幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
20 / 48
降って湧いた夏合宿

20.つよつよになりたい

しおりを挟む
 まさかこんなところで会うとは思わなかった。2年になってからは文理選択でクラスが離れたし、行事で見かけても避けるようにしていたから。
 
「ごめん。ふざけてて周りをよく見てなかった」
「あ、うん。別にいいよ」
「でも、どこか怪我してない?」
「全然。ほんとに平気だから、気にしないで」

 久木の後ろの集団が困惑したようにこちらを見ている。彼らから自分の名が聞こえて、一刻も早く立ち去りたくなる。「じゃあ」と声をかけると、久木が慌てた。

「月宮、今、部活の皆で来てるんだ。よかったら、一緒に」

 ――……一緒に?

「あおちゃん、食事行こ!」

 清良が俺を呼んだ。助かったとばかりに「今行く!」と叫ぶ。

「久木、友達が呼んでるから」
「あ……上橋?」
「そう。それに、清良だけじゃない。俺もと来てるんだ」
「部活?」

 久木は目を丸くした。俺はすぐに背を向けて、清良たちに向かって歩き出した。少し離れたところにいた三人に謝ると、りんりんが心配そうに俺を見る。

「大丈夫ですか? 今の、うちの学校の先輩だって聞いたんですけど」
「うん。俺と同じ2年だよ。ちょっとぶつかっただけ」

 俺は後ろを見なかった。見る必要もないし、もう久木に話しかけられるのもごめんだ。フードコートに着くと、昼時なだけあって混みあっている。日陰に四人掛けの席が一つ空いたのを見つけてそこに座った。二人ずつ交替で食事を買いに行くことにして、先に加瀬とりんりんが向かう。
 清良の視線を感じて、俺は二ッと笑って見せた。

「さっきは、ありがと」
「……バド部も遊びになんか来るんだね」
「俺もちょっと驚いた。でも、今は前とは違うのかも」

 入学してから一年間、俺はバドミントン部に入っていた。それまでバドミントンをやったことはなくて、新入生向けの部活動説明会で興味を持った。里見高校のバドミントン部は運動部の中ではゆるい部活だった。「勝ち進むことも大事だが、楽しく続けていくことを一番大切にしたい」部長のそんな話に共感して入部を決めた。そして、初心者の俺にも先輩たちは親切で、1年生同士も仲が良かった。めぼしい成績を上げることはなくても、楽しく部活を続けていたのだ。夏休みが終わり、久木が入部してくるまでは……。

「お待たせしました~~! 交替!」
「どこも結構並んでるからな。カレーがすいてて狙い目だ」

 ホットドッグとポテトのセットを抱えたりんりんとカレーの大盛りを手にした加瀬。どっちもうまそうだけど、できれば冷たいものがいい。俺と清良は立ち上がって、フードコートの行列を眺めた。冷やしうどんがいいなと思ったけれど、長蛇の列だ。端の方にあるカレーは断然短い。

「もうカレーでいいんじゃない?」 

 清良の言葉に頷いて、二人で向かおうとした時だった。男子の集団がカレーの列にぞろぞろ並ぶのが見えて、すぐに方向を変えた。

「やっぱり冷やしうどんにしよ」
「了解」

(会いたくないと思う時ほど会うってほんとだな……。この後も会わなきゃいいけど)

 折角これから色々乗ろうってのに、いちいち顔を合わせたら最悪。はぁとため息をつきながら行列に並ぶ。すると、清良が「あ」と言って近くの自販機を指差した。

「あおちゃん、このまま並んでて。俺、あそこで飲み物買ってくる」
「うん」

 清良はすぐに戻ってきて、はいと俺に缶を渡す。学校でしょっちゅう飲んでるレモンスカッシュだ。

「……ここにもあったんだ」
「でも、学校より100円高いよ」
「えっ! そんなに? ここ、山の上だから?」
「遊園地だからでしょ。まあ、両方か」

 清良に「後で金返す」と言ったらいいよと言われた。最近しょっちゅうおごってもらってるなと思いながら、ありがたく受け取る。
 ぷしゅ、と音がしてプルタブを引き抜く。喉を滑り落ちる炭酸はうまい。清良はコーラを飲んでいた。

「あおちゃん、知ってる? コーラの素っていうか濃縮液が売っててさ、無糖の炭酸水で割ると家でもコーラが作れるんだよ。でも、全然美味しくないんだ」
「なんで? 売ってるのと一緒じゃないの?」
「炭酸の強さが全然違うんだよ。強炭酸水買って割っても、気が抜けたみたいになる」
「それは……やだな」
「きっと市販のはすっごく強い炭酸水が入ってるんだよ」
「強強強強強強……ぐらいの?」
「そう、強強強強強強強強……ぐらいの!」

 ぶはっと笑って、危うくむせそうになった。清良を睨むと笑いをこらえている。

「あ~~~、俺もその炭酸水みたいにつよつよになりたい!」
「十分強いじゃん」

(そうだろうか。苦手なやつにどこで会っても気にしないでいられるのを、強いって言うんじゃないのか?)

 少しでも強さを分けてくれ~~と手にした炭酸をごくごく飲んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...