森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

森の新生活

第3話 薬草園の開墾

　小屋が完成し、アルトは一息つく間もなく、次の計画に取り掛かった。それは、薬草園の開墾である。薬師として、薬草は必要不可欠な存在。自らの手で育て、管理することで、より質の高い薬を作ることができると考えていた。あと、植物や薬草の生育は趣味であり、趣味と実益を兼ねるということだ。

「まずは、場所の選定からだな」

　アルトはそう呟き、小屋の周りを歩き始めた。日当たり、水はけ、土壌の状態。薬草の生育に適した場所を探すためには、様々な要素を考慮する必要がある。

「ふむ、この辺りはどうだろうか」

　アルトの目に留まったのは、小屋の南側に広がる、少し開けた場所だった。日当たりが良く、水はけも悪くない。土壌は、まだ詳しく調べてみないと分からないが、見た感じでは、悪くないように思えた。

「よし、ここにしよう」

　アルトはそう決めると、早速、開墾作業に取り掛かった。まずは、草を刈り、地面を耕すことから始める。持参した鍬を手に、一心不乱に土を掘り起こしていく。

「うむ、なかなか手強いな」

　長年、手入れされていなかった土地は、固く締まっており、鍬を入れるのも一苦労だった。それでも諦めずに、少しずつ、確実に地面を耕していく。

　汗が額に滲み、服は泥だらけになったが、アルトの表情は晴れやかだった。土を耕すたびに、新しい命が芽吹くような、そんな希望に満ちた気持ちになるのだ。

「さて、次は種を植えるか」

　アルトは、持参した薬草の種を取り出した。カモミール、ラベンダー、ミント、ローズマリー。様々な種類の薬草の種が、小さな袋に詰められている。

「まずは、カモミールから植えよう」

　アルトは、丁寧に耕した地面に、カモミールの種を蒔いた。種を蒔いた後は、優しく土を被せ、水をたっぷりと与える。

「すくすくと育ってくれると良いのだが」

　カモミールの芽が出るのを心待ちにしながら、次の薬草の種を蒔き始めた。ラベンダー、ミント、ローズマリー。一つ一つ丁寧に、心を込めて種を蒔いていく。

　種蒔きが終わると、アルトは、薬草園の周りに柵を作った。これは、動物たちが薬草を荒らすのを防ぐためのものだ。

「これで、一安心だな」

　アルトは、完成した薬草園を眺めて、満足そうに頷いた。まだ、薬草の芽は出ていないが、これから、この場所が、緑豊かな薬草園へと変わっていくのが楽しみだった。

　その日の夕食は、薬草園の開墾を記念して、少し豪華にした。森で採れたキノコを使ったクリームスープと、ハーブをたっぷり使ったローストチキン。

「ふむ、なかなか美味い」

　アルトは、自作の料理を堪能しながら、薬草園の将来に思いを馳せた。どんな薬草を育てようか、どんな薬を作ろうか。考えることはたくさんある。

　食事が終わると、小屋に戻り、薬草に関する書物を読み始めた。薬草の効能、栽培方法、薬の調合。知識を深めることは、薬師としての腕を磨く上で、必要不可欠なことなのだ。

　夜が更け、書物を閉じ、簡易ベッドに横になった。疲労感が全身を包み込むが、心地よい疲労感だ。

　アルトは、目を閉じ、静かに眠りについた。薬草園の夢を見ながら。