【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

水都 ミナト

文字の大きさ
45 / 46
エピローグ

1

しおりを挟む

「流石にこの部屋を片付けるにはあと数日は欲しいね」

「ええ、せめて人手が欲しいわね」


 シルファは同僚のサイラスと共にメンテナンス部が配置されている地下室を掃除しながら深いため息をついた。

 デイモンを拘束したあの日、港町ルビトでの調査を終えたシルファたちは、その日のうちに魔塔へと帰還した。
 ルビトはスペンサー伯爵領と隣接しており、デイモンが手を加えた魔導具の多くが流されていたためにメンテナンスの依頼量が他の都市と比べて多かったことが分かった。

 デイモンの細工は、彼の好きなタイミングで蓄積した魔力を暴発できるものだった。
 シルファが最上階に席を移してから依頼数が急増したのは、単にデイモンの嫌がらせだったのだろう。

 一歩間違えれば大事故にも繋がりかねない工作ということで、重い罪に問われることになるだろうとルーカスが教えてくれた。

 継母のフレデリカと義妹のフローラも、シルファ誘拐の共犯ということで取り調べを受けた。そして、多額の借金返済も兼ねて、地方に送られ強制労働の刑が言い渡された。
 子爵位は国に返上することとなり、屋敷や家財は全て没収。領地や領民は国の管轄下に置かれて運営されることが決まった。

 こんな状況でも領地を捨てずに奮闘してくれていた領民のことが気がかりであったが、国から役人が派遣されて再興に向けて動き出している。


「まさか、部長が不正をしていただなんて……未だに信じられないよ」

「本当にね……」


 必要な書類や記録を箱に詰めながら、サイラスは瞳を伏せた。
 魔導師としてのデイモンを尊敬していたサイラスにはショックが大きかったらしい。

 あの一件からすでに季節が一つ進み、もうすぐ春が訪れようという頃合いとなっているが、なかなか折り合いがつけられないようだ。


「それにしてもこの数ヶ月は本当に忙しかったよ……」

「目が回りそうだったわよね」


 デイモンの不正については、嘘偽りなく魔塔内に知らされた。

 デイモンの罪を暴いたルーカスを称賛する声もあれば、長きに渡りデイモンを泳がせてしまっていたことを追求する声も上がった。
 ルーカスは魔塔の最高責任者として、今回の件を重く捉え、魔塔の仕組みを刷新することを提唱した。
 実力や適性に応じて配置換えを行い、どの部署も等しく重要で尊重すべき仕事をしていると明言したのだ。魔塔の上層ほど緻密で難解な作業を行う部署が配置されていたが、「上層の部署ほど偉い」という構図を壊すために魔塔内の部署の配置もガラリと変えることになった。関連部署を近くに配置し、横の連携が取りやすいように作業の流れを意識した配置が考えられているところだ。

 各部署や研究室はものが散乱してすぐに移動できる状態ではなかったこともあり、次の春に向けて一冬かけて準備が進められた。

 通常業務と並行して作業の引き継ぎや部署の引越し準備に終われ、魔塔に所属する魔導師は皆多忙を極めた。さらには春を迎える前に予定されていた開放市は生まれ変わった魔塔のアピールの場となるからと、予定通り開催が決まったのでてんてこ舞いであった。

 とりわけルーカスは、元の姿に戻ったことで最上階から積極的に外に出て姿を見せるようになった。彼を取り巻く様々な噂話を一蹴し、生来のカリスマ性を発揮して魔塔を改めて一つにまとめ切った。

 冷徹魔導師と名高い魔塔の主が、実は気さくで面倒見のいい美丈夫だということで、今やルーカスに認められることが魔塔で働く魔導師の目標でありモチベーションとなっている。


 そしてもう一つ。
 ルーカスに関して魔塔の全員が認識を改めることがあった。


「シルファ、君も幸せそうで何よりだよ」

「そうね。素敵な夫と同僚を持って、とても幸せよ」


 サイラスの言葉に、シルファは苦笑しながら答えた。

 今やルーカスを冷徹魔導師と揶揄する者はいない。
 ルーカスは魔塔内で堂々とシルファに愛を囁き、慈しみ、蕩けた笑顔を向ける。

 意外なことに、所構わず甘い雰囲気を醸し出す二人を周囲は温かく受け入れた。愛妻家、嫁の尻に敷かれているなど、一気に親しみやすさが増したようだ。

 シルファに対する評価も、デイモンの一件を契機に随分と変わった。

 デイモンが細工した魔導具はまだまだ市井に広がったままであった。
 デイモンの担当した魔導具の記録から該当する魔導具を特定して回収し、回路の修復を行う必要があった。

 その作業を一手に担ったのがシルファとサイラスの二人が所属するメンテナンス部だったのだ。

 毎日大量に持ち込まれる魔導具の余剰な魔力を的確に吸収し、デイモンの細工を紐解いて正しい回路を刻み直す。どちらも二人にしかできない緻密かつ専門的な作業であったのだ。

 これまで最底辺だと馬鹿にされていたメンテナンス部は、すっかり重要な部署の一つとして認められるようになった。

 シルファはメンテナンスの仕事に誇りを持っている。それは今も昔も変わらない。
 だがやはり、周囲に認められて嬉しくないわけがない。

 現に、今回の部署の配置換えでメンテナンス部は地下室ではなく正式に地上階に部屋を用意してもらえることになった。この地下室は、今後は倉庫として使用されることになる。


「片付けは進んでいるか?」

「ルーカス!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された無能才女の私、敵国最強と謳われた冷徹公爵に「お飾りの婚約者になれ」と命じられました ~彼の呪いを癒せるのは、世界で私だけみたい~

放浪人
恋愛
伯爵令嬢エリアーナは、治癒魔法が使えない『無能才女』として、家族からも婚約者の王子からも虐げられる日々を送っていた。 信じていたはずの妹の裏切りにより、謂れのない罪で婚約破棄され、雨の降る夜に家を追放されてしまう。 絶望の淵で倒れた彼女を拾ったのは、戦場で受けた呪いに蝕まれ、血も涙もないと噂される『冷徹公爵』クロード・フォン・ヴァレンシュタインだった。 「俺の“お飾り”の婚約者になれ。お前には拒否権はない」 ――それは、互いの利益のための、心のない契約のはずだった。 しかし、エリアーナには誰にも言えない秘密があった。彼女の持つ力は、ただの治癒魔法ではない。あらゆる呪いを浄化する、伝説の*『聖癒の力』*。 その力が、公爵の抱える深い闇を癒やし始めた時、偽りの関係は、甘く切ない本物の愛へと変わっていく。 これは、全てを失った令嬢が自らの真の価値に目覚め、唯一無二の愛を手に入れるまでの、奇跡の物語。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ? 

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。

稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」 兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。 「取引……ですか?」 「ああ、私と結婚してほしい」 私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか…… ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。  * * * * * * * * * * * *  青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。 最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。 リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。 ※ゆる〜い設定です。 ※完結保証。 ※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。

処理中です...