森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

森の楽園

第39話 神獣の憩いの場

　雨上がりの森は、ひときわ緑を濃くしていた。空気は澄み切り、鳥たちの歌声が心地よく響き渡る。アルトは、薬屋の裏庭で育てている薬草の手入れをしていた。土の匂い、草の匂い、そして花の匂いが混ざり合い、何とも言えない安らぎを与えてくれる。

「アルト、いるか？」

　聞き慣れた声が、森の奥から響いてきた。アルトは顔を上げると、白銀の毛並みが美しい狼が、悠然とこちらへ歩いてくるのが見えた。以前、森で出会った狼の神獣、白狼だ。

「いらっしゃいませ、白狼。今日は何かご用ですか？」

　アルトは、手を止めて、白狼に近づいた。白狼は、アルトの前に来ると、軽く鼻を鳴らした。

「今日は、客人を連れてきた。しばらく、ここに滞在させてほしい」

　白狼の言葉に、アルトは少し驚いた。白狼が誰かを連れてくるなど、珍しいことだったからだ。

「客人、ですか？　どなたでしょう？」

　アルトがそう尋ねると、白狼は、森の奥を振り返った。すると、木々の間から、ひときわ大きな影が現れた。それは、見たこともない神獣だった。

　全身を虹色の鱗で覆われ、光を浴びるたびに、様々な色に輝く。頭には、立派な角が生え、その先端からは、微かな光が放たれている。その姿は、まるで生きている宝石のようだった。

「初めまして、アルト。私は、虹鱗の神獣、レイと申します」

　神獣は、優雅な声で挨拶した。アルトは、その美しさに目を奪われながらも、冷静に頭を下げた。

「レイ様、ようこそ薬屋へ。どうぞ、お寛ぎください」

　アルトは、レイを店の中に招き入れた。レイは、興味深そうに店内を見回し、棚に並んだ薬草やハーブを眺めていた。

「ここは、素晴らしい場所ですね。薬の香りが、私を癒してくれます」

　レイは、そう言いながら、深呼吸をした。アルトは、レイに椅子を勧め、温かいハーブティーを用意した。

「レイ様は、なぜ、この森に来られたのですか？」

　アルトがそう尋ねると、レイは、少し寂しそうな表情を浮かべた。

「私は、長年、森の奥で暮らしていましたが、最近、少し退屈になってきたのです。何か新しい刺激が欲しくて、白狼に相談したところ、あなたを紹介してくれました」

　レイは、そう答えると、ハーブティーを一口飲んだ。

「このお茶は、とても美味しいですね。心が落ち着きます」

　アルトは、微笑みながら答えた。

「ありがとうございます。レイ様のお口に合って、嬉しいです」

　それから、アルトとレイは、様々な話をした。レイは、古代の魔法や神獣の知識を豊富に持っており、アルトは、その話に夢中になった。アルトもまた、薬草やハーブの知識、そして料理の腕を披露し、レイを喜ばせた。

　数日が過ぎ、レイは、すっかり薬屋での生活に馴染んでいた。アルトと一緒に薬草を採取したり、料理を作ったり、本を読んだり。穏やかで充実した日々を送っていた。

　ある日、アルトは、レイに尋ねた。

「レイ様は、これからどうされるのですか？　ずっと、この薬屋に滞在されるのですか？」

　アルトの言葉に、レイは、少し考え込んだ。

「そうですね……。まだ、決めていません。ただ、私は、この場所がとても気に入っています。あなたと出会えたことも、私にとって大きな喜びです」

　レイは、そう答えると、微笑んだ。アルトもまた、微笑み返した。

「私も、レイ様と出会えて、嬉しいです。これからも、一緒に、この森で穏やかに暮らしていきましょう」

　アルトとレイは、これからも、様々な知識を交換し、互いを高め合いながら、共に生きていくのだろう。そして、薬屋は、ますます賑やかになり、森の住人たちにとって、かけがえのない憩いの場となっていくに違いない。

　新たな神獣との出会いは、アルトの日常に、穏やかな変化をもたらした。レイから教わる古代の知識は、アルトの薬師としての腕をさらに高めるだろう。そして、レイ自身もまた、アルトとの交流を通じて、新たな生きがいを見つけていくはずだ。