幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

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嵐のような夏休み

32.イケメンの告白

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「そういえば着ぐるみ同好会の文化祭準備ってどうなってんだろ」
「来週集まる時に詳しいことを決めるって」
「え? 来週?」
「あれ? 同好会宛てのメッセージ見てない?」
「……見てない」
「ほら、清良から」
 
 加瀬に画面を見せられて、慌てて自分のスマホを確認した。フューチャーランドで同好会に入ることを決めた後、着ぐるみ同好会のグループに入れてもらった。加瀬の言う通り、休み明けの水曜に社会科準備室に集合、詳細決定とある。メッセージが届いたのは少し前だ。慌てて了解のスタンプを送る。
 
 同好会宛てのメッセージは送っているんだ。清良は元気なんだろう。

(だったら俺にも、なにか送ってくればいいのに……)
 
 清良はアイスの当たり棒だの新発売の炭酸飲料が激マズだの、自分が驚いたことをメッセージや写真でしょっちゅう送ってくる。それが急に来ないのは寂しい。気まずいと思っていたはずなのに、無性むしょうにあいつのメッセージが見たい。

 クラスでの作業は順調に進み、残りは夏休み明けに行うことになった。作りかけのタコや飾りは段ボールに詰めて、教室の後ろに置いておく。
 皆でぞろぞろと昇降口まで来て外に出ると、太陽の眩しさに一瞬目が眩んだ。それでも、風は夏の初めと違って少し秋の気配がある。

 加瀬は電車通学で俺はチャリだが、駅までは同じ道を使う。駅前まで一緒に行こうと二人で自転車置き場に向かった。ところが、歩き始めてすぐに「あっ」と声がした。振り向けば、すらりと背の高い男子が黒いケースを背負って立っている。俺の口からは勝手に大声が出た。

「お、お盆のイケメン!」
「なにそれ……」

 イケメンが呆れたような声を出す。半袖シャツにズボンという制服姿の彼を見たのは初めてだ。見慣れた高校の制服が、びっくりするほど高級に見える。

「あ、ごめん。阿隅くん……だよね?」
「……覚えててくれたんだ」

 口元が緩んで、ふわっと優しい表情になる。クールな感じが強かったけど笑うと全然イメージが違う。俺の前まで歩いてきた彼を見て加瀬が「知り合い?」と聞いた。俺が頷くとイケメン……いや、阿隅くんは睨むように加瀬を見る。

「着ぐるみ同好会の人ですよね。今日は……あの人は、いないんですか?」
「あの人って?」
「……上橋清良」

 加瀬がぴくりと眉を寄せた。

「おい、お前1年だろ? 先輩を呼び捨てにすんのやめろ」
「別に先輩だと思ってないんで」
「……は?」

 いきなり睨み合う二人を見て、俺は慌てて間に入った。

「ちょ、ちょっと待てって」
「こいつが生意気な口きいてんだけど?」
「それはそうだけど……」

 加瀬はかなり怒っているが、阿隅くんは特に気にした様子もない。あの綺麗な瞳でじっと俺を見る。

「月宮先輩」
「え、なに」
「聞いてほしいことがあるんですが、いいですか?」
「俺も聞きたいことがあるんだけど……」

 でも、と阿隅くんの目を見て言った。

「俺の幼馴染にあんな言い方をする奴とは話したくない」

 すると、見る間にしゅんと項垂うなだれた。何だろう、この感じ。そう、まるではしゃいでいたわんこが何かやらかして叱られた時みたいな。

「……すみません」

 うつむいた阿隅くんを見て、俺は加瀬に向き直った。

「加瀬、俺ちょっと阿隅くんと話してから帰る」
「月宮?」
「ごめん、先に帰ってて」
 
 加瀬は不満げではあったが、俺の頼みを聞いてくれた。遠巻きに見ていたクラスメイトたちも、ほっとしたように校門へと向かう。その場に人がいなくなり、残ったのは俺たち二人だけ。

(先に阿隅くんの話を聞いて、その後で何で花をくれたのか聞こう)

「……それで、聞いてほしいことってなに?」
「あの……」
「うん」

 阿隅くんは緊張したように小さく息をつく。それから背筋をまっすぐに伸ばした。吸い込まれそうな瞳がまっすぐに俺を見て、昔好きだったビー玉の輝きを思い出す。

「月宮蒼斗先輩……俺と付き合ってもらえませんか?」

 ……ひゅうっと風が吹いた。

(――――――は?)

「つきあう?」
「はい」
「なにか……間違えてない?」
「なにをですか?」
「だって俺、男だし」
「知ってます」
「阿隅くんって彼女がいるんじゃないの?」
「いません」
「でも、あの花……」
「先輩が飾って眺めるって言うからプレゼントしました。先輩が作ったなら、俺がずっと部屋に飾るつもりだったけど」

 花の謎は解けても、別の衝撃が大きすぎる。

「付き合うって、あの、一緒にいて……色々するわけじゃん。映画見たりご飯食べたり……そういうの?」

 阿隅くんがぱっと顔を赤くする。テンプレなことしか思いつかないが合ってたのか……?

「やっぱりよくわかんないな……からかってる?」
「いえ、俺が先輩を好きなだけです」

 いよいよ耳がおかしくなったかと思ったが、そんなことはないらしい。
 ちょうど1年の昇降口から出てきた緋鶴とりんりんが「マジか!」「マジで?」と同時に叫ぶのが聞こえたから。
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