幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

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里見高校の文化祭

37.気まずい二人

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「じゃあ、これで全員分の着ぐるみがあるってことですね!」

 わー―! パチパチパチと拍手が起きる。盛り上がったのはいいが、はっきり言おう。俺の身体能力は高くない。今からサンバ、いやダンスメドレーが間に合うのか、全く自信がなかった。あと十日しかないのだ。

「今から覚えられるんだろうか……」
「え?」
「あれ?」
 
 加瀬とりんりんが清良を見る。清良は眉間に皺を寄せ、俺に向かって「ごめん」と謝った。

「実はダンスの話は夏休み中から考えてて……。加瀬や田野倉には何がいいかって意見を聞いてたんだ。だから、加瀬たちは休みの間に色々動画を見てるんだよ」
「僕、このサンバを推してたんです! 散々練習したし、もう踊れますよ」
「俺もまあ、八割ぐらいはいけるかな」
「……へ? じゃあ、俺だけがこれから?」

(それに、そんな話、全然聞いてないんだけど?)

 思わず黙り込んだ俺を見て、清良が慌てて叫ぶ。

「あ、あおちゃんはサンバだけ参加してくれればいいから!」
「そうだ! 全員でサンバを踊って月宮は俺と一緒に後ろに下がればいい。後はセンターで清良と田野倉が踊れば形になるだろう?」
「そうしましょう! 失敗しても着ぐるみだから顔は見えないし、何とかなります!」

(りんりんの言葉は微妙だが、たしかに顔は見えない……)

「あおちゃん、それにタヌキの着ぐるみもすぐ来るよ!」
「予算つぎ込んだしな!」
「……うぅ……」

 貴重な予算をつぎ込んだと言われれば仕方ない。俺が「わかった」と答えると再び歓声が上がった。
 りんりんと清良は他のダンスも踊るが、俺はサンバだけだ。それでもまともにできるかはわからないが、一つだけと思えば気持ちが違う。毎日動画を見て練習することにし、全体の練習日も決めた。最後にパンフ配りの時間割を決めて打ち合わせが終わった。

 加瀬は電車の時間が、りんりんは塾があると言って先に帰っていった。俺は久しぶりに清良と二人で帰ることにした。

「あおちゃん……ごめんね」
「ん?」
「ダンスのこと、急に言われてびっくりしたよね」
「うん……もっと早く言ってくれればよかったのに。ダンスのことは詳しくないけど、俺だけ聞かれないのは寂しいじゃん。聞かれてたらサンバぐらい見てたと思う」

 俺は少々拗ねた気持ちになっていた。たしかに俺は同好会に入ったばかりで日が浅い。でも、自分だけのけ者にされたような気がしたのだ。

「ごめん。直接聞こうと思ってたんだ。でも……」
「でも?」

 珍しく清良が口ごもるので、何かあるのかと問いただしたくなる。

「何だよ、言いかけてやめるなって。大体いつそんな話してたんだ?」
「……お盆」
「お盆って」
 
 俺は、はっとした。夏休み中、清良と会ったのはお盆が最後だった。あのスイカを持って来てくれた時、そんな話をしようとしてたんだろうか。

「……メッセージでもよかったのに」
「そうだよね……」

 言った途端に後悔する。こんな言い方じゃなくて「そうか、俺も連絡すればよかったな」って言えばいいだけなのに。
 俺も清良も次の言葉が続かないまま、昇降口に着いた。靴を履き替えて、二人とも黙ったまま外に出る。
 このまま帰るのは嫌だから、ちゃんと話をしよう……そう思った時だった。

「月宮先輩!」
 
 辺りに響くような明るい声がした。振り返ると、阿隅くんが昇降口から走ってきた。

「今、帰りですか? よかったら一緒に……」
 
 途中まで言いかけた阿隅くんが、清良に気付いて急に黙り込む。笑顔がすっと消えて、まるで初めて会った時のような冷たい表情に変わる。

 俺の隣にいた清良が、一歩前に出た。

「悪いけど、あおちゃんは俺と一緒に帰るから」
「……月宮先輩に話しかけたんで、あんたに話しかけた覚えはないんだけど」
「相変わらず、ろくな口の利き方ができないんだな」
「相手を選んでるだけだよ。月宮先輩とは、まともに話す」

(――何だ、これ……)

 残暑厳しいはずなのに、ひゅうっと冷たい風が吹いていく。剣悪な二人を前にして、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
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