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最終章 伝説の最果てで蝶が舞う
煌炎の彼方に 2
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竜が消え、再び戻った静寂のなか、その身に炎を纏ったロステアールが、ひとつ息を吐いて振り返る。その目に映るのは、リアンジュナイルの民たちだ。何が起こったのか判らないという顔をした者もいれば、何かを察したのだろう者もいたが、皆等しく、出すべき言葉を探しているようだった。
人々を見やるロステアールに、誰も何も言えないままでいる。レクシリアですら、何故か複雑そうな顔をしてロステアールを見つめるだけだった。
だが、そんな空気を厭ってか、それとも皆の代わりに確認してやろうという善意からか、一人何にも属さない蘇芳が、ロステアールに向かって口を開いた。
「……で、ドラゴンはありゃあ、本物のエインストラが元の世界に連れて帰した、って認識で良いのか?」
臆することなく、いつも通りの声でそう問うてきた蘇芳に、少しだけ驚いた顔をしたロステアールは、次いでどこか嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。
「ああ。あのドラゴンは聞き分けが良かったので、大事にならずに済んだ」
「聞き分けねぇ」
そんなに良さそうには見えなかったが、と言いたげな蘇芳に、ロステアールが苦笑する。
「いや、ドラゴンという種にしては非常に珍しく、随分とこちらに譲ってくれる相手だったのだ。彼にとっては、この世界に召喚されたこと自体も怒りの対象だったのだろうが、それよりも恐らく、元の世界に帰る算段がないことの方がより問題だったのだ。故に、帰る算段がついたということで、渋々ながらも些末事には目を瞑ってくれた、というのが、概ね正しい認識だろう。これが頑固な相手であったならば、あのまま正真正銘の正面戦闘に陥っていた」
「へぇ。しかし、アンタの余裕そうな様子を見るに、そうなったところでどうにかできたんだろう?」
「…………さて、それはどうだろう。持久戦に持ち込まれれば、先に尽きていたのは間違いなく私の方だからな」
そう言ったロステアールは、炎が揺れる自身の手を見つめてから、顔を上げて改めて周囲に視線を巡らせた。
「大きな脅威が去った以上、もう何の心配もいらないとは思うが、もののついでだ。……個々をそれぞれの次元に還すのは過干渉になる故、すまないな」
ロステアールがそう呟くと同時に、生き残っていた魔物たちが一斉に炎に包まれる。その身を焼き尽くす炎に、だが魔物たちは不思議と苦痛の声を上げることなく、どこか安らかにも見える様子で灰と化していった。
これでもう、この世界に残った異世界の魔物はいない筈だ。そしてウロが消えた今、帝国にリアンジュナイルを脅かすほどの魔導召喚を成す術もないだろう。
燃えゆく魔物が灰となって風に流れるのを見送ってから、ロステアールは改めてリアンジュナイルの民たちに目を向けた。そしてその中にいる、慣れ親しんだ赤の国の民たちを一人一人確認するように見て、彼は知らず微笑みを浮かべる。
間に合って良かった。守ることができて良かった。そんな思いたちが、ひたひたと彼の胸を埋めていく。それは初めての感覚で、同時に随分と懐かしいもののようにも思えた。
「……蘇芳殿」
呼ばれた蘇芳が、首を傾げて応える。そんな彼女に向かい、ロステアールは軽く頭を下げた。
「どこにも属さぬ自由の身でありながら、円卓のためにご助力いただいたこと、心よりお礼申し上げる」
「おー、まあ気にすんな。話の流れってやつさ」
「そしてできれば、今後も円卓に脅威が迫った際には、どうか力添えをいただけると有難い」
「……ま、気が向いたらな」
まんざらでもなさそうな蘇芳の返答に笑ったロステアールは、次いで白の王を見た。
「フローライン王、レクシィのこと、感謝してもし足りない。私の言葉にどれだけの意味があるのかは判らぬが、それでも少しでも貴公の荷が軽くなるのであれば、……私は貴女のすべてを赦そう」
その言葉に、僅かに息を呑んだ白の王が、目を閉じ、深く頭を下げる。
「炎神の御子のお言葉、確かに賜りました。…………ありがとうございます、ロステアール様」
そっと顔を上げて微笑んだ白の王に笑みを返してから、ロステアールは緑の王へと視線を向けた。
「カスィーミレウ王、今まで色々と世話になった。北方と南方では物の考え方が違う故、なかなか仲良く手を取り合ってという訳にはいかぬが、貴公が冷静に間を取り持ってくれて、とても助かっていた。この場所に軍を至らせるのに尽力してくれたミレニクター王とネオネグニオ王にも、どうかよろしく伝えてくれ」
「別に取り持ちたくて取り持っていたのではなく、そうでもしないと話が進まないことが多いから、仕方なくやっていただけですわ。……けれど、感謝の言葉は素直に受け取りましょう。ミレニクター王もネオネグニオ王も、事の顛末を知ったら驚きそうですわね」
そう言って少しだけ面白そうに笑った緑の王に小さく頭を下げてから、ロステアールは次いで青の王へと顔を向けた。
「ミゼルティア王、貴公とは衝突ばかりしていたな。今までは立場上声を大にして言うことができなかったが、貴公の血統主義の考え方は間違いなく正しいと私は思っている。魔法の素養に血が強く関わってくる以上、王にとって血統とは重んじて然るべきものだ。故に、貴公が王として庶子の私を嫌うのは、至極当然のことだろう」
ロステアールの言葉に、青の王は心底嫌そうに顔を顰めた。
「相変わらず腹立たしいことを言いますね。血統で言うならば神の血が混じっている己こそが至上であると、素直にそう言ったらどうなんです?」
「いや、そんなつもりはなかったのだが……。そもそもがして、それこそ私は純血からはほど遠い雑種な訳であるのだし……」
「嫌味にしか聞こえませんが」
「本当にそんなつもりはないのだがなぁ。……しかし、貴公がそう考えているのであれば、私はとうとう貴公にも血筋で認めて貰える、ということだろうか?」
首を傾げたロステアールに、青の王がこれ以上ないほどに嫌悪感に満ちた表情を浮かべた。
「誰が認めるものですか!!」
思わずといった風に叫んだ青の王に、ロステアールが声を上げて笑う。
「ははははは、貴公は変わらないなぁ。今となっては、その変化のなさが心地良い。……これまで私に正面からぶつかり続けてくれたこと、感謝する」
そう言って微笑んだロステアールに、やはり青の王はものすごい顔をして口を開きかけたが、自分を見返すロステアールの表情を見て、舌打ちをしてから口を閉じた。
どこまでいっても自分への嫌悪感を丸出しにする青の王に笑ってから、ロステアールは今度は薄紅の王へと視線をやった。
「ランファ王、貴公には多大なご迷惑をお掛けした。折角かけていただいた最高峰の幻惑魔法を自ら破り、このような状況になるまで戦場にやってくることすらできなかったこと、大変申し訳なかったと思っている」
「あらん、随分と殊勝なこと。本来であれば、貴方のような可もなく不可もない凡百のお顔にかける情けはないのだけれど、……いいわ、今回はその美しい髪と目に免じて、特別に許してあげる」
目を細めて笑んだ薄紅の王に、ロステアールは感謝すると言って目礼してから、何かを探すように視線を巡らせ、そして、騎獣に背を預けて座り込んでいる橙の王に目を止めた。
「ライオテッド王、意識を取り戻したご様子、何よりだ」
「いやぁ、なんとかな。と言っても、目が覚めたときにはドラゴンが向かって来ておるわ、だからといって何をする余力もないわで、何の役にも立てずだ」
肩を竦めた橙の王に、ロステアールが真顔で首を横に振る。
「何を仰るか。貴公が倒したあれは、唯一ウロの直属の配下。言うなれば、神のひと欠片に等しい。あれを前に後れを取らず、それどころか反撃の隙すら与えずに滅したのは、間違いなく貴公の技量だ。そしてその結果がなければ、戦況は大きく不利なものとなっていた」
「と言われてもなぁ。ありゃあ儂の技量というよりも、地神エアルスの技量なんじゃないのか?」
その言葉に、ロステアールは一度言葉を止め、少しの間だけ考えるような素振りを見せたあとで、声を潜めるようにして言う。
「……言って良いものかどうか判らんのだが、神性魔法にも一応技量や才覚が関わってくる」
隠し事のように言われたそれに、橙の王は驚いた顔をしてロステアールを見た。
「お前さん……、それは言ってしまって良いのか?」
神性魔法は正体も原理もいまいちはっきりしない、いわば未知と言っても過言ではない魔法だ。その未知に僅かでも知を与えるような真似をして大丈夫なのかと、そう心配をする橙の王に、ロステアールは少しだけ困った顔をした。
「先も言った通り、良いのか悪いのかはよく判らん。……が、まあ、私が言いたくなってしまったのだから、仕方がない」
そう言って肩を竦めたロステアールに、橙の王はぱちぱちと瞬きをしたあとで、豪快な笑い声を上げた。
それを耳に受けながら、ロステアールが黄の王へと視線を移す。
「クラリオ王、貴公にはリィンスタット王国への滞在中も含め、非常に世話になった。加えて、帝都征伐において軍の多くを率い、大局を見極め尽力してくれたこと、礼を言わせてくれ」
「やめろって水臭い。というか男に感謝されても嬉しくないしな。しっかし、最後の最後でおいしいところ持ってくんだから、さすがはあんたって感じだよ」
「ははは、私としてはそんなつもりはないのだが、結果的にそうなってしまったか」
「そのつもりもなく、って辺りが余計にアレってな」
笑う黄の王にロステアールもまた笑顔を浮かべてから、今度は斜め後ろの方へと振り返った。
「いるのだろう、ヴェールゴール王」
その言葉に、兵たちの間から黒の王がひょっこりと顔を出す。
「別に隠れてたわけじゃないよ。なんか出るタイミング失っただけ」
「判っているとも。……貴公には最も過酷な仕事をさせてしまったな。身体の方は大丈夫か?」
少しだけ表情を曇らせて言ったロステアールに、黒の王は相変わらずの無表情で首を横に振る。
「ヴェルを長時間憑依させすぎた。その上、俺も一応ドラゴンどうにかする努力した方が良いかなって思って、更に無茶してここまで駆け付けちゃったから、全身ガタガタ。一応なんとか普通の人程度には動けるけど、これ完全に回復するまで一年はかかるんじゃないかな」
「それは、……いや、本当に申し訳が立たん」
「本当だよ。この際ウロのことは良いけど、ドラゴンはあんたがどうにかする手筈だったんなら、最初からそう言ってくれない? 急いでここに来たの、完全に無駄足なんだけど」
容赦なく責めてくる黒の王に、ロステアールが苦笑する。
「いや、私自身、自分でどうにかできるとは思っていなかったのでな。どうかご容赦願いたい」
「神様だかなんだか知らないけど、相変わらずポンコツだなぁ」
呆れたように言った黒の王に、ロステアールがもう一度謝罪の言葉を述べる。だが、黒の王はそれに対し、鬱陶しそうに片手を振った。
「いいよもう。本当はさっきあっちで言われた意味判んないことの意味とかも訊きたかったんだけど、あんた時間なさそうだし」
「……判るものか?」
「俺を誰だと思ってんの? 黒の王だよ?」
そういうことには誰よりも聡い、と、黒の王の目が言っている。それを受けて、一度目を閉じたロステアールは、小さく頭を下げた。伝わったかどうかは判らないが、時間を譲ってくれたことへの感謝のつもりだった。
そして再び、ロステアールの顔が前方へと戻される。その視線が今度向かった先にいたのは、金の王だった。
「ギルヴィス王」
「……はい」
今にも泣き出しそうなのを必死に堪えているような顔で、それでも金の王はしっかりと返事をした。
「貴公にはもう、私の後ろ盾など必要ないな?」
優しい声が、金の王の耳を撫でる。その言葉に込められた意味を理解した金の王の胸を、これ以上ないほどの歓喜と悲しみが満たした。
「っ、ロステアール王、」
思わずといった風に零れたその呟きに、ロステアールが笑った。
「こらこら、私はもう王ではないのだ」
まるで金の王の次の言葉をやんわりと制止するようにそう言ったロステアールが、幼い王を見つめて微笑みを浮かべる。
「事の顛末も含め、エルキディタータリエンデ王によろしく伝えてくれ。在位中は随分と迷惑ばかり掛けてしまったが、あの御仁が私への抑止力として目を光らせていてくれたからこそ、私は安心して好き勝手をすることができた」
そう言うロステアールに対し、言いたいことは山ほどあった。告げるべき言葉たちだって、溢れるほどにある筈だった。だが、金の王が思うそれらはきっと、もう全部ロステアールに伝わっているのだろう。
故に、幼い王は口に残る全ての言葉を呑み込んだ。そして、ロステアールがくれた言葉を大切に大切に受け取り、しっかりと頷きを返す。円卓の総括たる銀の王への言伝をわざわざ自分に預けてくれた彼に、恥じぬようにと。
「必ず、お伝えします」
真剣な眼差しで言った金の王にもう一度笑みを返してから、ロステアールはぐるりと周囲を見渡した。そして、赤を胸に抱く民を思いながら、大きく口を開ける。
「誇り高きグランデルの騎士たちよ!」
びりりと響いた声に、赤の騎士たちが反射的に姿勢を正した。
「八年余りという短い間だったが、よく私に仕えてくれた。貴公ら一人一人が私の誇りだ。これより先も、鍛錬に励み、己を磨き、私が愛した国を守り続けてくれ」
響き渡るその声に、騎士たちは一斉に膝をついた。そして、炎を纏うかつての王へと、深々と頭を垂れる。彼はもう王ではなかったが、それでも騎士たちにとって彼は、今も尚心からの忠誠を誓うに値する君主だった。
そんなかつての臣下を見て、ロステアールの目がゆるりと細められる。そして彼は一度目を閉じたあと、傍らに座る男を見た。
「……レクシィ」
呼ばれ、俯いていたレクシリアの顔が、ゆっくりと上げられる。その表情に、ロステアールは困ったような笑みを浮かべた。
「そんな顔をするな」
「……どんな顔だよ」
「歓喜と悲嘆と幸福と寂寞と期待と不安と、そういったものがない交ぜになっているような、複雑な顔だな」
真面目に答えを返したロステアールに、レクシリアは一瞬何とも言えない顔をして、そして、ぽつりと言葉を落とした。
「…………いくのか」
短い問いに、ロステアールは一度瞬きをしてから、静かに頷く。
「ああ」
自分を見下ろすロステアールを、レクシリアが見上げる。ロステアールの表情に宿るものを見た彼は、暫く何かを悩むように口を引き結んで、そして、笑おうとして失敗したような変な笑みを浮かべた。
「……良かったな」
「……ああ」
「全部もう、ちゃんと、自分で判るようになったんだな」
「……ああ。お前が教えてくれた全てを、実感を伴って理解することができるようになった」
その言葉に、レクシリアが息を吐く。そして彼は、自分を見つめる金の瞳から目を逸らすようにして、ロステアールが纏う炎を見た。
「……その炎、自分でも消せないんだろ」
「判るのか?」
「お前の顔見てりゃ判る。なにせもう、作り物じゃないみたいだからな」
言われ、ロステアールは炎に包まれている己の手を見た。
「……私は、人の身に憑いた母と人である父の間に生まれたのだ。故に、魂こそ炎神の血を引いてはいるものの、肉体の方は純然たる人間のものでな。だからこそ、私はずっと己の魂を封印し、同時にこの感情も封じ込めてきた。この肉体では神の魂には耐えきれず、感情の起伏で魂が揺れれば、そのまま力が溢れて己の身を滅ぼしてしまうと、そう知っていたから」
「でも今は、封印が解かれたんだな。その結果が、その炎なんだろ」
「……ああ。心を知り、今まで出会った数多のものに、私は本当の思いを抱いてしまった。震えた心は魂を揺らし、直にこの肉体を焼き滅ぼすだろう」
ロステアールの声に、変化はない。常と変わらない、静かで穏やかな音色を奏でている。そんな彼に、レクシリアは口を開きかけて、しかし一度その口を閉じてから、改めてロステアールを見た。
「良かったな、ロスト」
もう一度、レクシリアがそう言う。先ほどのそれとは違い、今度はその言葉に揺れが滲むことはなかった。
そして、これで話は終わりだとでも言うように、レクシリアがロステアールから視線を逸らそうとする。だが、それを咎めるように、ロステアールが口を開いた。
「レクシィ」
落ち着いた、けれど強い声が、レクシリアを呼ぶ。その声に引かれるようにして、レクシリアは再びロステアールを見た。その視線の先で、一度瞬いたロステアールが、次いで思わず滲み出てしまったかのような、そんな自然さで、淡い陽光にも似た笑みを浮かべた。そしてその唇が、レクシリアに向かって開かれる。
「ありがとう、レクシィ。お前がいたから、私は人として生きることができた。お前がいたから、私はここまで来ることができた。お前がいたから、私は心から愛する存在に出会えた」
その言葉に、レクシリアが息を呑む。
「きっとそれは、私が思っている以上に険しい道だろう。人はどうしても比較することをやめられない。お前はそれに苦しみ、悩むこともあるのだろう。……だが、それでも私はお前が良い。お前だからこそ、安心して任せることができる」
そう言ったロステアールが、両手をレクシリアに向かって差し出す。すると、ロステアールを覆う炎の一部がその手の上に集まり、輝ける王冠を象った。
「レクシリア・グラ・ロンター、先代グランデル王として、今ここで正式に貴公に国を託す。……だから簒奪などと言ってくれるな、親友よ」
柔らかな笑みと共に落とされたその言葉に、レクシリアは大きく目を見開いた。
ずっと望み、求め続け、けれど決して叶うことがないと、そう知っていた。それが今、こうして目の前にある。
レクシリアの視界が滲み、歪んでいく。そのまま耐え切れずに零れ落ちそうになったそれを隠すように、レクシリアは頭を垂れた。
「謹んで、お受けする」
誓いを立てるように言ったその頭に、ロステアールが炎の王冠を乗せる。淡い金の髪に触れても不思議と髪を焼くことのない炎を戴いたレクシリアは、そっと顔を上げて小さく笑った。
「大仰がすぎるんじゃねぇのか?」
「私の後を任せるのだぞ。これでも足りぬくらいだ」
ロステアールの言葉に数度瞬きをしたレクシリアが、心配性だな、と笑う。そんな彼の頭上で、炎の王冠が瞬くように数度輝き、そして、まるで幻が消えるときにも似た穏やかさで、ゆるりと掻き消えていった。
それを見送ってから、ロステアールがひとつ息を吐く。そして、友の視線に促されるようにして、その顔がたった一人へと向けられた。
「鏡哉」
自分を呼ぶその声に、鏡哉はロステアールの下へと駆け寄りたい衝動に駆られた。だが、ロステアールの視線が、声が、表情が、それを許さない。そしてその意図を汲んだように、蘇芳が鏡哉の両肩を強く掴んだ。
「鏡哉。私のせいで、お前には随分とつらい思いをさせてしまった。本当にすまない」
「っ、そんなこと、……だって、僕は、貴方がいたから、貴方が、愛してくれたから、」
そうだ。彼がいたからこそ、鏡哉は幸福を知ることができた。だから、彼が謝ることなんて何もない。
そう言いたかった。そう言って、炎に包まれる彼に駆け寄って抱き締めたかった。けれど、ロステアールのすべてが、それを拒んでいる。あんなにも全部を受け入れてきてくれた彼が、初めて鏡哉を拒んでいる。
「神の目であることが知られてしまったとなると、少しばかり過ごしにくい思いをするかもしれないが、その辺りは諸王方々が対応してくれるだろう。幸いなことに、お前の素性を知っているのは各国の中枢や軍部のみだ。きっとそれ以上に広がることはない」
「…………貴方」
「お前の慣れ親しんだ家に帰るのも良いし、他の国に滞在してみるのも良いだろう。どの国も、お前の来訪を拒むことはあるまい。円卓の十二国はそれぞれに個性のある環境をしているからなぁ。刺青のデザインの参考になるものに出会う機会も、きっと少なくはない筈だ」
「……貴方」
「本格的に魔術を学んでみるのも悪くないかもしれないな。その場合は、グレイやギルヴィス王が助力してくれるだろう。興味があるなら、落ち着いた頃にでも頼んでみると良い」
「貴方!」
これまでに出したこともないような大きな声が、鏡哉の口から吐き出され、ロステアールは口を閉じた。そして、少し離れた場所から自分を見つめる鏡哉を見る。
「どうした、鏡哉」
名を呼ぶその声はこの上なく優しい色をしているのに、それでも押し出される拒絶に、鏡哉は一度怯み、しかし目を逸らすことなくロステアールを見続けた。
「……そっちに、行っても良い?」
肩を掴む蘇芳の手に力が籠ったが、鏡哉はそれを無視して一歩を踏み出そうとした。だが、その脚が動く前に、ロステアールの声がそれを止める。
「駄目だ」
静かな言葉は、これまで以上に明確な拒絶を示している。
「……どうして?」
「この燃え上がる炎が、お前を巻き込まないとは言い切れない。だから、そこに居てくれ」
「……僕が、貴方の傍に居たいのに?」
その問いに、ロステアールは困ったような、それでいて僅かな喜色が滲む微笑みを浮かべた。
「お前がそう思ってくれることはとても嬉しい。だが、どうかそこを動かないでくれ。そう長い時間ではない。私は直に燃え尽きるだろうから、それまでの間だけだ」
判るな、鏡哉、と、まるで子供に言い聞かせるように、ロステアールが言う。本当に、鏡哉が理解できると信じているような口振りだ。実際彼は、鏡哉が聞き分けられると思っているのだろう。鏡哉は自我を主張するようなことはしない。誰かの期待をわざわざ裏切るような度胸もない。相手が最愛ともなれば、尚更だ。そうあれと望まれたならば、きっとその通りになるよう努めるだろう。
だが、
俯いた鏡哉が、拳を握る。そして彼は、両の腕を思いっきり動かして、肩を掴む蘇芳の手を振り払った。そしてそのまま、驚いた表情を浮かべているロステアールの下へと駆ける。
「鏡、」
自分の名を呼ぶ声を遮るようにして、鏡哉はロステアールへと手を伸ばした。そして、その勢いのままに彼の胸へと飛び込む。全身で触れた彼の炎は、不思議と熱くはなかった。
思わずといった風に鏡哉を受け止めたロステアールは、やはり驚きを隠せない表情のまま黒紫の髪を見つめたあと、恨めしそうな顔をして蘇芳へと目をやった。
そんなロステアールの視線を受けて、蘇芳が肩を竦める。
「そりゃあ、つい最近知り合ったばかりのアンタの頼みより、愛弟子の願いを聞いてやりたくなるってもんだろ?」
そう言って笑った蘇芳に少しだけ顔を顰めてから、ロステアールは思いの外強い力でしがみついてくる鏡哉を見下ろした。
「……お前はもっと、聞き分けの良い子だと思っていたのだがな」
責めるでもなく、ただ困った色を隠すことのない声がそう言えば、そっと顔を上げた鏡哉がロステアールを見た。
「貴方が相手なのに、聞き分けなきゃ駄目なの?」
迷いなくはっきりと紡がれたそれは、これ以上ないほどに無垢な気持ちそのものだ。
自分の最愛だから、そして貴方の最愛であるからこそ、聞き分けたりなどしない。しなくて良いのだと、その互い違いの目が言っている。
自分を見つめる鏡哉に、ロステアールが瞬きをする。そして彼は、やはり困った顔のまま、しかし愛情に満ちた微笑みを浮かべた。
「いいや」
大きな手が、鏡哉の頭を撫でる。優しく慰撫するようなそれに、鏡哉はもう怯えたりはしなかった。
「……生き物である以上、生きてこそだと思うのだ。その生を穏やかにまっとうすることこそ、最上の幸福だと」
零されたロステアールの言葉は、疑いようもなく本心なのだろう。だが、鏡哉は首を横に振った。
「違うよ、貴方。幸せの在り方は、人それぞれなんだ。貴方と出会ってから沢山のものを見てきて、僕はそれを知った。だからね、僕の幸せはそうじゃない」
そっと身体を離した鏡哉が、炎に包まれるロステアールの手に触れる。
「……置いていかないで。ひとりぼっちは嫌だよ、貴方」
縋るような声に、ロステアールが小さく息を呑む。
それは、数多を知り、数多に出会った鏡哉が、それでも得た答えだ。だからこそ、こんなにもロステアールの心を震わせ、魂を揺さぶる。
一際激しさを増した炎が、ロステアールの身体中から溢れて零れる。最早留めることすらできなくなったそれをそのままに、ロステアールは鏡哉を見つめた。
「…………お前は、それで良いのか?」
優しい声が、柔らかく鏡哉の耳を撫でる。その問いに、鏡哉は微笑んだ。
「それが、良いんだよ」
静かに落とされた言葉に、ロステアールが鏡哉の手を握り返した。そして、それを合図とするように、膨れ上がった炎が二人を包み込む。
視界一杯が炎の赤に埋め尽くされて、その中でただ一人、ロステアールだけが鏡哉を見つめている。身を焦がすような熱ではなく、ただ心地の良い温かさだけを感じさせる炎に、まるでロステアールの全部で抱き締められているようだ、と鏡哉は思った。
何もかもを焼き尽くす紅蓮に呑まれ、身体が端から崩れて、灰となったそれすらも焼かれて消えていく。己が無へと還っていく。
だが、そんなことはどうでも良かった。鏡哉にとっては、吐息が感じられるほどに近くにある炎の双眸が至高の愛を湛えていることだけが、すべてだった。
自分を見つめる金色のそれから目を逸らさず、しっかりと見つめ返して、そして、鏡哉は蕩けて滲むような極上の微笑みを浮かべる。
「…………あなた、きれい」
「……ああ、私もお前を愛しているよ」
たった一人にだけ送る、これ以上ないほどの想いを籠めて落とされた囁きたちは、正しくその一人へと届き、そして、炎に巻かれて消えていった。
人々を見やるロステアールに、誰も何も言えないままでいる。レクシリアですら、何故か複雑そうな顔をしてロステアールを見つめるだけだった。
だが、そんな空気を厭ってか、それとも皆の代わりに確認してやろうという善意からか、一人何にも属さない蘇芳が、ロステアールに向かって口を開いた。
「……で、ドラゴンはありゃあ、本物のエインストラが元の世界に連れて帰した、って認識で良いのか?」
臆することなく、いつも通りの声でそう問うてきた蘇芳に、少しだけ驚いた顔をしたロステアールは、次いでどこか嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。
「ああ。あのドラゴンは聞き分けが良かったので、大事にならずに済んだ」
「聞き分けねぇ」
そんなに良さそうには見えなかったが、と言いたげな蘇芳に、ロステアールが苦笑する。
「いや、ドラゴンという種にしては非常に珍しく、随分とこちらに譲ってくれる相手だったのだ。彼にとっては、この世界に召喚されたこと自体も怒りの対象だったのだろうが、それよりも恐らく、元の世界に帰る算段がないことの方がより問題だったのだ。故に、帰る算段がついたということで、渋々ながらも些末事には目を瞑ってくれた、というのが、概ね正しい認識だろう。これが頑固な相手であったならば、あのまま正真正銘の正面戦闘に陥っていた」
「へぇ。しかし、アンタの余裕そうな様子を見るに、そうなったところでどうにかできたんだろう?」
「…………さて、それはどうだろう。持久戦に持ち込まれれば、先に尽きていたのは間違いなく私の方だからな」
そう言ったロステアールは、炎が揺れる自身の手を見つめてから、顔を上げて改めて周囲に視線を巡らせた。
「大きな脅威が去った以上、もう何の心配もいらないとは思うが、もののついでだ。……個々をそれぞれの次元に還すのは過干渉になる故、すまないな」
ロステアールがそう呟くと同時に、生き残っていた魔物たちが一斉に炎に包まれる。その身を焼き尽くす炎に、だが魔物たちは不思議と苦痛の声を上げることなく、どこか安らかにも見える様子で灰と化していった。
これでもう、この世界に残った異世界の魔物はいない筈だ。そしてウロが消えた今、帝国にリアンジュナイルを脅かすほどの魔導召喚を成す術もないだろう。
燃えゆく魔物が灰となって風に流れるのを見送ってから、ロステアールは改めてリアンジュナイルの民たちに目を向けた。そしてその中にいる、慣れ親しんだ赤の国の民たちを一人一人確認するように見て、彼は知らず微笑みを浮かべる。
間に合って良かった。守ることができて良かった。そんな思いたちが、ひたひたと彼の胸を埋めていく。それは初めての感覚で、同時に随分と懐かしいもののようにも思えた。
「……蘇芳殿」
呼ばれた蘇芳が、首を傾げて応える。そんな彼女に向かい、ロステアールは軽く頭を下げた。
「どこにも属さぬ自由の身でありながら、円卓のためにご助力いただいたこと、心よりお礼申し上げる」
「おー、まあ気にすんな。話の流れってやつさ」
「そしてできれば、今後も円卓に脅威が迫った際には、どうか力添えをいただけると有難い」
「……ま、気が向いたらな」
まんざらでもなさそうな蘇芳の返答に笑ったロステアールは、次いで白の王を見た。
「フローライン王、レクシィのこと、感謝してもし足りない。私の言葉にどれだけの意味があるのかは判らぬが、それでも少しでも貴公の荷が軽くなるのであれば、……私は貴女のすべてを赦そう」
その言葉に、僅かに息を呑んだ白の王が、目を閉じ、深く頭を下げる。
「炎神の御子のお言葉、確かに賜りました。…………ありがとうございます、ロステアール様」
そっと顔を上げて微笑んだ白の王に笑みを返してから、ロステアールは緑の王へと視線を向けた。
「カスィーミレウ王、今まで色々と世話になった。北方と南方では物の考え方が違う故、なかなか仲良く手を取り合ってという訳にはいかぬが、貴公が冷静に間を取り持ってくれて、とても助かっていた。この場所に軍を至らせるのに尽力してくれたミレニクター王とネオネグニオ王にも、どうかよろしく伝えてくれ」
「別に取り持ちたくて取り持っていたのではなく、そうでもしないと話が進まないことが多いから、仕方なくやっていただけですわ。……けれど、感謝の言葉は素直に受け取りましょう。ミレニクター王もネオネグニオ王も、事の顛末を知ったら驚きそうですわね」
そう言って少しだけ面白そうに笑った緑の王に小さく頭を下げてから、ロステアールは次いで青の王へと顔を向けた。
「ミゼルティア王、貴公とは衝突ばかりしていたな。今までは立場上声を大にして言うことができなかったが、貴公の血統主義の考え方は間違いなく正しいと私は思っている。魔法の素養に血が強く関わってくる以上、王にとって血統とは重んじて然るべきものだ。故に、貴公が王として庶子の私を嫌うのは、至極当然のことだろう」
ロステアールの言葉に、青の王は心底嫌そうに顔を顰めた。
「相変わらず腹立たしいことを言いますね。血統で言うならば神の血が混じっている己こそが至上であると、素直にそう言ったらどうなんです?」
「いや、そんなつもりはなかったのだが……。そもそもがして、それこそ私は純血からはほど遠い雑種な訳であるのだし……」
「嫌味にしか聞こえませんが」
「本当にそんなつもりはないのだがなぁ。……しかし、貴公がそう考えているのであれば、私はとうとう貴公にも血筋で認めて貰える、ということだろうか?」
首を傾げたロステアールに、青の王がこれ以上ないほどに嫌悪感に満ちた表情を浮かべた。
「誰が認めるものですか!!」
思わずといった風に叫んだ青の王に、ロステアールが声を上げて笑う。
「ははははは、貴公は変わらないなぁ。今となっては、その変化のなさが心地良い。……これまで私に正面からぶつかり続けてくれたこと、感謝する」
そう言って微笑んだロステアールに、やはり青の王はものすごい顔をして口を開きかけたが、自分を見返すロステアールの表情を見て、舌打ちをしてから口を閉じた。
どこまでいっても自分への嫌悪感を丸出しにする青の王に笑ってから、ロステアールは今度は薄紅の王へと視線をやった。
「ランファ王、貴公には多大なご迷惑をお掛けした。折角かけていただいた最高峰の幻惑魔法を自ら破り、このような状況になるまで戦場にやってくることすらできなかったこと、大変申し訳なかったと思っている」
「あらん、随分と殊勝なこと。本来であれば、貴方のような可もなく不可もない凡百のお顔にかける情けはないのだけれど、……いいわ、今回はその美しい髪と目に免じて、特別に許してあげる」
目を細めて笑んだ薄紅の王に、ロステアールは感謝すると言って目礼してから、何かを探すように視線を巡らせ、そして、騎獣に背を預けて座り込んでいる橙の王に目を止めた。
「ライオテッド王、意識を取り戻したご様子、何よりだ」
「いやぁ、なんとかな。と言っても、目が覚めたときにはドラゴンが向かって来ておるわ、だからといって何をする余力もないわで、何の役にも立てずだ」
肩を竦めた橙の王に、ロステアールが真顔で首を横に振る。
「何を仰るか。貴公が倒したあれは、唯一ウロの直属の配下。言うなれば、神のひと欠片に等しい。あれを前に後れを取らず、それどころか反撃の隙すら与えずに滅したのは、間違いなく貴公の技量だ。そしてその結果がなければ、戦況は大きく不利なものとなっていた」
「と言われてもなぁ。ありゃあ儂の技量というよりも、地神エアルスの技量なんじゃないのか?」
その言葉に、ロステアールは一度言葉を止め、少しの間だけ考えるような素振りを見せたあとで、声を潜めるようにして言う。
「……言って良いものかどうか判らんのだが、神性魔法にも一応技量や才覚が関わってくる」
隠し事のように言われたそれに、橙の王は驚いた顔をしてロステアールを見た。
「お前さん……、それは言ってしまって良いのか?」
神性魔法は正体も原理もいまいちはっきりしない、いわば未知と言っても過言ではない魔法だ。その未知に僅かでも知を与えるような真似をして大丈夫なのかと、そう心配をする橙の王に、ロステアールは少しだけ困った顔をした。
「先も言った通り、良いのか悪いのかはよく判らん。……が、まあ、私が言いたくなってしまったのだから、仕方がない」
そう言って肩を竦めたロステアールに、橙の王はぱちぱちと瞬きをしたあとで、豪快な笑い声を上げた。
それを耳に受けながら、ロステアールが黄の王へと視線を移す。
「クラリオ王、貴公にはリィンスタット王国への滞在中も含め、非常に世話になった。加えて、帝都征伐において軍の多くを率い、大局を見極め尽力してくれたこと、礼を言わせてくれ」
「やめろって水臭い。というか男に感謝されても嬉しくないしな。しっかし、最後の最後でおいしいところ持ってくんだから、さすがはあんたって感じだよ」
「ははは、私としてはそんなつもりはないのだが、結果的にそうなってしまったか」
「そのつもりもなく、って辺りが余計にアレってな」
笑う黄の王にロステアールもまた笑顔を浮かべてから、今度は斜め後ろの方へと振り返った。
「いるのだろう、ヴェールゴール王」
その言葉に、兵たちの間から黒の王がひょっこりと顔を出す。
「別に隠れてたわけじゃないよ。なんか出るタイミング失っただけ」
「判っているとも。……貴公には最も過酷な仕事をさせてしまったな。身体の方は大丈夫か?」
少しだけ表情を曇らせて言ったロステアールに、黒の王は相変わらずの無表情で首を横に振る。
「ヴェルを長時間憑依させすぎた。その上、俺も一応ドラゴンどうにかする努力した方が良いかなって思って、更に無茶してここまで駆け付けちゃったから、全身ガタガタ。一応なんとか普通の人程度には動けるけど、これ完全に回復するまで一年はかかるんじゃないかな」
「それは、……いや、本当に申し訳が立たん」
「本当だよ。この際ウロのことは良いけど、ドラゴンはあんたがどうにかする手筈だったんなら、最初からそう言ってくれない? 急いでここに来たの、完全に無駄足なんだけど」
容赦なく責めてくる黒の王に、ロステアールが苦笑する。
「いや、私自身、自分でどうにかできるとは思っていなかったのでな。どうかご容赦願いたい」
「神様だかなんだか知らないけど、相変わらずポンコツだなぁ」
呆れたように言った黒の王に、ロステアールがもう一度謝罪の言葉を述べる。だが、黒の王はそれに対し、鬱陶しそうに片手を振った。
「いいよもう。本当はさっきあっちで言われた意味判んないことの意味とかも訊きたかったんだけど、あんた時間なさそうだし」
「……判るものか?」
「俺を誰だと思ってんの? 黒の王だよ?」
そういうことには誰よりも聡い、と、黒の王の目が言っている。それを受けて、一度目を閉じたロステアールは、小さく頭を下げた。伝わったかどうかは判らないが、時間を譲ってくれたことへの感謝のつもりだった。
そして再び、ロステアールの顔が前方へと戻される。その視線が今度向かった先にいたのは、金の王だった。
「ギルヴィス王」
「……はい」
今にも泣き出しそうなのを必死に堪えているような顔で、それでも金の王はしっかりと返事をした。
「貴公にはもう、私の後ろ盾など必要ないな?」
優しい声が、金の王の耳を撫でる。その言葉に込められた意味を理解した金の王の胸を、これ以上ないほどの歓喜と悲しみが満たした。
「っ、ロステアール王、」
思わずといった風に零れたその呟きに、ロステアールが笑った。
「こらこら、私はもう王ではないのだ」
まるで金の王の次の言葉をやんわりと制止するようにそう言ったロステアールが、幼い王を見つめて微笑みを浮かべる。
「事の顛末も含め、エルキディタータリエンデ王によろしく伝えてくれ。在位中は随分と迷惑ばかり掛けてしまったが、あの御仁が私への抑止力として目を光らせていてくれたからこそ、私は安心して好き勝手をすることができた」
そう言うロステアールに対し、言いたいことは山ほどあった。告げるべき言葉たちだって、溢れるほどにある筈だった。だが、金の王が思うそれらはきっと、もう全部ロステアールに伝わっているのだろう。
故に、幼い王は口に残る全ての言葉を呑み込んだ。そして、ロステアールがくれた言葉を大切に大切に受け取り、しっかりと頷きを返す。円卓の総括たる銀の王への言伝をわざわざ自分に預けてくれた彼に、恥じぬようにと。
「必ず、お伝えします」
真剣な眼差しで言った金の王にもう一度笑みを返してから、ロステアールはぐるりと周囲を見渡した。そして、赤を胸に抱く民を思いながら、大きく口を開ける。
「誇り高きグランデルの騎士たちよ!」
びりりと響いた声に、赤の騎士たちが反射的に姿勢を正した。
「八年余りという短い間だったが、よく私に仕えてくれた。貴公ら一人一人が私の誇りだ。これより先も、鍛錬に励み、己を磨き、私が愛した国を守り続けてくれ」
響き渡るその声に、騎士たちは一斉に膝をついた。そして、炎を纏うかつての王へと、深々と頭を垂れる。彼はもう王ではなかったが、それでも騎士たちにとって彼は、今も尚心からの忠誠を誓うに値する君主だった。
そんなかつての臣下を見て、ロステアールの目がゆるりと細められる。そして彼は一度目を閉じたあと、傍らに座る男を見た。
「……レクシィ」
呼ばれ、俯いていたレクシリアの顔が、ゆっくりと上げられる。その表情に、ロステアールは困ったような笑みを浮かべた。
「そんな顔をするな」
「……どんな顔だよ」
「歓喜と悲嘆と幸福と寂寞と期待と不安と、そういったものがない交ぜになっているような、複雑な顔だな」
真面目に答えを返したロステアールに、レクシリアは一瞬何とも言えない顔をして、そして、ぽつりと言葉を落とした。
「…………いくのか」
短い問いに、ロステアールは一度瞬きをしてから、静かに頷く。
「ああ」
自分を見下ろすロステアールを、レクシリアが見上げる。ロステアールの表情に宿るものを見た彼は、暫く何かを悩むように口を引き結んで、そして、笑おうとして失敗したような変な笑みを浮かべた。
「……良かったな」
「……ああ」
「全部もう、ちゃんと、自分で判るようになったんだな」
「……ああ。お前が教えてくれた全てを、実感を伴って理解することができるようになった」
その言葉に、レクシリアが息を吐く。そして彼は、自分を見つめる金の瞳から目を逸らすようにして、ロステアールが纏う炎を見た。
「……その炎、自分でも消せないんだろ」
「判るのか?」
「お前の顔見てりゃ判る。なにせもう、作り物じゃないみたいだからな」
言われ、ロステアールは炎に包まれている己の手を見た。
「……私は、人の身に憑いた母と人である父の間に生まれたのだ。故に、魂こそ炎神の血を引いてはいるものの、肉体の方は純然たる人間のものでな。だからこそ、私はずっと己の魂を封印し、同時にこの感情も封じ込めてきた。この肉体では神の魂には耐えきれず、感情の起伏で魂が揺れれば、そのまま力が溢れて己の身を滅ぼしてしまうと、そう知っていたから」
「でも今は、封印が解かれたんだな。その結果が、その炎なんだろ」
「……ああ。心を知り、今まで出会った数多のものに、私は本当の思いを抱いてしまった。震えた心は魂を揺らし、直にこの肉体を焼き滅ぼすだろう」
ロステアールの声に、変化はない。常と変わらない、静かで穏やかな音色を奏でている。そんな彼に、レクシリアは口を開きかけて、しかし一度その口を閉じてから、改めてロステアールを見た。
「良かったな、ロスト」
もう一度、レクシリアがそう言う。先ほどのそれとは違い、今度はその言葉に揺れが滲むことはなかった。
そして、これで話は終わりだとでも言うように、レクシリアがロステアールから視線を逸らそうとする。だが、それを咎めるように、ロステアールが口を開いた。
「レクシィ」
落ち着いた、けれど強い声が、レクシリアを呼ぶ。その声に引かれるようにして、レクシリアは再びロステアールを見た。その視線の先で、一度瞬いたロステアールが、次いで思わず滲み出てしまったかのような、そんな自然さで、淡い陽光にも似た笑みを浮かべた。そしてその唇が、レクシリアに向かって開かれる。
「ありがとう、レクシィ。お前がいたから、私は人として生きることができた。お前がいたから、私はここまで来ることができた。お前がいたから、私は心から愛する存在に出会えた」
その言葉に、レクシリアが息を呑む。
「きっとそれは、私が思っている以上に険しい道だろう。人はどうしても比較することをやめられない。お前はそれに苦しみ、悩むこともあるのだろう。……だが、それでも私はお前が良い。お前だからこそ、安心して任せることができる」
そう言ったロステアールが、両手をレクシリアに向かって差し出す。すると、ロステアールを覆う炎の一部がその手の上に集まり、輝ける王冠を象った。
「レクシリア・グラ・ロンター、先代グランデル王として、今ここで正式に貴公に国を託す。……だから簒奪などと言ってくれるな、親友よ」
柔らかな笑みと共に落とされたその言葉に、レクシリアは大きく目を見開いた。
ずっと望み、求め続け、けれど決して叶うことがないと、そう知っていた。それが今、こうして目の前にある。
レクシリアの視界が滲み、歪んでいく。そのまま耐え切れずに零れ落ちそうになったそれを隠すように、レクシリアは頭を垂れた。
「謹んで、お受けする」
誓いを立てるように言ったその頭に、ロステアールが炎の王冠を乗せる。淡い金の髪に触れても不思議と髪を焼くことのない炎を戴いたレクシリアは、そっと顔を上げて小さく笑った。
「大仰がすぎるんじゃねぇのか?」
「私の後を任せるのだぞ。これでも足りぬくらいだ」
ロステアールの言葉に数度瞬きをしたレクシリアが、心配性だな、と笑う。そんな彼の頭上で、炎の王冠が瞬くように数度輝き、そして、まるで幻が消えるときにも似た穏やかさで、ゆるりと掻き消えていった。
それを見送ってから、ロステアールがひとつ息を吐く。そして、友の視線に促されるようにして、その顔がたった一人へと向けられた。
「鏡哉」
自分を呼ぶその声に、鏡哉はロステアールの下へと駆け寄りたい衝動に駆られた。だが、ロステアールの視線が、声が、表情が、それを許さない。そしてその意図を汲んだように、蘇芳が鏡哉の両肩を強く掴んだ。
「鏡哉。私のせいで、お前には随分とつらい思いをさせてしまった。本当にすまない」
「っ、そんなこと、……だって、僕は、貴方がいたから、貴方が、愛してくれたから、」
そうだ。彼がいたからこそ、鏡哉は幸福を知ることができた。だから、彼が謝ることなんて何もない。
そう言いたかった。そう言って、炎に包まれる彼に駆け寄って抱き締めたかった。けれど、ロステアールのすべてが、それを拒んでいる。あんなにも全部を受け入れてきてくれた彼が、初めて鏡哉を拒んでいる。
「神の目であることが知られてしまったとなると、少しばかり過ごしにくい思いをするかもしれないが、その辺りは諸王方々が対応してくれるだろう。幸いなことに、お前の素性を知っているのは各国の中枢や軍部のみだ。きっとそれ以上に広がることはない」
「…………貴方」
「お前の慣れ親しんだ家に帰るのも良いし、他の国に滞在してみるのも良いだろう。どの国も、お前の来訪を拒むことはあるまい。円卓の十二国はそれぞれに個性のある環境をしているからなぁ。刺青のデザインの参考になるものに出会う機会も、きっと少なくはない筈だ」
「……貴方」
「本格的に魔術を学んでみるのも悪くないかもしれないな。その場合は、グレイやギルヴィス王が助力してくれるだろう。興味があるなら、落ち着いた頃にでも頼んでみると良い」
「貴方!」
これまでに出したこともないような大きな声が、鏡哉の口から吐き出され、ロステアールは口を閉じた。そして、少し離れた場所から自分を見つめる鏡哉を見る。
「どうした、鏡哉」
名を呼ぶその声はこの上なく優しい色をしているのに、それでも押し出される拒絶に、鏡哉は一度怯み、しかし目を逸らすことなくロステアールを見続けた。
「……そっちに、行っても良い?」
肩を掴む蘇芳の手に力が籠ったが、鏡哉はそれを無視して一歩を踏み出そうとした。だが、その脚が動く前に、ロステアールの声がそれを止める。
「駄目だ」
静かな言葉は、これまで以上に明確な拒絶を示している。
「……どうして?」
「この燃え上がる炎が、お前を巻き込まないとは言い切れない。だから、そこに居てくれ」
「……僕が、貴方の傍に居たいのに?」
その問いに、ロステアールは困ったような、それでいて僅かな喜色が滲む微笑みを浮かべた。
「お前がそう思ってくれることはとても嬉しい。だが、どうかそこを動かないでくれ。そう長い時間ではない。私は直に燃え尽きるだろうから、それまでの間だけだ」
判るな、鏡哉、と、まるで子供に言い聞かせるように、ロステアールが言う。本当に、鏡哉が理解できると信じているような口振りだ。実際彼は、鏡哉が聞き分けられると思っているのだろう。鏡哉は自我を主張するようなことはしない。誰かの期待をわざわざ裏切るような度胸もない。相手が最愛ともなれば、尚更だ。そうあれと望まれたならば、きっとその通りになるよう努めるだろう。
だが、
俯いた鏡哉が、拳を握る。そして彼は、両の腕を思いっきり動かして、肩を掴む蘇芳の手を振り払った。そしてそのまま、驚いた表情を浮かべているロステアールの下へと駆ける。
「鏡、」
自分の名を呼ぶ声を遮るようにして、鏡哉はロステアールへと手を伸ばした。そして、その勢いのままに彼の胸へと飛び込む。全身で触れた彼の炎は、不思議と熱くはなかった。
思わずといった風に鏡哉を受け止めたロステアールは、やはり驚きを隠せない表情のまま黒紫の髪を見つめたあと、恨めしそうな顔をして蘇芳へと目をやった。
そんなロステアールの視線を受けて、蘇芳が肩を竦める。
「そりゃあ、つい最近知り合ったばかりのアンタの頼みより、愛弟子の願いを聞いてやりたくなるってもんだろ?」
そう言って笑った蘇芳に少しだけ顔を顰めてから、ロステアールは思いの外強い力でしがみついてくる鏡哉を見下ろした。
「……お前はもっと、聞き分けの良い子だと思っていたのだがな」
責めるでもなく、ただ困った色を隠すことのない声がそう言えば、そっと顔を上げた鏡哉がロステアールを見た。
「貴方が相手なのに、聞き分けなきゃ駄目なの?」
迷いなくはっきりと紡がれたそれは、これ以上ないほどに無垢な気持ちそのものだ。
自分の最愛だから、そして貴方の最愛であるからこそ、聞き分けたりなどしない。しなくて良いのだと、その互い違いの目が言っている。
自分を見つめる鏡哉に、ロステアールが瞬きをする。そして彼は、やはり困った顔のまま、しかし愛情に満ちた微笑みを浮かべた。
「いいや」
大きな手が、鏡哉の頭を撫でる。優しく慰撫するようなそれに、鏡哉はもう怯えたりはしなかった。
「……生き物である以上、生きてこそだと思うのだ。その生を穏やかにまっとうすることこそ、最上の幸福だと」
零されたロステアールの言葉は、疑いようもなく本心なのだろう。だが、鏡哉は首を横に振った。
「違うよ、貴方。幸せの在り方は、人それぞれなんだ。貴方と出会ってから沢山のものを見てきて、僕はそれを知った。だからね、僕の幸せはそうじゃない」
そっと身体を離した鏡哉が、炎に包まれるロステアールの手に触れる。
「……置いていかないで。ひとりぼっちは嫌だよ、貴方」
縋るような声に、ロステアールが小さく息を呑む。
それは、数多を知り、数多に出会った鏡哉が、それでも得た答えだ。だからこそ、こんなにもロステアールの心を震わせ、魂を揺さぶる。
一際激しさを増した炎が、ロステアールの身体中から溢れて零れる。最早留めることすらできなくなったそれをそのままに、ロステアールは鏡哉を見つめた。
「…………お前は、それで良いのか?」
優しい声が、柔らかく鏡哉の耳を撫でる。その問いに、鏡哉は微笑んだ。
「それが、良いんだよ」
静かに落とされた言葉に、ロステアールが鏡哉の手を握り返した。そして、それを合図とするように、膨れ上がった炎が二人を包み込む。
視界一杯が炎の赤に埋め尽くされて、その中でただ一人、ロステアールだけが鏡哉を見つめている。身を焦がすような熱ではなく、ただ心地の良い温かさだけを感じさせる炎に、まるでロステアールの全部で抱き締められているようだ、と鏡哉は思った。
何もかもを焼き尽くす紅蓮に呑まれ、身体が端から崩れて、灰となったそれすらも焼かれて消えていく。己が無へと還っていく。
だが、そんなことはどうでも良かった。鏡哉にとっては、吐息が感じられるほどに近くにある炎の双眸が至高の愛を湛えていることだけが、すべてだった。
自分を見つめる金色のそれから目を逸らさず、しっかりと見つめ返して、そして、鏡哉は蕩けて滲むような極上の微笑みを浮かべる。
「…………あなた、きれい」
「……ああ、私もお前を愛しているよ」
たった一人にだけ送る、これ以上ないほどの想いを籠めて落とされた囁きたちは、正しくその一人へと届き、そして、炎に巻かれて消えていった。
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