21 / 48
降って湧いた夏合宿
21.入部?しました
しおりを挟む
その後、ぎゅぎゅっと詰められた炭酸とつるっと喉越しのいい冷やしうどんは俺の気力を回復してくれた。どんどん人が増える週末の遊園地、俺たちに使える時間は短い。落ち込んでいる暇なんかないんだ。
俺たちはそれぞれに好きなアトラクションを一つずつ挙げて、順番に回ることにした。俺は空中回転ブランコ、加瀬がスタンディングコースター、そして清良のフリーホールときて、りんりんが言った。地に足が着いたものでもいいか、と。
目の前でパステルカラーのティーカップがくるくる回っている。乗っているのは圧倒的にカップルが多い。いいな……と眺めてみても俺の前にいるのは、ほっと一息ついている後輩だけだ。
「すみません。一人だけ地上派で」
「全然いいけど。別の楽しさを追及しているやつらもいるし」
少し離れたところで、加瀬と清良のカップが高速で回っている。あいつらと組まなくてよかった。俺はティーカップは大人しく楽しむ主義なんだ。くるくる回りながら行き交うカップにまったりしていると、りんりんが「月宮先輩」ときっぱりした声で言った。びっくりするぐらい真剣な目をしている。
「先輩、ず、ずっと言おうと思ってたんですけど」
「ん?」
「さっき、先輩が言ってたのが聞こえて……嬉しくて」
(――さっき?)
何を言ったんだろう。りんりんの声が急に熱を帯びた。
「2年の先輩とぶつかった時です。先輩、言いましたよね。俺も『部活の皆』と来てるって!」
「あ……あああ」
(言った! たしかに言った……! 久木が部活のことを出してきたから、つい)
「今回図々しく誘っちゃって悪かったなって思ってたんですけど先輩が同好会に入ってくれたらいいなって思っててそしたら先輩はもう僕たちのことを同じ仲間だって思ってくれたんだって知ってすっごく感動してこんなところで言うのもどうかなって思うんですけどもう言っちゃった方がいいかなって」
りんりんの言葉が高速すぎて全然わからない。
「せんぱいっ!」
辺りに響き渡るような大声に、ティーカップに乗った人々の目がこちらを向く。
「今後ともお付き合いよろしくお願いしますッ!!」
(――――え?)
深々とりんりんが頭を下げると同時に、ティーカップが止まった。
「……告白?」
「やば」
俺とりんりんの方をちらちら眺める人たちが何人もいた。先に降りていた二人のところに行くと、加瀬は満面の笑顔で俺たちを迎え、清良は無表情だった。
「聞こえたぞ!」
「先輩に今後もよろしくって言いました!」
「や、よかったよな。月宮の言葉が聞こえた時さ、なーんだ、そうかって思ってさ」
「パン吉に入る人が二人いた方が心強いし、本当に嬉しいです!」
盛り上がる二人に呆然とした。いつのまにか俺はもう、着ぐるみ同好会に入ったことになっている。思わず清良を見ると、静かに俺を見返す。
「あおちゃん」
「な、なに?」
「俺、いつもあおちゃんに無理なお願いばっかりしてるから、自分から言うことじゃないと思ってたけど」
明るい栗色の瞳がわずかに揺れている。それがあんまり綺麗で、ちょっとドキッとした。
「あおちゃんが入ってくれたら……すごく嬉しい」
(こ、これ……『お願い』って言われるより、破壊力が高くないか……?)
子どもの頃から散々こいつのお願いを聞いてきた俺だが、これは経験したことがなかった。
着ぐるみは暑いし狭いし結構重い。バド部やめてうだうだしてたから体力もなくて、夏祭りではすぐにばててしまった。それでも、ちびっこが喜んでくれたのは嬉しかったし着ぐるみショーはすごかった。
(それに……こいつらといるの、結構面白いんだよな)
色とりどりのティーカップのように頭の中で気持ちが渦巻く。清良は俺からじっと目を離さない。
「……知ってるか、清良。目は口ほどにものを言うんだ」
「え?」
(お願い、って直接言わなくたって伝わるんだよ)
「入部する」と言った途端、加瀬とりんりんは飛び上がり、清良はまるでヒマワリが咲いたように笑った。
その晩、ログキャビンでは俺の入部、いや入会祝いが繰り広げられた。ジュースや菓子を買いこんでの宴会である。
「先輩! 僕のパンダコレクション見ます?」
「いや、百物語しようぜ! 俺のとっておきの話してやるよ!」
「どっちもいらない。俺、怖い話苦手だし」
「ひどい! フューチャーランドから帰国したパンダたちの最新画像もあるのに」
歓迎の心を示すのはもっと他のものにしてほしい。
加瀬が勝手に『僕が見た優しいおばあちゃんの霊』だの『午前二時にバイトを呼ぶ亡くなった店長』だのを語り始めたので、俺はそっと夏掛けをかぶった。
加瀬の語りは驚くほどうまくて、聞きたくないのについ耳に入ってしまう。ポテチをバリバリ食べている清良の側に、震えながら移動する。体を寄せると風呂上がりの清良からふわっとミントの香りがした。
(あれ、この香り……?)
どこかで嗅いだ気がしたけど、思い出せない。
調子づいた加瀬が次々に怪談を披露した結果、俺はベッドに入った後も全然眠れなかった。しんと静まったログキャビンには、すーすーと気持ちよさそうな寝息だけが響く。それなのに、俺の耳には店長がバイトを呼ぶ恨めしそうな声が甦る。
「……あおちゃん、寝た?」
「ひっ!」
「ごめん。眠れないんじゃないかと思って」
「うん。む、むり……」
ぎしっと音がして、清良が梯子を下りてくる。
「しょうがないなぁ。あおちゃんが寝るまで隣にいるよ」
「た、助かる」
「そこ、詰めて」
壁際に移動すると、清良は俺に背を向けて横向きになった。俺は清良の背に張り付く。店長の声より清良の体温だ。急速に眠くなって、うとうとしてきた頃。
「ここ、昔あおちゃんと秘密基地にしてたとこに似てる。あの頃からずっと……」
ずっと、の後、清良は何も言わなかった。
何だろうと思いながら、俺はそのまま眠ってしまった。
俺たちはそれぞれに好きなアトラクションを一つずつ挙げて、順番に回ることにした。俺は空中回転ブランコ、加瀬がスタンディングコースター、そして清良のフリーホールときて、りんりんが言った。地に足が着いたものでもいいか、と。
目の前でパステルカラーのティーカップがくるくる回っている。乗っているのは圧倒的にカップルが多い。いいな……と眺めてみても俺の前にいるのは、ほっと一息ついている後輩だけだ。
「すみません。一人だけ地上派で」
「全然いいけど。別の楽しさを追及しているやつらもいるし」
少し離れたところで、加瀬と清良のカップが高速で回っている。あいつらと組まなくてよかった。俺はティーカップは大人しく楽しむ主義なんだ。くるくる回りながら行き交うカップにまったりしていると、りんりんが「月宮先輩」ときっぱりした声で言った。びっくりするぐらい真剣な目をしている。
「先輩、ず、ずっと言おうと思ってたんですけど」
「ん?」
「さっき、先輩が言ってたのが聞こえて……嬉しくて」
(――さっき?)
何を言ったんだろう。りんりんの声が急に熱を帯びた。
「2年の先輩とぶつかった時です。先輩、言いましたよね。俺も『部活の皆』と来てるって!」
「あ……あああ」
(言った! たしかに言った……! 久木が部活のことを出してきたから、つい)
「今回図々しく誘っちゃって悪かったなって思ってたんですけど先輩が同好会に入ってくれたらいいなって思っててそしたら先輩はもう僕たちのことを同じ仲間だって思ってくれたんだって知ってすっごく感動してこんなところで言うのもどうかなって思うんですけどもう言っちゃった方がいいかなって」
りんりんの言葉が高速すぎて全然わからない。
「せんぱいっ!」
辺りに響き渡るような大声に、ティーカップに乗った人々の目がこちらを向く。
「今後ともお付き合いよろしくお願いしますッ!!」
(――――え?)
深々とりんりんが頭を下げると同時に、ティーカップが止まった。
「……告白?」
「やば」
俺とりんりんの方をちらちら眺める人たちが何人もいた。先に降りていた二人のところに行くと、加瀬は満面の笑顔で俺たちを迎え、清良は無表情だった。
「聞こえたぞ!」
「先輩に今後もよろしくって言いました!」
「や、よかったよな。月宮の言葉が聞こえた時さ、なーんだ、そうかって思ってさ」
「パン吉に入る人が二人いた方が心強いし、本当に嬉しいです!」
盛り上がる二人に呆然とした。いつのまにか俺はもう、着ぐるみ同好会に入ったことになっている。思わず清良を見ると、静かに俺を見返す。
「あおちゃん」
「な、なに?」
「俺、いつもあおちゃんに無理なお願いばっかりしてるから、自分から言うことじゃないと思ってたけど」
明るい栗色の瞳がわずかに揺れている。それがあんまり綺麗で、ちょっとドキッとした。
「あおちゃんが入ってくれたら……すごく嬉しい」
(こ、これ……『お願い』って言われるより、破壊力が高くないか……?)
子どもの頃から散々こいつのお願いを聞いてきた俺だが、これは経験したことがなかった。
着ぐるみは暑いし狭いし結構重い。バド部やめてうだうだしてたから体力もなくて、夏祭りではすぐにばててしまった。それでも、ちびっこが喜んでくれたのは嬉しかったし着ぐるみショーはすごかった。
(それに……こいつらといるの、結構面白いんだよな)
色とりどりのティーカップのように頭の中で気持ちが渦巻く。清良は俺からじっと目を離さない。
「……知ってるか、清良。目は口ほどにものを言うんだ」
「え?」
(お願い、って直接言わなくたって伝わるんだよ)
「入部する」と言った途端、加瀬とりんりんは飛び上がり、清良はまるでヒマワリが咲いたように笑った。
その晩、ログキャビンでは俺の入部、いや入会祝いが繰り広げられた。ジュースや菓子を買いこんでの宴会である。
「先輩! 僕のパンダコレクション見ます?」
「いや、百物語しようぜ! 俺のとっておきの話してやるよ!」
「どっちもいらない。俺、怖い話苦手だし」
「ひどい! フューチャーランドから帰国したパンダたちの最新画像もあるのに」
歓迎の心を示すのはもっと他のものにしてほしい。
加瀬が勝手に『僕が見た優しいおばあちゃんの霊』だの『午前二時にバイトを呼ぶ亡くなった店長』だのを語り始めたので、俺はそっと夏掛けをかぶった。
加瀬の語りは驚くほどうまくて、聞きたくないのについ耳に入ってしまう。ポテチをバリバリ食べている清良の側に、震えながら移動する。体を寄せると風呂上がりの清良からふわっとミントの香りがした。
(あれ、この香り……?)
どこかで嗅いだ気がしたけど、思い出せない。
調子づいた加瀬が次々に怪談を披露した結果、俺はベッドに入った後も全然眠れなかった。しんと静まったログキャビンには、すーすーと気持ちよさそうな寝息だけが響く。それなのに、俺の耳には店長がバイトを呼ぶ恨めしそうな声が甦る。
「……あおちゃん、寝た?」
「ひっ!」
「ごめん。眠れないんじゃないかと思って」
「うん。む、むり……」
ぎしっと音がして、清良が梯子を下りてくる。
「しょうがないなぁ。あおちゃんが寝るまで隣にいるよ」
「た、助かる」
「そこ、詰めて」
壁際に移動すると、清良は俺に背を向けて横向きになった。俺は清良の背に張り付く。店長の声より清良の体温だ。急速に眠くなって、うとうとしてきた頃。
「ここ、昔あおちゃんと秘密基地にしてたとこに似てる。あの頃からずっと……」
ずっと、の後、清良は何も言わなかった。
何だろうと思いながら、俺はそのまま眠ってしまった。
70
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる