【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト

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第三章 立ち込める暗雲

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「シルファ・カーソンはいるかしら?」

「シルファ……カーソン、ですか?」


 フレデリカは翌日、早速フローラと共に魔塔へと足を運んでいた。

 魔塔の従業員に取次をするためにはまず受付を通さなければならない。

 ニコニコと他所行きの笑顔を貼り付けるフレデリカに対し、受付の女性は怪訝な顔をしている。


「シルファという名前の職員はおりますが、カーソン子爵家との縁者はこの魔塔にはおりません。お引き取りくださいませ」

「はあっ!? なんですって!?」


 受付の女性は入口の扉を手で差してフレデリカに帰るように言う。

 受付には商会の人間や職員の家族など、毎日多くの人がやってくるため、声を裏返らせて受付の女性に食ってかかるフレデリカに無数の視線が集まった。


「お母様、お姉様に会えないの?」


 呑気なフローラは人差し指を唇に当てながら、のほほんとしている。


「い、いいえ。きっと何かの手違いよ。ああ、そうだったわ。あの子は結婚したのだから姓が変わっているのよ。ええっと……なんだったかしら、そう、オルディル。シルファ・オルディルならいるでしょう?」


 頬を引き攣らせながら辛うじて笑顔を保つフレデリカであるが、受付の女性はゆっくりと首を左右に振る。


「申し訳ございませんが。一切の面会を拒絶されておりますので、お通しすることはできません」

「どうしてよっ! 仕事のできない女ね!」

「お褒めに預かり光栄でございます」


 澄まし顔で淡々と述べる受付の女性は、再び入口の扉へと誘導するように手で指し示す。


「あまりしつこいようでしたら、警備隊を呼びます。大きな騒ぎにしたくはないでしょう? どうかお引き取りください」


 あちこちから、こちらを指差しヒソヒソと話す声が聞こえてくる。「あれはカーソン家の?」「最近借金に追われて大変らしいぞ」「あれだけ贅の限りを尽くしていれば致し方あるまい」など、遠慮のない言葉が降り注ぐ。

 体裁を気にするフレデリカは醜聞の的にされることに耐えられなかった。


「……チッ、分かったわよ」

「ええっ、お母様!?」


 一人空気が読めずに不満げなフローラを連れて、フレデリカはそそくさと魔塔を後にした。


「どいつもこいつも役に立たない……! 好き勝手に言ってくれるじゃない。今に見てなさいよ」


 フレデリカはガチガチと親指の爪を噛みながら足早に路地裏へと入っていく。

 大通りは人の往来が活発だが、一本裏道に入れば人数はグンと減る。

 フレデリカはあちこちの商会の支払いを踏み倒しており、貸金業者からも督促される身であるため、あまり大きな顔をして大通りを歩くことはできない。路地裏は人目を避けるにはもってこいなのだ。


「ねえねえ、お母様。どうしてお姉様と会えないの? 私、早く魔塔の最高責任者様の元へ行きたいわ。きっと素敵な殿方に違いないもの! それに、せっかく街に出てきたのだから、いつものドレスショップでお買い物しましょうよう」


 フレデリカの後ろから、唇を尖らせたフローラが不満げに追ってくる。

 どうしてシルファと会えないのか? そんなもの自分が知りたい。

 それに、フローラが行きたいと言うドレスショップは前回の買い物の料金をまだ支払い終わっていない。今顔を出すわけにはいかないのだ。

 せっかく借金返済の光明が差したと思ったのに、当てが外れてしまったフレデリカの苛立ちは収まらない。長く暗いトンネルの出口が見えたと思ったら、土砂崩れで出口が埋まってしまったような気分だ。


「すみません、少しお話よろしいでしょうか?」

「誰っ!?」


 さて、どうやって今月分の支払いを乗り切ろうかと頭を痛めていると、物陰から突然声をかけられた。

 フレデリカは警戒心を露わにし、キョトンと目を瞬くフローラを後ろ手に隠した。


「ふふ、そう警戒しないでください。きっと、私たちは良きパートナーとなることができる」

「は? 一体何を言っているの?」


 物陰から出てきたのは、人好きのする柔和な笑みを携えた男だった。

 ニコニコと微笑んではいるが、どこか胡散臭さを感じる。


「この話はあなたたちにとっても悪い話じゃない。さあ、場所を移すとしましょうか、カーソン子爵夫人」

「あ、あなた……どうして私の名を」


 キッと睨みつけるが、相手はたじろぐ様子もない。

 美味しい話には裏がある。
 それはこれまで散々痛い目を見て知っている。

 だが、もうフレデリカは崖っぷちに立たされている。この男を信じるかどうかは後回しにして、まずは話の詳細を聞いてみてもいいかもしれない。


「……いいわ。ただし私一人で話を聞きましょう」


 チラリと背に隠したフローラに視線を向ける。
 どんな危険が潜むか分からないところに、可愛い娘を連れていくわけにはいかない。

 状況を理解できていないフローラは、パチパチと桃色の丸い目を瞬いている。


「いいでしょう。では、後ほど。場所はこちらの紙に書いてあります」


 まるでこうなることを見越していたかのように、男は胸ポケットから一枚の紙片を取り出した。フレデリカは奪い取るようにその紙片を手にして一瞥した。


「……分かったわ。一時間後にこの場所に行きましょう」

「前向きな返答に感謝します。それでは、良き取引をいたしましょう」


 胡散臭い笑みを深め、男は不気味な笑い声を響かせながら路地裏の影に消えていった。
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