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最終章 伝説の最果てで蝶が舞う
煌炎の彼方に
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大いなる竜を前に、誰もが絶望を思い、ともすれば諦めを抱いた者さえいた。
だがそんな中でも、王たちだけは未だ諦めていなかった。いや、諦めることは許されなかった、というのが正しい。
王は王であるが故に、たとえ何一つ打つ手がなくとも、その肩に背負う幾千幾万の民のために、諦める訳にはいかなかったのだ。
だが、だからと言って、人の身で何ができると言うのか。折れることを許されぬ心を抱え、王たちは思考を巡らせる。神性魔法が通用しない以上、もう為す術などないと判っていて、それでも奇跡の一手を求めて抗う。それが義務だから。それが王という生き物だから。叶わないと知って尚、願いを捨てる訳にはいかないのだと。
しかし、そんな中で唯一、本当の意味で希望を失わない男がいた。
自分ではもう竜をどうすることもできない。早ければ今すぐにでも、辺り一帯は何も残らぬ焦土と化すだろう。けれど、彼は知っている。誰もが成し得ない奇跡を成し遂げてみせる存在がいることを。人の意を越えた未知を、確固たる足取りで歩む者がいることを。
何故なら、彼はそれを一番近くで見てきた。物心ついた頃からずっと、その背中だけを追ってきた。きっと誰よりも、その存在を知り、その存在を信じている。
だから、赤の王――レクシリアは立ち上がる。最早指先ひとつを動かすのも難しいだろうその身体で、それでも地面を踏みしめ、立ち上がってみせる。
全てはその信をまっとうするために。全てはその誓いを守るために。
「……あいつが来るまで持ち堪えるのが、俺の仕事だ」
絞り出すようなその声は、もうずっと昔から決めている誓いそのもので、そして己を奮い立たせるためのものでもあった。
「……水の流れに逆らう存在」
小さく、だがはっきりと紡がれたその音に、近くにいた赤の国の騎士が驚愕の表情を浮かべる。
「赤より赤き紅蓮の覇者よ 全てを滅ぼす破壊の御手よ」
荒い呼吸に紛れるように、しかしそれでも朗々と唱えられるそれは、まさに先の詠唱の再現だ。それに気づいた騎士たちが、赤の王の名を呼んで彼を止めようとする。だが、レクシリアはその制止が耳に入らないような様子で、尚も詠唱を続けた。
この詠唱を唱えきれるかなど、レクシリアにも判らない。そも、神性魔法とは一度きりの奇跡の筈だ。一度使ってしまえば、いかに王と言えど数日はまともに動けない、そういう魔法なのだ。それを続けざまに二度など、前例があるはずもない。
仮にこれを通常の精霊魔法と同じであるとみなすのならば、詠唱の途中で魔力に相当する何かが尽きた時点で、レクシリアは絶命するのだろう。果たして神性魔法が糧としているものが何なのかは知らないが、一度使っただけでこの反動だということを鑑みれば、二度はないことなど容易に想像できる。そもそも、仮に二度目が発動できたところで、それで竜が倒せる訳でもないのだから、無意味に等しいだろう。
だがそれでも、僅かな足止めくらいにはなるかもしれない。たとえそれが瞬き一度程度の時間であったとしても、その一瞬によって無が有になるかもしれない。ならば、その可能性が残されているのであれば、それを成すのがレクシリアの役目だ。
身体は重く、立っているだけで膝が震えてきそうな有様で、しかし頭はすっきりしている、とレクシリアは思った。周囲の喧噪が随分と遠くで聞こえるようで、思いの外静かで落ち着いた心地だ。ぼやけた視界の先に見据えた竜が大きく口を開き、炎を吐き出そうとしているのが見えたが、不思議と恐怖は感じなかった。
(……竜の炎か。神性魔法でなら、一度くらいは受け切れるんだろうか)
冴えた頭で、ぼんやりとそんなことを思う。その視線の先で、竜の口から紅蓮が溢れて放たれた。それこそ視界一杯にすら収まらないほどに広範囲に渡って放たれたそれに少し遅れて、レクシリアも魔法を完成させるため、最後の一節を唇に滑らせようとした。そのときだった。
「そこまでで良いぞ、レクシィ」
唐突に背後から声が落ちてきて、そして、レクシリアの肩に、ぽんと手が置かれた。
そのぬくもりに、レクシリアが僅かに目を開く。
振り返らなくとも判る。この手を、この声を、レクシリアが間違える筈もない。
今まで何をしていたんだとか、どうやってここに来たんだとか。言いたいことは溢れるほどにあり、聞いて貰いたい話は山ほどあった。だが、レクシリアは咄嗟に開いた口を一度閉じてから、背後を見ることなく笑う。
「おせーよ、馬鹿王」
ただひと言そう言って、張り詰めていた緊張の糸が解けたように、レクシリアはその場に頽れた。
決死の覚悟で完成させようとしていた詠唱は、切り上げた。もう必要がなくなったことを知ったから。
立つことを止めたレクシリアの膝が地に着くと同時に、彼の前で噴き上がった炎が、向かい来る竜の業炎に向かって迸る。そのまま二つの炎は宙で激しくぶつかり合い、互いに互いを打ち消すように弾けて散った。
突如として竜の業火を迎え撃ったその赤に、人々は炎の生まれた場所を見た。中には神性魔法が発動したのかと思いかけた者もいたが、赤い炎は神の力によって喚び出されるそれとは異なっている。だからこそ、その正体を見極めようと、皆が一斉にそちらを見たのだ。それは王たちも例外ではなく、動ける王は魔法を、動けない王は騎獣を駆使して、彼らは誰よりも素早く炎の発生地点へと駆けつけた。
そして人々は、その姿を目にする。
溢れんばかりの神々しさを湛えた輝く炎のような男と、その傍らに寄りそうようにして立つ、黒紫の髪の少年。
「諸王方々、並びにリアンジュナイルの民よ。大変申し訳ない、随分と寝過ごしてしまったようだ」
周囲に視線を巡らせ、そう言ってすまなそうな笑みを浮かべたのは、ロステアール・クレウ・グランダだった。
かつてのくすんだ赤ではなく、輝ける炎のような鮮やかな髪の彼に、誰もが驚き、言葉を呑み込んだ。手練れであればあるほど、直視しがたい何かを彼に見たのだ。それこそ、慣れ親しんだグランデル王国の騎士たちですら、彼から滲み出る威光を前に、言葉を発することができずにいた。
だが、そんな沈黙は一瞬の後、青の王の怒声によって破られる。
「な、にが、寝過ごしたですか! 冗談は存在だけにしたらどうです!? 貴方が馬鹿のように惰眠を貪っている間、こちらがどれだけ苦労をしたことか!!」
場の空気を容赦なく壊したその声に、ロステアールは少しだけ驚いた顔をしたあとで、人好きのする笑みを浮かべた。
「おお、ミゼルティア王。神性魔法を放っても尚それだけの元気が残っているとは、さすがだな。いやしかし、この空気をどうしたものかと思っていたところだったのだが、こうも容易くぶち壊してくれるとは」
さすがはミゼルティア王、有難い限りだ、と続いた言葉に、青の王が更に激昂する。
「馬鹿にしているのですか!?」
「そんなつもりはないのだがなぁ」
困った顔でそう言ったロステアールに、青の王が更なる罵声を浴びせたが、それに対する返事は肩を竦めるだけに留め、ロステアールは空を仰いだ。
「すまんが、これ以上の問答は後回しだ。今はあのドラゴンをどうにかせねばなるまい」
そう言ったロステアールが、傍らの鏡哉を見る。
「鏡哉、お前はここで待っていなさい」
「で、でも、」
離れがたい、とでも言いたそうな鏡哉に、ロステアールが少しだけ困った顔をする。すると、不意に鏡哉の背後から伸びてきた手が、鏡哉の首根っこをむんずと掴まえた。
突然のことに驚いた鏡哉が振り返ると、そこに居たのは蘇芳だった。
「お、お師匠様!?」
なんでここに、と言いたげな弟子に、蘇芳は諸事情でなと返してから、弟子の頭をぽかりと軽く殴った。
「お前が傍にいると足手纏いなんだろうよ。駄々捏ねてないで大人しく待ってろ。おい、こいつはアタシが見といてやるから、アンタは存分に火でも何でも噴いてこい」
「これは蘇芳殿。詳細な事情は判らぬが、結局貴公のことも巻き込んでしまったのだな。その上で更に図々しいことこの上なく申し訳ない限りだが、お言葉に甘えて、鏡哉はお任せさせていただこう」
「おうよ。アタシはアタシで、アンタの実力のほどってやつを見物させて貰うさ」
こんな面白そうなものが見られるなら来たかいもある、と言った蘇芳に苦笑してから、ロステアールは一度だけ鏡哉の頭を撫で、再び空へと視線を戻した。その目が見つめる先で、竜もまた彼を見下ろす。
「貴公は、次元の裂け目で出会ったあのドラゴンだな?」
『ほう、判るのか』
「判るとも。一度出会った相手であれば私は忘れないし、そもそもいくら虚従えし嬉戯であろうと、この次元に縁のないドラゴンを喚び出すなど、干渉が過ぎる」
そう言ったロステアールに、竜が目を細める。
『己を得たか、御子よ』
竜の言葉に、ロステアールは一度目を閉じてから、ゆっくりと瞼を押し上げた。そして、竜を見据えて朗々たる声で言う。
「私の名は、ロステアール・クレウ・グランダ。グランデル王国の王族が末席にして、炎神フラメスの息子」
その言葉に、人々は幻と思われていた伝説を目にしたときのような、信じられないものを見るような目でロステアールを見た。それは鏡哉も例外ではない。ロステアールという人間の魂を見た鏡哉ですら、その正体までは知らなかったのだ。
「貴公は炎に長けた存在のようだが、聡明な竜種であれば気づいているのだろう? 炎で私を傷つけることはできん」
『それがどうした。それだけでは、俺が引く理由にはならない。お前を傷つけることができなくとも、この世界を燃やし尽くすことなど容易いのだからな!』
そう言って唸った竜が、再び炎を吐き出す。先程よりも威力を増したそれは、まさに円卓の国ひとつ程度ならば容易に呑み込んでしまうだろう規模で地上へと放たれた。だが、ロステアールの足元から噴き上がった炎が広く展開し、押し寄せる竜の炎を全て受け止める。
「この次元の生き物の罪ならば、私が頭を下げよう! それに免じて引いては貰えぬか!」
ロステアールの叫びに、しかし竜は一層怒りの籠った声で咆哮した。
『いかに御子と言えど、聞き入れられぬ提言だ! お前が頭を下げて何になる? 世界の罪は世界が支払うべきであり、この件に関してはお前の謝罪など欠片ほどの意味も持たん!』
「どうあっても、世界を滅ぼすまでは引けぬと言うか!」
『くどいぞ!』
ロステアールの言葉を遮るようにして竜が吠え、強靭な後脚で大地を抉ろうと降下してくる。炎では埒があかないと、直接地上を蹂躙しにかかったのだ。
それに対し、ロステアールが片手を挙げて竜に向かって翳した。すると、彼の全身から溢れた炎が、竜目掛けて噴き上がった。
そのまま複数に割れた炎が、竜の四肢と両翼へと纏わりつく。まるで締め上げるようにして竜を拘束した炎に、竜が低く唸った。
『道理は俺にあると知っていながら、それでも手向かうつもりか!』
「貴公の言う通り、道理は貴公にあるのだろう! だが、だからと言ってこの世界を見捨てる訳にはいかん!」
ロステアールから噴き上がる炎が、より一層激しさを増す。まさに竜を焼き尽くそうとするその炎に、竜は目を細めてロステアールを睨みつけた。
『総攬する者が、俺を殺すと言うのか!』
「この世界にとってそれが必要だと言うのならば、躊躇いはせん!」
ロステアールの声に呼応するように、竜を縛る炎の力が増し、竜は奥歯を噛み締めた。竜の強靭な鱗は、ロステアールの炎を相手にしてもなお鎧のようにその身を守っているが、それも時間の問題だ。いかに竜種であろうと、この炎を長時間受け切ることはできない。じきに鱗は焼き切れ、その内にある肉をも焦がすだろう。
これが水に属する竜であれば、まだ逃れようもあったのかもしれない。だが、竜は炎竜であるが故に、ロステアールに対する決定的な攻撃手段を持っていなかった。
炎が竜の鱗を熱し、その装甲を食い破ろうと荒れ狂う。だが、いよいよ大いなる空を泳ぐものを燃え滅ぼさんと紅蓮が膨れがった瞬間、ロステアールは唐突にその手を緩めた。
突然の彼の行動に、何の真似かと睨む竜を見て、ロステアールが口を開く。
「必要であれば、とは言ったが、今それが必要だとは思えぬのでな」
『なんだと』
馬鹿にしているのかとでも言いたげに低く唸った竜を一瞥してから、ロステアールが声を発する。
「いるのだろう、ご老人」
誰に向かって言われたのか判然としないその言葉に、しかし突如としてロステアールの目の前の空間がひしゃげたように歪む。そしてそこから、鏡哉を目覚めさせたあの老婆が現れた。
「三月ほど前に黒の国で会って以来か。ご健勝の様子、何よりだ」
微笑んでそう言ったロステアールに向かい、老婆が深々と頭を下げた。
「炎神の御子様におかれましては、ご自分の存在をお知りになられたご様子、……何よりと申し上げるべきか、残念だと申し上げるべきか」
「何より、で構わんよ」
そう言ったロステアールが、老婆を見て柔らかく目を細める。
「千里眼と呼ぶにふさわしい目は、あらゆる真実を見通すが故のもの。その身を隠すために使っていた空間魔法は、魔法ではなく境界を自在に越える力によるもの。……貴女こそ、混じり気のない、正真正銘の神の目だったのだな」
ロステアールの言葉に、老婆は顔を上げて微笑んだ。
「いかにも。月神シルファヴール様のお導きにより、この世界を見守っておりました」
「……虚従えし嬉戯に封じられた私の下へと鏡哉を送り込んだのも、貴女だな?」
確信を持って問われたそれに、しかし老婆は首を横に振った。
「送り込んでなどおりませぬよ。確かに、貴方様を目覚めさせられるのがあの坊やだけだったのは事実で、この世界のために貴方様を目覚めさせる必要があったのも事実。ですが、強制はしておりませぬ。すべてはあの坊やの意志で、儂は利害が一致した故、ほんの少しの手助けをしたまで」
「利害の一致、か。……それだけではないだろうに」
どこか可笑しそうにそう言ったロステアールを、老婆がじろりと睨む。
「察しが良すぎるのは結構ですが、くれぐれも余計なことは仰いますな。坊やを混乱させるだけですぞ」
「判っているとも。……しかし、その聞き慣れぬ敬語はどうにかして貰えんのか? ご老人にそのようにへりくだられては、どうも落ち着かん」
ロステアールの言葉に、老婆はやや呆れた顔をして彼を見た。
「そうはいきますまい。貴方様は、末席とは言え総攬する者に連なるお方。そうして目覚められた以上、我が主が一人なのです」
「……ふむ、そういうものか」
その割に老婆の態度はどうも主に対するものではないように思えたが、これで態度まで目上に対するようなそれになってしまわれては余計に居心地が悪いので、ロステアールは言及しなかった。
「……して、儂を呼んだ用向きとは? まあ、大方の察しはついておりますが」
炎に拘束された竜を見上げ、老婆が言う。それを受けて、ロステアールは頷いた。
「純血ではない鏡哉には荷が重いのだ。……任せられるだろうか」
「いかに我が種族が神の御手と言えど、独断で基幹次元同士を繋ぐことはできませぬ」
「知っているとも。だからこそ、私が必要だったのだろう? ……ロステアールの名において、私が許可をする。どうか、その力をこの世界に貸してくれ」
そう言ったロステアールをじっと見つめてから、老婆はそっと目を閉じた。
「我らは神々の導きにより次元を越えるもの。しかしながら、神々からお言葉を頂く機会はほとんどなく、それ故に己の役目についてはっきりと認識しているわけではありませぬ。……ですが、儂がこの世界に長く留まっておったのは、偏に今このときのためなのでしょう。なればこの力、出し惜しみはしますまい」
そう言った老婆に、彼女が何をするつもりなのかを悟った竜が、怒りの咆哮を上げた。だがその行動に反して、竜に抵抗する様子はない。その代わりにとでも言うように、ロステアールを見下ろした竜が吐き捨てる。
『益がなくなった以上、大人しく受け入れてやろう。だが、赦されたとは思わないことだ。もしも再びがあったならば、今度こそ容赦はせん』
未だ微かな憎悪を残した両眼で睨み据えられ、ロステアールはその視線をしっかりと受け止めたあとで、深々と頭を下げた。
「その寛大なお心に、感謝申し上げる」
その言葉を合図とするかのように、老婆の姿がみるみるうちに滲んで、不明瞭な何かへと変貌していく。まるで何者でもあって何者でもないようなその姿は、まさに鏡哉が見せたあの姿そのものだ。そんな何もかもが曖昧な中で、黒に映える金色の両眼だけが、爛々と光るようにその存在を主張している。
本性を惜しげもなく曝け出した不明瞭な姿が、大地を蹴って天を翔ける。そしてそれは、竜の正面に到達するや否や、ただ二つ明瞭な瞳をいっぱいに開いて、そこから蝶の紋様を弾けさせた。
鏡哉が放ったそれとは比べ物にならないほどの輝きを放って翔けた蝶が、宙に巨大な亀裂を生じさせる。そして、老婆だったそれは、炎に巻かれた竜を引き連れ、次元の裂け目へと身を躍らせた。
そのまま、世界の隔たりを越えるものと竜の姿が、亀裂に呑まれて彼方へと消えていく。その二つの影が完全に見えなくなると同時に、大きく開いた亀裂の端と端が流れるように合わさって閉じて、そして、まるでそんなものは最初からなかったかのように、跡形もなく消え去った。
こうして、世界を数度滅ぼしてもなお止まらないだろう脅威は、本来在るべき場所へと還っていったのだった。
だがそんな中でも、王たちだけは未だ諦めていなかった。いや、諦めることは許されなかった、というのが正しい。
王は王であるが故に、たとえ何一つ打つ手がなくとも、その肩に背負う幾千幾万の民のために、諦める訳にはいかなかったのだ。
だが、だからと言って、人の身で何ができると言うのか。折れることを許されぬ心を抱え、王たちは思考を巡らせる。神性魔法が通用しない以上、もう為す術などないと判っていて、それでも奇跡の一手を求めて抗う。それが義務だから。それが王という生き物だから。叶わないと知って尚、願いを捨てる訳にはいかないのだと。
しかし、そんな中で唯一、本当の意味で希望を失わない男がいた。
自分ではもう竜をどうすることもできない。早ければ今すぐにでも、辺り一帯は何も残らぬ焦土と化すだろう。けれど、彼は知っている。誰もが成し得ない奇跡を成し遂げてみせる存在がいることを。人の意を越えた未知を、確固たる足取りで歩む者がいることを。
何故なら、彼はそれを一番近くで見てきた。物心ついた頃からずっと、その背中だけを追ってきた。きっと誰よりも、その存在を知り、その存在を信じている。
だから、赤の王――レクシリアは立ち上がる。最早指先ひとつを動かすのも難しいだろうその身体で、それでも地面を踏みしめ、立ち上がってみせる。
全てはその信をまっとうするために。全てはその誓いを守るために。
「……あいつが来るまで持ち堪えるのが、俺の仕事だ」
絞り出すようなその声は、もうずっと昔から決めている誓いそのもので、そして己を奮い立たせるためのものでもあった。
「……水の流れに逆らう存在」
小さく、だがはっきりと紡がれたその音に、近くにいた赤の国の騎士が驚愕の表情を浮かべる。
「赤より赤き紅蓮の覇者よ 全てを滅ぼす破壊の御手よ」
荒い呼吸に紛れるように、しかしそれでも朗々と唱えられるそれは、まさに先の詠唱の再現だ。それに気づいた騎士たちが、赤の王の名を呼んで彼を止めようとする。だが、レクシリアはその制止が耳に入らないような様子で、尚も詠唱を続けた。
この詠唱を唱えきれるかなど、レクシリアにも判らない。そも、神性魔法とは一度きりの奇跡の筈だ。一度使ってしまえば、いかに王と言えど数日はまともに動けない、そういう魔法なのだ。それを続けざまに二度など、前例があるはずもない。
仮にこれを通常の精霊魔法と同じであるとみなすのならば、詠唱の途中で魔力に相当する何かが尽きた時点で、レクシリアは絶命するのだろう。果たして神性魔法が糧としているものが何なのかは知らないが、一度使っただけでこの反動だということを鑑みれば、二度はないことなど容易に想像できる。そもそも、仮に二度目が発動できたところで、それで竜が倒せる訳でもないのだから、無意味に等しいだろう。
だがそれでも、僅かな足止めくらいにはなるかもしれない。たとえそれが瞬き一度程度の時間であったとしても、その一瞬によって無が有になるかもしれない。ならば、その可能性が残されているのであれば、それを成すのがレクシリアの役目だ。
身体は重く、立っているだけで膝が震えてきそうな有様で、しかし頭はすっきりしている、とレクシリアは思った。周囲の喧噪が随分と遠くで聞こえるようで、思いの外静かで落ち着いた心地だ。ぼやけた視界の先に見据えた竜が大きく口を開き、炎を吐き出そうとしているのが見えたが、不思議と恐怖は感じなかった。
(……竜の炎か。神性魔法でなら、一度くらいは受け切れるんだろうか)
冴えた頭で、ぼんやりとそんなことを思う。その視線の先で、竜の口から紅蓮が溢れて放たれた。それこそ視界一杯にすら収まらないほどに広範囲に渡って放たれたそれに少し遅れて、レクシリアも魔法を完成させるため、最後の一節を唇に滑らせようとした。そのときだった。
「そこまでで良いぞ、レクシィ」
唐突に背後から声が落ちてきて、そして、レクシリアの肩に、ぽんと手が置かれた。
そのぬくもりに、レクシリアが僅かに目を開く。
振り返らなくとも判る。この手を、この声を、レクシリアが間違える筈もない。
今まで何をしていたんだとか、どうやってここに来たんだとか。言いたいことは溢れるほどにあり、聞いて貰いたい話は山ほどあった。だが、レクシリアは咄嗟に開いた口を一度閉じてから、背後を見ることなく笑う。
「おせーよ、馬鹿王」
ただひと言そう言って、張り詰めていた緊張の糸が解けたように、レクシリアはその場に頽れた。
決死の覚悟で完成させようとしていた詠唱は、切り上げた。もう必要がなくなったことを知ったから。
立つことを止めたレクシリアの膝が地に着くと同時に、彼の前で噴き上がった炎が、向かい来る竜の業炎に向かって迸る。そのまま二つの炎は宙で激しくぶつかり合い、互いに互いを打ち消すように弾けて散った。
突如として竜の業火を迎え撃ったその赤に、人々は炎の生まれた場所を見た。中には神性魔法が発動したのかと思いかけた者もいたが、赤い炎は神の力によって喚び出されるそれとは異なっている。だからこそ、その正体を見極めようと、皆が一斉にそちらを見たのだ。それは王たちも例外ではなく、動ける王は魔法を、動けない王は騎獣を駆使して、彼らは誰よりも素早く炎の発生地点へと駆けつけた。
そして人々は、その姿を目にする。
溢れんばかりの神々しさを湛えた輝く炎のような男と、その傍らに寄りそうようにして立つ、黒紫の髪の少年。
「諸王方々、並びにリアンジュナイルの民よ。大変申し訳ない、随分と寝過ごしてしまったようだ」
周囲に視線を巡らせ、そう言ってすまなそうな笑みを浮かべたのは、ロステアール・クレウ・グランダだった。
かつてのくすんだ赤ではなく、輝ける炎のような鮮やかな髪の彼に、誰もが驚き、言葉を呑み込んだ。手練れであればあるほど、直視しがたい何かを彼に見たのだ。それこそ、慣れ親しんだグランデル王国の騎士たちですら、彼から滲み出る威光を前に、言葉を発することができずにいた。
だが、そんな沈黙は一瞬の後、青の王の怒声によって破られる。
「な、にが、寝過ごしたですか! 冗談は存在だけにしたらどうです!? 貴方が馬鹿のように惰眠を貪っている間、こちらがどれだけ苦労をしたことか!!」
場の空気を容赦なく壊したその声に、ロステアールは少しだけ驚いた顔をしたあとで、人好きのする笑みを浮かべた。
「おお、ミゼルティア王。神性魔法を放っても尚それだけの元気が残っているとは、さすがだな。いやしかし、この空気をどうしたものかと思っていたところだったのだが、こうも容易くぶち壊してくれるとは」
さすがはミゼルティア王、有難い限りだ、と続いた言葉に、青の王が更に激昂する。
「馬鹿にしているのですか!?」
「そんなつもりはないのだがなぁ」
困った顔でそう言ったロステアールに、青の王が更なる罵声を浴びせたが、それに対する返事は肩を竦めるだけに留め、ロステアールは空を仰いだ。
「すまんが、これ以上の問答は後回しだ。今はあのドラゴンをどうにかせねばなるまい」
そう言ったロステアールが、傍らの鏡哉を見る。
「鏡哉、お前はここで待っていなさい」
「で、でも、」
離れがたい、とでも言いたそうな鏡哉に、ロステアールが少しだけ困った顔をする。すると、不意に鏡哉の背後から伸びてきた手が、鏡哉の首根っこをむんずと掴まえた。
突然のことに驚いた鏡哉が振り返ると、そこに居たのは蘇芳だった。
「お、お師匠様!?」
なんでここに、と言いたげな弟子に、蘇芳は諸事情でなと返してから、弟子の頭をぽかりと軽く殴った。
「お前が傍にいると足手纏いなんだろうよ。駄々捏ねてないで大人しく待ってろ。おい、こいつはアタシが見といてやるから、アンタは存分に火でも何でも噴いてこい」
「これは蘇芳殿。詳細な事情は判らぬが、結局貴公のことも巻き込んでしまったのだな。その上で更に図々しいことこの上なく申し訳ない限りだが、お言葉に甘えて、鏡哉はお任せさせていただこう」
「おうよ。アタシはアタシで、アンタの実力のほどってやつを見物させて貰うさ」
こんな面白そうなものが見られるなら来たかいもある、と言った蘇芳に苦笑してから、ロステアールは一度だけ鏡哉の頭を撫で、再び空へと視線を戻した。その目が見つめる先で、竜もまた彼を見下ろす。
「貴公は、次元の裂け目で出会ったあのドラゴンだな?」
『ほう、判るのか』
「判るとも。一度出会った相手であれば私は忘れないし、そもそもいくら虚従えし嬉戯であろうと、この次元に縁のないドラゴンを喚び出すなど、干渉が過ぎる」
そう言ったロステアールに、竜が目を細める。
『己を得たか、御子よ』
竜の言葉に、ロステアールは一度目を閉じてから、ゆっくりと瞼を押し上げた。そして、竜を見据えて朗々たる声で言う。
「私の名は、ロステアール・クレウ・グランダ。グランデル王国の王族が末席にして、炎神フラメスの息子」
その言葉に、人々は幻と思われていた伝説を目にしたときのような、信じられないものを見るような目でロステアールを見た。それは鏡哉も例外ではない。ロステアールという人間の魂を見た鏡哉ですら、その正体までは知らなかったのだ。
「貴公は炎に長けた存在のようだが、聡明な竜種であれば気づいているのだろう? 炎で私を傷つけることはできん」
『それがどうした。それだけでは、俺が引く理由にはならない。お前を傷つけることができなくとも、この世界を燃やし尽くすことなど容易いのだからな!』
そう言って唸った竜が、再び炎を吐き出す。先程よりも威力を増したそれは、まさに円卓の国ひとつ程度ならば容易に呑み込んでしまうだろう規模で地上へと放たれた。だが、ロステアールの足元から噴き上がった炎が広く展開し、押し寄せる竜の炎を全て受け止める。
「この次元の生き物の罪ならば、私が頭を下げよう! それに免じて引いては貰えぬか!」
ロステアールの叫びに、しかし竜は一層怒りの籠った声で咆哮した。
『いかに御子と言えど、聞き入れられぬ提言だ! お前が頭を下げて何になる? 世界の罪は世界が支払うべきであり、この件に関してはお前の謝罪など欠片ほどの意味も持たん!』
「どうあっても、世界を滅ぼすまでは引けぬと言うか!」
『くどいぞ!』
ロステアールの言葉を遮るようにして竜が吠え、強靭な後脚で大地を抉ろうと降下してくる。炎では埒があかないと、直接地上を蹂躙しにかかったのだ。
それに対し、ロステアールが片手を挙げて竜に向かって翳した。すると、彼の全身から溢れた炎が、竜目掛けて噴き上がった。
そのまま複数に割れた炎が、竜の四肢と両翼へと纏わりつく。まるで締め上げるようにして竜を拘束した炎に、竜が低く唸った。
『道理は俺にあると知っていながら、それでも手向かうつもりか!』
「貴公の言う通り、道理は貴公にあるのだろう! だが、だからと言ってこの世界を見捨てる訳にはいかん!」
ロステアールから噴き上がる炎が、より一層激しさを増す。まさに竜を焼き尽くそうとするその炎に、竜は目を細めてロステアールを睨みつけた。
『総攬する者が、俺を殺すと言うのか!』
「この世界にとってそれが必要だと言うのならば、躊躇いはせん!」
ロステアールの声に呼応するように、竜を縛る炎の力が増し、竜は奥歯を噛み締めた。竜の強靭な鱗は、ロステアールの炎を相手にしてもなお鎧のようにその身を守っているが、それも時間の問題だ。いかに竜種であろうと、この炎を長時間受け切ることはできない。じきに鱗は焼き切れ、その内にある肉をも焦がすだろう。
これが水に属する竜であれば、まだ逃れようもあったのかもしれない。だが、竜は炎竜であるが故に、ロステアールに対する決定的な攻撃手段を持っていなかった。
炎が竜の鱗を熱し、その装甲を食い破ろうと荒れ狂う。だが、いよいよ大いなる空を泳ぐものを燃え滅ぼさんと紅蓮が膨れがった瞬間、ロステアールは唐突にその手を緩めた。
突然の彼の行動に、何の真似かと睨む竜を見て、ロステアールが口を開く。
「必要であれば、とは言ったが、今それが必要だとは思えぬのでな」
『なんだと』
馬鹿にしているのかとでも言いたげに低く唸った竜を一瞥してから、ロステアールが声を発する。
「いるのだろう、ご老人」
誰に向かって言われたのか判然としないその言葉に、しかし突如としてロステアールの目の前の空間がひしゃげたように歪む。そしてそこから、鏡哉を目覚めさせたあの老婆が現れた。
「三月ほど前に黒の国で会って以来か。ご健勝の様子、何よりだ」
微笑んでそう言ったロステアールに向かい、老婆が深々と頭を下げた。
「炎神の御子様におかれましては、ご自分の存在をお知りになられたご様子、……何よりと申し上げるべきか、残念だと申し上げるべきか」
「何より、で構わんよ」
そう言ったロステアールが、老婆を見て柔らかく目を細める。
「千里眼と呼ぶにふさわしい目は、あらゆる真実を見通すが故のもの。その身を隠すために使っていた空間魔法は、魔法ではなく境界を自在に越える力によるもの。……貴女こそ、混じり気のない、正真正銘の神の目だったのだな」
ロステアールの言葉に、老婆は顔を上げて微笑んだ。
「いかにも。月神シルファヴール様のお導きにより、この世界を見守っておりました」
「……虚従えし嬉戯に封じられた私の下へと鏡哉を送り込んだのも、貴女だな?」
確信を持って問われたそれに、しかし老婆は首を横に振った。
「送り込んでなどおりませぬよ。確かに、貴方様を目覚めさせられるのがあの坊やだけだったのは事実で、この世界のために貴方様を目覚めさせる必要があったのも事実。ですが、強制はしておりませぬ。すべてはあの坊やの意志で、儂は利害が一致した故、ほんの少しの手助けをしたまで」
「利害の一致、か。……それだけではないだろうに」
どこか可笑しそうにそう言ったロステアールを、老婆がじろりと睨む。
「察しが良すぎるのは結構ですが、くれぐれも余計なことは仰いますな。坊やを混乱させるだけですぞ」
「判っているとも。……しかし、その聞き慣れぬ敬語はどうにかして貰えんのか? ご老人にそのようにへりくだられては、どうも落ち着かん」
ロステアールの言葉に、老婆はやや呆れた顔をして彼を見た。
「そうはいきますまい。貴方様は、末席とは言え総攬する者に連なるお方。そうして目覚められた以上、我が主が一人なのです」
「……ふむ、そういうものか」
その割に老婆の態度はどうも主に対するものではないように思えたが、これで態度まで目上に対するようなそれになってしまわれては余計に居心地が悪いので、ロステアールは言及しなかった。
「……して、儂を呼んだ用向きとは? まあ、大方の察しはついておりますが」
炎に拘束された竜を見上げ、老婆が言う。それを受けて、ロステアールは頷いた。
「純血ではない鏡哉には荷が重いのだ。……任せられるだろうか」
「いかに我が種族が神の御手と言えど、独断で基幹次元同士を繋ぐことはできませぬ」
「知っているとも。だからこそ、私が必要だったのだろう? ……ロステアールの名において、私が許可をする。どうか、その力をこの世界に貸してくれ」
そう言ったロステアールをじっと見つめてから、老婆はそっと目を閉じた。
「我らは神々の導きにより次元を越えるもの。しかしながら、神々からお言葉を頂く機会はほとんどなく、それ故に己の役目についてはっきりと認識しているわけではありませぬ。……ですが、儂がこの世界に長く留まっておったのは、偏に今このときのためなのでしょう。なればこの力、出し惜しみはしますまい」
そう言った老婆に、彼女が何をするつもりなのかを悟った竜が、怒りの咆哮を上げた。だがその行動に反して、竜に抵抗する様子はない。その代わりにとでも言うように、ロステアールを見下ろした竜が吐き捨てる。
『益がなくなった以上、大人しく受け入れてやろう。だが、赦されたとは思わないことだ。もしも再びがあったならば、今度こそ容赦はせん』
未だ微かな憎悪を残した両眼で睨み据えられ、ロステアールはその視線をしっかりと受け止めたあとで、深々と頭を下げた。
「その寛大なお心に、感謝申し上げる」
その言葉を合図とするかのように、老婆の姿がみるみるうちに滲んで、不明瞭な何かへと変貌していく。まるで何者でもあって何者でもないようなその姿は、まさに鏡哉が見せたあの姿そのものだ。そんな何もかもが曖昧な中で、黒に映える金色の両眼だけが、爛々と光るようにその存在を主張している。
本性を惜しげもなく曝け出した不明瞭な姿が、大地を蹴って天を翔ける。そしてそれは、竜の正面に到達するや否や、ただ二つ明瞭な瞳をいっぱいに開いて、そこから蝶の紋様を弾けさせた。
鏡哉が放ったそれとは比べ物にならないほどの輝きを放って翔けた蝶が、宙に巨大な亀裂を生じさせる。そして、老婆だったそれは、炎に巻かれた竜を引き連れ、次元の裂け目へと身を躍らせた。
そのまま、世界の隔たりを越えるものと竜の姿が、亀裂に呑まれて彼方へと消えていく。その二つの影が完全に見えなくなると同時に、大きく開いた亀裂の端と端が流れるように合わさって閉じて、そして、まるでそんなものは最初からなかったかのように、跡形もなく消え去った。
こうして、世界を数度滅ぼしてもなお止まらないだろう脅威は、本来在るべき場所へと還っていったのだった。
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