森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

斗成

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森の楽園

第32話 薬屋食堂の日常

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 薬屋食堂は、今日もまた、賑やかな一日を迎えようとしていた。もっとも、毎日必ず開いているわけではない。アルトの気が向いた時、あるいは薬草の収穫や調合の合間に、ふと店を開ける程度だ。それでも、その噂を聞きつけた様々な種族が、朝から晩までひっきりなしに訪れる。

 朝一番にやってきたのは、小柄な妖精たちだった。彼女たちは、日の光を浴びてキラキラと輝く羽根を羽ばたかせながら、店先に並んだ花々の蜜を求めて飛び回る。

「アルト、今日の花蜜酒はどんな香り?」

 一人の妖精が、アルトに声をかけた。アルトは、にこやかに答える。

「今日は、ローズヒップとカモミールをブレンドしてみました。少し甘酸っぱくて、優しい香りがしますよ」

 妖精たちは、目を輝かせ、花蜜酒を一口飲む。

「まあ、美味しい! やっぱり、アルトの花蜜酒は最高ね!」

 妖精たちの楽しそうな笑い声が、店内に響き渡る。

 続いてやってきたのは、屈強な獣人たちだった。彼らは、森で狩りをしてきた獲物を抱え、アルトに差し出す。

「アルト、今日は良い肉が手に入ったぞ。晩飯にでもしてくれ」

「ありがとう、助かります。お礼に、疲労回復に効果のあるハーブティーを淹れます」

 アルトは、手際よくハーブティーを淹れ、獣人たちに振る舞う。獣人たちは、熱いお茶をすすりながら、満足げに唸った。

「ふう、生き返る。アルトの淹れるハーブティーは、本当に体に染み渡るな」

 昼時になると、今度はドワーフたちがやってきた。彼らは、鉱山で採掘してきた珍しい鉱石を携え、アルトに薬の調合を依頼する。

「アルト、この鉱石を使って、何か特別な薬を作ってくれないか? できれば、体の痛みを和らげる効果のあるものが良いんだが」

「わかった。少し時間をくれれば、最高の薬を作ってみせるよ」

 アルトは、ドワーフたちから鉱石を受け取り、薬の調合に取り掛かる。ドワーフたちは、アルトの仕事ぶりを興味深そうに見守っていた。

 夕暮れ時、店にひょっこり現れたのは、魔女のラピスだった。

「アルト、今日も元気にしてるか?」

 ラピスは、相変わらずのぶっきらぼうな口調で話しかける。

「ああ、おかげさまで。ラピスこそ、何か変わったことはなかったですか?」

「別に、いつも通りだ。ところで、新しい毒の調合に成功したから、試してくれないか?」

「…勘弁してください。今日はもう、十分すぎるほど色々なことがあったんです」

 アルトは、苦笑しながらラピスの申し出を断った。

 夜になると、店には静寂が訪れる。アルトは、今日一日の出来事を振り返りながら、ハーブティーを飲む。

「今日も、色々なことがあったな…」

 アルトは、窓から見える星空を見上げた。

「明日も、きっと同じような一日が始まるのだろう。まあ、それも悪くない」

 そう思いながら、アルトは静かに目を閉じた。薬屋食堂の穏やかな日常は、これからも続いていく。
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