本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

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本編

9.初めての巣作り③

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 目を開けた時には、広いベッドに横たわっていた。

 周りにはたくさんの服が散乱している。シャツにスウェットの上下に、部屋着にパーカー、下着……。
 きちんと片付けられた部屋の中で、床とベッドが大変なことになっていた。クローゼットにあるものを全て出してきたようなすごさだ。その中でぼくは寝ていた。

「これ、何……」

 体を起こした時に、ちょうど部屋に入ってきたのは一星だ。彼が身につけていたのはボクサーパンツだけだった。手にはペットボトルとタオルを持っている。
 ぼくが目を丸くしていると、彼は楽しそうに笑う。

「千晴も裸だよ?」
「えっ? わっ」

 確かに、ぼくは何も身につけていなかった。肌はさらりとしているけれど、体のあちこちが痛い。上掛け代わりに、ぼくは一星の服を体に巻きつけている。頭の中に様々なことが一気に浮かんでくる。

「え? ぼく、え?」

 一星がベッドに座って、ぼくにそっとキスをする。それから、冷やしたタオルをぼくの左頬にそっと当てた。

「これは巣作りだよ。オメガが番の為に行う愛情表現だ。千晴が寝ちゃったからベッドに運んで、すぐ近くのコンビニに飲み物を買いに行ったんだけど。帰ってきたら、あちこちに服が散らばってて、びっくりした」
「これ、巣作りなんだ……。番って、ぼくのこと、知ってたの?」
「もちろん。ただ、何で突然、君が名前まで変えてうちの高校に来たのかは知らない。中庭で見かけた時は驚いて、声も出なかった」
「え、あの、変なこと聞くけど。ぼくたち……運命の番、なの?」

 志堂が目を伏せて、小さな声でごめん、と言う。ぼくが首を傾げると、彼はぽつぽつと話し始めた。

 ──俺たちがまだ幼い時だ。
 父が俺を連れて芙蓉の家に向かった。仕事で志堂家と芙蓉家は付き合いがあったんだ。互いの親交を深めようと一緒に食事をするはずだった。たまたま庭で遊んでいた千晴を見て、体中の血が沸騰した。即座に走って千晴を抱きしめた。今でもよく覚えてる。これは自分のだって、いきなり項を噛んだんだ。父には殴られるし、千晴は泣き叫んでパニックになるしで大騒ぎになった。千晴は余程怖かったのか、その時のことを忘れてしまった。番関係はもちろん幼すぎて成り立たなかったはずだけど、俺は千晴のことが忘れられなかった……。

 衝撃だった。千鶴兄さんがお前は五歳だったからと言っていた。あれは、このことだったのか。

「ぼく、何も覚えてない」
「怖かったんだと思う。千晴は『運命』と聞くのも嫌がると聞いた。俺のせいだ。ひどいことをして、それでも諦めきれなくて、時々、芙蓉の家を訪ねて行った。千晴に会うことは出来なかったけれど、千晴のお母さんが様子を教えてくれた」
「母さんが?」
「もっと大人になって、それでも二人が魅かれ合うなら、それこそが運命だってことでしょうと言われたんだ。その言葉がずっと、俺の支えだった」

 ……衝撃すぎた。母さんがあの写真を出してきたのは、一星にほだされたのか。それとも、ぼくを試してみたのか。

「あのさ、ぼく、今まで発情期がなかったんだ。他の人の匂いも昔からよくわからなくて、何でだろうって思ってた。小さい時に、噛まれたから……かな。一星に会うとずっとレモンみたいな香りがして、その香りがすごく好きだって思うんだ。まさか、発情するなんて思わなかった」
「嬉しいな。俺はずっと千晴が好きだった。もちろん、今もだ。千晴からは、甘い花のような香りがする」

 ……俺の運命、と囁きながら、一星が優しいキスをする。

 ぼくは、傍らの男の香りをかいだ。やっぱり、大好きだと思う。出会った時から、ぼくを想い続けてくれた人。彼の瞳は、今もとても綺麗だ。
 幼くても、噛まれた時に番の契約が体のどこかで結ばれたのかもしれない。ずっと好きでいられるのかな。……いられたらいいな。何だか、この先が楽しみになってくる。

「ぼく、一星が好きだよ」

 まずは、一緒にいることからはじめてみる? と言ったら、もう一度、ベッドに押し倒された。

 🍫いつもお読みいただき、ありがとうございます!明日からは番外編です🍫
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