27 / 89
第1章
涙と紅茶
しおりを挟む朝食を終えたアルフォルトは、執務室へと移動した。
宰相は報告が終わると「隠すと貴方は怒るから言いましたけど、決して無理はなさらないように」と言い添えると王宮へと戻って行った。
ライノアに寄りかかるようにソファへ座るアルフォルトの顔色は、未だに良くない。
「王子、大丈夫ですかー?」
様子がおかしいアルフォルトを気にして、レンが心配そうに窺ってくる。
アルフォルトが座るソファの前まで来ると、足元にぺたんと座り、アルフォルトの膝に頭を乗せた。
アルフォルトがレンのサラサラの金髪を撫でると、心配そうな瞳が見上げてくる。
「······自分は、口上手いわけじゃないから······王子を励ます言葉が思い浮かばないー」
膝に頭をグリグリとこすり付けるレンが、元気がない主人を励ます犬のような仕草で、アルフォルトは堪らず微笑んだ。
「ありがとう、レン。心配かけてごめんね」
手を引っ張って、ソファの隣に座らせた。レンは全く気にしていないようだが、女の子を地べたに座らせるのは気が引ける。そのままレンを抱きしめると、温かくて柔らかい。
レンも腕を伸ばして、アルフォルトの背中をポンポンと叩いてくれる。
「······さっきのディーク伯爵家って、 王子と関係あるんですかー?」
腕の中でもごもごと聞こえる声に「レン!」とすかさずライノアが窘めるが、アルフォルトは首をふってレンと向き合った。
「······レンにはまだ話してなかったよね?僕が仮面を付け始めた理由」
腕の力を緩めて、レンを離す。
レンの赤い瞳が不安そうに揺れる。アルフォルトは深く息を吐いた。
「あれは僕が12歳になったばかりの頃なんだけどね──」
アルフォルトの腰を抱くように、ライノアの腕が添えられる。ライノアの体温を感じながら、アルフォルトは訥々と語り始めた。
「······信じられないっ!!」
過去の誘拐事件について一通り話を聞き終えたレンは、泣きながら怒りを露わに震えていた。
当時のディーク伯爵に誘拐された事。
手篭めにしようと無体を働かれた事。
あわや花を散らす前にライノアに助けられた事。
その時の恐怖で人前に顔を晒せなくなり、性的なものを極端に避けるようになった事。
そのすべてがレンには許せないようで、アルフォルトにしがみついて、レンはボロボロと泣く。
「うちの王子に酷い事してっ!!そのオッサン許せないー!!」
怒りすぎて泣きじゃくるレンに、アルフォルトは苦笑いしながらハンカチを差し出した。
「当時の僕も迂闊だったから」
「王子は何も悪くないー!そいつ殺してやりたいー!!」
「既に私が殺してます」
「ライノア、そういう事じゃないと思うよ?」
ライノアのズレた返答に、アルフォルトは少し体から力が抜けた。
「大丈夫だからもう泣かないで、レン」
優しく背中を擦るアルフォルトにしがみつき、レンは駄々っ子のように喚く。あまりにしがみつくので、ライノアが見かねてレンを引き離した。
そのまま自分の腕の中にアルフォルトを囲うと、ライノアはため息をついた。
「レン、落ち着きなさい。アルフォルトが困ってます」
「そうやってライノアさんはすぐ王子を独り占めするー」
鼻をすすりながら、レンはライノアを半目で見る。無言で睨み合う二人をどうしようかとアルフォルトが思案していると、メリアンヌがワゴンを押して執務室に入って来た。
「お茶にしましょうか」
手際良くティーセットを並べるメリアンヌのタイミングの良さに、アルフォルトは感謝した。
朝食を食べてからそんなに時間が経っていないので正直お腹は空いていない。
何も言わなくてもテーブルに並べらたのは紅茶とリーフパイで、用意された軽い焼き菓子に、相変わらず有能な侍女だとアルフォルトは思う。
「──今回の件だけど」
アルフォルトは目を瞑る。
手に持ったティーカップは暖かく、じんわりと指先へと温度を運ぶ。
紅茶の芳醇な香り、リーフパイの香ばしさ。
目を開けると、自分の言葉を待つそれぞれの視線。
「関わらない事も勿論考えたけど、それじゃ今までと何ら変わらないから」
宰相は、無理しなくていいと言った。アルフォルトの事情を考えて、あとはこちらに任せても良いと。
ディーク伯爵家が関わっていることをアルフォルトに言わないという選択もあったのに、あえて隠すことはしなかった。
アルフォルトが過去と向き合うきっかけになるかもしれない、と考えてくれたのだろう。
どちらを選んでも、宰相は何も言わないだろう。
──それなら。
「首を突っ込んじゃった手前、後始末までちゃんとやるよ。子供を人身売買するような奴を、これ以上野放しにはしない」
怖いと目を逸らして怯えるだけでは、きっと守りたいものも守れない。
それに、自分はあの頃の無力な子供じゃない。
──もう逃げないと、アルフォルトは覚悟を決めた。
28
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う
凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。
傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。
そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。
不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。
甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる