4 / 21
本編
4.近づく距離②
しおりを挟む「一年三組、須崎さん、須崎ちはるさん。昼休みに生徒会室まで来てください」
翌日の校内放送で、ぼくは思わず、取り出した弁当を落とすところだった。いや、聞き間違いかもしれない。ぼくの耳が、何か違う言葉を聞き取ったのかもしれない。無視して弁当を開けようとすると、もう一度放送が響いた。
「須崎、呼ばれてるぞ」
向かい合わせで大きな弁当を広げた瀬戸が、にかっと笑顔で教えてくれる。
「……うん、何だろう」
心当たりは十分あったが、少しも嬉しくない。しかし、放送で呼び出されては注目が集まるじゃないか。ぼくは仕方なく弁当箱を置いて、生徒会室に向かった。
コンコン、とノックすると、どうぞ、と返ってくる。中に入れば、志堂が迎えてくれた。
「呼び出してごめん。……どうしても、気になって。具合はどうなのかなって」
(そんなの、自分で歩いて様子を見に来たらいいだろうが!)
ぼくの眉が上がったのに気がついたのか、志堂は困ったように笑う。
「うちの高校は、上級生が下級生のクラスに行くのは原則禁止なんだよ」
「……」
「特に一年生はまだ学校に慣れてない子も多いから、上級生が近づいて不安を与えないように、って決まってるんだ」
「そうなんですね。でも、もう大丈夫です。昨日はありがとうございました」
さっさと教室に戻ろう。そう思って顔を上げると、綺麗な顔が近づいて来る。
「よかったら、一緒に昼を食べないか?」
「えっ? でも、お弁当教室に置いてきちゃったし」
「待ってるから。その、ごめん。一緒に食べてもらえたら嬉しい」
(……何でだ?)
ああ、そうか、と思いついたことがあった。
「先輩、今日、友達がお休みなんですか?」
「え?」
「いや、一緒に食べる人がいなくて寂しいのかなって」
「え、うん。いや、まあ……」
「わかりました。じゃあ、待っててください」
ぼくは急いで教室に戻り、弁当箱を持って生徒会室に向かった。
(一人きりの食事は寂しい。ぼくでよければ、今日ぐらい付き合おう。昨日は心配かけちゃったしな)
この日の昼食は、思ったよりもずっと楽しかった。これがきっかけで、一緒に昼食を食べることが増えるなんて、想像もしなかった。
「いつの間に、そんなに急接近なさってるんです?」
友永がサンドイッチを食べながら、ぼそぼそと話す。ぼくたちは中庭で一緒に昼ご飯を食べていた。
「そ、そんなに接近してるつもりはないんだけど」
「十分話題になってますよ! 副会長と毎日一緒にお昼を食べてる子がいるって! 転校生だって!」
「週に二日だけだよ。毎日のわけがないだろう。学年も違うのに」
「噂ってのは尾ひれがつくものなんです」
確かに友永の言う通りだ。いつのまにか、ぼくは『副会長のお気に入りの転校生』になってしまった。ぼくたちはお昼を時々一緒に食べているだけなのに。それも、ぼくは部外者だから生徒会室はまずいと思って、中庭のベンチで食べましょうと言ったのがいけなかった。その方が逆に注目を浴びてしまったのだ。
ぼくは大きくため息をついた。
「こっそり噂を集めたり、本人を見ていられればいいと思ったのに」
「でも、ちょうどいいじゃありませんか。つかず離れずの距離でしょう?」
「うん。おかげで色々な情報が耳に入ってくる。……いらないものもあるけど」
志堂は校内で大層人気が高かった。見た目がいいだけじゃない。成績優秀でスポーツもできる。アルファらしい能力を備えているのに、驕るところがなく性格もいい。そのくせ、目下のところ恋人がいないとなれば、自分こそがと思う者が出ないわけがなかった。
186
あなたにおすすめの小説
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定
累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります
陰日向から愛を馳せるだけで
麻田
BL
あなたに、愛されたい人生だった…――
政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。
結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。
ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。
自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。
「好きになってもらいたい。」
…そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。
それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。
いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。
結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…
―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…
陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。
よかったはずなのに…
呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。
◇◇◇
片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。
二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。
セリ (18)
南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵
ローレン(24)
北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵
◇◇◇
50話で完結となります。
お付き合いありがとうございました!
♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。
おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎
また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
俺はつがいに憎まれている
Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。
それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。
圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。
しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。
心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。
しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の
『君と出会いさえしなければ…』
という心無い言葉。
実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。
※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる