森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

魔女との出会い

第21話 いつもの朝と森の魔女

　朝日が森の木々を優しく照らし、鳥たちの歌声が響き渡る。アルトは、いつものように薬草園の手入れをしていた。土の匂い、草花の香り、そして、微かに漂う薬草の香り。それらが混ざり合い、心地よい空間を作り出している。

「ふむ、今日はマンドラゴラの生育が良いな。そろそろ収穫時期か…」

　ブツブツと呟きながら、アルトは丁寧にマンドラゴラの葉を撫でる。薬師としての知識と経験が、彼の指先から植物へと伝わっていくかのようだ。

　薬草園の手入れを終え、店に戻ると、開店を待ちわびた客たちがすでに店の前に集まっていた。エルフ、ドワーフ、獣人…様々な種族が、アルトの薬と料理を求めてやってくる。

「おはようございます、アルトさん！」
「今日は、何か珍しい薬草は入ったか？」
「腹が減った！何か旨い物を頼む！」

　アルトは、いつものように穏やかな笑顔で客を迎える。

「おはようございます。今日は、新しい鎮痛薬が入荷しました。料理は、鹿肉のシチューをご用意しています」

　客たちは、思い思いの場所に腰を下ろし、思い思いの言葉を交わし始める。薬の話、料理の話、世間話…店の中は、すぐに活気に満ち溢れた。

　アルトは、それぞれの客の要望に応えながら、手際よく薬を調合し、料理を作っていく。カルテを見ながら、薬の調合を間違えないように、慎重に、丁寧に。

「さて、これは…肩こりに悩むドワーフのゴルドさん、いつもの肩こり薬に、新しく入荷したミントを加えて、爽快感をプラスしてみよう」

　アルトは、ゴルドのカルテを確認しながら、薬の調合を進めていく。ゴルドは、長年、鍛冶屋として働いてきたせいで、肩こりが酷いのだ。

「アルトさん、肩こり薬を頼む！最近、肩が凝って凝って仕方がないんだ！」

　ゴルドが、いつものように大声で叫んだ。

「はいはい、ゴルドさん、いつもの肩こり薬、ありますよ。今日は、特別にミントを加えておきました。少しは楽になると思いますよ」

　アルトは、笑顔で肩こり薬をゴルドに手渡した。

「おお！これは良い香りだ！ありがとう、アルトさん！」

　ゴルドは、嬉しそうに肩こり薬を受け取ると、早速、肩に塗り始めた。

　そんな、いつものように平穏な時間が流れる中、一人の女性が店の扉を開けた。

　漆黒のローブを身にまとい、顔を深く覆っているため、表情は伺えない。しかし、その佇まいからは、只者ではない雰囲気が漂っていた。

「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しですか？」

　アルトは、警戒しながらも、丁寧に声をかけた。

　女性は、ゆっくりと顔を上げ、低い声で言った。

「私は、森の魔女だ」

　その言葉に、店の中にいた客たちは、一斉に息を呑んだ。森の魔女…その名を聞いたことがない者はいない。森に住む、強力な魔力を持つと言われる存在だ。

　アルトは、冷静に魔女を見つめ返した。

「森の魔女、ですか。今日は、どのようなご用件で？」

　魔女は、アルトの質問に答えず、店の中をゆっくりと見回した。そして、最後に、アルトの目に視線を合わせた。

「お前に、頼みがある」