婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。

平井敦史

文字の大きさ
31 / 50
第三章 馬鹿王子、師を得る

第31話 馬鹿王子、師を得る その三

しおりを挟む
 その前にちょっとアデニードに食事させてくるよ。そう言ってレニーは飛竜ワイバーンの背に跨ろうとした。

「大丈夫なのかい? 上空で振り落とされたりしたら……」

 レニーなら、風魔法で滑空して無事着陸することも可能だろうけど、追撃を掛けて来られたらひとたまりもない。
 さすがにまだ、アデニードを全面的に信頼するのは早すぎるだろう。

「うーん、こうして魔力を同調させていたら、よこしまな考えを起こしたらすぐにわかるんだけどね。さすがに空の上で変な気を起こされちゃたまんないか」

 レニーは少し思案して、荷物から別の魔法陣布を取り出した。

「おいおい、セイも召喚するつもりなのかい? いくら君でも二頭同時に制御するのは……」

「心配ないよ。セイはもうほとんど制御の必要ないから」

 初めて召喚してから一年半あまりの間に、完全に手懐てなずけたってことか。
 僕だってマドラはもうほとんど手が掛からないからな。
 でも、幻獣を召喚してこちらの世界に繋ぎとめておくのは、それだけでも結構魔力を食われるんだけど……。
 まあレニーにとっては深刻な問題じゃないか。

 レニーが召喚魔法を唱え、有翼獅子グリフォンが姿を現すと、剣士の二人――マークとバネッサが息を飲む音が聞こえた。
 飛竜ワイバーンほどではないにしろ、並みの戦士や魔道士の手には負えないような魔物を、使い魔と称してぽんぽん召喚して見せられては、開いた口がふさがらなくなるのも仕方ない。

「さて、それじゃあ行ってくる……、うわ、ひゃっ、ひやああああああ!」

 飛竜アデニードが舞い上がり、その首にしがみついたレニーが悲鳴を上げる。
 まあ、セイが付いていてくれれば心配はないだろうけど。

 帰って来るのを待つ間、呆然としているマークとバネッサに、詳しい話を聞く。
 彼らはそれぞれ十六歳と十七歳で、ファルナの町に住む平民の子だという。
 ファルナにはグラハムという人の剣術道場があり、二人はそこの門下生なのだとか。

 それにしても、平民向けの剣術道場というのはちょっとめずらしい。
 ガリアール王国の王侯貴族層の間では、始祖ガリアールが修めた剣術流派である「ガリアール流」ないし「王統おうとう流」と呼ばれる流派と、剣聖アンジュを祖とし東方系の流れを汲む「アンジュ流」のいずれかが嗜まれている場合が多い。
 そしてそれ以外にも数多くの剣術流派――ひとまとめにして「諸流派しょりゅうは」、口の悪い者に言わせると「雑流ざつりゅう」――が存在している。

 しかし、単純に武器としての有用性を比較すれば、剣よりも槍の方がずっと上だ。
 何しろ、間合いの広さという点で、槍の方が圧倒的に優位なのだ。
 懐に入ってしまえば剣の方が有利、などというのは机上の理屈に過ぎない。
 槍使い相手に間合いを詰め、剣で勝利を収めるためには、相当な実力差が必要となる。

 それ故、平民層が身に着ける武芸としては、槍の方が一般的だ。
 町から出る際の護身や、家畜や時には人も害する魔物を追い払うのに、より遠い間合いから攻撃できる槍の方が良いというわけだ。

 何故なぜ貴族層と平民層で違いが出るかというと、魔力資質が関わってくる。
 魔力資質は必ずしも親から子に受け継がれるわけではないものの、代々魔力資質の高い者同士をかけ合わせてきた王侯貴族層の方が、生まれる確率は圧倒的に高い。
 そして、魔力による身体強化と、刀身に魔力を込めて攻撃力を増す技術によって、剣と槍の優位性が逆転するのだ。

 もちろん、槍使いの中には槍に魔力を込めて凄まじい攻撃力を発揮するものもいるにはいるが、魔力の込めやすさという点では、やはり槍の穂先よりも剣の刀身の方が有利となる。

 そんなわけで、平民相手の剣術道場というのは珍しいのだが――。

 僕があれこれ考えを巡らせている間に、彼らは仕留めた双尾山猫ふたまたやまねこの皮をいでいた。
 なかなか手際が良いな。
 冒険者をやっていくのなら、僕も身に付けなくてはいけないスキルなのだろうけど、また今度レニーに教わるとしよう。

 ちなみに、アデニードが仕留めた一頭は、ずたぼろに食い散らかされ、魔石も真っ先に食われてしまって、もはや利用価値は無い。
 後で埋めておかなきゃな。
 ああ、どうせマークたちも、皮を剥いで魔石を採取した後の死体は捨てるのだろうから、今のうちに土魔法で穴を掘っておこうか。

 僕が呪文を唱えて穴を掘り、魔物の死体を放り込む様を、マークたちは興味深そうに見ていた。

「すごいねぇ、魔道士さんってやつは」

 バネッサが感心したように言う。

「放置しておいて他の魔物が寄ってきたら困るだろ。君たちも、不要なものはここに捨てるといいよ」

 そう言ってやったのだけれど、バネッサは苦笑いして、

「いやいや、そこまでしなくても、小鬼ゴブリンが綺麗にしてくれるから」

 小鬼ゴブリンというのは、せいぜい十歳前後くらいの人間の子供程度の背丈で、粘土色の肌に額には短い角、尖った耳にぎょろりとした大きな目、鋭い牙と爪を持った魔物だ。
 石を打ち削って原始的な刃物を造り出す程度の知能はあり、小柄な割には大人の人間と遜色ない程度の腕力・握力を持っていて、魔物の死体を解体して巣穴に持ち帰る習性がある。

 生きている人間を襲うことはまず無いが、人間の死体も解体し、十八年戦争の時などは、死体が打ち捨てられた戦場に大量発生して、随分と駆除に苦労したらしい。
 やつら、「女王」と呼ばれる個体からどんどん生まれてきて、あっと言う間に増えるらしいからな。

「あー、まあ、やつらにとっちゃ、魔物の死体も人間の死体も区別ないからね。でも、それって埋葬しきれないほどの死体を生み出した人間の責任でしょ? ちゃんと埋葬して墓守もついている墓地を荒らされることなんて、めったにないんだから」

 うーん、そう言われたら確かにそうだな。
 思い込みだけで毛嫌いするのは良くないか。

 まあでもせっかくだから、とバネッサは皮を剥いで魔石も取り出した双尾山猫ふたまたやまねこの死体を、僕が掘った穴に放り込んだ。
 糸のように細い目の奥から漏れる光が何だか妙になまめかしく、一方のマークは、やたらととげとげしい視線を投げつけてくるのが少々気になったが、そうこうするうちに、飛竜ワイバーン有翼獅子グリフォンが舞い戻ってきた。

 アデニードはその脚に、一頭の大きな牛を掴んでいる。
 もちろん普通の牛ではなく、二本の角の他に、鼻先にも一本の角を持った、三角牛さんかくうしという魔物だ。
 これだって、並みの戦士や魔道士の手には余る大物なはずなのだけれど。
 どうやらアデニードが一撃で首の骨をへし折ったみたいだな。

「ただいまーっ! 大物が獲れたよっ!」

 レニーが元気の良い声を上げる。

 マークとバネッサにも手伝ってもらって、三人がかりで皮を剥ぐ。

「ヒレ肉ってこの辺だっけ?」

「うーん、多分そうだったと思うけど」

 わいわいがやがや言いながら、特に味が良いとされる部位の肉を切り取り、薬の材料などに用いられる角も切り取って、残りは魔石ごとアデニードの餌にした。
 山猫の残骸も、結局アデニードが食べてしまったので、これなら穴を掘る必要も無かったな。まあいいや。

 十分に食べて満足したらしいアデニードを魔法陣に封じ、セイも同じく封印する。
 町に連れて行くわけにはいかないからな。

 マークとバネッサは、戦利品の山猫の皮と、せめてものお詫びに進呈した牛肉の一部を携え、僕らも三角牛さんかくうしの皮や肉を持って、ファルナの町へと向かった。

 レニーはすっかりバネッサと打ち解けて、ずっとおしゃべりをして盛り上がっている。
 元々レニーは、誰とでもすぐ打ち解けるたちだからな。
 でも心なしか、バネッサのことを警戒している部分があるように思えるのは、僕の気のせいだろうか。

 そしてマークはというと、どうも僕のことが気に食わないようで、時々思い出したように女性陣の会話に加わりつつも、結局僕には一言も話しかけてこなかった。

 いや、彼の心理が理解できないほど僕も鈍感じゃない。
 魔法学校時代も、僕に好意を抱く女子は多く、その恋人や婚約者である男子に敵意を持たれることはあった。
 とはいえ、王太子という身分と、リエッタという婚約者がいるという事実のおかげで、それほど大げさな事態に至ることはなかったのだが。

 どうしたものかな。
 レニーを盾代わりにするのもちょっと気が引けるし。
 面倒なことだが……、ただ、彼らの剣技には正直興味があるので、できれば仲良くしたいんだよな。

 などと考えながら歩くうちに、ファルナの城門が見えてきた。

-----------------------------------------------------------------------
魔物を倒してもドロップアイテムだけ残して消滅したりせず、死体が残る世界観の場合、素材として活用できない部分の処理はどうしてるんだろう。
主人公は土魔法で穴を掘って埋めることが出来るとしても、すべての冒険者がそんなふうにしていると考えるのは無理があるし……。
ということで、本作におけるゴブリンはこういう役どころになりました(笑)。
正直、方向性の作品ならともかく、どちらかと言えばほのぼの寄りな作風にもかかわらず、いきなり「ゴブリンは人間の女性を使って繁殖します」とかいう設定をぶち込まれるのはあんまりす、おや、誰か来たようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...