【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜

倉橋 玲

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最終章 伝説の最果てで蝶が舞う

戦線 -橙の王-

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「こりゃあどうも参ったな」
 時にして、緑の王が火の鳥と交戦しているちょうどその頃。空を見上げてそう呟いたのは、橙の王である。
 硬く重そうな装甲に覆われた大型の騎獣の背の上で、うーんとひと唸りした王は、空に佇む存在と己を乗せている騎獣とを交互に見比べ、もう一度唸るような声をあげた。
 そんな王を見下ろすのは、骨と皮だけで構成されているような、痩躯の獣だ。風を纏った四肢で空に浮かぶその獣は、ただの獣と呼ぶにはあまりに不気味な見た目をしていた。まるですべての毛が抜け落ちたかのような薄い皮膚はところどこが垂み、肉のない身体には骨の輪郭が浮いている。
 何より、頭部に二つ、ぽっかりと開いた空洞が印象的だ。通常の生物であれば目が嵌まっているだろうその空間には何も存在せず、ただ虚ろな眼窩が橙の王を見下ろしている。
 生を感じさせないその魔物に、橙の王はがりがりと頭を掻いた。
 空に浮かぶこれは風に属する魔物であり、その身で感じる空気から相当の手練れであることまでは理解できたが、相手の性質が判らないと思ったのだ。
 よく大雑把でがさつな男に見られがちな橙の王だが、その実彼は、その場の状況に応じて比較的柔軟に思考を巡らせることができる、器用な男である。それは戦闘においても例外ではなく、特に強者との戦いにおいては、相手の性質に合わせて戦法を変化させることが常だった。だが、
(どうにも感情が見えん生き物だなぁ。魔導契約に憤っているようにも見えんし、儂に対する憎悪はおろか、敵対心すら感じん。……こういう類の輩との戦闘は、大体が面倒臭いことになるもんだが、さて)
 どのみち、空を飛ぶ相手と橙の王とでは相性がすこぶる悪い。王の跨る騎獣は橙の国の中では随一の強さと機動力を誇る騎獣だが、残念ながら風の属性に対して優位性を発揮することはできないだろう。
 王がそんなこと考えていると、身動きひとつせずに彼を見下ろしていた魔物が、不意に一歩を踏み出した。いや、踏み出したと言うよりも、まるで蹄で地面を鳴らすように、空気を踏みしめたと言った方が正確だったかもしれない。
 瞬間、己の背中がざわりと粟立つのを感じた王は、咄嗟に地霊魔法による岩の壁を目の前に展開していた。
 果たして、その判断は正しかった。
 どこからともなく吹き荒れた風の刃が、分厚い岩の壁をズタズタに切り裂いて掻き消えたのだ。この壁がなければ、切り裂かれていたのは王と騎獣だったことだろう。
「……いや、参ったな」
 崩れ落ちた岩の壁を見て、王は思わず冒頭と同じ言葉を漏らした。
 一見すると風と大地のぶつかり合いは互角で、結果的にうまく相殺されたようにも見えるが、王が展開した石壁は、強度をそれなりに与えた防御用の魔法である。それが簡素な風の刃程度でこうなるということは、石壁の方が耐久負けしたとみなすのが正しいだろう。
「……お前さんがやられると困るしなぁ」
 そうぼやきつつ王が見たのは、自分を背に乗せている騎獣だ。
 風霊魔法を使えず、本人の機動力もあまり高くはない橙の王にとって、足である騎獣を失うことはかなりの痛手である。
 だが、ここで騎獣を逃がしてしまうと、機動力のない王一人で相性の悪い属性を相手取ることになり、それはそれで避けたい事態だと王は思った。
(……いや、ここは更なる劣勢を覚悟の上で、一度騎獣を逃がすべきか。足がなくなると、儂一人では移動速度が大幅に落ちるしなぁ)
 ひとつ息を吐き出した王が、騎獣の背から跳び下りる。そして目線だけで騎獣を引かせた王は、次いで風の魔物へと視線を戻した。
 相変わらず王を見下ろしている魔物は、しかしあれから動きを見せない。先ほどの攻撃はどうせ小手調べ程度のものだろうに、何故次を打ってこないのだと内心で首を傾げた王に、魔物が声を上げた。
『先の壁は、貴様の魔法とやらか?』
 突然話し掛けられた王は一瞬面食らったような表情を浮かべたが、素直に頷いて返す。
「おう、そうとも。まあ残念ながら、お前さんにはあまり効果がないようだったが」
『何を言う、十分ではないか。我にとっては脆弱な攻撃だったとは言え、よもやあれを人間が防げるとは思わなんだ。貴様、誇ってよいぞ』
「そいつはどうも」
 随分と上から目線で物を言う魔物に、しかし王は笑って言葉を返した。
(異世界の人語を操れるほどに高等な生き物、と考えると厄介極まりないが、会話が通じるというのはある意味有難い。相手の考えが判らんと、どうにもこちらも動きにくいからな)
 そう思考を巡らせる王に、なおも魔物が語り掛ける。
『その背に背負っているのは、貴様の武器か? 随分と重そうだが、そんなものを振り回せるのか?』
 魔物が興味深げにそう言ったのは、橙の王が背に備えている巨大な斧のような武器のことである。これは、元よりあまり期待できない機動力を捨て、単純な破壊力のみに特化させるために作られた特注の品だ。確かに、これほどまでに巨大な武器を扱う人間はそういない。
「儂の自慢は力があることくらいだからなぁ。これくらい振り回せなくては、他の王と渡り合えないというものよ」
 そう言った王が、斧を掴んでぶんと振り回してみせる。すると、魔物は素直に感嘆したような声を上げた。
『おお! これは素晴らしい! どうにも我には純粋な力が足りないと思っていたところなのだ。その力、是非手に入れたいものだな』
「手に入れたい、と言われてもなぁ。残念ながら、儂はお前さんの味方に回る気はないぞ?」
 王の言葉に、魔物が心底不思議そうに首を傾げた。
『何故そうなる?』
「何故って、手に入れたいと言っただろうに」
『ああ、そうとも。手に入れたいとも。だが貴様が我の味方になる必要はない』
 言われ、王が片眉を上げる。
「……どういうことだ?」
 その問いに、魔物の口が、獣に似つかわしくない人間じみた笑みを象る。大きくにたりと笑い、剥き出しになった歯はまさに人間のそれとまったく同じもので、その歪さに背筋が冷えるのを王は感じた。
『生きたまま貴様を食らえば、貴様の力も我の力になるのだ』
 ぞっとする声が耳に滑り込み、王は思わず盛大に顔を顰めた。そして、珍しく吐き捨てるように呟く。
「……なるほど、心の底から厄介な性質のようだ」
 喰らったものの能力を吸収、もしくは模倣することができる生物、と判断して良いだろう。つまり、これまでにどれだけの生き物を食らったかによって、この魔物の力量が大きく変わるということである。その程度を正確に把握することは不可能だが、王はこの短い会話の中で、おおよその検討をつけることに成功していた。
(貴様の力も、ということは、既に複数人は喰らっているのだろう。だが、発言から察するに、生きたまま食らうことが、吸収なり模倣なりの条件のように聞こえる。この条件を達成できる相手、すなわち生け捕りが可能な程度の力量の持ち主しか喰らっていないと仮定すると、それだけならばそこまでの脅威じゃあなかろうな。……しかし帝国のことだ。国民なり兵士なりを大量に喰わせるくらいのことはやっていてもおかしくはない。さすがにそれだけの人数の力を全て吸収なり模倣なりしているとなれば、それこそ属性の相性など抜きに純粋な脅威とみなせるんだが、……それにしては、どうにも敵の圧が足りんなぁ。……ふーむ、喰らった相手の力の全てを手に入れられる訳ではなく、その内の数分の一なり数十分の一なりを自分のものにできる能力、あたりが妥当なところか)
 思考の末、面倒な敵であることに変わりはないが、魔物が示してきたこの能力をそこまで恐れる必要はない、と王は切り捨てる。
(異次元の生物の気質なんぞ知らんが、あの発言はほとんど脅しのようなものだろうなぁ。この件については、こちらの恐怖心を煽って悦に入る嫌な性格のひねくれもの、とでも考えておけばまあ良いだろう。そんなことより問題は、敵がかなりの力量を持った風属性である点か……)
 いつだかに行った緑の王との模擬戦を思い出した橙の王は、げっそりとした顔をした。あのときの模擬戦では、騎獣を使うことができないのも相まって、随分と一方的な戦いになってしまったものだ。
 確か、びゅんびゅん空を飛びまわっては容赦なく風で殴ってくる緑の王に、最終的に両手を上げて降参したのだったか。どう足掻いても勝てないからと降参しただけなのに、やる気がないのかと怒った緑の王から酷く罵倒されたな、と橙の王がひとりごちる。
 敵を前に呑気なように思えるが、別に現実逃避をしているわけではない。あの模擬戦が何かの参考にならないかと思考を巡らせている過程で、ふと思い出してしまっただけだ。
(……まあ、互いに本気を出せない模擬戦であったとしても、仮想的に本気の戦闘を想定することはできるからな。今回はそれが役に立つかもしれん、といったところか)
 そう結論づけた王が、手にした斧を両手でしっかりと握る。それを合図とするかのように、敵が動いた。
 異形の獣が再び足を空に打ちつけること二度。その左右で生まれた旋毛風が、橙の王に襲いかかる。迎え撃つ王は、握った斧に火霊を纏わせ、やってくる風の刃に向かって大きく振り回した。
「ふんっ!」
 声と共に風を薙いだ斧が、じゅわりと音を立てて風を焼き払う。
(やはり、相性の良い火霊魔法なら対等にやりあえるか)
 だが、橙の王の火霊魔法適性はそこまで高くない。今のような下級魔法クラスの風ならばいなせるものの、高位の技を防げるほどの火霊魔法となると、王には扱えないクラスのものになると思って良いだろう。何より、橙の王にとって火霊魔法はあまりコストの良い魔法ではないのだ。連発すればするだけ、魔力を大きく消耗してしまう。
(地霊魔法で防げるものは防ぎつつ、適宜火霊を武器に憑依エンチャントさせて対応する、というのが一番だろうな)
 魔法憑依エンチャントは、武器に精霊の性質を与えるだけの魔法なので、炎や風などの現象そのものを引き起こす魔法よりも魔力の消費が少ない。その分武器を扱う者の力量が必要となってくるのが難点だが、橙の王においてそれはいらない心配だろう。
 こうして王と風の魔物の攻防が始まったのだが、橙の王の戦いは青の王や緑の王と比較すれば非常に安定しており、敵の攻撃を確実に捌いては牽制の魔法を入れる、という応酬が続いた。
 しかしその好調な戦いに、王自身が疑問を抱く。
(……どうもおかしいな。戦闘があまりにも危なげなさすぎる。手応えから判断するに、儂とこいつの力量は概ねどっこいどっこい。となると、属性上相性の悪い儂の方が劣勢になるはずなんだが、贔屓目抜きで良い勝負をしとる。……が、かと言って逃げる隙があるのかと言うと、)
 試しに規模が大きめの攻撃魔法を放った王が、それに乗じて前線からの離脱を図ってみたが、すぐさま王の背後に風の障壁が生まれ、退路を断たれてしまう。
(攻撃の手はそこまで厳しいとは言えんのに、間違っても引く隙は与えない、ときたもんだ。……こりゃあ、)
 火霊を纏わせた斧で背後の障壁を一刀両断して掻き消した王が、敵を仰いで片眉を上げる。
「……お前さん、遊んどるな?」
 悪戯っ子を叱るときのそれに似た表情で、王がそう言った。そして、それを受けた風の魔物が、一瞬きょとりと呆けたような反応を見せたあと、くつくつと笑い声を上げる。
『なんだ! もうバレてしまったのか! 折角優越感に浸らせてやろうと思ったのになぁ』
「随分と呆れたことを言う魔物だ。こんなあからさまな手抜きをされて、優越感になど浸れるものか。お前さんは、ちーっとばかし儂のことを馬鹿にしすぎだな」
『いやいや、大体の人間はこれで騙されてくれるものなのだ。強敵たる我と対等に渡り合えている優越感、安心感、その他のあらゆるプラスの感情。それが、我に遊ばれていたという事実を知ったときに、絶望へと染まる。その瞬間の魂こそが、何よりの好物なのだがなぁ』
 手抜きが少々あからさますぎたか、と悔やむように言う魔物に、王が顔を顰める。
「趣味の悪いことだ。ま、なんにせよ儂にはお前さんと遊んどる暇はないんでな。悪いが他を当たって貰うぞ」
『我が逃がすとでも?』
「お前さんの意思なんぞ知らんわい。儂が逃げたいと思ったら逃げるだけだ」
 そう言った王だったが、内心ではそう上手くはいかないだろうと思っていた。
(できれば魔力は温存したい、となると、あまり大技を連発する訳にもいかんのだが、果たしてそれで逃げられるものかどうか……。なにせやっこさん、ここまで一切本気を出していないからなぁ。どの程度まで対応されてしまうものなのか、検討もつかんわい)
 まあだからと言って何もしない訳にはいかない、と、王が斧を構える。
 だがそこで、不意に王の背筋をぞわりと何かが這い上がった。底冷えのするような酷く不快で不安を煽るそれは、恐怖感に似ている。
 しかしこれは、眼前の敵によるものではない。唐突な予感に王が僅か戸惑ったそのとき、北の方角で何か大きな力の奔流が爆発するのを王は感じた。
(あの方角は……、グランデル王か!)
 だが、力の爆発は赤の王によるものではない。これだけ離れた距離にいて尚、あれだけの禍々しさを以てその存在を知らしめるような魔法など、この世界には存在しない。
 ただならぬ事態を察した橙の王が、思わず風の魔物を見る。王の視線を受けた魔物は、歯を剥き出しにしてにんまりと笑った。
『ご愁傷様』
 そのひとことで、王は概ねの事態を察した。同時に、先程までの甘い考えの一切を捨てる。
(良くは判らんが、とかく一刻も早くグランデル王の元へ向かわにゃならんことだけは確実だ!)
 赤の王の相手は、十中八九、水に連なる何かだろう、となると、その相手と対等に渡り合えるのは、属性上橙の王しかいない。距離的にも、赤の王と一番近いのは橙の王だ。
 こうなると、最早魔力の温存など考えている場合ではない。
 すぐさまそう切り替えた王だったが、果たして威力の高い魔法を繰り出したところで、この風の魔物から逃れることができるかは甚だ疑問だ。
(近くに騎獣を待機させてはいるが、あいつは脚が速くない。風の速度を考えると、逃げ切れる気がせんのだが……)
 再び襲い来る風の攻撃をいなしながら、どうしたものか、と王が思考していると、不意に敵のそれとは異なる清涼な風が背後から吹いた。今度は何だ、と思って振り返った王の視界に、風を纏った獣が飛び込んで来る。
 緑の王の騎獣だ。
「おお! こりゃあ有難い!」
 橙の王が移動に苦しむだろうと察した緑の王が、親切心から寄越してくれたのだろう。緑の王の気配りに素直に感謝した橙の王は、これで条件は整ったと風の魔物に向き直った。
「さて、今度は儂の方から仕掛けさせて貰おうか!」
 そう言った王が、立て続けに石の槍を敵に向けて飛ばす。魔物の風で難なく弾かれたそれは、ただの囮だ。そして、槍の波状攻撃を受けた敵に生じた僅かな隙を突く形で、王が素早く詠唱を開始する。
「轟く地よ 悠久の大地よ その大いなるかいなもて 我が敵を沈黙させよ ――“天穿ちたる大地の群れトラッゲン・カルム・グロンツ”」
 魔法を発動させると同時に、魔物の下の地面が盛り上がり、巨大な岩の柱がいくつも突き上がる。頂きが鋭く尖った巨大な銛のような柱たちが、風の魔物を貫かんと空へ伸びていくが、自在に宙を蹴る魔物は、意図も簡単にそれらを全て躱していった。だが、それでも王の攻撃は止まらない。空を滑る魔物を追尾するように、地面からは次々と岩の柱が生まれ、辺り一帯の地形がどんどんと変化していく。敵に躱された柱は、それでも尚成長することをやめず、魔物がふと気づいたときには、柱たちは魔物が飛んでいる位置よりも遥か高みにまで届いていた。
 と、そこである考えに至った魔物が、慌てて軌道を変えて上空へと飛び上がろうとしたが、もう遅い。
 魔物が空を目指す最中さなか、太い岩の柱がまるで横に引き延ばされるようにして、隣接する柱と融合していく。見る見るうちに分厚い壁となって周囲を取り囲んでいったそれは、更に天頂まで延びていき、空へ逃れようと駆ける風の魔物の目の前で、その行く末を遮るようにして閉じた。
 そして、更に駄目押しと言わんばかりに、形成された巨大な大地の囲いを、新たに地面から生まれた岩々が取り囲み、一体化していく。
 そうして造られたのは、まさに巨大な壁だ。分厚い大地の塊で構成された、ちょっとやそっとの攻撃ではひびひとつ入らないほどに強固な檻である。さすがにこれを壊すとなると、風の魔物でも多少の時間はかかるだろう。
 これだけ大規模な魔法をただの時間稼ぎに使うのは贅沢な話だが、それだけしなければこの敵から逃れることはできないと判断してのことである。
 なんにせよ、攻撃と見せかけてその実囲いこそが本命だったこの魔法が通用したことに、王は内心で安堵した。ここまで上手くいったのは、相手が王を見下していたからこそだろう。
「よぉし! ではグランデル王の元へ向かってくれ!」
 風の騎獣に飛び乗った橙の王が叫ぶと、騎獣が力強く大地を蹴って宙へと躍り出た。元々橙の王が乗っていた騎獣へは特に指示を出していないが、王の行動に慣れている騎獣なら自分で判断し、緑の騎獣に遅れて後をついてくることだろう。
 ざわざわとした心地の悪い胸騒ぎは止まず、それどころか増すばかりだが、橙の王に今できるのは、急ぎ赤の王の元へと向かうことだけである。風の魔物を閉じ込めた檻がどれだけ保つかは不明だが、赤の王と合流するまではなんとか追いつかれずに済ませたいものだ、と橙の王は思った。
(いや、それよりもグランデル王か)
 これは橙の王の勘だが、恐らく赤の王が相対している相手は、自分の前に立ちはだかったあの風の魔物よりも強力な何かだ。四大国の王の中でも新参である当代赤の王の元へとその敵がぶつけられたのは、果たして偶然なのか、意図的なものなのか。どちらにせよ、王になりたての人間に負わせるには、少々荷が重すぎる。
(あの若造が、血迷ったことをしなければ良いんだが……)
 そんな僅かな危惧を抱きながら、橙の王は赤の王がいる北部へと騎獣を走らせるのであった。
 
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