本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
10 / 21
番外編 二人のバレンタイン

1.🍫

しおりを挟む

 一年のうちで、最も寒さが厳しい季節。

 ぼくと友永はエプロンに三角巾とマスクをつけて、まるで学校の調理実習のような格好をしている。
 料理人に頼んで厨房を貸してもらい、初めての菓子作りに挑んだ。先生は友永だ。「チョコを手作りしたい」と言ったら、すぐに初心者向けのレシピを検索し、自分が教えると言ってきた。

 自慢じゃないが、ぼくは今までろくに料理をしたことがない。菓子作りなんて、まして経験がない。
 家には専属の料理人が何人もいるし、すぐ上の兄は菓子作りが趣味だ。甘やかされてきた末子の仕事は、味見ばかりだった。でも、今回はそれじゃダメなんだ。 

 だって……だって、バレンタインなのだ。
 バレンタインは恋人同士がチョコや贈り物をする。ぼくは今まで身内からもらうばかりだったけど、今年は違う。ちゃんと、チョコを贈る相手がいるのだ。

 友永にレクチャーを受け、見本を見せてもらった。その後、自分一人でやってみる。

 板チョコを細かく刻んでボウルに入れ、お湯を張った小さめのボウルと重ねて、とろりと滑らかに溶かす。溶けたチョコは、一口大のカップに入れて、ナッツやドライフルーツを乗せた。たったそれだけの事にも、たくさんの注意が必要でびっくりした。

「千晴様! お湯の温度が高すぎます。生地がぼろぼろになりますよ! それから、刻んだチョコの入ったボウルの下に置く湯煎用のボウルは、少し小さいものでないといけません。湯気がはいると、チョコレートの生地が曇って、艶がなくなります」
「そ、そうなんだ……」

 溶けたチョコを少しずつカップに入れたら、飾りのナッツたちは、そっと乗せなければならない。簡単そうに見えるものも、実はコツがいるのだ。
 友永は一体どこで学んだのかと思うぐらい、チョコ作りに慣れていた。どうやらぼくが興味を持ちそうなものは事前に調べてスキルを身につけておくよう、父の安井に言われているらしい。友永の兄たちも同じようにぼくの兄たちに仕えているから、皆、同じような教えを受けているのだろう。すごいとしか言いようがない。

 チョコと格闘すること2時間。
 磨き抜かれた芙蓉家の厨房には、アーモンドやドライフルーツが乗った一口大のチョコがずらりと並んでいた。ぼくがほっと息をつくと、隣の友永が並んだチョコを見渡す。

「千晴様、大変よろしいかと存じます」
「そうだろうか……。もう少し頑張った方がいいんじゃないだろうか。これだとチョコを溶かして固めただけだし、もっと凝った物の方が……」
「いえ、これで十分でしょう。菓子作りは実践を重ねて上達するもの。いきなり初心者が背伸びをなさっても、良い結果にはなりません」
「う……! そ、それもそうか」

 きっぱりと言い切る友永の言葉が心に響く。

「ありがとう、友永。じゃあ、これでいいことにする!」 
「ええ、それに大切なのは千晴様が自ら作られたということです。初めてお作りになられましたのに、見事な出来です。さすがは千晴様」
「いや、ほんとに初心者の出来だと思うけど……。それに、何とか形になったのも友永のおかげだし」

 友永はにっこり微笑んだ。

「千晴様の素直な御心があってこそです」
「……一星、食べてくれるかな」
「もし、これが気に入らないなどと志堂様が申されましたら、その時は……」

 友永の眼鏡の奥に、ぞっとするほど冷たい光が宿った。

(待て待て待て。おかしいだろう。一星にだって受け取るかどうかの選択の自由はあるんだから!)

 しかし、目を細めてチョコを見つめる友永に、心の内を告げる度胸はなかった。

「あ、そうだ! 折角たくさん作ったんだし、友永はどれがいい?」
「は?」
「友永も食べるだろ?」

 小さなカップに並んだチョコを指差すと、友永は見る間にうろたえた。口元を手で押さえて、え、とか、いや、とか言っている。ぼくは、レーズンとアーモンド、クランベリーの入ったチョコをひょいひょいと選んで、友永に差し出した。教えてくれたのは友永だけれど、これは一応ぼくが作ったってことでいいだろう。

「はい、これは友永の分!」
「……」

 なぜか友永は呆然として、目を瞬いている。それからひどく小さな声で、ありがとうございます、と言った。
 ぼくは、一番量の少ないチョコを味見した。ほろ苦さとベリーの甘味が口の中に広がる。なかなか悪くないと思う。

(問題は、明日、どうやってこれを一星に渡すかだ……)

 残念ながら、明日は一緒にお昼を食べる日じゃない。一星は昼休みに生徒会の会議があると言っていた。
 ぼくは一星に渡すチョコを選びながら、何と言って渡そうかと真剣に考え始めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...