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〈re〉14.
しおりを挟む夏樹は少し顔をしかめる。
こんな台本は知らない。
「なに?」
カモメの鳴く声がする。
ケイが一瞬ルームミラーを確認する。口の端に着いたお弁当を舐めとった時、彼の腕が横をとおりすぎた。
子供の頃からあんまり変わらないと思っていたが、間近で見ると大人びていてセクシーな男前だ。
「夏樹」
「わっ」
低い声が耳元に囁く。
くすぐったくて身震いしてしまった。
距離がおかしい。
熱の篭った瞳と、数センチ先で見つめあった時だった。
─────ドン!
真横から聞こえてきた音に、ハッとする。
窓に押し付けられていたのは大きな掌。
指の隙間から、解像度の高い美形が覗いた。
「───蓮·····?」
なぜ、彼がこんなところに?
しかも、涼しくなってきた季節に汗ばんで、息は窓が曇るほど上がっている。
いったい、どのくらい走ったのだろうか?
考えながら、指は自然と扉のくぼみを探す。
(そうだ、ケイ·····)
振り返ろうとした夏樹の首元に彼の顔が押し付けられる。
「行けよ」
ケイが囁くのと車のドアが空くのは同時だった。
夕焼けが半分くらい沈んだ頃、2つ目の煙草を取り出した。
別に、そこまで好きじゃない。
アレといると口寂しくなるから、抑えるように吸っているものだ。デカい図体に大人用のおしゃぶりみたいで笑える。
夏樹の母を辿って、蓮に連絡をした。
来なければ本当に手に入れるつもりでいた。
心のどこかでずるいことも願ったかもしれない。
これが親友と言うなら、親友とは随分便利で、虚しくて、犠牲者だ。
『お前を先に始末しておけば良かった』
6年前、ボソリと、風見蓮に告げられた言葉。
綺麗な仮面に隠された本性を知っている。あの時、年下で、あのころは自分よりずっと背の低いあいつに恐怖心を抱いた。
彼がいなくなった時、心から喜んだ。
それと引替えみたいにして夏樹は号泣していた。
あの時からずっと気がついていたことだ。
───アイツは財布くらい持ってきたんだろうか。
抜け目のない悪魔みたいなやつだが、夏樹が関わるとただの阿呆なのだ。
ケイは深く落胆した。
この思いをなんと表せば良いのか自分すら分からない。落胆と言うのが一番テキトーだった。
「失恋した」夏樹を、優しい言葉でたぶらかしてつけ込むとか、少し強引に身体の関係を持つこともできたはずだ。
「泣くな」と、言うことしか出来ない。
あの男がいなくなった数年前と同じ衝動を殺した。
ずっとそばにいることに気がついて欲しかった。
「俺ならお前を泣かせない」と言って、抱き寄せたかった。
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