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第1章
悪夢とトラウマ(※R15)
しおりを挟む叫びたくても叫べない。
逃げたくても逃げだせない。
薄暗い室内は、監獄だと思った。
「あぁ、なんて可愛いのだろう」
ねっとりと絡みつくような声。
その声を聞きたくなくて耳を塞ごうにも、両手は後ろ手で縛られて動かせない。
部屋を見渡せば拘束具や鞭。他にも見た事も無い、用途も知りたくないものが沢山ある。
「大丈夫、怖くないよ。これから沢山気持ち良くなるから」
ベッドに男が乗り上げ、スプリングが軋む音がやけに響く。
シャツを引き裂かれ、未発達な身体が露になり、恐怖に震える身体を太い指が無遠慮に弄る。
あまりの気持ち悪さに吐き気が込み上げるが、口には猿轡を噛まされていて、声もまともに出せない。
じっとりと見つめてくる男の目は欲情している。
身体を暴かれてゆく毎に、生暖かく荒い呼吸が顔にかかって気持ち悪い。
逃げたくても拘束された手足では、身体を捻るくらいしか出来ない。
それでもどうにか逃げ出せないかと暴れたら頬を平手で叩かれて視界が白く弾ける。
痛い。
怖い。
気持ち悪い。
全身をねっとりと舐められ、蛞蝓が這うような嫌悪感に身震いする。
足を大きく開かされたと思ったら、人に触れられた事のない秘めた場所に太い指が触れる。
ドロリとした液体を塗り込まれる。
冷たく、どこまでも不快な感触。そのまま躊躇いもせず蕾の奥へと指を進めてくる。痛さと、内臓を掻き回されるような気持ち悪さで涙が止まらない。
中を拡げようとする指の動きに、男が何をしようとしているのか理解し、絶望する。
いっその事舌を噛み千切って死にたいが猿轡が邪魔だ。
どんなに泣いても、嫌がっても。
手を止める事はなく、何度も何度も指が抜き差しされる。
自分に無体を働く男を見たくなくてベッドの天蓋を見つめる。
男の荒い呼吸と、身体の中を掻き回す卑猥な音が不快で堪らない。
小さな自分の身体にのしかかってくる大きな身体は、化け物だろうか。
「······貴方様はもう、私だけのものだよ」
男は恍惚と呟いた。
指が引き抜かれたと思ったら、すぐに膝を抱えられる。男の欲望が後孔に触れたと同時に、顔に生暖かい何かが飛んでくる。
やけに鉄臭いそれが血だと認識した瞬間、自分を組み敷いていた男の頭が、肩から落ちて床に転がる。
頭を失った身体は力無く倒れ、視線の先には血塗れの剣を手にした──。
「──ライノアっ······」
腕を伸ばして、目が覚めた。
頬が濡れていて、いつから泣いていたのか枕が冷たい。寝汗も酷ければ呼吸も荒く、アルフォルトはゆっくり身体を起こすと、震える自分の身体を抱きしめた。身体が冷たく、鼓動は速い。
(嫌な夢、みた······)
幾度となくみる、悪夢。
夢と言うには生々しい痛みと恐怖は、身体が覚えているからだろうか。
(もう、いい加減忘れろよ)
アルフォルトはぎゅっと目を瞑る。
十二歳の時に、アルフォルトはある貴族に誘拐された。好色漢で、年若い女の子を囲っていると噂されていた男だった。
その貴族に男色の趣味は無かったので特に気にも止めていなかったが、ある日アルフォルトを手篭めにしようと誘拐した。
貴方の顔が悪いのだと、誘拐した人間が口を揃えて言う。
それまでにも誘拐されかけた事は何度かあったが、アルフォルトは人前に素顔を晒す事が怖くなった。
助けにきたライノアのおかげで辛うじて貞操は守られたが、それ以降性的な物に嫌悪感を覚えるようになった。そして、成人しても性欲が無いのは、王族として致命的と言える。
房事など到底無理だ。男女問わず吐き気を覚える。
だからアルフォルトは16歳の誕生日、王位継承権を放棄した。王であるベラディオはかなり渋ったが、最終的には承諾した。
能力がない訳ではなく、トラウマが原因だと医師に言われたが、治したいとは一度も思わなかった。17歳になった今も、自慰をした事もなければしたいとも思わない。
何年経っても、アルフォルトはこの恐怖に打ち勝てないでいた。
「おはよーございます、アルフォルト王子······?」
ドアが開く音とともに、侍女のメリアンヌが元気に挨拶をし──アルフォルトの異変に気づいた。
「大丈夫ですか?」
慌てて近づいてきて、そっと背中をさすってくれる。
「大丈夫じゃない······嫌な夢みた」
震える身体を労るように、アルフォルトの肩にガウンをかけて、メリアンヌは静かな声で問いかけた。
「いつもの夢ですか?」
アルフォルトは無言で頷く。アルフォルトの事情も、悪夢に時々魘されている事も知っているメリアンヌは、優しく背中を撫でてくれる。
「······ごめん」
「王子が謝ることは一つもないのよ」
アルフォルトは膝を抱えて震える。
一時期は大人に触れられるのが怖かったが、ライノアとメリアンヌのおかげで今では大分マシになった。二人が無駄にスキンシップが多いのも、アルフォルトの為だと知っている。
それに、自分はもう小さな子供ではない。
「涙が止まらないなら気が済むまで泣いてくださいまし。私の胸を貸してあげますので」
「え」
メリアンヌはそう言って、アルフォルトを逞しい胸筋と腕で囲いこんだ。弾力がある胸を押し付けられ息が出来ない。
「アルフォルト、そろそろ起きて──何してるんですか」
部屋に入ってきたライノアが、アルフォルトを抱え込むメリアンヌに気づいて固まった。
「王子が泣きたい気分らしいので、僭越ながら私の胸をお貸ししてるところよ」
色々突っ込みたいが、ある意味豊満な胸に押しつぶされて何も言えない。見かねたライノアが助けようとアルフォルトに手を伸ばすと、メリアンヌはニッコリ微笑んだ。
「えっ······ちょっとメリアンヌ?!」
伸ばした腕をひっぱられ、ライノアもメリアンヌの腕の中に囲われた。
力では誰もメリアンヌに勝てない。
王子と従者をまとめて抱きしめて、メリアンヌは朗らかに笑った。
「二人とも、年上のお姉さんに甘えなさいな」
テノールでよく通る声のお姉さんは腕の力が強く、とてもその腕からは抜け出せそうにない。
メリアンヌの腕の中で、ライノアとアルフォルトは目が合う。ライノアは嫌そうに眉間に皺が寄っていて、アルフォルトの泣き腫らした目はまだ赤い。
朝からなんとも滑稽な様に、アルフォルトは堪らず笑い出す。止めどなく流れていた涙も、身体の震えも、気づいたら止まっていた。
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