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降って湧いた夏合宿
19.着ぐるみショー
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着ぐるみショーの時間は30分。
人気アニメのキャラクターたちがショートストーリーを繰り広げる。
アニメはもう十年以上続いていて、最初のシリーズのことはよく覚えている。主人公の世界にはオーブと呼ばれる金色の卵があちこちにある。このオーブを手に入れて生まれた生き物を育て、最終的に世界を破滅させようとする魔王を協力して倒す。
TV放映が始まったばかりの頃、俺は幼稚園生だった。毎週TVにかじりつき、主人公が新たなオーブを手に入れるたびに、今度はどんな生き物が生まれるのかとわくわくした。オーブの中の生き物は多種多様で特殊能力を持つ。すぐに好きなキャラができて、玩具をねだって買ってもらった。でも、キャラクターショーに行った覚えはない。いつのまにかあの中には『人』が入っていると知り『本物』じゃないとがっかりしたからだ。
開始時間の11時が近づくに連れて、どんどん人が増えてくる。
ショーの行われる舞台の前には観客席があり、最前列には幼稚園から小学校低学年ぐらいの子どもたちが座っている。その後ろは親子連れ。俺たちのように高校生男子だけのグループなんて見当たらず、一番後ろに座った。
「あれ」
同じぐらいの年のやつなんて誰もいないと思ったのに、一人だけいた。同じ最後列の端に、細身の男がぽつんと座っている。着ぐるみショーを一人で見に来るなんて、よっぽど好きなキャラがいるんだろうか。
時間になると司会役の女性が現れて、会場に呼び掛けた。
キャラの耳付き帽子をかぶっている子が何人も手を挙げて呼びかけに答えている。登場を待つわくわくした雰囲気が伝わってきて、こっちも落ち着かない。
すぐに有名なテーマソングが流れて、着ぐるみたちが現れた。わっと歓声が上がる。
「なっつ!」
「うわー! 可愛い」
思わず息を呑んだ。主人公は人型だけれど、他の生き物キャラたちは大体二頭身だ。アニメから抜け出てきた姿そのままで、元気に手を振っている。
「どうやって中に入ってんだろ」
「全然継ぎ目が見えないね」
俺の質問に清良も考え込んでいる。継ぎ目もそうだが、目だってどこから外を見ているのか全然わからない。頭身から言っても、俺の着たパンダのように目の位置がそのままのはずがないんだ。
着ぐるみ同好会の着ぐるみは結構しっかり作られていると思うが、レベルが違いすぎる。そして、中に入っている人も。
夏祭りの時とさして変わらない気温の中、彼らは走ったり、回ったり、敵と戦ったりした。最初は着ぐるみのことを考えていたことも忘れて、すっかり話に夢中になってしまった。
「あ~~あっという間!」
「結構面白かったな」
りんりんや加瀬の目がきらきら輝いている。30分はすぐに過ぎて、楽しんでいるうちに終わってしまった。もっと見たいぐらいだった。
「スーツアクターってすごいんだな」
「彼らはただ着ぐるみ着てるだけじゃなくて、演技をしてるからね。身体能力高いし」
そうだ、そこが全然違う。少し着ぐるみを着ただけでふらふらになった俺には想像もつかない世界だ。まあ、ハイキングに誘われたやつがプロの登山家は違うと言ってるようなもんだしな。
興奮は覚めず、すごいすごいと言いながら席を立つ。少し早めだが昼食にしようと、フードコートに行くことにした。
歩きながらショーのアニメの話になり、好きだったキャラの名が次々に出る。
清良たち三人は今日のショーにも出ていた人気キャラの名を出したが、俺はちょっと違う。主人公の身近にいるがあまり能力が高くない、まったりしたキャラが好きだった。残念ながら今日は出演していない。
「先輩はどのキャラが好きだったんですか?」
「えー、ちょっと地味なんだけどさ……」
りんりんに答えようとした時だった。
賑やかな声が聞こえて、いきなりドン! と背中に誰かがぶつかった。
「わっ」
「すみません!」
振り返ると、日に焼けた背の高い男が目を見開いている。
「つき、みや?」
「久木……」
その名を呼ぶのはあまりに久しぶりで、呆然としてしまった。
人気アニメのキャラクターたちがショートストーリーを繰り広げる。
アニメはもう十年以上続いていて、最初のシリーズのことはよく覚えている。主人公の世界にはオーブと呼ばれる金色の卵があちこちにある。このオーブを手に入れて生まれた生き物を育て、最終的に世界を破滅させようとする魔王を協力して倒す。
TV放映が始まったばかりの頃、俺は幼稚園生だった。毎週TVにかじりつき、主人公が新たなオーブを手に入れるたびに、今度はどんな生き物が生まれるのかとわくわくした。オーブの中の生き物は多種多様で特殊能力を持つ。すぐに好きなキャラができて、玩具をねだって買ってもらった。でも、キャラクターショーに行った覚えはない。いつのまにかあの中には『人』が入っていると知り『本物』じゃないとがっかりしたからだ。
開始時間の11時が近づくに連れて、どんどん人が増えてくる。
ショーの行われる舞台の前には観客席があり、最前列には幼稚園から小学校低学年ぐらいの子どもたちが座っている。その後ろは親子連れ。俺たちのように高校生男子だけのグループなんて見当たらず、一番後ろに座った。
「あれ」
同じぐらいの年のやつなんて誰もいないと思ったのに、一人だけいた。同じ最後列の端に、細身の男がぽつんと座っている。着ぐるみショーを一人で見に来るなんて、よっぽど好きなキャラがいるんだろうか。
時間になると司会役の女性が現れて、会場に呼び掛けた。
キャラの耳付き帽子をかぶっている子が何人も手を挙げて呼びかけに答えている。登場を待つわくわくした雰囲気が伝わってきて、こっちも落ち着かない。
すぐに有名なテーマソングが流れて、着ぐるみたちが現れた。わっと歓声が上がる。
「なっつ!」
「うわー! 可愛い」
思わず息を呑んだ。主人公は人型だけれど、他の生き物キャラたちは大体二頭身だ。アニメから抜け出てきた姿そのままで、元気に手を振っている。
「どうやって中に入ってんだろ」
「全然継ぎ目が見えないね」
俺の質問に清良も考え込んでいる。継ぎ目もそうだが、目だってどこから外を見ているのか全然わからない。頭身から言っても、俺の着たパンダのように目の位置がそのままのはずがないんだ。
着ぐるみ同好会の着ぐるみは結構しっかり作られていると思うが、レベルが違いすぎる。そして、中に入っている人も。
夏祭りの時とさして変わらない気温の中、彼らは走ったり、回ったり、敵と戦ったりした。最初は着ぐるみのことを考えていたことも忘れて、すっかり話に夢中になってしまった。
「あ~~あっという間!」
「結構面白かったな」
りんりんや加瀬の目がきらきら輝いている。30分はすぐに過ぎて、楽しんでいるうちに終わってしまった。もっと見たいぐらいだった。
「スーツアクターってすごいんだな」
「彼らはただ着ぐるみ着てるだけじゃなくて、演技をしてるからね。身体能力高いし」
そうだ、そこが全然違う。少し着ぐるみを着ただけでふらふらになった俺には想像もつかない世界だ。まあ、ハイキングに誘われたやつがプロの登山家は違うと言ってるようなもんだしな。
興奮は覚めず、すごいすごいと言いながら席を立つ。少し早めだが昼食にしようと、フードコートに行くことにした。
歩きながらショーのアニメの話になり、好きだったキャラの名が次々に出る。
清良たち三人は今日のショーにも出ていた人気キャラの名を出したが、俺はちょっと違う。主人公の身近にいるがあまり能力が高くない、まったりしたキャラが好きだった。残念ながら今日は出演していない。
「先輩はどのキャラが好きだったんですか?」
「えー、ちょっと地味なんだけどさ……」
りんりんに答えようとした時だった。
賑やかな声が聞こえて、いきなりドン! と背中に誰かがぶつかった。
「わっ」
「すみません!」
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「久木……」
その名を呼ぶのはあまりに久しぶりで、呆然としてしまった。
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