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7.
しおりを挟む「あ」
リモコンを机の上に置く。
挙動不審にも程があるだろう。
「熱いから、気をつけて」
差し出されたマグカップは、昨日蓮に手渡したのと同じものだった。
「ありがとう····」
ソファに腰かける。
電気をつけに行くのを忘れるほど、頭は回らなかった。
純情と言うに相応しい想いだった。
いや、義弟に恋する少年なんて、汚れている。
けれど自分だけを特別に想ってくれるかっこよくて可愛い義弟に、妖しいときめきを覚えてしまった。
そして、恋心に気付くと共に、目が覚めた。
あの日、見てはいけないものを見てしまった。
「蓮、あの」
話さなくていいこともある。
そっと隣を見上げる。
色素の薄い黒目は、こっちを見つめていた。
瞬きする度、長いまつ毛が舞う。
その線を光が走って、瞳の奥へ逃げてゆく。
うっとりした表情と言わざるを得ない、あやしい視線だ。
蓮は悩ましそうに視線を外した。
「兄さんに会いたかった」
独り言にしては大きな声だ。
あれは見間違いだったと思いたくなってしまう。
あんなに恐ろしい記憶を、忘れられるはずがないのだ。
「兄さん」
「·····?」
テレビの画面がブレて、よく見えなくなってくる。
目を擦ろうとした手には力が入らなかった。
「へ?」
胴体を支えることも出来ない。ふにゃふにゃになった体がソファからずり落ちそうになると、抱きしめるように支えられた。
───どうしてこんなことしたのか?
考えるだけ無駄だ。
到底分からない。残酷な、理解し難い行為だ。
後ろを着いてくる雛みたいな、でも時には頼りになる、冷静で思いやりのある義弟だった。
彼の手に握られていた道具が何に使われたのかは、まだ幼い自分にもすぐ理解出来た。
中学の頃、ちょっとしたいじめにあっていた。
真面目ぶっているのが気に入らなかったらしい。ケイのお陰で表立った冷やかしがなくなり、代わりに、誰も気が付かないような陰湿で執拗な嫌がらせが始まった。
首謀犯は三人で、その内の一人には暴力を受けていた。
ある日、そのうちの2人が階段から足を滑らせ落下した。後遺症は会話不全だった。
もう1人は自転車のブレーキ故障による道路飛び出し。彼は未だ、目を覚ましていない。
『兄さんを助けたかったんだよ』
あの時、変わらず微笑んでいた。
あの優しい蓮に、自分がこんな事をさせたのか?
誰にも言わないからと撫でた頬は、ちょっと体温が高かった。
その日を境に、蓮とは極力関わらなくなった。
蓮が恐ろしかった。
みんなと満遍なく仲がいい蓮の姿は、どこかネジが外れた機械みたいに見えた。
「兄さん」
遠慮するようにこっちを呼ぶ少年の声だ。
「これ、好きだよね?今日のおやつ、ぼくのぶんもあげるから···」
不気味だった。
愛嬌の良いふりをして、あんなことをした彼が、自信なさげに扉から顔を出す。
「もっとぼくを見て」
その言葉は重荷となって、心の奥底に住み着いた。
気持ち悪い。
伝わってくる禍々しい怨念を、受け止める勇気はなかった。
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