婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。

平井敦史

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第二章 馬鹿王子、巻き込まれる

第15話 馬鹿王子、巻き込まれる その九

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 御令嬢の名はエレナと言い、魔道具の売買で財を成したスピアード商会の娘だということだ。
 ウィンザーに住む叔母のところへ向かう途中で、昨日、僕たちがジェスたちと会ったすぐ後に、彼女らと護衛の契約を結んだのだという。

「スピアード商会というと、一級品の魔道具を取り扱っていると評判の?」

「はい。おかげさまで、お客様方からは高いご評価いただいております。よくご存じですね」

 しまった。余計な事を言ってしまったかな?

「ええ、その。魔法学校の教授の手伝いをしている時に、商会の名前は何度か耳にしまして」

 そういうことにしておいてくれ。
 エレナも特に疑問には思わなかったようだ。

「そうですか。王立魔法学校も、お得意様の一つですからね」

「そのようですね。それにしても、そんな大きな商会の御令嬢が……」

「なんでこんなしがない護衛屋を雇ってるのか、って?」

 ジェスが僕にジト目を向ける。

「あ、いやその……」

「しがないだなんて。“天翔あまかける翼”は、タンベリー~ウィンザー間の護衛としては最も実力のあるパーティーだと評判なんですよ」

「あまかける……何?」

 エレナの言葉に、レニーが眉をひそめる。
 ジェスは苦虫を噛み潰した表情で、

「ブリッツの馬鹿が付けたパーティー名だよ。あたしたちはもっとおとなしい名前にしようって言ったのにさ」

「えー? 格好良いじゃんか」

 ブリッツが反論するが、正直格好つけすぎだろうとは思う。
 とは言え、確かに力量はこのあたりでピカ一、というのも頷ける。
 何しろ、元宮廷魔道士がいるのだし、軽薄男のブリッツだって、さっきの刺客と渡り合えてたんだからな。
 ダニーが戦うところは見ていないが、おそらくブリッツと互角くらいの腕はありそうだ。

「いえ、おっしゃりたいことはわからないでもありません。スピアード商会なら、自前で護衛くらい用意できないのか、ということでしょう?」

 うん、まあそういうことだね。

「確かに、我が商会が取り扱う魔道具は高いご評価をいただき、大きな売り上げを上げてはいるのですが……。それは、凝り性の父が良い魔道具と見れば金に糸目をつけずに仕入れてくるからでして。ごく一部の掘り出し物を除けば利幅はそう大きくない上に、右から左へさばけるような品ばかりではありませんから、在庫の滞留も馬鹿になりません。つまり、見た目ほどふところに余裕は無いのですよ」

「お嬢様、どうかほどほどに」

「あ、ごめんなさい、サラ」

 お付きの女性にたしなめられて、エレナが詫びる。
 一時いっとき護衛を頼んだだけの冒険者に、商会の懐事情を軽々しく明かすな、ということだろう。

「ところで、魔法学校ってどんなところなのですか? お話を聞かせていただけません?」

 瞳を輝かせて、エレナは尋ねた。そもそも最初に僕たちに話しかけてきたことからして、それを聞きたかったらしい。
 僕とレニー、それにジェスで、学校のあれやこれやを話して聞かせる。

「はぁ。本当に楽しそうですね。羨ましいです。私も両親も魔法の資質は無くって。それで、自分自身に魔力が無くても魔法の効果を得ることが出来る、魔道具というものにのめり込んだという面もあるのですけれど」

 エレナも、さすがに仕入れや販売には関わらせてもらっていないが、魔道具の日々の手入れや、時には修理すら手掛けることもあるのだそうだ。

「へえ。すごいですね。あたしはあまり魔道具には詳しくなくて」

 うん、僕もだ。レニーにしろ僕にしろ、なまじ魔法が得意だと、魔道具に頼ることがあまりないからな。興味も湧きづらいんだよな。
 魔法学校の同級生の中には、むしろそちらの方面に才を発揮していたのが何人かいたけど。

「魔道具って奥が深いんですよ。ああ、実は私の婚約者の方も、今年魔法学校を卒業なさったのですが、魔道具に関してはとてもお詳しいのだそうです。残念ながら、まだじっくりとお話をさせていただく機会には恵まれていないのですけれど」

「お嬢様」

 またしても、サラがエレナをたしなめる。
 嫁ぎ先のことを軽々しく口に出すな、ということだろうか。
 商家同士の結婚ならそう気にすることはないはずだから、貴族、それも名門貴族に嫁ぐのだろうか。
 僕たちの同級生の男で、魔道具関連の科目の成績が優秀で、上位貴族の出身か。候補は二、三人に絞られるが……、まあ詮索するのはよしておこう。


 そんな会話を交わしながら山道を下る僕たちの背後から、ガラゴロという車輪の音が迫ってきた。
 あれ? この荷馬車、しばらく前にすれ違った商人一行のだよな。引き返してきたのか?

「なあ、あんたたちタンベリーから来たんだよな? 問題なく通れたのか?」

 護衛らしき男が僕たちに話しかけてきた。
 いや、魔物の群れと遭遇したし、「問題ない」かと言われるとちょっと……。

「どうかしたのかい?」

 ブリッツが尋ねると、男は深刻な表情で、

「露払いが言うには、そこら中に散らばった魔物の死体を飛竜ワイバーンむさぼり食っていて、すっかり血に酔っている様子だったから、とてもじゃないが通れたもんじゃないんだと。雇い主はおかんむりだが、どうしようもないからな」

 ぎくっ! あー、僕らが倒した魔物どもの死体か。まあ不可抗力ではあるのだけれど。
 でも、こんなところに飛竜ワイバーン
 大きな翼で宙を舞い、人語を解するほどではないものの知能も高く、いくつかの魔法も使いこなす、非常に強力な魔物だが、そんなのが出没するようでは街道として機能しないだろうに。
 偶々、どこかから飛来したのか?
 ちらりと“天翔ける翼”の面々を見ると、ジェスが困惑顔で言った。

「いや、実はずっと前からいたんだよ。ヒースリー山地のぬしと呼ばれているやつが。でも、生息しているのはずっと奥の方だったし、餌にしているのは高い魔力を持った魔物で、人間には興味がない様子だったから、さほど危険視されてはいなかったんだ。でも、思いもよらず大量の餌にありつけて血に酔っているっていうんなら、かなり危険だね」

 なるほど、そういうことだったのか。
 とは言え、幸い飛竜ワイバーンがいるのは後ろの方。街道が通行止めになって困っている人たちは多いだろうけど、だからと言って僕たちが退治する筋合いでもない。そう簡単に倒せる相手でもないしな。

「僕たちも先を急ごう」

 荷馬車の商人一行はすでにだいぶ先を行っている。
 背後を警戒しつつ、ウィンザーへ向かおうとしたのだけれど――。

「グギャアア!!」

 耳障りな咆哮と共に、飛竜ワイバーンがこちらへ向かって飛んできた。その前には、人間の子供くらいある大きな蜂の魔物が飛んでいる。あれを追ってきたのか。

「こら馬鹿! なんでこっちへ飛んでくるんだよ!」

 ブリッツが悪態をつく。
 蜂の魔物が僕らを避けて飛び過ぎてくれれば、飛竜ワイバーンもそれを追って通り過ぎてくれる可能性はあるけれど……。

「駄目だ、マグ。あの蜂、誰かに使役しえきされてる。あれを使ってあたしらに飛竜ワイバーンをぶつけるつもりだ」

 側に寄って来たレニーが僕に耳打ちする。
 蜂の魔物を操る魔力を読み取ったのか。さすがレニー、というのはひとまずいといて、だ。
 くそっ、まさかこんな手に出るとは。

 敵も騒ぎを大きくすることは望まないだろうし、それなりの使い手である“天翔ける翼”と同行していることもあって、白昼堂々の襲撃は無いだろうと踏んでいたのだが。
 やつらが忌避しているのは騒ぎを大きくして目撃者や証拠を残してしまうことであって、無関係な他人を巻き込むこと自体に対しては、何ら躊躇も良心の呵責も感じてはいないのだ。
 僕もまだまだ甘ちゃんだな。

「ちょ、こら! お前追われてるんだろうが! 何で俺たちにちょっかいを掛けようとするんだ!」

 まとわりついて来た蜂の魔物に、ブリッツが悪態をつきまくりながら応戦する。

「ブリッツ、殺すんじゃないよ! 獲物を横取りされたと飛竜ワイバーンに恨まれちゃ、たまったもんじゃない!」

「わかってるよそんなこと!」

 ジェスとブリッツがそんなやり取りをしているところに割って入り、僕は腰の剣を抜き放って蜂の魔物を両断した。

「「ば、馬鹿!!」」

 ジェスとブリッツの声が重なる。

飛竜ワイバーンは僕が引き受けます。あなたたちは逃げてください!」

「無茶だ! いくらなんでも……」

「いいから! 護衛の仕事中なんでしょう!?」

 エレナは腰を抜かしてしまい、お付きの男に背負われている。速度は望めないが、とにかく早く離れてくれ。

「マグ、一つ訂正だよ」

 側に寄って来たレニーが僕に言った。

「『僕』じゃなくって『僕たち』、でしょ?」
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