森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

森の住人たち

第20話 森の交流の場

　薬屋食堂は、いつの間にか森の住人たちの交流の場となっていた。

　エルフ族の優雅な女性たちは、ハーブティーを片手に恋の相談。妖精族の子供たちは、アルト特製の甘いお菓子に夢中。オーク族やオーガ族の屈強な男たちは、山盛りの肉料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わしている。
　ゴブリン族は、珍しい薬草や香辛料に興味津々で、アルトに質問攻め。ドワーフ族は、自慢の鍛冶技術を生かした調理器具をアルトにプレゼントし、料理の腕を競い合っている。獣人族は、持ち前の嗅覚で、アルトの薬草園に珍しい植物を見つけてきてくれる。

　今日もまた、開店と同時に、様々な種族の客が店に押し寄せた。

「アルトさん、おはようございます！」
「今日は、どんな美味しいものがあるのかしら？」
「新しい薬草が入ったって聞いたぞ！」

　アルトは、いつものように、穏やかな笑顔で客を迎えた。「おはようございます。今日は、特別なキノコを使ったスープをご用意しました。薬草も、いくつか新しいものが手に入りましたよ」

　店の中は、すぐに活気に満ち溢れた。様々な言語が飛び交い、笑い声が響き渡る。アルトは、それぞれの客の要望に応えながら、手際よく料理を作り、薬を調合していった。

「（本当に、賑やかになったな…）」

　以前は、静寂に包まれていたこの場所が、今では、様々な種族の笑顔で満たされている。アルトは、そんな光景を眺めながら、心の中で呟いた。

　忙しい日々ではあったが、アルトは充実感を感じていた。自分の作った料理や薬で、誰かが笑顔になる。それが、何よりも嬉しかった。

　そんなある日、エルフ族の長老が、アルトの店を訪れた。

「アルト殿、しばらく見ない間に、随分と賑やかになったな」
「長老、いらっしゃいませ。お変わりありませんか？」
「おかげさまで、元気で過ごしておる。今日は、アルト殿に、感謝の言葉を伝えに来た」

　長老は、そう言うと、深々と頭を下げた。「アルト殿のおかげで、森の住人たちは、皆、幸せに暮らしておる。病に苦しむ者は、アルト殿の薬で癒され、食に困る者は、アルト殿の料理で満たされる。アルト殿は、まさに、森の守り神じゃ」

　アルトは、少し戸惑いながら言った。「私は、ただ、自分の好きなことをしているだけです。皆さんの役に立てているのなら、嬉しいですが…」

　長老は、優しく微笑んだ。「アルト殿の謙虚さも、また、皆を惹きつける魅力の一つじゃろうな。これからも、森の皆のために、力を貸してほしい」

　アルトは、静かに頷いた。「微力ながら、お役に立てるよう、頑張ります」

　長老は、満足そうに頷くと、店を後にした。

　アルトは、長老の言葉を胸に、改めて、薬屋食堂を続けていく決意を固めた。

　その夜、アルトは、薬草園で、夜空を見上げていた。

「（これからも、この場所で、皆と一緒に、穏やかな日々を過ごしていきたい）」

　星が瞬く夜空の下で、アルトは、そう願った。

　そして、今日もまた、薬屋食堂には、様々な種族の笑顔が溢れるだろう。

(さて、明日はどんな出会いがあるだろう……)


(第2章　完結)