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第90話 セントラルダンジョン探索の後編 #3
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再び前を向いて歩き出した僕達。その後ろでは――
「ギャインッ」
「ギャンッ」
僕達を追って走ってきたコボルト達が、次々と鼻を界壁に激突させていた。うわっ、痛そう……
「カルア、あの界壁ってどれくらい持ちそう?」
「集中してればずっと張ってられるけど、多分次にコボルトと遭遇したら……」
「集中が途切れるかもって訳ね。分かったわ、じゃあ…………全員走れぇーーーーっ!!」
コボルト達が涙目で蹲ってる今のうちに距離を稼ぐ!
僕達は走り出した。そしてその行く手に次々と現れるコボルトまたコボルト。
コボルトアキタ、コボルトダルメ、コボルトサモエド、コボルトチャウチャウ……
体が大きいから避けるのが大変だけど、その代わり多少荒っぽくても平気そうだ。
って事で、彼らには撲撲棒で軽ーく優しーく後ろ方向に飛ばす感じで対処して。
こうして走り続けること数10分――
「つ……着いた……」
ようやく僕達はこの階層を踏破した。
「さあ、急いで階段降りるわよ。ヤツらが来る前に!」
僕達は頷き、急いで階段に――
「っ!? 入れない!」
「ちょっ、これ結界? まさか……」
「あいつらを倒さない限り、先へは進ませないって事か!」
呆然と立ち竦む僕達、その耳に遠くから響く鳴き声が、だんだんこちらへと近付いて来るのが分かる。
ワンワン、バウバウ、ワフッ、ウオーーン、グルルルル……
そして――
「うふふふふふふ」
アーシュが――
「もういい。付き合ってあげるのはここまでよ。カルア、私達をあの子の所に跳ばしなさい!」
キレた。
「絶対泣かす!」
今のアーシュを連れて行きたくないなぁ。
でも――
ギャウワウバウガルウッッ!!
ああ、来ちゃった。
「【転移】っ!」
「カルアお兄ちゃん、お疲れさま! です」
目の前には満面の笑みのラル。そんなラルに――
「セーンートーラールーーー!」
今にも掴み掛かりそうなアーシュ。
「アーシュ、落ち着いて……」
冷静に、ね?
「あんた何よアレ! あんな可愛い子達をけしかけるなんて どういう事よ! 酷いじゃない!」
そんなアーシュの言葉に、ラルは人差し指を軽く唇に当てて少し考えて、そして『ああ』と手を打った。
「コボルトの事ですか? そういえば結局一匹も倒さなかったですね」
全く悪びれる様子もないラルに、アーシュのイライラはMAXに!
「そりゃそうよ! だってあんなに――」
「可愛かったからです? でもあれ、魔物ですよ?」
「それでも!」
あれ?
何だろう、ラルの言ってる方が正しいような気が……?
「でも魔物ですよ?」
「けど」
アーシュもそう感じ始めたのか、勢いが……
「毛の生えたゴブリンみたいなものですよ? ゴブリンは楽しそうに倒してたですよね?」
「そっ……でも……」
おおっ、ラル凄い!
アーシュの勢いを正面から完全に止めたよ。
「アレって、言ってみればハニートラップみたいなものです。皆さんハニトラに引っ掛かって走り回ってただけです」
「そっそんな……事……」
ラル……その通りなんだけど言い方……
「生み出す側の立場から言わせてもらうと、ゴブリンとコボルトに違いはないです。必要な魔力は同じくらいです。選択してオプションのカスタマイズを適用するだけですよ」
そんなラルの冷静な説明に、ノルトが『ああ、そういう事か』と頷いた。
「えっとさ、つまり……立場が変われば見方が変わる、って事だと思う」
ああそうか。
出てきた魔物の対処をする僕達は、その見た目や動きを見てどんな魔物かを判断する。でもそれを生み出す側のラルは、全ての魔物をフラットに見てるんだ……
「せっかく生み出した魔物達が冒険者達に倒されていくのは、やっぱり見ていてつらいですよ? それはゴブリンでもコボルトでも一緒です」
「それは……そうよね、ごめんなさい」
あ、とうとうアーシュがラルに謝った。アーシュってば根が素直だから。
「でもそれはそれで別に構わないです。だってそういうものだからです。倒された魔物達はその魔力がダンジョンに吸収されて、それがダンジョンの魔力を経て根幹の魔力の一部に戻るです。これが魔物の輪廻で循環なのですよ」
あ、それって……
セカンケイブのゴブリンソーサラーが言ってたあれの事?
『……夢を見タ。何度も何度も殺される夢ダ。ある時は剣で斬らレ、ある時は棒で殴らレ、またある時は素手デ……そして最後は突然意識を失くした。その夢でワタシを殺すのハ、いつも必ずお前達だっタ』
そう、そんな言葉。
「ねえセカン、君のダンジョンで僕達を転移させたゴブリンソーサラーの言葉って……」
僕の問い掛けにセカンは神妙な表情で小さく頷く。
「あの子はね、あまりに短期間で繰り返し倒されたせいで、根幹の魔力の一部に戻る前にリソースとしてそのまま次のソーサラーに再使用されてたの。記憶が混入した魔力がリセットされずにそのまま引き継がれ、蓄積していったのね」
「そっか……」
魔物が死んだ時、その記憶は魔力に溶け込んで魔石に入っていくんだとしたら……
【スティール】で倒した魔物には魔石が無いから、その記憶はそのまま……
そんなちょっとイヤな考えが浮かんで思わず頭を振った。
「ふふっ、それは考えすぎよ。魔石と記憶は関係ないから」
そんな仕草で僕の考えがセカンに筒抜けだったみたい。
でもそうか、関係ないのなら良かったよ。
そんな僕とセカンのやり取りをよそに、ラルの言葉は続く。
「――とまあ、そんな訳ですよ。ただこのエリアは冒険者の皆さんにそんな弱さを克服してもらえるようにって、特別可愛い子たちを揃えたですけどね。狙い通りです。どうでした、可愛かったでしょ?」
「ええ、それは間違いないわ」
アーシュはそう小さく肩を竦め、みんなも頷いた。
「それでは、そんなみんなにラルからの特別プレゼントです。考えてみれば一体も倒さずにクリアするっていうのは、それはそれで覚悟と強さの体現だと思うです。 そんなひと達のために、今こうして話をしながら、第8階層の階段の部屋を『特別ボスの間』に改造したです。今度は戦闘とかは無いですから、精々楽しく戯れて来るがいいです」
そうラルは言い放ち、そして僕達の目の前の景色は最下層の部屋から全く違う場所――でもどことなく見覚えのある場所に変わった。
「この階段ってさっきの入れなかった……私達、転移させられたって事?」
「うん、そう言ってたね。あと戦闘は無いとも」
「楽しく戯れて?」
そんな僕達の疑問に答えるように、部屋中に溢れる――
「コボルト達……」
「大きいのも小さいのも……たくさんいるね」
「ああ。それに今度のはみんな穏やかで優しい目をしてるな」
それから僕達は――
全身優しさとモフモフに包まれ、さっきまでの擦り切れた心と身体を十分に癒し、そして――
「どうです? 満喫してきたですか?」
次の転移でまたラルのところに戻ってきた。
「うん、すっごく楽しかったよラル」
「お兄ちゃんに喜んでもらえてよかったです。あそこは『条件付きボスの間』に作り替えたですよ。もしあそこまで一体も倒さずに辿り着いたら癒やしの空間、そうでなければ通常のボス戦です。別にどっちを選んでもペナルティとかは無いですから、好きな方を選べばいいです」
はははっ、この条件付きボスの間がここの一番の名物になったりしてね。
でも、まだ階段を降りられない子供たちが羨ましがるかもしれないなあ。
そんなみんなは、いつかあのエリアでもふもふするのを目標に頑張れ!
そのあとは、ここまでの感想や感じた改善点なんかをラルに伝えて――
「じゃあ絶対また来るです。中級坂を磨いて待ってるですよ」
そうラルに見送られ、そしてセントラルダンジョンを出た。
今回のセントラルダンジョン探索、これにて終了っ!
▽▽▽▽▽▽
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「ギャインッ」
「ギャンッ」
僕達を追って走ってきたコボルト達が、次々と鼻を界壁に激突させていた。うわっ、痛そう……
「カルア、あの界壁ってどれくらい持ちそう?」
「集中してればずっと張ってられるけど、多分次にコボルトと遭遇したら……」
「集中が途切れるかもって訳ね。分かったわ、じゃあ…………全員走れぇーーーーっ!!」
コボルト達が涙目で蹲ってる今のうちに距離を稼ぐ!
僕達は走り出した。そしてその行く手に次々と現れるコボルトまたコボルト。
コボルトアキタ、コボルトダルメ、コボルトサモエド、コボルトチャウチャウ……
体が大きいから避けるのが大変だけど、その代わり多少荒っぽくても平気そうだ。
って事で、彼らには撲撲棒で軽ーく優しーく後ろ方向に飛ばす感じで対処して。
こうして走り続けること数10分――
「つ……着いた……」
ようやく僕達はこの階層を踏破した。
「さあ、急いで階段降りるわよ。ヤツらが来る前に!」
僕達は頷き、急いで階段に――
「っ!? 入れない!」
「ちょっ、これ結界? まさか……」
「あいつらを倒さない限り、先へは進ませないって事か!」
呆然と立ち竦む僕達、その耳に遠くから響く鳴き声が、だんだんこちらへと近付いて来るのが分かる。
ワンワン、バウバウ、ワフッ、ウオーーン、グルルルル……
そして――
「うふふふふふふ」
アーシュが――
「もういい。付き合ってあげるのはここまでよ。カルア、私達をあの子の所に跳ばしなさい!」
キレた。
「絶対泣かす!」
今のアーシュを連れて行きたくないなぁ。
でも――
ギャウワウバウガルウッッ!!
ああ、来ちゃった。
「【転移】っ!」
「カルアお兄ちゃん、お疲れさま! です」
目の前には満面の笑みのラル。そんなラルに――
「セーンートーラールーーー!」
今にも掴み掛かりそうなアーシュ。
「アーシュ、落ち着いて……」
冷静に、ね?
「あんた何よアレ! あんな可愛い子達をけしかけるなんて どういう事よ! 酷いじゃない!」
そんなアーシュの言葉に、ラルは人差し指を軽く唇に当てて少し考えて、そして『ああ』と手を打った。
「コボルトの事ですか? そういえば結局一匹も倒さなかったですね」
全く悪びれる様子もないラルに、アーシュのイライラはMAXに!
「そりゃそうよ! だってあんなに――」
「可愛かったからです? でもあれ、魔物ですよ?」
「それでも!」
あれ?
何だろう、ラルの言ってる方が正しいような気が……?
「でも魔物ですよ?」
「けど」
アーシュもそう感じ始めたのか、勢いが……
「毛の生えたゴブリンみたいなものですよ? ゴブリンは楽しそうに倒してたですよね?」
「そっ……でも……」
おおっ、ラル凄い!
アーシュの勢いを正面から完全に止めたよ。
「アレって、言ってみればハニートラップみたいなものです。皆さんハニトラに引っ掛かって走り回ってただけです」
「そっそんな……事……」
ラル……その通りなんだけど言い方……
「生み出す側の立場から言わせてもらうと、ゴブリンとコボルトに違いはないです。必要な魔力は同じくらいです。選択してオプションのカスタマイズを適用するだけですよ」
そんなラルの冷静な説明に、ノルトが『ああ、そういう事か』と頷いた。
「えっとさ、つまり……立場が変われば見方が変わる、って事だと思う」
ああそうか。
出てきた魔物の対処をする僕達は、その見た目や動きを見てどんな魔物かを判断する。でもそれを生み出す側のラルは、全ての魔物をフラットに見てるんだ……
「せっかく生み出した魔物達が冒険者達に倒されていくのは、やっぱり見ていてつらいですよ? それはゴブリンでもコボルトでも一緒です」
「それは……そうよね、ごめんなさい」
あ、とうとうアーシュがラルに謝った。アーシュってば根が素直だから。
「でもそれはそれで別に構わないです。だってそういうものだからです。倒された魔物達はその魔力がダンジョンに吸収されて、それがダンジョンの魔力を経て根幹の魔力の一部に戻るです。これが魔物の輪廻で循環なのですよ」
あ、それって……
セカンケイブのゴブリンソーサラーが言ってたあれの事?
『……夢を見タ。何度も何度も殺される夢ダ。ある時は剣で斬らレ、ある時は棒で殴らレ、またある時は素手デ……そして最後は突然意識を失くした。その夢でワタシを殺すのハ、いつも必ずお前達だっタ』
そう、そんな言葉。
「ねえセカン、君のダンジョンで僕達を転移させたゴブリンソーサラーの言葉って……」
僕の問い掛けにセカンは神妙な表情で小さく頷く。
「あの子はね、あまりに短期間で繰り返し倒されたせいで、根幹の魔力の一部に戻る前にリソースとしてそのまま次のソーサラーに再使用されてたの。記憶が混入した魔力がリセットされずにそのまま引き継がれ、蓄積していったのね」
「そっか……」
魔物が死んだ時、その記憶は魔力に溶け込んで魔石に入っていくんだとしたら……
【スティール】で倒した魔物には魔石が無いから、その記憶はそのまま……
そんなちょっとイヤな考えが浮かんで思わず頭を振った。
「ふふっ、それは考えすぎよ。魔石と記憶は関係ないから」
そんな仕草で僕の考えがセカンに筒抜けだったみたい。
でもそうか、関係ないのなら良かったよ。
そんな僕とセカンのやり取りをよそに、ラルの言葉は続く。
「――とまあ、そんな訳ですよ。ただこのエリアは冒険者の皆さんにそんな弱さを克服してもらえるようにって、特別可愛い子たちを揃えたですけどね。狙い通りです。どうでした、可愛かったでしょ?」
「ええ、それは間違いないわ」
アーシュはそう小さく肩を竦め、みんなも頷いた。
「それでは、そんなみんなにラルからの特別プレゼントです。考えてみれば一体も倒さずにクリアするっていうのは、それはそれで覚悟と強さの体現だと思うです。 そんなひと達のために、今こうして話をしながら、第8階層の階段の部屋を『特別ボスの間』に改造したです。今度は戦闘とかは無いですから、精々楽しく戯れて来るがいいです」
そうラルは言い放ち、そして僕達の目の前の景色は最下層の部屋から全く違う場所――でもどことなく見覚えのある場所に変わった。
「この階段ってさっきの入れなかった……私達、転移させられたって事?」
「うん、そう言ってたね。あと戦闘は無いとも」
「楽しく戯れて?」
そんな僕達の疑問に答えるように、部屋中に溢れる――
「コボルト達……」
「大きいのも小さいのも……たくさんいるね」
「ああ。それに今度のはみんな穏やかで優しい目をしてるな」
それから僕達は――
全身優しさとモフモフに包まれ、さっきまでの擦り切れた心と身体を十分に癒し、そして――
「どうです? 満喫してきたですか?」
次の転移でまたラルのところに戻ってきた。
「うん、すっごく楽しかったよラル」
「お兄ちゃんに喜んでもらえてよかったです。あそこは『条件付きボスの間』に作り替えたですよ。もしあそこまで一体も倒さずに辿り着いたら癒やしの空間、そうでなければ通常のボス戦です。別にどっちを選んでもペナルティとかは無いですから、好きな方を選べばいいです」
はははっ、この条件付きボスの間がここの一番の名物になったりしてね。
でも、まだ階段を降りられない子供たちが羨ましがるかもしれないなあ。
そんなみんなは、いつかあのエリアでもふもふするのを目標に頑張れ!
そのあとは、ここまでの感想や感じた改善点なんかをラルに伝えて――
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