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第二章 新しい生活
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しおりを挟むシルファが魔塔の最上階に来て一ヶ月半が経過した。
午前中は魔導具のメンテナンス作業に注力し、午後はルーカスの研究や事務仕事の手伝いに奔走する日々を送っている。そのため、時間はあっという間に過ぎていった。
今ではシルファがたまに食事の準備を任されることもあり、真心込めて作った料理を美味しい美味しいと食べてもらえることにささやかな幸せを感じている。ルーカスはどうやらピーマンが苦手のようで、いかにバレずに彼に食べてもらうかが目下の目標である。
まだたったの一ヶ月半。けれど、すでにシルファはこの場所で過ごす時間が大好きになっていたし、着実に魔法に対する理解も深まり、メンテナンスで回路を読み取る時にも日々の勉強が随分と役に立っていると実感している。
ルーカスの退行魔法の解除を妨害している魔力も、少しずつではあるが減少しつつある。
大好きな魔導具に囲まれ、シルファにしかできない役割を与えられ、充実した日々を送っている。
毎日程よい疲労感と幸福を噛み締めながら布団に入ると、不思議とよく眠れる。魔塔に来た日を最後に、めっきり魔導ランプのオルゴールの力を借りることがなくなっていた。
そしてある日、いつものようにシルファが魔導具に溜まった魔力を吸い取っていると、怪訝な顔をしたルーカスがデスクに近づいてきた。
「随分と新しい魔導具だな」
「そうですね。言われてみれば、故障には早すぎる気もします」
シルファが作業していたのは、小型の保冷庫。
魔力は滞留し過ぎると熱を発する。保冷庫は魔力の滞留との相性が最悪な上に、普及率も高いため、メンテナンスの依頼が多い魔導具の一つだ。
けれど、今シルファが魔力を吸い取った保冷庫は汚れも目立たず光沢もある。せいぜい購入してから二年、いや一年程度の代物かもしれない。
(あまり考えたくはないけれど、不良品……だったのかしら)
人の手で作るものなので、いくら品質管理室が出荷前に最終チェックをしているとはいえ、まれにこうして回路に問題があるものや、魔力の巡りが良過ぎて劣化が早いものが生まれてしまう。
シルファはさして疑問を抱かなかったが、ルーカスはどこかスッキリしない顔をして保冷庫を睨みつけている。
「エリオット、少し気になる。調べてくれるか」
「かしこまりました」
ルーカスは保冷庫を手に取り、まじまじと観察した後、エリオットに簡潔に指示を出した。
エリオットは保冷庫を軽々と抱えて、奥の書庫へと入っていってしまった。
「ルーカス様、何かおかしなところがございましたか?」
シルファには気づけなかったが、あの保冷庫には何か欠陥があったのだろうか。
そう思って尋ねると、ルーカスは頭をガジガジ掻いてからシルファのデスクの側面にフックで吊るされている管理簿を手に取り開いた。
「シルファがここに来てから、メンテナンス依頼が徐々に増えている気がする」
「え?」
驚いて管理簿を覗き込むと、日によってムラはあるが、確かに平均値を算出すると最近の方が依頼数は多い。
シルファが地下で作業をしていた時は、多くてもせいぜい十件。ところが、最近では少なくても十件、多い日には二十件に届こうかという日もある。
そんな日は、昼を回っても作業が終わらず、昼食後もしばらく作業が続いていた。
(少しずつ依頼数が増えていたから、気づかなかった……改めて見ると分かりやすく増えているわね)
「魔導具を大事にする風潮でも広がっているのでしょうか?」
メンテナンス数が増えるということは、それだけその魔導具を長く使いたいと利用者が思っているということ。
そう考えたシルファの頬は思わず緩んでしまう。
だが、ルーカスの表情は晴れない。
「そうだな。シルファの言う通りならば憂うことはないのかもしれない。だが、魔導具自体に何か欠陥があるのであれば素直に喜ぶこともできない。とにかく分析はエリオットに任せてシルファは今まで通り魔導具の滞留魔力を吸い取ってやってくれ」
「はい」
シルファにできることは限られているかもしれない。けれど、何か不審な点に気づいた時はすぐにルーカスに報告するようにしよう。そう思いながら、シルファは次の依頼を確認した。
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