スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第70話 ドワーフ少女が就職するお話です #3

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今回のミカの荷物は手荷物だけ。
大きな物は住む場所がはっきりしてから取りに戻る事としたからだ。ついでにその際の足はモリスに頼む事とし、ミッチェルは審査に時間が掛かるであろう入場申請も行っておいた。今申請しておけばミカが戻るまでには承認される事だろう。

ミカが手荷物を纏め終えればもう後は王都に向かうだけだ。ミッチェルは通信具を取り出すとモリスにミッション完了を伝えた。
『ありがとうミッチェル君。じゃあラーバル君の部屋に着いたらもう一度連絡くれる? すぐ迎えに行くから』
「うむ、こっちはもうちょっとしたら出るからの」

その通信の様子を興味津々と言った表情で眺めるミゲル。その目は完全に技術者のそれだ。
「ほほう、最近はそんなちっちゃな通信具があるのか。随分小型化が進んだんだな」
「いや、こいつはわしらチームの特別製じゃ。一般では使われちょらんよ」
「チーム?」
「おおよ。わしやこのラーバル、それに今度連れてくる事になっちょる冒険者ギルド本部のモリスなんかが参加するチームじゃ。技術者だけのチームっちゅう訳じゃないんじゃが、多分世界一の技術力を持ったチームじゃぞ。今回の魔石クリームもそこからの話なんじゃ」

ミゲルはそんな弟の姿を眩しげに、そして羨ましげに見つめた。それから間もなく荷物を纏め終えたミカが部屋から戻り、そしてミッチェル達は王都に転移していった。
一人ミゲルをそこに残して。
「全く……今日ほど長男に生まれた事を外れクジじゃと感じた事はないな」
そのミゲルはぼやきながら、処理を待つ書類が山と積まれた机へと戻っていくのだった。



王都のギルド本部インフラ技術室長室――
ラーバルの校長室からミッチェルとミカを連れて戻ったモリスは、両手を広げてにこやかに言った。
「はい到着。ようこそギルド本部へ」

「お、お邪魔するんだの」
「ほほう、ここがおぬしの部屋か。思ったより普通じゃな」
緊張するミカと物珍し気に周囲を見回すミッチェル。その様子にモリスは軽く苦笑を浮かべた。
「あはははは、こう見えてもちゃんと室長としての業務もやってるんだよ僕は」

「こう見えてもって……見たまんまじゃないですか室長。いっつもどこかにいなくなっちゃって――」
そのモリスの言葉に背後から突っ込みを入れたのは、この部屋を実質取り仕切っている秘書兼付与術師のロベリーだ。
「ははは、今日も手厳しいなロベリー君は」
「全く……それでそちらがもしかして?」

そのロベリーの視線を受け、ミカは背筋をピンと伸ばした。
「ミカです! よろしくお願いします! ……うわぁ、美人のお姉さんだの」
「あらそんな美人のお姉さんだなんて。こんなにかわいいなのに、流石技術者だけあって物事の本質を掴む良い目を持ってるって事なのかしら。ねえ室長?」

「……あはは、いやあ全くその通りだねえ。うんうん、ロベリー君が美人なのはもう疑いようのない事実だよ。僕も君のような秘書がいつも側にいてくれて本当に嬉しい限りさ。さて、それじゃあ早速説明を始めようか」
「何だろうイライラする。褒められてるはずなのに私、イライラする!」



――そして始まったミカへの説明。
「――それでこのクリームの一番の原材料っていうのがこの魔石さ。魔石には完全に透明なのと少し黒いのの2種類があってね、品質が良い完全に透明な方を貴族用の高級品に使うんだ。作り方そのものはどちらも一緒だけどね」
「おー、これが最近話題の『錬成出来る透明な魔石』なんだの! 綺麗なんだの!」
「そうそう、それがこの魔石さ。で、まずはこの状態でロベリー君が効果を付与するんだ。って事でロベリー君よろしく」

「はい。じゃあ見ててね」
そうミカに微笑み掛けると、ロベリーは両手ですくい上げた魔石を額の前に掲げ、ポソポソと小さな声で付与を行った。
「ほへー! 何て言うか、付与って……凄く神秘的な姿だの! まるで『聖女の祈り』みたいだの!」
ミカがそんな率直な感想を漏らすと、当然のようにモリスはそこに乗っかる。
「うんうん、何たってロベリー君は『付与の聖女』だからね。そう見えるのも当然さ」
「しっ室長……」

ミカの反応が嬉しい反面モリスの言葉には若干のダメージを受けている、そんなロベリーに向かってミカは思いもよらない一言を発した。
「私、付与もやりたい! 聖女師匠、私に付与を教えてくださいだの! 付与とか今までまったくやった事無くって全然知らないけど、やってみたいの!!」

そのミカの言葉に真っ先に反応したのはモリスだった。
「へええ、『まったくやった事が無くって、付与の事を全然知らない』のかあ。こいつは実に有望だねえ。ロベリー君、君の付与を習得する最大の条件はちゃんと満たしてると思うんだけど、君的にはどうだい? ミカ君が付与も覚えてくれたらクリームの事は完全にミカ君に任せられるようになるし、これってお互いハッピーWin-Winじゃないかな?」

ロベリーもその意見には完全に同意だ。目の前で完璧な物件が自分を見つめている。
「――ですね。じゃあミカ、希望通りあなたに私の付与術を教えてあげる。いい? 私の付与術は特殊だから、くれぐれも他の付与術を勉強しようなんて思っちゃダメよ。もしそんな事したら、どれだけ教えても私の付与術は覚えられなくなっちゃうからね」
「はい師匠! よろしくお願いしますだの!!」



この暫く後、持ち前の錬成能力に加えて無事に聖女ロベリー流付与術を習得したミカは、ロベリーの代わりにクリーム製造の中枢を担う事となり――とうとう量産体制が整った。
そしてついに魔石クリームあらため『聖女のクリーム』の販売が開始され――
世の女性達に熱狂の渦を巻き起こし、そして猛烈な争奪戦が始まったのである。

なお、容器となるボトルであるが――
貴族向けと一般向けのどちらもミッチェル工房が一手に請け負う事となり、その事がまたクリームの爆発的ヒットの一因となった事は言うまでもない。



▽▽▽▽▽▽
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