【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト

文字の大きさ
30 / 46
第三章 立ち込める暗雲

5

しおりを挟む
 少し前までのシルファだったなら、魔力を放出できない出来損ないが魔導具製作を夢見るなんてと笑われることを恐れて、大切な夢を書き綴ったノートを他の誰かに見せることはしなかった。

 けれど、ルーカスならば――そう信じる気持ちがシルファの背中を押してくれた。

 彼を信じる心と共に、胸の奥底から彼への想いが込み上げてくる。

 ああ――ただまっすぐに、ひたむきに、シルファを認めて未来を明るく照らしてくれるこの人が大好きだ。

 日々気持ちは降り積もるばかりで、この想いはもう疑いようもない。


「まずは簡単なものから作ってみようか。このインクの補充が不要な羽ペンはどうだろうか」

「はい! 魔力で圧縮したインクを含ませて、文字を書いているときに一定の間隔でインクが循環する仕組みを回路で組めたら面白いなと思っているのですが……」


 溢れ出そうになった言葉をグッと飲み込み、ルーカスと共にノートを覗き込んでこれまでに記してきたアイデアを辿るように指でなぞる。


「仕組み自体は面白い。だが、それだけだといずれインク切れを起こすだろう。例えば、増幅魔法の術式を組み込んで、インクの残量が一定量を切ったことを合図にして増幅魔法を発動させる。増幅魔法によってインクが満たされるようにすれば半永久的に使えるんじゃないか?」

「な、なるほど……! 増幅魔法。そっか、どうして思いつかなかったんだろう……二人で知恵を合わせれば、どんどんいいアイデアが浮かびますね」


 これまでは密かに黙々とノートにアイデアを記載するだけで、それを実現させる予定も希望もなかったのに、シルファは今、新たな魔導具制作に携わっている。

 楽しい。
 ルーカスの補助ありきのものであるが、表情が緩んで仕方がない。

 その後も、二人でああだこうだと意見を述べ合い、回路の設計図を書き始めた。時折、エリオットも助言をしてくれて、三人で頭を悩ませながら構築を続けた。

 業務の隙間時間を使い、数日かけて設計図を書き上げ、とうとう試作品が完成した。


「ほら、シルファ。これは君が最初に使ってみるべきだ」

「すごい……」


 回路を刻み終えた羽ペンを恐る恐る受け取る。ルーカスが用意していた紙にクルクルッと無数の円を描いていく。


(ペン先にインクをつけていないのに書ける……それに、いくら書き続けていてもインクがなくなる気配がないわ)


 これは、大成功ではないだろうか。

 思わずルーカスの様子を窺うと、彼はこれまで見てきた中で一番優しい笑みを浮かべてシルファを見つめてくれていた。


「よく頑張った」


 ワシワシと頭を撫でられ、ジンと胸の奥が熱くなる。

 もちろん、この魔導具はシルファ一人の力では作り上げることができなかった。
 シルファがアイデアを出し、ルーカスとエリオットが技術的な指摘をしてくれて、三人で試行錯誤を重ねて出来上がった魔導具だ。

 けれど、何も生み出すことができないと言われてきたシルファが初めてこの世に生み出したもの。


「仕組みはシンプルだが、きっと需要はある。特許を申請して実用化を目指そう」

「は、はい!」


 ルーカスも実際に羽ペンの使用感を確認し、満足げに笑みを深めた。意外なことに一番感動していたのはエリオットで、日々書類仕事に追われている彼にとってはかなり画期的なアイテムとなったようだ。


「さて、発案者であるシルファ、君の証を魔導具に記そう」

「え?」


 羽ペンを色んな角度から見て感傷に浸っていたシルファはキョトンと目を瞬いた。


「君が生みの親だという証だ。俺はいつも自分が製作した魔導具に、太陽のシンボルを刻んでいる。その魔道具が、誰かの生活を明るく照らしてくれるようにと願いを込めてな」


 ルーカスはサラサラッと紙に太陽のシンボルを描いて見せてくれた。丸を中心に、小さな三角が八個、等間隔で並んでいる。

 ルーカスが描いた太陽を見て、シルファの頭には自然とあるマークが思い浮かんでいた。

 羽ペンを握り直し、ルーカスの太陽の隣にゆっくりと描いていく。


「では、私は三日月を。昼間はルーカスの太陽が照らしてくれるので、私は夜を照らす月になります」


 太陽の隣に控えめに並んだ三日月。
 月は自ら光を放つことはできないが、眩い太陽の光を受けて輝くことができる。

 まるでルーカスとシルファの関係のようだ。

 ニコリと微笑んで見せると、ルーカスはグッと少し息を呑み、頬を染めて視線を逸らした。




 ◇


 その日の夜、シルファはふと思い立って魔導ランプを手に取った。

 魔導具の開発者は大抵自分の証を刻むものだとルーカスが言っていたので、もしかするとこの魔導ランプの製作者に繋がるヒントが隠されているかもしれないと思ったのだ。

 魔導ランプを膝に乗せ、隈なく観察する。

 そして、見つけた。


「太陽のシンボル……」


 それは、ランプシェードの内側に控えめに刻まれていた。

 昼間に教えてもらったばかりのシンボルがそこにあることが意味することは――


「これを作ったのは、ルーカス?」


 まさかずっと会ってお礼を言いたいと思っていた人物が、ルーカスだったなんて。

 そうか、そうだったのだ。
 ルーカスはずっと、シルファを照らしてくれていた。ずっとずっと、シルファを見守り、支えてくれていたのだ。このランプを手にした時からずっと、ルーカスはシルファにとっての太陽だったのだ。

 涙と共に胸に込み上げてくる愛おしい想い。もっと、もっと彼のことが知りたい。彼の支えになりたい。

 そう思い、ズ、と鼻を啜ったタイミングで執務室に続く扉が開かれた。

 慌てて服の袖で涙を拭い、魔導ランプを元の位置に戻した。


「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません」


 ルーカスが怪訝な顔で覗き込んでくる。ルーカスは勘がいいので、急いで話題を転換する。


「さ、今日の魔力吸収をしてしまいましょう。両手を出してください」

「む、そうだな」


 シルファが両手を広げると、ルーカスは怪訝な顔をしつつも素直に両手を乗せてくれる。
 それだけでも信頼されているのだと感じ取れて、胸がキュッと切なくなる。

 シルファはゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせてから、ルーカスの中に渦巻く魔力の奔流を探った。誘導するように魔力の一部を吸い取って、中和する。

 空気中に中和された二人の魔力がふわりと浮き上がり、優しい光を放って溶けるように消えた。


「終わりました」

「ありがとう。もう少しで退行魔法の術式に干渉できるような気がする」


 ルーカスは魔力の感覚を確かめるように両手を握って開いてを繰り返している。

 彼の言う通り、始めは魔力が高密度で密集しているイメージであったが、今は境界が曖昧になっているように感じる。燃えたぎるマグマのような濃密な魔力はもう感じない。毎日コツコツと続けてきたことで、かなり魔力を吸い取ることができたのだろう。


 きっともうすぐ、ルーカスの退行魔法は解除される。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された無能才女の私、敵国最強と謳われた冷徹公爵に「お飾りの婚約者になれ」と命じられました ~彼の呪いを癒せるのは、世界で私だけみたい~

放浪人
恋愛
伯爵令嬢エリアーナは、治癒魔法が使えない『無能才女』として、家族からも婚約者の王子からも虐げられる日々を送っていた。 信じていたはずの妹の裏切りにより、謂れのない罪で婚約破棄され、雨の降る夜に家を追放されてしまう。 絶望の淵で倒れた彼女を拾ったのは、戦場で受けた呪いに蝕まれ、血も涙もないと噂される『冷徹公爵』クロード・フォン・ヴァレンシュタインだった。 「俺の“お飾り”の婚約者になれ。お前には拒否権はない」 ――それは、互いの利益のための、心のない契約のはずだった。 しかし、エリアーナには誰にも言えない秘密があった。彼女の持つ力は、ただの治癒魔法ではない。あらゆる呪いを浄化する、伝説の*『聖癒の力』*。 その力が、公爵の抱える深い闇を癒やし始めた時、偽りの関係は、甘く切ない本物の愛へと変わっていく。 これは、全てを失った令嬢が自らの真の価値に目覚め、唯一無二の愛を手に入れるまでの、奇跡の物語。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ? 

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。

稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」 兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。 「取引……ですか?」 「ああ、私と結婚してほしい」 私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか…… ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。  * * * * * * * * * * * *  青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。 最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。 リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。 ※ゆる〜い設定です。 ※完結保証。 ※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。

処理中です...