誕生日前日に届いた王子へのプレゼント

アシコシツヨシ

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誕生日前日に届いた王子へのプレゼント

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「わ、私がプレゼント、です」
「え?ん?んん!?」

 婚約者のドロシーちゃんの言葉に、俺は驚き過ぎて二度見どころではなかった。
 俺のベッドに座って、モジモジしながら真っ赤な顔をしているドロシーちゃんの首には、白くて可愛らしいレースのリボンが結ばれている。

 ちょっと待て、落ち着こう、俺。
 きっと何かの間違いだ。

 俺のドロシーちゃんは、真面目がドレスを着て歩いているような、超お堅い公爵令嬢だ。
 どれくらい真面目かと言えば、教育係が言った全てを忠実に守ろうとして、自らの意思を殺してしまう位に真面目だ。

 「皆が遊ぶ時間を学習に使いなさい」と言われれば、友人や俺が遊びに誘っても、全て丁重にお断りされるし、「ダンスのステップを出来るまで終わってはいけない」と言われれば、本当に出来るまで何時間も一人でやり続けていた。

 婚約者同士が見張りもいない部屋で二人きりで過ごすなんて、思考すら持ち合わせていない。
 何故なら教育係が、それを禁止しているからだ。
 「ダンスとエスコートの時以外は婚約者であっても、結婚するまで身体接触してはならない」と言われたらしい。

 教育係め!ドロシーちゃんに厳し過ぎだろう!
 俺は教育係に抗議した。

「私もドロシー嬢が、こんなにも真面目な方だとは思っておりませんでした。以後、発言には気を付けます。ですが、婚前の過度な身体接触については、考えを改めるつもりはございません」
「はぁ~、分かったよ。ドロシー嬢に無理をさせなければ、それで良いよ」

 他の婚約者は抱擁や口付けくらい普通にしているのに、俺だけ我慢させられるのは、大いに不服だ。
 が、それも半年後に結婚式を挙げるまでの辛抱だ。

 そう思って耐えていたのに、どうした、ドロシーちゃん。
 君がそんな俺の理性を飛ばす言動をするとは、予想外過ぎるよ。
 もしやそっくりさん?それとも刺客か?いや、違う。
 栗色の髪も飴色の瞳も、左目下にある泣き黒子の位置からして、ドロシーちゃん本人だ。

 それにしても、いつも部屋で二人きりになる時は、侍従なり護衛なりが必ず控えているのに、何故いない!
 まさか、こんな事になるとは予想していなかった。
 おそらく、あの時から既に計画されていたのだろう。

 先週の夜会で、幼なじみの従兄ロバートと、従姉モニカに呼び止められた。

「フラン、来週誕生日だろ?王太子殿下ともなれば、当日はお祝いで忙しいよな。だから、誕生日の前日にプレゼントを届けに行ければと思うが、午後とか予定どうだ?」
「美味しいお菓子とお茶を持っていくから、久しぶりにお茶でもしましょう。ね?フラン」
「二人共、気遣いありがとう。それなら午後は予定を空けておくよ」

 気心の知れた二人と茶会を楽しむ為、誕生日前日の午後は予定を入れず、自室でロバートとモニカを待っていた。

 約束の午後三時になり、ロバートとモニカ……の後ろから、可愛らしいピンクのデイドレスを着て、おめかししたドロシーちゃんが、アフタヌーンティーセットを乗せたワゴンを押して、俺の部屋に入って来た。

「ドロシーちゃんは、こっち」
「あ、はい」

 モニカが、戸惑うドロシーちゃんの手を引いて誘導したのは、俺のベッド。

 え!?俺のベッドに、ドロシーちゃんが、お座りしているだと!?

 俺が動揺している間に、モニカは鼻歌を歌いながら、手早くアフタヌーンティーセットをテーブルに並べた。
 テーブルにお茶会の準備が整ったタイミングで、ポンとロバートが俺の肩に手を置き、意味深に微笑んだ。

「じゃ、俺達はプレゼントを渡したから帰るよ」
「え?」

 唖然とする俺と、ベッドに座ったドロシーちゃんを置いて、モニカとロバートは、あっという間に退室してしまった。
 訳が分からないでいる俺に、ドロシーちゃんが、あの「私がプレゼント」発言をしたのだった。

「ドロシーちゃんがプレゼントって意味、分かって言ってる?」

 俺は正直、ドロシーちゃんが正しく意味を理解しているとは思っていない。
 だから、どういう意図で言ったのか、確認しておきたい。

「はい、私がモニカ様に『フラン様のプレゼントを用意したい』と相談したら、モニカ様と、たまたま通りかかったロバート様が同意して下さって……」

 ドロシーちゃんが質問の意図を理解しているか、不安になってきた。
 取り敢えず、最後まで話を聞いてみよう。

「それで?」
「モニカ様が『二人の時間を作ったらフラン様は喜ぶから、私がプレゼントになれば良い』と仰って、ロバート様が『二人の時間を作れるように、人払いをプレゼントする』と仰って、だから私は、モニカ様からのプレゼントなのです」
「そっか」

 プレゼントになる意味を聞いたのに、誰のプレゼントなのか聞かれたと勘違いしているね。
 普段の冷静なドロシーちゃんなら、あり得ない受け答えだけど、らしくない事をしているから混乱しているのかな。

 欲しい答えは得られなかったが、経緯は理解した。
 やはり、モニカとロバートの策略だったか。
 俺が折角、色々我慢して……とは言え、「ドロシーちゃんと、いちゃつけない!」と不満を漏らしまくっていたから、二人はチャンスを作ってやろうと考えたのだろう。

 人払いまでしやがって。本当に二人きりじゃないか。
 ああもう、有り難う!

「それで、これは私から。誕生日プレゼント」

 ドロシーちゃんが遠慮がちに、小さなカードをくれた。
『何でも一つ言うこと聞く券』って。
 おいおいドロシーちゃん、これは男に一番あげてはいけないやつだ。

「モニカ様がね、フラン様は高価な物を沢山プレゼントされるから、これが良いよって。でも、本当にこんなので嬉しい?」

 嬉しくない男がいたら、何故と聞きたい。

「正直、滅茶苦茶嬉しい。一つって言うのが悩ましいね」

 欲望がとめどなく溢れてしまう。

「そう?じゃあ、二つにする?誕生日だし」

 もう、ドロシーちゃん、俺に警戒心無さすぎだよ。
 俺の部屋で見張りもいないって、忘れてるよね。思い出さなくて良いけど。

 取り敢えず、ドロシーちゃんを抱き上げて、ソファーへ運ぶ。
 ベッドは駄目だ。確実に押し倒す。

 それにしてもドロシーちゃんは軽い。あと、良い香りがする。
 猫吸いならぬ、ドロシーちゃん吸いしたい。
 でも、我慢だ。変態だと思われたくない。

「折角だからお茶にしようか」
「あの、フラン様」
「ん?」

「歩けるから下ろして」なんて言わせないよ。

 笑顔で知らないふりをしつつ、頬を赤らめるドロシーちゃんを堪能しながら、素早く移動して、ドロシーちゃんをソファーに下ろした。

 モニカのお陰で、お茶会の準備は万端。
 早速二人でお茶をする。

「料理人に、フラン様のお好きな物を作って頂きました。フラン様の好みを知れて嬉しいです」

 ドロシーちゃんは本当に俺が好きだね。俺の方が好きだけど。

「じゃあ、早速頂こうか」

 一口サイズのチョコタルトを摘んで、ドロシーちゃんの口に運ぶ。

「ほら、口を開けて」
「そんな、フラン様より先に食べるなんて。それに自分で」
「私が食べさせたい。駄目かな?」
「……駄目じゃ、ないです」

 戸惑いながらも口を開けるドロシーちゃん。
 あと、モグモグしている姿、可愛い。

 あれ?今、お願いを聞いて貰ったけど、これって、『何でも言うこと聞く券』を使った事になるのでは?
 チラリとドロシーちゃんを見ると、モグモグに集中して、お願いを聞いてくれた事に気付いていない様子。
 ま、良いか。

「では、フラン様も。誕生日ですし」

 ドロシーちゃんが、チョコタルトを俺の口に運んでくれる。
 なにこれ、幸せ。
 ロバートとモニカに感謝だな。

「今までで一番幸せな誕生日になったよ」
「それは良かったです。それで、私にして欲しい事はありませんか?」
「う~ん、もう少し考えても良いかな」
「勿論です」

 困った。何でも言うこと聞く、なんてネーミングのせいで、邪な望みしか浮かばない。
 今まで紳士の皮を被っていたのに、突然野獣の片鱗を見せたら、純粋培養のドロシーちゃんに絶対引かれる。
 結婚して逃げ場を失くすまで、絶対に知られてはならない。

 それにしても気付いてしまったよ。
 この券を使わなくても、俺がお願いすれば、ドロシーちゃんは、大抵の願い事は聞いてくれそうだ、と。

「それで、あの……」
「!?」

 ドロシーちゃんの手が、俺の手に重ねられているだと!?
 ドロシーちゃんから俺の手に触れるなんて、初めてじゃないか!?

 驚いてドロシーちゃんを見れば、頬を紅潮させて何か訴えるような目をしている。
 誘っている、と勘違いしてはいけない。

「何、かな?」
「私はフラン様に、妹ではなく、女性として見て欲しいのですが、どうしたら良いのでしょうか」
「どうしたらって……」

 ドロシーちゃんは俺より五歳年下だ。
 婚約が決定した時、ドロシーちゃんは十歳で、確かに妹のように思っていた。
 それも三年が経つ頃には、考えが変わっていた。

 俺の為に王子妃として相応しくあろうと頑張るドロシーちゃんの健気さが尊いし、年々美しくなるドロシーちゃんを女性として見るようになっていた。
 現在十六歳のドロシーちゃんは、外見のみならず、心も美しいし、淑女としての振る舞いも素晴らしい。

 本人は、自分の魅力に気付いていないようだけど、ドロシーちゃんに好意を寄せる令息は多い。
 そんな令息達をドロシーちゃんにバレないよう牽制するほど、俺はドロシーちゃんに執着している。

「随分前から、女性として見ているよ」
「本当に?」

 何、その小首傾げる可愛い仕草。
 キスするのに丁度いい角度じゃないか。
 ワザとか?ワザとなのか!?

「本当だよ」
「じゃあ、私と口付けは……嫌、じゃない?」

 ああ、もう!
 思わずドロシーちゃんの頬に手を添えて、顔を近づけた。
 ドロシーちゃんからする、ほのかに甘い香りがたまらない。

 互いの唇が触れるまで、あと数センチ。
 ドロシーちゃんは目を見開いて、固まっている。

「……そんな言い方されたら、誘っていると勘違いして、本当に、してしまうよ?教育係に『結婚するまでは駄目だ』と言われているよね。良いの?」

 それを真面目に守っているのは俺達くらいだけど。
 それにしても、よく耐えたよ、俺は。自分を褒めたい。

「いい、です。誘ったので」
「え!?」

 ドロシーちゃんの顔が、リンゴみたいに真っ赤に染まっていく。

 待て待て!ドロシーちゃん!俺の誕生日だからって、積極的過ぎない?
 いつもの、お硬い真面目なドロシーちゃんは、どこに落としてきた!
 モニカとロバートに何か吹き込まれたのか?
 もしそうだとしたら、二人共、なんて良い仕事をしてくれたんだ!

「フラン様から、女性として、求められたくて……」

 ここまで言われたら、もうっ!
 俺は堪らなくなって、ドロシーちゃんの唇を奪った。

 ドロシーちゃんが俺を求めてくれる限り、『何でも言う事聞く券』を使う機会は訪れない気がするけれど、いざという時の為に、肌身離さず持ち歩くとしよう。

 何せ、愛するドロシーちゃんからの大切な誕生日プレゼントだから、ね。
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