【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト

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第一章 魔塔の主との契約結婚

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 シルファは絶句した。
 彼の話によると、退行魔法を使ったのが二十三歳の時。それから五年も子供の姿で生きてきたというのだ。


「身体が子供のものであれ、知識や記憶、魔力の含有量については元の状態であったのが不幸中の幸いだった。魔力を膨大に消費する魔法は身体への負担が大きくてできんが、高いところに手が届かないこと以外はさほど生活に苦労はしていない。だが、俺以上に焦りを見せたのが魔法省だった」


 続くルーカスの話によると、魔塔を統べる者が自らの魔法を解除できずに子供の姿となってしまったということはかなり外聞が悪い。その上、子供の姿では子を成すことができない。歴代一の魔導師と謳われるルーカスの血を引く者ができないことは国の損失であると頭を抱えた。

 だが、いつかきっと元の姿に戻る日が来る。半ば願望に近いが、そう結論付けた魔法省は、再びルーカスに結婚するようにと干渉してくるようになったという。


「この姿で外に出ることは許されていないからな。俺は五年間この魔塔最上階の研究室に篭りきりの生活をしている。俺が子供の姿になったことは、魔法省によって重要機密事項と位置付けられることになった。だから、見合い相手にわざわざ口外禁止の誓約魔法を施した上でここに送り込んでくるのだ。だが、いつ元に戻れるとも限らない男に嫁ぎたいと思う女はいない。その上、見合い内容は誓約魔法によって口外できないときた。塔を降りた見合い相手は口を噤み、俺の話題を避ける。おまけに誓約魔法のペナルティに怯え、その顔色は真っ青。その様子があらぬ憶測を呼び、次第に俺は冷徹魔導師と畏怖されるようになっていた」


 なるほど、シルファが耳にした噂の元凶はこれだったのだ。

 誓約魔法があったから、お見合いから戻った令嬢たちは皆青ざめた顔で逃げるように魔塔から去っていったのだ。

 色々と合点もいったが、そのことはシルファがここに呼ばれたことと何ら関係ないように思える。話の終着点が見えずに困惑の色を深めるシルファに、ルーカスは一息ついてから今日一番の悪い笑みを浮かべた。


「さて、君は国の重要機密事項を知ってしまったことになる」

「……あっ!」


 シルファは今更ながら、ルーカスの話そのものが国の重要機密事項であることに気がついた。しかも、シルファは誓約魔法を施されていない。

 一体何が目的なのか。
 厳重処分を下してシルファを魔塔から追い出すつもりなのだろうか。

 疑念の目で、ルーカスの黄金色の瞳を見つめ返す。


「ここからが本題だ。シルファ嬢、俺と契約結婚をしないか?」

「…………えっ?」


 今、なんと言ったのだろう。契約、結婚?

 予想外の単語が飛び出してきたため、シルファはパチパチと目を瞬くことしかできない。


「悪いが、君のことは調べさせてもらった。といっても、魔塔の職員なのだから、ある程度のことは把握しているのだが……俺は、シルファ嬢の魔力を吸収し、中和する特殊な力に退行魔法解除の手がかりを見出している」

「私の力?」

「ああ。少しずつ俺に刻まれた退行魔法の術式から、魔力を吸い取ってもらう。地道に魔力を吸い取っていけば、いずれは退行魔法を解除することができるかもしれない」


 確かに、ルーカスの退行魔法解除の妨害となっている膨大な魔力を吸い取ることができれば、彼は元の姿に戻れるかもしれない。だが、それならば結婚せずとも助力は惜しまない。どうしてわざわざ結婚する必要があるのだろうか。


「魔力を吸うために結婚する意味が分からないという顔だな」


 図星を指されて思わずびくりと肩を震わせてしまった。これでは肯定しているようなものだ。


「もちろん、一番の理由は退行魔法の解除だが、それだけではない。先ほどから説明しているように、俺は魔法省のジジイどもに口うるさく結婚しろと言われ続けている。元の姿に戻ったところで、その雑音は大きくなるばかりだろう。だが、君と結婚すれば、耳障りな小言からおさらばできるというわけだ」


 なるほど、確かにそれなりに利のある結婚のように思える。


「それに、君にとっても悪い話ではないと思うぞ?」

「え?」


 シルファにも利点があるとはどういうことだろうか。


「君の身辺調査をしていて気づいたことがある。君は上司のデイモンに言い寄られているのだろう? はっきりと断りたいが、相手がなまじ貴族であるがために強気な態度に出ることができない。違うか?」


 探るようなルーカスの瞳から目を逸らすことができない。

 息を呑んだシルファの態度を肯定と判断したらしく、ルーカスは言葉を続ける。


「申し訳ないが、ただ誘いを受けているという現状だけでは処罰を下すことはできない。だが、魔塔の最高責任者である俺と結婚してしまえば、デイモンから誘いを受けることはなくなるだろう。流石に俺の妻に手出しをしようという馬鹿はいないだろうからな。その上、魔塔のトップの妻に雑用を押し付ける猛者もおるまい。どうだ? 俺にもお前にも、悪い話ではないだろう。互いに利があるとは思わないか?」

「そ、それは……」


 つまり、ルーカスの庇護下に入ることで、執拗に言い寄ってくるデイモンだけではなく、日々他部署から押し付けられる雑務からも解放されるということか。

 それはなんとも魅力的な誘いに聞こえるではないか。

 実家の後ろ盾もなく、魔力も放出できないシルファにこれ以上の良縁は望めないだろう。
 元より幸せな結婚は諦めていた。一生独り身で、仕事を生き甲斐に魔塔で生きることになるのだろうと、そう思っていた。

 期待して、再び失うぐらいなら、もう家族はいらないと、そう思っていた。

 それならば、シルファを必要としてくれ、かつ双方に利点のある提案をしてくれた彼に乗るのもいいかもしれない。


「それに、シルファ嬢は魔塔に籍を置いていて、実家の子爵家との縁は切れている。貴族特有の付き合いも気にしなくていい。実家に婚姻の承諾を取る必要もない。これ以上にないほど君が適任なのだ」


 前向きに思考が働きかけていたシルファは、ルーカスの言葉に目を見開いた。

 そうだ、シルファを戸籍ごと買い取ったのは、他の誰でもない魔塔の最高責任者――つまり目の前にいるルーカスその人なのだ。

 それはつまり、ルーカスがシルファの身の上を知っているということを表す。


 シルファはゆっくりと目を閉じ、魔塔に籍を置くに至った経緯を思い返した。
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