森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

森の新生活

第4話 初めての出会い

　薬草園の手入れを終え、小屋の中でハーブティーを飲んでいると、何かが窓にぶつかる音がした。

「ん？」

　アルトは音のした方へ目を向けると、小さな影が窓にへばり付いているのが見えた。近づいてよく見ると、それは手のひらサイズの小さな妖精だった。透き通るような羽を持ち、可愛らしい顔をしている。しかし、よく見ると、その羽は傷つき、震えているようだった。

「どうしたんだい？」

　アルトは優しく声をかけると、妖精は怯えたように身を縮こまらせた。言葉は通じないようだったが、アルトは妖精の怪我に気づき、そっと手を差し出した。

「怪我をしているのかい？　大丈夫、怖くないよ」

　妖精はしばらく迷っていたが、アルトの優しい雰囲気に安心したのか、そっとその手に乗った。アルトは妖精を手のひらに乗せたまま、小屋の中へと入った。

「まずは、傷の手当てをしないとね」

　アルトは、薬草箱から、傷薬を取り出した。それは、マリーゴールドの花から抽出したエキスをベースにした、自家製の薬だ。殺菌作用と治癒効果があり、軽度の傷にはよく効く。

「少ししみるかもしれないけど、我慢してくれ」

　アルトは、妖精の羽にそっと薬を塗ってあげた。妖精は、少し顔をしかめたが、じっと耐えている。

「よし、これで大丈夫だ」

　薬を塗り終えると、アルトは妖精に、小さな器に入ったハーブティーを差し出した。

「よかったら、どうぞ。少しは落ち着くと思う」

　妖精は、ハーブティーの香りに興味を示し、一口飲んでみた。すると、目を丸くして、美味しそうに飲み始めた。

「気に入ってくれたみたいだな」

　アルトは、妖精がハーブティーを飲む様子を微笑ましく見守った。妖精は、ハーブティーを飲み終えると、アルトに何かを伝えようとしているようだったが、言葉が通じないため、もどかしそうにしていた。

「何か言いたいことがあるみたいだけど…。うーん、どうすれば伝わるかな」

　アルトは少し考えた後、紙とペンを取り出した。

「絵なら描けるか？」

　アルトは、ペンを妖精に差し出した。妖精は、不思議そうにペンを受け取ると、紙に何かを描き始めた。それは、花畑の絵だった。

「花畑…？　もしかして、花畑で怪我をしたのか？」

　妖精は、頷いた。どうやら、言葉は通じなくても、絵を描くことで意思疎通ができるようだ。

「花畑で怪我をしたのか。分かった。今度、一緒に花畑に行ってみよう。私が作った薬なら、どんな怪我でもすぐに治せるから」

　妖精は、嬉しそうにアルトの手の中で飛び跳ねた。

「ただし、花畑に行くのは、お前の怪我が治ってからだぞ」

　アルトはそう言うと、妖精をそっと薬草園に放してやった。妖精は、アルトに何度も感謝の言葉を伝え、花畑の方へ飛んで行った。

「ふむ、妖精か。まさか、こんな森の奥に住んでいるとはな」

　アルトは、妖精との出会いを思い出し、少し感慨深くなった。これまで、人と関わることを避けてきたアルトだが、妖精のような森の生き物たちとの交流は、悪くないと思えた。

「さて、明日も薬草園の手入れをしないとな」

　アルトは、小屋に戻り、再び書物を読み始めた。しかし、今日は、いつもと違って、心が少しだけ温かかった。
　明日はどんな出会いが待っているのだろうか。そんなことを考えながら、アルトは眠りについた。