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嵐のような夏休み
26.イケメンは1年生
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イケメンが帰った後、入れ代わりに年配のお客さんが何人も入ってきた。俺はさっきの教訓を生かして余計なことは口にしないと決めた。相変わらず仏花の売れ行きが一番だが、花束を欲しがるお客さんもいる。後から入店した母より少し年上ぐらいの女性が、小さめの花束を作ってほしいと言う。
「ただいま店長が留守なので、午後にならないとできません。アレンジメントはいかがですか。こちらにある分で全部なんですが」
「あら、そうなの。この小さいアレンジメント可愛いわね」
「あっそれ、可愛いですよね。元気が出そうな色だし、うちの母なら絶対喜ぶなって……あ!」
(ああ、また余計なこと言った。俺の母親のことなんかどうでもいいだろ)
「ふふ。じゃあ、これにするわ」
アレンジメントが一つ売れた。
花の紹介もせずいらないことを言ったのに、何で売れたんだろう……。接客はやっぱり難しい。
伊藤さんはお昼に汗を拭き拭き戻ってきた。どうしてもと言われた配達を終わらせたので、これで当分店に専念できると言う。
俺は朝一番にやって来たイケメンのことを聞いてみた。
「ああ、阿隅さん? 仏花と花束予約してたはずだけど、取りに来た?」
「来ました。すっごいイケメンが!」
「あ、お孫さん来たんだ。いつもは奥さんが取りに来るんだけどね。たしか、お孫さんは里見高校のはずだよ。今年入学したばかり」
「ええーーー!」
一年下にあんなイケメンがいたのかとびっくりした。まあ俺は情報通ではないので仕方がない。今度緋鶴に聞いてみよう。
「たしかにあの子かっこいいよね。でも、着ぐるみ同好会の上橋くんだってすごいじゃない」
「ああ……そうですね。しょちゅう見てますけどすごいです」
「あはは! 美人は三日で飽きるなんて言うけどそうでもないんだなあ」
清良なら美人と言われてもいいだろう。俺が頷くと、伊藤さんは楽しそうに笑った。
『フラワー伊藤』の営業時間は午前9時から午後6時までだ。お盆は午前中の方がお客さんが多いため、俺のバイトは5時で終わり。伊藤さんに明日もよろしくと言われて店を出た。
店から一歩出た途端、むっと熱い空気に包まれる。共同駐車場にとめていたチャリはハンドルもサドルも強火で焼かれ続けている。
(これ、ハンドルも熱いけど座った瞬間が死ぬほど熱いんだよなあ……)
覚悟を決めて乗ろうとした時だった。スマホのアラームが鳴った。慌てて画面を見た俺はチャリに飛び乗った。
「あっつ!」
サドルの熱さに耐えかねて、立ちこぎをしながら走り出した。目指すは市立図書館だ。
「お待たせしました。こちらですね」
「あ、そうです。ありがとうございます!」
カウンターで目当ての本を確認して、ほっと息をついた。
アラームを設定していて本当に良かった。今日がリクエストしていた本の取り置き期限だったのだ。バイト帰りに寄ろうと思っていたけれど、忘れそうな気がして昨晩のうちに設定しておいた。昨日の俺、偉いぞと思いながら本を受け取る。
「期限は二週間後です。また気になる本があったらリクエストしてくださいね」
にっこり笑う司書さんに御礼を言ってカウンターを離れた。ずっと読みたかった本が手に入って嬉しい。ついでに他の本も借りてみようと一般書架のコーナーに向かった。
最近文庫になったSFのハードカバーがあったらいいなと思った。文庫は軽くて読みやすいけど、俺はハードカバーのがっしりした手触りが好きだ。書棚を丹念に見ていると「月宮」と声がした。
振り返ると、そこには全然会いたくない男……久木が立っていた。
「ただいま店長が留守なので、午後にならないとできません。アレンジメントはいかがですか。こちらにある分で全部なんですが」
「あら、そうなの。この小さいアレンジメント可愛いわね」
「あっそれ、可愛いですよね。元気が出そうな色だし、うちの母なら絶対喜ぶなって……あ!」
(ああ、また余計なこと言った。俺の母親のことなんかどうでもいいだろ)
「ふふ。じゃあ、これにするわ」
アレンジメントが一つ売れた。
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伊藤さんはお昼に汗を拭き拭き戻ってきた。どうしてもと言われた配達を終わらせたので、これで当分店に専念できると言う。
俺は朝一番にやって来たイケメンのことを聞いてみた。
「ああ、阿隅さん? 仏花と花束予約してたはずだけど、取りに来た?」
「来ました。すっごいイケメンが!」
「あ、お孫さん来たんだ。いつもは奥さんが取りに来るんだけどね。たしか、お孫さんは里見高校のはずだよ。今年入学したばかり」
「ええーーー!」
一年下にあんなイケメンがいたのかとびっくりした。まあ俺は情報通ではないので仕方がない。今度緋鶴に聞いてみよう。
「たしかにあの子かっこいいよね。でも、着ぐるみ同好会の上橋くんだってすごいじゃない」
「ああ……そうですね。しょちゅう見てますけどすごいです」
「あはは! 美人は三日で飽きるなんて言うけどそうでもないんだなあ」
清良なら美人と言われてもいいだろう。俺が頷くと、伊藤さんは楽しそうに笑った。
『フラワー伊藤』の営業時間は午前9時から午後6時までだ。お盆は午前中の方がお客さんが多いため、俺のバイトは5時で終わり。伊藤さんに明日もよろしくと言われて店を出た。
店から一歩出た途端、むっと熱い空気に包まれる。共同駐車場にとめていたチャリはハンドルもサドルも強火で焼かれ続けている。
(これ、ハンドルも熱いけど座った瞬間が死ぬほど熱いんだよなあ……)
覚悟を決めて乗ろうとした時だった。スマホのアラームが鳴った。慌てて画面を見た俺はチャリに飛び乗った。
「あっつ!」
サドルの熱さに耐えかねて、立ちこぎをしながら走り出した。目指すは市立図書館だ。
「お待たせしました。こちらですね」
「あ、そうです。ありがとうございます!」
カウンターで目当ての本を確認して、ほっと息をついた。
アラームを設定していて本当に良かった。今日がリクエストしていた本の取り置き期限だったのだ。バイト帰りに寄ろうと思っていたけれど、忘れそうな気がして昨晩のうちに設定しておいた。昨日の俺、偉いぞと思いながら本を受け取る。
「期限は二週間後です。また気になる本があったらリクエストしてくださいね」
にっこり笑う司書さんに御礼を言ってカウンターを離れた。ずっと読みたかった本が手に入って嬉しい。ついでに他の本も借りてみようと一般書架のコーナーに向かった。
最近文庫になったSFのハードカバーがあったらいいなと思った。文庫は軽くて読みやすいけど、俺はハードカバーのがっしりした手触りが好きだ。書棚を丹念に見ていると「月宮」と声がした。
振り返ると、そこには全然会いたくない男……久木が立っていた。
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