。誰に聞かせるつもりでもなかったのだろうその呟きに、少年は思わず王の顔を見上げた。普段と比べ、そこまで変化が見られない表情は、しかしどこか静かな怒りに満ちているように見える。
王には感情らしい感情がないと聞いているが、少年には何故だが、今の王が見せたこの表情が作り物だとは思えなかった。尤も、それが個としてのものなのか責務としてのものなのかまでは、判断できなかったが。
見る見るうちに二人を包囲するように立ちはだかった魔物の群れに、少年が王の袖口を握る。そんな彼に視線を落とした王は、数度瞬きをしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「大丈夫だ、キョウヤ。私がいる」
そう言って少年の頭を撫でた王の手を、トカゲがぺちりと叩く。そして、ふんすと胸を張るようにして見上げてきたトカゲに、王が笑って見せた。
「ああ、無論、お前のことも頼りにしているとも。……だが、そのままでは心許ないな」
そう言った王が、トカゲに手を翳す。
「分けてやろう。溜まった鬱憤を晴らすのに使うと良い」
少年には王がトカゲに何を分け与えたのか判らなかったが、トカゲがきらきらと目を輝かせて王の掌にすり寄ったので、トカゲにとってとても良いものだったのだろうことは推測できた。
「さて、ティアが張り切っているようだから、ここはティアに任せるとしようか」
「え、あ、あの! でも、ティアくん、炎が、」
慌てて言った少年の唇を、王の指先が優しく押さえる。
「見ていると良い。滅多に拝むことができない、炎獄蜥蜴の真骨頂だ」
その言葉を合図に、トカゲがぴょんっと地面に跳び下りる。そして、何度か試すように小さな炎をぽっぽっと吐き出した彼は、次いで魔物の群れに顔を向け、ぱかっと大きく口を開いた。
瞬間、小さな体躯からは想像がつかないほどの量の炎が、その口から吐き出される。まるで巨大な蛇のようにうねる炎が、王と少年を取り巻くように渦状になって膨れ上がり、襲い来る魔物の群れを飲み込んでいく。
ただ炎を吐き出しているだけではない。吐き出した炎を鞭のように自在に操り、全ての敵を逃すことなく焼こうとしているのだ。
「す、す、ごい……」
最早視界の全てを炎に覆われてしまって、何が起こっているのかを見ることはできないが、魔物の悲鳴が至るところから聞こえてくるので、トカゲが敵を蹂躙していることだけは察せられた。
「まあ、炎獄蜥蜴ならば、これくらいは造作もないことだろう。お前のマフラーの中に潜ることができるサイズに限れば、この世界で最も強い炎種だ」
知ってはいたけれど、とんでもないものを寄越したんだなこの王は、と少年が改めて実感していると、突然ぴくりと震えたトカゲが、炎を吐くのをやめて王を振り返った。と同時に、王と少年に向かって炎が奔る。それは、紛れもなくトカゲが吐き出した炎だった。
一瞬何が起こったのか判らなかった少年だったが、デイガーの魔導を思い出し、その正体に気づいた。
きっと、亜空間にトカゲの炎を取り込んで、こちらに向かって放ったのだ。空間魔導を駆使することで引き起こされるカウンターのような現象は、金の国でまざまざと見せつけられた。
だが、それを予期していない王ではない。襲ってきた炎に向かって、王が右手を突き出す。すると、その手に触れるや否やのところで、唐突に炎が掻き消えた。
王はただ手を前に出しただけだ。それだけで、炎が消えてしまったのだ。
今度こそ何が起こったのか判らなかった少年が、問うような視線を王に向ければ、それに気づいたらしい王が彼を見た。
「ティアが使っている火種は、私のものだ。私の炎は、私を傷つけない」
「え、ええと……。……あなたの……? 火霊の、じゃなくて……?」
この世界の人々が扱う魔法は、全て精霊に起因するものだ。グレイからそう教わったのだから、間違いない。だが王は、少年の問いに不思議そうに首を傾げて返した。
「デイガーも言っていただろう。この空間に精霊はいない。故に、精霊魔法は使えんよ」
「え、で、でも、じゃあ、ティアくんが使ってる炎、は……?」
「言っただろう。私のものだ」
「……えっと……?」
ますます判らなくなってしまった少年に、王が苦笑する。
「実はな、私もよく判っていないのだ。ただ、これまでのことから考察するに、恐らくこれは私の炎なのだろうという結論に至った。原理はさっぱりだがな」
そう言った王が、トカゲに視線を投げる。
「だから、お前は気にせず存分に炎を吐くと良い。威力が甘い炎については先ほどのように返されるだろうが、それらが私に危害を加えることはないし、キョウヤに届く前に私が全て処理しよう」
その言葉に、トカゲがこくりと頷いてから再び炎を吐き出す。
王の言う通り、時折炎が二人を襲ったが、それらは全て王の身体に触れる前に掻き消えていった。
どれくらい、そんな時間が過ぎただろうか。恐らく、それほど長いものではなかっただろう。
最後に小さな炎をぼっと吐いてから口を閉じたトカゲが、するすると少年の元に向かい、ストールの中に潜りこんだ。そこでようやく、二人を守るように覆っていた炎の渦が、ゆっくりと消える。
そして広がった光景に、少年は思わず顔を引き攣らせてしまった。
あたり一帯にあったはずの、あの不気味な木々がきれいさっぱり灰になっている。未だ地面に燻っている炎が、全て燃やし尽くしてしまったのだろう。森だったその場所は、見事なまでの焼け野原になっていた。
(……確かに、これは、街中とかじゃ絶対やっちゃいけないやつだ……)
このトカゲを怖いと思うことはないが、炎獄蜥蜴という種は結構危ない種族なんだな、と再認識した少年の顎に、ストールから顔を出したトカゲがすりすりと鼻先を擦り付ける。恐らく、頑張ったから褒めろと要求しているのだろう。
「……あ、あはは、すごいね、ティアくん……」
そう言って小さな頭を撫でてやれば、トカゲは満足そうに指先に擦り寄ってきた。
「さて、鬱憤は晴らせたか?」
そう問うた王に、トカゲがこくこくと頷く。
「そうか。ならば、ここからは私が引き受けよう」
そう言って王が見据えた先には、ドラゴンのような魔物に乗ったデイガーがいる。遠目ではその表情まで伺うことはできないが、きっとさぞかし取り乱していることだろう。
(確かに、精霊がいないこの空間は脅威だ。たとえ相手が王であれ、この空間に引きずり込んだ時点でほとんど帝国の勝利は確実だと言って良い。だが、それは同時に、それほどまでにこの世界に強く干渉することになってしまうとも言える。この空間が創られた亜空間ならば、そのような空間を創った時点で結構な干渉と言っていいだろうな)
そこまで考えた王が、周囲に視線を巡らせる。
(判りにくいようにうまく誤魔化してはいるが、この空間の実質的な広さは、せいぜい演習用の闘技場一つ分程度。恐らく、これが向こうの限界だ。これ以上は能力的に不可能か、干渉のバランスの問題で不可能か……。前者であればまだ良いが、後者の可能性の方が高いと見るべきなのだろうな。そして、こんな空間をわざわざ創ったのは、リアンジュナイル大陸内に同等の空間を用意することが不可能だから、と考えるのが自然だ。……つまり、我々の次元で精霊の存在を消すことは不可能で、かつこの空間をもう一度生み出すことは、向こうにとってかなりのリスクになる、と考えるのが妥当だ)
すっと目を細めた王が、薄く唇を開く。
「……ならば、この空間ごと破壊するのが最良手か」
そう呟いた王の右腕が、ぶわりと炎に覆われる。そのまま腕を空に向ければ、そこから炎が噴き上がり、デイガーに向かって迸った。だが、デイガーの使役魔もそれを予期していたのだろう。噴き上がった業火を空中でひらりと躱した魔物は、鋭い鍵爪を露わに王に向かって降下してきた。
(以前もそうだったが、空間の扱いに長けている分、純粋な攻撃方法は限られていると見える)
とはいえ、今の王が扱えるのは炎だけだ。風霊魔法や強化魔法を使えない状況で、あの巨体の攻撃をいなすのは骨が折れる。
(対処できない訳ではないが、キョウヤを守りながらとなると、些か分が悪いか)
そう判断した王が、少年の腕を引いて己の背後に移動させる。
「あ、あなた……?」
「少し離れていろ。お前まで焼いてしまっては洒落にならんからな」
言われ、大人しくその言葉に従った少年が、王から数歩距離を取った。それを確認してから、王が向かってくる使役魔へと視線を戻す。それと同時に、その足元から炎が噴き上がった。
炎と赤銅がせめぎ合う髪を激しく躍らせながら舞い上がった炎は、王の頭上で見る見るうちに大きく膨れ上がっていく。
まるで太陽のように強く輝く巨大な火球に、少年は思わず目を閉じて腕で顔を隠した。そうでもしないと、目を灼かれてしまいそうだったのだ。
それはきっと、デイガーや使役魔も同じだったのだろう。魔物の苦しそうな声が少年の鼓膜を震わせた。
だが、その中にあっても王はしかと目を開き、敵を見据え続けている。そして王が僅かに目を細めた瞬間、膨らみに膨らんだ火球が大きく弾けた。
凄まじい爆風に、少年の身体が浮いて弾き飛ばされそうになる。だがその前に、彼は伸びて来た逞しい腕に引き寄せられ、抱き締められた。王である。
触れた体温に安堵した少年は、未だ激しい風が吹き荒れる中、そっと目を開いた。そして、目にした光景に絶句する。
大地も、空も、目に入る全てが、煌々と燃える炎だった。
焼け野原だとか、そういう程度の表現では到底語れない。まさに、炎の中にいるかのような光景なのだ。
だが、何故だろうか。不思議と熱さは感じない。こんな炎の中にいたら、呼吸をするだけで肺が焼けてしまいそうなのに、そんなことは全くなかった。
何故だろう、と思った少年が王を見れば、王の髪の毛はその八割方が炎の色に変色していた。それでもなお変わることを拒むように残るくすんだ色が、どうしてだか少年には酷く頼りないもののように思えた。
思わず、といった風に手を伸ばした少年が、王の髪に触れる。指先に触れた炎色の髪は、まるで血が通っているかのように温かく、少年は安堵するような不安になるような、不思議な心地になった。
「どうした?」
柔らかな声が、少年の耳に落ちる。本当はもっと他に言うことがあるはずなのに、少年の口から零れたのは、それらとは違う言葉だった。
「……あの人、と、魔物、は……?」
少年の問いに、王が僅かに目を細めた。
問うまでもなく、少年は気づいていた。デイガーはおろか、あんなにも大きな魔物すら面影がないのだ。そして王の様子を見るに、前回のように逃げられたということでもないのだろう。
「この空間は、リアンジュナイル大陸ではないからな」
力を抑える必要はないのだ、と続いた言葉に、少年はそっと王の髪から手を離した。
圧倒的な火力の前に、きっと熱さすら感じる間もなく蒸発してしまったのだろう、と。そう気づくのに、時間はかからなかった。魔物の悲鳴もデイガーの悲鳴も聞こえなかったから、きっとそうなのだろう。もしかすると炎が弾ける音で掻き消されてしまっただけなのかもしれないけれど、それでも少年は自分の考えが正しいのだろうと思っていた。そう信じられるくらいには、王の本質的な部分に触れてきた。けれど、
(……この人は、何なんだろう……)
精霊がいない空間で炎を生み出し、それを自分の炎だと言う。そんな人間が、本当に存在するのだろうか。もしかするとこの人は、自分とは全く違う何かなのではないだろうか。
そこまで考えた少年は、しかし内心で首を横に振る。
この王がどういう存在かなど、そんなものは些末なことだ。仮に王が化け物だったとしても、それが少年に与える影響は欠片もない。
少年にとって、王はただ王なのだ。王に幾度となく助けられたことも、王が少年に告げた愛の言葉も、何一つ変わらず、揺るぎのない事実である。少年にとって重要なのは、それだけだ。
王がロステアール・クレウ・グランダという男であるという事実と、彼がこの上なく美しいものであるという事実、そして彼の愛を信じた己の心以上に、重みがあるものなど存在するだろうか。
(……あ、)
そこで、少年はようやく気づく。
アメリアが黄の王を呼ぶ声が、彼が自分を呼ぶ声に似ていた理由を。
その声が他人に向けられることを考えるだけで、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのかを。
(…………僕、)
この人が何者でも良い、と。その正体がどんなに悍ましいものであったとしても、そんなことはどうでも良いのだと思えるほどに。
(……僕、この人のことが……、)
思わず王を見上げれば、優しい眼差しをした王がこちらを見ている。
彼はもう、気づいているのだろうか。他人の心の内を見透かすのが得意だと言うから、既に判っているのかもしれない。
(……でも、)
もし王が全てを知っているとしても、それでも少年は自分の口から言わなければならない。そうしなければ、この王に応えたことにはならないのだ。
少年の唇がゆっくりと開き、言葉を吐き出そうと喉が震える。
だがそのとき、一際強い炎の音が少年の鼓膜を揺らした。そしてそこで、少年ははっとする。
(い、今、それどころじゃなかった……!)
集中すると他のことがおろそかになるのは、少年の悪い癖である。
慌てて周囲に視線を巡らせれば、炎は未だに燃え盛り、全方位を焼き尽くさんばかりに荒れ狂っている。敵はもういないはずなのに、何故炎の勢いが弱まらないのだろうか。
不思議そうな表情を浮かべた少年を見て、王がその頭を撫でた。
「この空間は非常に厄介な代物だからな。全て破壊する必要があるのだ。さすがに一筋縄では壊せそうにないが、今の私ならば可能だろう」
「あの、でも、それじゃあ僕たちは、」
ここはきっと、少年が元いた場所とは異なる空間だ。それどころか、亜空間なのだとしたら、厳密には次元すらズレている可能性がある。そんな状況で空間を破壊すれば、自分たちも無事では済まないのではないだろうか。
その当然の疑問に、王は少しだけ困った表情を浮かべたあと、少年の方へと顔を寄せた。そして、金色の瞳が少年の瞳を見つめる。至近距離で揺れる炎に、少年の表情がふにゃりと蕩けた。それを確認した王は、そっと手を伸ばして、そのまま少年の眼帯を優しく外した。
瞬間、少年の見ている世界が大きく変わる。目の前の王が見せる輝きが目を灼くほどのものになり、その全身から炎が躍る様子が、これ以上ないほどに明瞭に見える。
まさに、この世のものとは思えないほどの、至高の美しさだ。
王の炎に焼かれ、とうとう空間自体に歪みが生じ、硝子が割れるような無数のひびが走り始めていたが、少年は気づかない。ただただ、この世で最も美しいものに見惚れているだけだった。
そしてそんな彼に向かい、王がそっと囁く。
「きっと、今の私ならば、お前の力を借りることができるのだ」
王の唇が、少年の異形の瞳に優しく触れる。
瞬間、少年の視界が真っ白に弾けた――
焦ったような困ったような声が、聞こえる気がする。
そう思った少年は、重い瞼をゆるゆると押し上げた。ぼやけた像をなんとか結べば、心配そうな顔で自分を見下ろしている男に見覚えがある。他でもない、リィンスタット国王のクラリオだ。
「……り、んすたっとおう、へいか……?」
「良かった! 目覚めたんだな! こんな獣舎で転がってるから、めちゃくちゃ心配したんだぞ! ロステアール王はロステアール王でアグルムから戻っちまってるし、一体何があったんだ?」
「え、と……?」
混乱している様子の少年に、黄の王は取り敢えずといった風に少年の隣を指さした。示された方へ顔を向ければ、そこには赤の王が倒れている。どうやら意識を失っているらしい彼を見て、少年の顔がさっと青ざめた。
「あ、あなた!?」
慌てて起き上がろうとした少年は、しかし身体を起こした途端に襲ってきた眩暈に、再び地面に倒れ込みそうになった。そんな彼を咄嗟に支えた黄の王が、落ち着けと声を掛ける。
「ロステアール王なら無事だ。完全に意識飛んでるみてーだけどな。いやぁ、この王様が意識失くすなんて初めて見たぜ。マジで何してたんだお前ら」
「え、えっと、あの、その、帝国が、あ、精霊がいなくて、空間魔導と、アグルムさんが、」
「お、おう。取り敢えず何言ってんだか判んねーから落ち着け。というか多分、ひとまず休んだ方が良いな。うん」
「……すみま、せん……」
うなだれた少年に、黄の王が明るく笑う。
「いや、こっちこそいきなり色々聞いて悪かったな。まあでも、取り敢えず一個だけ教えてくれ。……そっちは片付いたってことで、良いんだよな?」
王の問いに、少年がこくりと頷く。
「よっしゃ。それが判っただけで良いわ。あ、こっちも全部片付いたから安心しろよ。一件落着ってやつだな」
にっと笑った黄の王を見て、少年も控えめに微笑みを浮かべた。
「ロステアール王とまとめて部屋に運んでやっから、もう寝てて良いぞ。その代わり、次に起きた時は色々聞かせて貰うからな」
そう言われ、少年は素直にその言葉に甘えることにした。何故だかは知らないが、それくらい疲労が溜まっていたのだ。
こうして、リィンスタット王国を震撼させた大事件は、ひとまず収束したのであった。
先程までの余裕を完全に失った様子のデイガーが、取り乱したように叫ぶ。それを見た男――赤の王は、デイガーに視線を投げて挑発的な笑みを浮かべた。
「そうとも。私はたった今まで、確かにアグルム・ブランツェだったからな」
「っ、まさか! 幻惑魔法でも使ったと!?」
驚愕の目を向けて来るデイガーに、王が目を細める。
「察しが良いではないか。その通りだ。故に、称賛されるべきは見事な腕前で魔法を完成させたランファ王と、この茶番に付き合ってくれたリィンスタット王だな」
そう言った王の腕によじ登ったトカゲが、そのまま肩まで移動し、その頬をぺちぺちと叩いた。
「ははは、そう怒るな。敵を欺くにはまず味方からだと、よく言うだろう。ああ、悪かったとは思っているとも。キョウヤにも随分心配を掛けてしまったようだしな。なあ、キョウヤ」
王に名を呼ばれた少年だったが、残念ながら現状の彼では返答をすることができないようで、ただひたすら、ぽーっとした目で王を見つめるばかりだった。
その表情が、ありありと彼の思いを伝えている。
(……きれい…………)
赤の王は、元々とても美しい男だ。見た目がどうとか、そういうことではない。仕草だとか、態度だとか、纏う空気だとか、醸し出す雰囲気だとか。そういったものが全て合わさって、この王の美しさが構成されているのだと少年は思っていた。
だが、今の王は違う。眼帯に隠れていない普通の目でもありありと判るほどに、王の全身が炎の輝きを放っている。初めてそれを見たときほどではないが、それに通ずるほどの鮮やかさで、躍動する光が王の全身を覆っている。
そこで少年は、ふと気づいた。王の髪の毛が、くすんだ炎のような色から鮮やかに燃え盛る緋色へと、色を変えつつある。それはまるで、せめぎ合いを見ているかのようだった。毛先からじわじわと鮮やかに変化する色は、しかし中ほどのところで、まるで変わることを拒むかのように進退を繰り返している。
それが何を意味しているのかは知らない。だが少年は、そんな王の姿をただただ美しいと思った。
「……あなた、きれい……」
王の呼びかけに応えず、独り言のようにとろりと溶けたその言葉に、王が柔らかな微笑みを浮かべる。
「ああ、私もお前を愛しているよ」
だが今は惚けている場合ではないな、と続けた王が、軽めに少年の頬を叩く。二、三度そうすれば、ぱちぱちと瞬きをした少年の目に正気が戻り、次いで彼は見る見るうちに真っ青になって王を見た。
「あ、あな、あなた!?」
「ああ、私だ。確か、以前にも似たようなことがあったな。あのときと言い今回と言い、私はどうにも重要な局面で遅刻をする節があるようだ。苦労を掛けてすまない」
飄々とした調子で言う王に、しかし少年は珍しく大きめな声でそれを遮った。
「そ、そんなことは良いから、あ、あなた、こんなところに居て大丈夫なの!? ここ、魔法が、使えなくて、そ、それに、リィンスタット王陛下が、あなたは身を隠していないと、危ないって、」
言い詰める少年の唇を、王の指先がそっと塞ぐ。そして王は、ぱちりと片目を閉じて笑ってみせた。
「お前が心配するようなことは何もない。全て私に任せておけ」
そう言って少年の額にキスを落とした王に、少年が押し黙る。こういうことをされてしまうと、どうにも言葉を続けにくいのだ。それを判ってやっているのだとしたら、なかなかに性質が悪い。
そんな二人の様子に、デイガーも少し落ち着きを取り戻したのだろう。彼は嘲るような笑みを浮かべて王を見た。
「任せろも何も、この空間で精霊魔法を使えないのは貴様も同じだろうに。兵士だろうと王だろうと、魔法が使えない身で私に敵うと思っているのか?」
デイガーの言っていることはもっともだ。そう思った少年だったが、しかし王は普段と変わらぬ様子でデイガーを見据えている。
(……あれ? でも、この人がアグルムさんじゃなくなったときって、炎が……)
魔法が使えないなら、あの炎は一体何だったのだろう、という疑問を抱いた少年だったが、それを口に出す前に王が言葉を発した。
「この空間、貴公が創ったものではないな? ありとあらゆる次元に存在するという精霊を全て遮断するなど、およそ人の成せる業ではあるまい。……さしずめ、この空間を生み出したのは例のウロという人物で、貴公が担っているのはこの空間への道を繋ぐ役目くらい、といったところだろうか」
デイガーを挑発するようなわざとらしい台詞選びは、確かに効果があったようだ。僅かに頬を紅潮させたデイガーが、ギッと王を睨む。
「黙れ! だからなんだと言うのだ! 貴様が魔法を使えないことに変わりはない!」
「貴公は大変判りやすくて重宝するな。故に、できることならばもう少し泳いでいて貰いたいものだが……、状況を考えると、そうもいくまい。このまま泳がせるには、貴公の能力は優秀すぎる」
そう言った王が、すっと腕を横薙ぎに振るう。すると、王の足元からぶわりと炎が噴き上がった。それに驚いたのは、デイガーと少年である。
「なっ!?」
ここには精霊がいないのだ。だというのに、王は悠々と、まるでそれが当然であるかのように炎を生み出している。
絶句するデイガーに、王がゆるりと笑んだ。
「どうした? 私を殺すのだろう?」
穏やかな声が、いっそ無機質な響きを持ってデイガーの鼓膜を震わせる。炎を統べる王を前に、彼は化け物を見るような目をして叫んだ。
「お、お前がいかに王と言えど、この空間で魔法を使うことは不可能なはずだ! 精霊がいなければお前らは魔法が使えない! それが何故!?」
「何故、など。私に訊かれても困るな。ただ、私は私がこの力を使えることを知っている。それだけだ」
王の髪が熱気に煽られて揺れる。少年の目には、その度に彼の髪の色が揺らいでいるのが判った。
「ふ、ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるな!!」
絶叫したデイガーが、地面にいくつもの巨大な魔導陣を展開させる。そして、怪しい光を放つそれらから、次々と魔物が溢れ出してきた。
まるで、金の国で遭遇したあの事件の再現のようだ。あのときと違うのは、陣のサイズとそこから出て来る魔物の大きさだろうか。
魔導陣の中心に生じた空間の歪みから現れたのは、先程ようやく一頭倒した一つ目の巨人に並ぶ大きさの魔物たちだった。一つ目の巨人と同じ種族だろうものから、四つ脚の獣のような見た目のものまで様々であったが、この世界には存在しない生き物であることと、正気を失っている点は共通しているようだ。
魔物の周囲に使役主らしき魔導師が存在せず、ぎらついた目で少年たちを睨んで来るということは、やはり彼らも使役主を殺されて怒りの矛先を失ってしまったのだろう。
「……愚かな。一体このために、どれだけの民を犠牲にした」
低く唸るような声が、王の唇から漏れた。誰に聞かせるつもりでもなかったのだろうその呟きに、少年は思わず王の顔を見上げた。普段と比べ、そこまで変化が見られない表情は、しかしどこか静かな怒りに満ちているように見える。
王には感情らしい感情がないと聞いているが、少年には何故だが、今の王が見せたこの表情が作り物だとは思えなかった。尤も、それが個としてのものなのか責務としてのものなのかまでは、判断できなかったが。
見る見るうちに二人を包囲するように立ちはだかった魔物の群れに、少年が王の袖口を握る。そんな彼に視線を落とした王は、数度瞬きをしたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「大丈夫だ、キョウヤ。私がいる」
そう言って少年の頭を撫でた王の手を、トカゲがぺちりと叩く。そして、ふんすと胸を張るようにして見上げてきたトカゲに、王が笑って見せた。
「ああ、無論、お前のことも頼りにしているとも。……だが、そのままでは心許ないな」
そう言った王が、トカゲに手を翳す。
「分けてやろう。溜まった鬱憤を晴らすのに使うと良い」
少年には王がトカゲに何を分け与えたのか判らなかったが、トカゲがきらきらと目を輝かせて王の掌にすり寄ったので、トカゲにとってとても良いものだったのだろうことは推測できた。
「さて、ティアが張り切っているようだから、ここはティアに任せるとしようか」
「え、あ、あの! でも、ティアくん、炎が、」
慌てて言った少年の唇を、王の指先が優しく押さえる。
「見ていると良い。滅多に拝むことができない、炎獄蜥蜴の真骨頂だ」
その言葉を合図に、トカゲがぴょんっと地面に跳び下りる。そして、何度か試すように小さな炎をぽっぽっと吐き出した彼は、次いで魔物の群れに顔を向け、ぱかっと大きく口を開いた。
瞬間、小さな体躯からは想像がつかないほどの量の炎が、その口から吐き出される。まるで巨大な蛇のようにうねる炎が、王と少年を取り巻くように渦状になって膨れ上がり、襲い来る魔物の群れを飲み込んでいく。
ただ炎を吐き出しているだけではない。吐き出した炎を鞭のように自在に操り、全ての敵を逃すことなく焼こうとしているのだ。
「す、す、ごい……」
最早視界の全てを炎に覆われてしまって、何が起こっているのかを見ることはできないが、魔物の悲鳴が至るところから聞こえてくるので、トカゲが敵を蹂躙していることだけは察せられた。
「まあ、炎獄蜥蜴ならば、これくらいは造作もないことだろう。お前のマフラーの中に潜ることができるサイズに限れば、この世界で最も強い炎種だ」
知ってはいたけれど、とんでもないものを寄越したんだなこの王は、と少年が改めて実感していると、突然ぴくりと震えたトカゲが、炎を吐くのをやめて王を振り返った。と同時に、王と少年に向かって炎が奔る。それは、紛れもなくトカゲが吐き出した炎だった。
一瞬何が起こったのか判らなかった少年だったが、デイガーの魔導を思い出し、その正体に気づいた。
きっと、亜空間にトカゲの炎を取り込んで、こちらに向かって放ったのだ。空間魔導を駆使することで引き起こされるカウンターのような現象は、金の国でまざまざと見せつけられた。
だが、それを予期していない王ではない。襲ってきた炎に向かって、王が右手を突き出す。すると、その手に触れるや否やのところで、唐突に炎が掻き消えた。
王はただ手を前に出しただけだ。それだけで、炎が消えてしまったのだ。
今度こそ何が起こったのか判らなかった少年が、問うような視線を王に向ければ、それに気づいたらしい王が彼を見た。
「ティアが使っている火種は、私のものだ。私の炎は、私を傷つけない」
「え、ええと……。……あなたの……? 火霊の、じゃなくて……?」
この世界の人々が扱う魔法は、全て精霊に起因するものだ。グレイからそう教わったのだから、間違いない。だが王は、少年の問いに不思議そうに首を傾げて返した。
「デイガーも言っていただろう。この空間に精霊はいない。故に、精霊魔法は使えんよ」
「え、で、でも、じゃあ、ティアくんが使ってる炎、は……?」
「言っただろう。私のものだ」
「……えっと……?」
ますます判らなくなってしまった少年に、王が苦笑する。
「実はな、私もよく判っていないのだ。ただ、これまでのことから考察するに、恐らくこれは私の炎なのだろうという結論に至った。原理はさっぱりだがな」
そう言った王が、トカゲに視線を投げる。
「だから、お前は気にせず存分に炎を吐くと良い。威力が甘い炎については先ほどのように返されるだろうが、それらが私に危害を加えることはないし、キョウヤに届く前に私が全て処理しよう」
その言葉に、トカゲがこくりと頷いてから再び炎を吐き出す。
王の言う通り、時折炎が二人を襲ったが、それらは全て王の身体に触れる前に掻き消えていった。
どれくらい、そんな時間が過ぎただろうか。恐らく、それほど長いものではなかっただろう。
最後に小さな炎をぼっと吐いてから口を閉じたトカゲが、するすると少年の元に向かい、ストールの中に潜りこんだ。そこでようやく、二人を守るように覆っていた炎の渦が、ゆっくりと消える。
そして広がった光景に、少年は思わず顔を引き攣らせてしまった。
あたり一帯にあったはずの、あの不気味な木々がきれいさっぱり灰になっている。未だ地面に燻っている炎が、全て燃やし尽くしてしまったのだろう。森だったその場所は、見事なまでの焼け野原になっていた。
(……確かに、これは、街中とかじゃ絶対やっちゃいけないやつだ……)
このトカゲを怖いと思うことはないが、炎獄蜥蜴という種は結構危ない種族なんだな、と再認識した少年の顎に、ストールから顔を出したトカゲがすりすりと鼻先を擦り付ける。恐らく、頑張ったから褒めろと要求しているのだろう。
「……あ、あはは、すごいね、ティアくん……」
そう言って小さな頭を撫でてやれば、トカゲは満足そうに指先に擦り寄ってきた。
「さて、鬱憤は晴らせたか?」
そう問うた王に、トカゲがこくこくと頷く。
「そうか。ならば、ここからは私が引き受けよう」
そう言って王が見据えた先には、ドラゴンのような魔物に乗ったデイガーがいる。遠目ではその表情まで伺うことはできないが、きっとさぞかし取り乱していることだろう。
(確かに、精霊がいないこの空間は脅威だ。たとえ相手が王であれ、この空間に引きずり込んだ時点でほとんど帝国の勝利は確実だと言って良い。だが、それは同時に、それほどまでにこの世界に強く干渉することになってしまうとも言える。この空間が創られた亜空間ならば、そのような空間を創った時点で結構な干渉と言っていいだろうな)
そこまで考えた王が、周囲に視線を巡らせる。
(判りにくいようにうまく誤魔化してはいるが、この空間の実質的な広さは、せいぜい演習用の闘技場一つ分程度。恐らく、これが向こうの限界だ。これ以上は能力的に不可能か、干渉のバランスの問題で不可能か……。前者であればまだ良いが、後者の可能性の方が高いと見るべきなのだろうな。そして、こんな空間をわざわざ創ったのは、リアンジュナイル大陸内に同等の空間を用意することが不可能だから、と考えるのが自然だ。……つまり、我々の次元で精霊の存在を消すことは不可能で、かつこの空間をもう一度生み出すことは、向こうにとってかなりのリスクになる、と考えるのが妥当だ)
すっと目を細めた王が、薄く唇を開く。
「……ならば、この空間ごと破壊するのが最良手か」
そう呟いた王の右腕が、ぶわりと炎に覆われる。そのまま腕を空に向ければ、そこから炎が噴き上がり、デイガーに向かって迸った。だが、デイガーの使役魔もそれを予期していたのだろう。噴き上がった業火を空中でひらりと躱した魔物は、鋭い鍵爪を露わに王に向かって降下してきた。
(以前もそうだったが、空間の扱いに長けている分、純粋な攻撃方法は限られていると見える)
とはいえ、今の王が扱えるのは炎だけだ。風霊魔法や強化魔法を使えない状況で、あの巨体の攻撃をいなすのは骨が折れる。
(対処できない訳ではないが、キョウヤを守りながらとなると、些か分が悪いか)
そう判断した王が、少年の腕を引いて己の背後に移動させる。
「あ、あなた……?」
「少し離れていろ。お前まで焼いてしまっては洒落にならんからな」
言われ、大人しくその言葉に従った少年が、王から数歩距離を取った。それを確認してから、王が向かってくる使役魔へと視線を戻す。それと同時に、その足元から炎が噴き上がった。
炎と赤銅がせめぎ合う髪を激しく躍らせながら舞い上がった炎は、王の頭上で見る見るうちに大きく膨れ上がっていく。
まるで太陽のように強く輝く巨大な火球に、少年は思わず目を閉じて腕で顔を隠した。そうでもしないと、目を灼かれてしまいそうだったのだ。
それはきっと、デイガーや使役魔も同じだったのだろう。魔物の苦しそうな声が少年の鼓膜を震わせた。
だが、その中にあっても王はしかと目を開き、敵を見据え続けている。そして王が僅かに目を細めた瞬間、膨らみに膨らんだ火球が大きく弾けた。
凄まじい爆風に、少年の身体が浮いて弾き飛ばされそうになる。だがその前に、彼は伸びて来た逞しい腕に引き寄せられ、抱き締められた。王である。
触れた体温に安堵した少年は、未だ激しい風が吹き荒れる中、そっと目を開いた。そして、目にした光景に絶句する。
大地も、空も、目に入る全てが、煌々と燃える炎だった。
焼け野原だとか、そういう程度の表現では到底語れない。まさに、炎の中にいるかのような光景なのだ。
だが、何故だろうか。不思議と熱さは感じない。こんな炎の中にいたら、呼吸をするだけで肺が焼けてしまいそうなのに、そんなことは全くなかった。
何故だろう、と思った少年が王を見れば、王の髪の毛はその八割方が炎の色に変色していた。それでもなお変わることを拒むように残るくすんだ色が、どうしてだか少年には酷く頼りないもののように思えた。
思わず、といった風に手を伸ばした少年が、王の髪に触れる。指先に触れた炎色の髪は、まるで血が通っているかのように温かく、少年は安堵するような不安になるような、不思議な心地になった。
「どうした?」
柔らかな声が、少年の耳に落ちる。本当はもっと他に言うことがあるはずなのに、少年の口から零れたのは、それらとは違う言葉だった。
「……あの人、と、魔物、は……?」
少年の問いに、王が僅かに目を細めた。
問うまでもなく、少年は気づいていた。デイガーはおろか、あんなにも大きな魔物すら面影がないのだ。そして王の様子を見るに、前回のように逃げられたということでもないのだろう。
「この空間は、リアンジュナイル大陸ではないからな」
力を抑える必要はないのだ、と続いた言葉に、少年はそっと王の髪から手を離した。
圧倒的な火力の前に、きっと熱さすら感じる間もなく蒸発してしまったのだろう、と。そう気づくのに、時間はかからなかった。魔物の悲鳴もデイガーの悲鳴も聞こえなかったから、きっとそうなのだろう。もしかすると炎が弾ける音で掻き消されてしまっただけなのかもしれないけれど、それでも少年は自分の考えが正しいのだろうと思っていた。そう信じられるくらいには、王の本質的な部分に触れてきた。けれど、
(……この人は、何なんだろう……)
精霊がいない空間で炎を生み出し、それを自分の炎だと言う。そんな人間が、本当に存在するのだろうか。もしかするとこの人は、自分とは全く違う何かなのではないだろうか。
そこまで考えた少年は、しかし内心で首を横に振る。
この王がどういう存在かなど、そんなものは些末なことだ。仮に王が化け物だったとしても、それが少年に与える影響は欠片もない。
少年にとって、王はただ王なのだ。王に幾度となく助けられたことも、王が少年に告げた愛の言葉も、何一つ変わらず、揺るぎのない事実である。少年にとって重要なのは、それだけだ。
王がロステアール・クレウ・グランダという男であるという事実と、彼がこの上なく美しいものであるという事実、そして彼の愛を信じた己の心以上に、重みがあるものなど存在するだろうか。
(……あ、)
そこで、少年はようやく気づく。
アメリアが黄の王を呼ぶ声が、彼が自分を呼ぶ声に似ていた理由を。
その声が他人に向けられることを考えるだけで、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのかを。
(…………僕、)
この人が何者でも良い、と。その正体がどんなに悍ましいものであったとしても、そんなことはどうでも良いのだと思えるほどに。
(……僕、この人のことが……、)
思わず王を見上げれば、優しい眼差しをした王がこちらを見ている。
彼はもう、気づいているのだろうか。他人の心の内を見透かすのが得意だと言うから、既に判っているのかもしれない。
(……でも、)
もし王が全てを知っているとしても、それでも少年は自分の口から言わなければならない。そうしなければ、この王に応えたことにはならないのだ。
少年の唇がゆっくりと開き、言葉を吐き出そうと喉が震える。
だがそのとき、一際強い炎の音が少年の鼓膜を揺らした。そしてそこで、少年ははっとする。
(い、今、それどころじゃなかった……!)
集中すると他のことがおろそかになるのは、少年の悪い癖である。
慌てて周囲に視線を巡らせれば、炎は未だに燃え盛り、全方位を焼き尽くさんばかりに荒れ狂っている。敵はもういないはずなのに、何故炎の勢いが弱まらないのだろうか。
不思議そうな表情を浮かべた少年を見て、王がその頭を撫でた。
「この空間は非常に厄介な代物だからな。全て破壊する必要があるのだ。さすがに一筋縄では壊せそうにないが、今の私ならば可能だろう」
「あの、でも、それじゃあ僕たちは、」
ここはきっと、少年が元いた場所とは異なる空間だ。それどころか、亜空間なのだとしたら、厳密には次元すらズレている可能性がある。そんな状況で空間を破壊すれば、自分たちも無事では済まないのではないだろうか。
その当然の疑問に、王は少しだけ困った表情を浮かべたあと、少年の方へと顔を寄せた。そして、金色の瞳が少年の瞳を見つめる。至近距離で揺れる炎に、少年の表情がふにゃりと蕩けた。それを確認した王は、そっと手を伸ばして、そのまま少年の眼帯を優しく外した。
瞬間、少年の見ている世界が大きく変わる。目の前の王が見せる輝きが目を灼くほどのものになり、その全身から炎が躍る様子が、これ以上ないほどに明瞭に見える。
まさに、この世のものとは思えないほどの、至高の美しさだ。
王の炎に焼かれ、とうとう空間自体に歪みが生じ、硝子が割れるような無数のひびが走り始めていたが、少年は気づかない。ただただ、この世で最も美しいものに見惚れているだけだった。
そしてそんな彼に向かい、王がそっと囁く。
「きっと、今の私ならば、お前の力を借りることができるのだ」
王の唇が、少年の異形の瞳に優しく触れる。
瞬間、少年の視界が真っ白に弾けた――
焦ったような困ったような声が、聞こえる気がする。
そう思った少年は、重い瞼をゆるゆると押し上げた。ぼやけた像をなんとか結べば、心配そうな顔で自分を見下ろしている男に見覚えがある。他でもない、リィンスタット国王のクラリオだ。
「……り、んすたっとおう、へいか……?」
「良かった! 目覚めたんだな! こんな獣舎で転がってるから、めちゃくちゃ心配したんだぞ! ロステアール王はロステアール王でアグルムから戻っちまってるし、一体何があったんだ?」
「え、と……?」
混乱している様子の少年に、黄の王は取り敢えずといった風に少年の隣を指さした。示された方へ顔を向ければ、そこには赤の王が倒れている。どうやら意識を失っているらしい彼を見て、少年の顔がさっと青ざめた。
「あ、あなた!?」
慌てて起き上がろうとした少年は、しかし身体を起こした途端に襲ってきた眩暈に、再び地面に倒れ込みそうになった。そんな彼を咄嗟に支えた黄の王が、落ち着けと声を掛ける。
「ロステアール王なら無事だ。完全に意識飛んでるみてーだけどな。いやぁ、この王様が意識失くすなんて初めて見たぜ。マジで何してたんだお前ら」
「え、えっと、あの、その、帝国が、あ、精霊がいなくて、空間魔導と、アグルムさんが、」
「お、おう。取り敢えず何言ってんだか判んねーから落ち着け。というか多分、ひとまず休んだ方が良いな。うん」
「……すみま、せん……」
うなだれた少年に、黄の王が明るく笑う。
「いや、こっちこそいきなり色々聞いて悪かったな。まあでも、取り敢えず一個だけ教えてくれ。……そっちは片付いたってことで、良いんだよな?」
王の問いに、少年がこくりと頷く。
「よっしゃ。それが判っただけで良いわ。あ、こっちも全部片付いたから安心しろよ。一件落着ってやつだな」
にっと笑った黄の王を見て、少年も控えめに微笑みを浮かべた。
「ロステアール王とまとめて部屋に運んでやっから、もう寝てて良いぞ。その代わり、次に起きた時は色々聞かせて貰うからな」
そう言われ、少年は素直にその言葉に甘えることにした。何故だかは知らないが、それくらい疲労が溜まっていたのだ。
こうして、リィンスタット王国を震撼させた大事件は、ひとまず収束したのであった。
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