森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

斗成

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魔女との出会い

第23話 秘薬の作り方

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「秘薬の作り方、ですか…」アルトは、エルダーフラワーを丁寧に摘みながら、魔女に問いかけた。「魔女様の秘薬とやらは、かなり複雑な工程を経るようですね。レシピを見る限り、ただ混ぜ合わせるだけではなさそうだ。」

 漆黒のローブを纏った魔女は、アルトの薬草園の片隅で静かに佇んでいた。その姿は、まるで古木のようであり、その存在感は、周囲の空気を僅かに震わせているかのようだった。「当然だ。ただの薬ではない。秘薬と呼ぶにふさわしい、高度な魔術と錬金術の結晶なのだからな。」

 アルトは、摘んだエルダーフラワーを籠に入れながら、興味深そうに魔女を見つめた。「魔術ですか。それもまた、興味深い。私は、魔法の行使は得意な方ではないので。」

 魔女は、その言葉に僅かに眉をひそめた。「魔法が得意ではない、だと?お前ほどの魔力を持つ者が、そのようなことを言うとはな。」

 アルトは、軽く肩をすくめた。「魔力は、確かに人並み以上にあるようですが、それを上手く制御する方法を知らないだけです。それに、普段の生活で魔法を使う必要もありませんし。」

 魔女は、しばらくアルトの顔を見つめていたが、やがて諦めたように溜息をついた。「まあ良い。魔法の才能があるのに使わないとは、勿体無いにも程があるが…それよりも、秘薬の作り方を教えよう。まずは、エルダーフラワーを魔力で活性化させる必要がある。」

 魔女は、エルダーフラワーを数輪手に取り、ゆっくりと魔力を込めていく。すると、花びらが淡い光を放ち始め、微かに震え始めた。「このように、エルダーフラワーに魔力を込めることで、秘薬の効力を最大限に引き出すことができる。お前もやってみると良い。」

 アルトは、魔女の言葉に従い、エルダーフラワーを手に取った。集中して魔力を込めていくと、花びらが魔女と同じように光を放ち始めた。しかし、その光は、魔女のそれよりも遥かに強く、周囲の空気を震わせるほどだった。

 魔女は、その光を見て、目を見開いた。「な…なんだ、その魔力は…!?」

 アルトは、特に何も感じていない様子で、首を傾げた。「何か問題でも? ああ、少しやりすぎましたか?」

 魔女は、慌てて首を横に振った。「いや、問題はない。ただ、お前の魔力量が、想像を遥かに超えていることに驚いただけだ。もしかすると、私よりも多いのではないか…?」

 アルトは、その言葉を聞いても、特に動じることはなかった。「そうですか。まあ、そうかもしれませんね。」

 魔女は、再び溜息をついた。「信じられない。お前ほどの魔力があれば、どんな魔法でも使いこなせるはずなのに…なぜ、使わないんだ?」

 アルトは、穏やかな笑みを浮かべた。「魔法を使う必要がないからです。私は、ただ静かに、薬草を育て、薬を作り、美味しい料理を作って、本を読んで過ごせればそれで満足なんです。」

 魔女は、その言葉に呆れ返った。「全く、お前という奴は…!」

 しかし、すぐに諦めたように肩を落とした。「まあ良い。お前がそれで満足なら、私がとやかく言うことではないな。それよりも、秘薬の作り方を教えよう。」

 こうして、アルトは、魔女から秘薬の作り方を教わることになった。魔女の指導は丁寧で、アルトは、難なくその工程を理解していった。

「ふむ…なるほど。魔女様の秘薬は、単なる薬ではなく、高度な魔術と錬金術を組み合わせた、まさに芸術品ですね。」

 アルトは、レシピを何度も見返し、細部まで確認した。「しかし、この材料の中に、『満月草』というハーブがありますが、これはどこで手に入るのでしょうか?」

 魔女は、腕を組んで答えた。「満月草は、月に一度だけ、満月の夜にしか咲かない珍しいハーブだ。普通の場所には生えていない。特定の場所にしか咲かないのだ。」

 アルトは、少し考えてから魔女に尋ねた。「その特定の場所とは、どこですか?」

 魔女は、少し躊躇してから答えた。「それは、この森の奥にある、『月の神殿』と呼ばれる場所だ。しかし、そこは、強力な魔力を持つ魔物たちが棲みついている危険な場所でもある。」

「月の神殿、ですか…。興味深い。」アルトは、目を輝かせた。「ぜひ、行ってみたいものですね。」

 魔女は、アルトの言葉に驚いた。「馬鹿を言うな!そこは危険な場所だぞ。お前のような魔法使いでもない薬師が行ける場所ではない!」

 アルトは、にっこりと微笑んだ。「ご心配には及びません。私は、薬師であると同時に、この森の住人のような者ですから。」

 アルトは、そう言うと、どこからともなく取り出したナイフで空間を切り裂いた。そして、現れたのは、漆黒の闇に包まれた空間だった。

「これは…転移魔法!?まさか、お前…!」

 魔女は、驚愕の表情でアルトを見つめた。

「ええ、まあ。肉の調達には便利なので。」

 アルトはそう言って、闇の中へと足を踏み入れた。

「さあ、魔女様。月の神殿へ行きましょう。」
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