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エピローグ
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しおりを挟むすっかり物寂しくなった地下室を見渡して感傷に浸っていると、重い鉄の扉が開いてルーカスがひょっこり顔を出した。
シルファが駆け寄ると、ルーカスは嬉しそうにシルファを抱きしめた。
この光景も見慣れたものとなっており、サイラスは胸に小さな痛みを残しつつも、やれやれいつものことかと小さく息を吐く。サイラスはずっと、シルファの幸せを願っている。
「もうこんな時間だったのですね。掃除に夢中で時計を見ていませんでした」
「そうだぞ。一分一秒でも早く会いたくて迎えに来てしまった」
いつの間にか定時を過ぎていたようで、帰りが遅いシルファをルーカスが痺れを切らして迎えに来てくれたようだ。
過保護だなあと思いつつも、ルーカスの気持ちは素直に嬉しい。
「じゃあね、サイラス。また明日も頑張りましょう」
「うん、また明日」
サイラスに手を振り、地下室から出たシルファはルーカスにそっと身を寄せた。
「順調そうだな」
「配置換えの予定日には間に合いそうです。ルーカスも今日の仕事は終わりましたか?」
「ああ、後は当日の細かな導線の確認と魔導具の搬入ぐらいだな」
「いよいよですね」
「楽しみだ」
忙しい中、魔塔一同で準備を進めてきた開放市が三日後に迫っている。
シルファも自動インク補充型の羽ペンで出店するため、今から楽しみで仕方がない。
「開放市が無事に終わって、魔塔内の体制も落ち着いたら、ようやく少しゆっくりできそうだ」
「ルーカスがいつ倒れるのかって、気が気じゃありませんでしたよ」
「お互い様だろう」
シルファの言葉にルーカスは笑うが、決して冗談で言っているわけではない。
毎日定時過ぎまでメンテナンスの作業を行い、それから開放市の準備をする日々が三ヶ月ほど続いた。毎晩フラフラになり突っ伏すようにベッドに倒れ込んで泥のように眠った。
ルーカスはそんなシルファよりもさらに遅くにベッドに入り、シルファが起きるよりも早くに仕事を始めていた。
本人はやりがいがあって毎日楽しくて仕方がないと言うのだが、側で見ているシルファはずっとヤキモキさせられていた。
魔塔の最上階に向かう昇降機を待ちながら、ルーカスを見上げる。
すっかり大きくなったという表現も適切ではないのだが、元の姿に戻ったルーカスは想像していたよりも逞しくてずっとずっとかっこいい。
子供の姿であれ、ルーカスには違いないので、彼を愛する気持ちに偽りはなかったのだが、元の姿に戻ってすぐは、側に来られたり触れられたりすると心臓が飛び出そうになって慣れるのに時間がかかってしまった。
元の姿に戻ってからというものの、ルーカスはこれまで我慢していた分、事あるごとにシルファに愛を囁いてくる。それが嬉しくて、くすぐったくて、恥ずかしくて、シルファは幸せで仕方がない。
「ルビトではデートどころじゃなかったからな。落ち着いたら、二人でゆっくりと出かけよう」
いつか一人で街を歩いていたときに願ったこと。
元の姿に戻ったルーカスと並んで外を歩きたい。
ようやくその願いが叶うのだと、シルファは胸が熱くなる。
「はい! そのためにも、まずは開放市を成功させましょう」
「ああ、そうだな」
「たくさんの人が来てくれるといいですね」
ギュッとルーカスの大きな手を握ると、優しく握り返される。
穏やかな黄金色の目に見つめられ、シルファは笑みを深めた。
「一人でも多く、シルファの魔導具を手にして欲しいな」
「ふふ、誰か一人にでもいいので、いいなと思ってもらえると素敵ですね。私のように、運命的な出会いがあるかもしれませんし」
少しおどけて言ってみせると、ルーカスは僅かに唇を尖らせて頬を掻いた。これは彼が照れた時によく見せる仕草だ。
その時、チン、と昇降機が到着を知らせるベルが鳴った。
二人は並んで昇降機に乗り込んだ。
肩に重力が掛かる不思議な感覚には未だに慣れない。
そっと寄り添うと、ルーカスは優しく肩を抱いてくれた。肩を包む手が大きい。
「シルファ、笑わずに聞いてくれ。あの日、俺の未来を明るく照らしてくれたのは、シルファの笑顔だった。君が魔塔にやってきた時、俺を救ってくれたように、俺も君を救いたいと思った。夫婦という形で君を守ろうと考えたが、気がつけば心から愛おしいと思う存在になっていた」
「ルーカス……私も、あの日からずっとあなたに救われてきました。少しでも私の存在があなたの安らぎになるのなら、それ以上に嬉しいことはありません」
グッと肩を抱く手に力が入った。
「シルファ、愛している。これからも俺と共にいてくれるか?」
「はい、もちろんです。私も愛しています」
愛おしげに互いを見つめ合う二人を乗せて、昇降機は魔塔の最上階に向けてグングン上昇していく。
互いの未来を照らし、これからも二人は手を取り歩いていく。
<おしまい>
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またどこかでお会いできますように。
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