スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第37話 止まっていたのが動き始めました #1

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その日王立学校ではかつてない程の混乱が生じていた。
――とある編入希望者への推薦状によって。

「一体何者なんだ、この編入希望者は!? これだけの錚々そうそうたるメンバーが推薦者として名を連ねるなど、前代未聞もいいところだぞ」
「ええ全くです。まずは前王宮魔法師長にして前校長、そしてその弟子であり現王宮魔法師長、更には基礎魔法研究所所長、ギルド本部インフラ技術室長、最強職員として名高いヒトツメギルドマスターに、高い技術力で大評判の天才錬成師、あとは最近注目され始めた新機軸付与術の開発者に、……何よりバーサクフェアリーまでが……」

喧騒に包まれる会議室。主だった教職員が集まるこの場は、実は校長であるラーバルにより設けられたものである。顔を青褪めさせた職員が提出した推薦状を見て椅子からずり落ちそうになったラーバルによって。

「校長! 校長はこのカルアという少年について何かご存知ありませんでしょうか?」
そのラーバルならばと一人の教員がそう問い掛けたが、返ってきたその答えは彼の想像を越えるものだった。
「――実は以前にね、ピノ君がその『カルア君』を連れて見学に来た事があったんだよ――」

ハッと息を飲む一同。静まり返った会議室に、続くラーバルの声が響き渡る。

「その時にさ、この学校に編入希望のヒトツメギルドの冒険者だって紹介されたんだ。見た目はごく普通の少年なんだけどね――視てみて驚いたよ。彼の身体の中には並みの王宮魔法師を超える程の魔力がゆっくりと揺らめいていたんだ。ごく自然にね。そんな彼をピノ君が自信を持って送り込んでくると言うんだから、あれからずっと気になってたんだよ。そうしたらさ――」

ラーバルはそこで一旦言葉を止め、そして一同の顔を見回してから次の言葉を放つ。

「この間冒険者ギルドから発表された『時空間魔法による遠隔地の音の感知』、あの発見・開発者として記載されていた名前が『カルア』だっただろう? ――まあ、同名の別人って可能性もあるけどさ。でも何故か『ああこれはあの子だ』って……確信しちゃったんだよね」

言葉が無いどころか息をしているかも怪しい一同。そんな彼らの姿にラーバルは肩をすくめ、更に言葉を続けた。

「それから推薦者のひとりであるミッチェル氏だけどさ――実は彼とは古くからの友人関係でね、たまたまこの間会う機会があったんだよ」

それは、ミッチェルがカルア達と共に王都に訪れた時の事――
「王都で店をやってる兄弟達に会いに来たそうなんだけどさ、特に時間が決まってた訳でもないって事だったから腰を据えて色々話をしたんだよ。その話の中でミッチェル氏が冒険者ギルドによく依頼を出すって聞いてさ、ちょっと訊いてみたんだよ。『今度うちに編入試験を受けに来るカルア君って知ってるかい?』ってね」

ここでひとつ息をいたラーバル。他の職員からは呼吸の音は聞こえてこない。

「そうしたら教えてくれたんだけどさ、カルア君は以前ミッチェル氏の工房で錬成の依頼を請け負ったそうなんだ。それでね、その時の事をミッチェル氏はこう言ったんだよ、『カルアは筋がいい』って……。分かるかい? あの天才錬成師が言う『筋がいい』――これってつまりは『天才』って事だ。これには本当に驚いたね。それで更に詳しく聞こうとしたんだけどさ、そこから先は完全にはぐらかして一切教えてくれなかったんだ。あれは多分、箝口令か何かかれてるね。それでミッチェル氏が最後に言った一言がさ――『すぐに分かる、楽しみに待っちょれ』、だったんだよ」

ようやく聞こえた教職員達の息、それは吹き荒れる溜息の嵐だった。そしてその全員が揃って浮かべる、何かを諦めたかのような表情は――

「いやはや、実に怖いね。時空間魔法に錬成――ああ、それなら当然土魔法もだろうね。後は……もしかしたら付与もかな? それにまだまだ他にも何か隠れてそうだよね……。でもまあ取り敢えず今は待つしかないさ。来月の編入試験で彼が何を見せてくれるかを楽しみに、ね」
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