幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
38 / 48
里見高校の文化祭

38.美形がだいなし

しおりを挟む
 互いに睨み合ったまま二人は目を離さない。その時間はやけに長く感じられた。

「……帰ろう、あおちゃん」

 先に目を逸らしたのは清良だった。これ以上、阿隅くんと話したくないという意志がひしひしと伝わってくる。俺が戸惑っていると、自転車置き場に向かって先に歩き出した。
 
(ああ……これはかなり怒ってるなあ)

 俺は阿隅くんに顔を向けた。怒る清良が炎ならこっちは氷だ。幻の冷気が体から噴き出してる。
 
「阿隅くん」
「はい」
「何か事情があるのかもしれないけど、俺は清良がひどい言い方をされるのは嫌なんだ」
「……はい」

 阿隅くんの冷気は俺が話しかけた途端に止まったけれど、表情は硬いままだ。

「俺は清良と帰るよ」
「……先輩。あの、後でまたラブの写真送ります!」
「うん! 楽しみにしてる」

 阿隅くんのまとった氷は瞬時に消えた。ラブは阿隅くんの愛犬だ。昨日、送られてきた写真に可愛いと返したら、阿隅くんは次々にラブの写真を送ってくれた。
 俺は阿隅くんに片手を挙げて走り出し、自転車を引き出していた清良の側に行った。清良は眉をぐっと寄せたまま口を引き結んでいる。普段の穏やかな清良にはない表情だ。
 
「待たせてごめん」
「……あおちゃんは」
「ん?」
「あいつと知り合いなの?」
「うん。夏休みにバイトしてた時に会った」
「バイト?」

 清良が驚いたように目を見開く。

「……全然知らなかった」
「俺もバイトするなんて思ってなかった」

 清良に伊藤さんの話をして、阿隅くんが花を買いに来たことを話した。でも、アレンジメントをもらったことを言うのはやめておいた。あれが好意だとわかった今、告白の返事もしていないのに話すのは気が引ける。
 俺の話を聞くうちに清良から怒っている感じは消えたけれど、眉間には皺が寄ったままだ。俺は指でぐいぐいと清良の眉間を押した。

「……ッ」
「せっかくの美形がだいなしだって。もう怒るなよ」
「――あいつが言ったんだ」
「え?」
「俺に向かって、同好会なんて何やってるかわかんないのに、って」

 俺は思わず、清良の眉間をほぐしていた指を止めた。

「何でそんなこと言ったんだ?」
「同好会を格下に見てるからだろ? それで自分たちの持ち時間を増やしたかったんじゃない?」
「増えたのか?」
「え?」
「それで、阿隅くんたちの持ち時間は増えた?」

 清良は少し考えて首を振った。他の同好会からも抗議の声が上がり会議は揉めた。その後時間を割り振った時に、阿隅くんは自分たちの持ち時間を無理やり多く取ろうとはしなかった。

「時間を多く取りたかったわけじゃないのか? だったら、そんなことわざわざ言う必要があるか?」
「もしかしたら、あいつ……阿隅は俺が気に入らないのかもしれない。前からよく突っかかってきてたから」
「そうなんだ……」

 昔から清良が妬まれたり嫌がらせをされたりすることはよくあった。顔も頭も良くて運動能力も高い奴なんて、妬まれない方がおかしいだろう。でも、俺から見たら阿隅くんだって顔はいいし人気もある。それに、他人にそんなに関心もなさそうに見える。

「……とりあえず、帰ろう」

 俺は清良と並んでチャリをこいだ。途中でコンビニに行くと言えば、清良もうなずいた。

「清良、今日は俺がおごる。昔のお前に感謝を込めて」
「何の話?」

 コンビニで俺は当たり付きのアイスバーを二本買って、一本を清良に渡した。店の前で二人で並んでかじり付くと、冷たいソーダの味が口いっぱいに広がる。

「うま!」
「……うん」

 清良の口元がわずかに上がる。好物をバクバク食べている様子に、俺の心もぐんと上がった。しかし、食べ終わった後の棒は二人ともハズレだった……。

「当たんねぇな」
「このアイスの当たる確率は2パーセントなんだよ」
「……でも、清良は前に当たったじゃん。あーあ、神様はイケメンには優しくて一般人には厳しいのか」

 俺はさっさとゴミ箱にハズレ棒を捨てた。清良が小声で「……ありがと」と言う。お前がおごってくれる方が圧倒的に多いのに律儀だな。清良はなぜか、外れたアイスの棒を持って帰ると言う。

「それ、ハズレだろ?」
「俺には当たり」

 清良の言うことが理解できなかったが、アイスのおかげで阿隅くんへの怒りは収まったらしい。好きなものは人を元気にする。やっぱり食べ物って偉大だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...