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番外編 二人のバレンタイン
2.🍫🍫
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ぼくが転校した鳳珠高校は男子校だが、バレンタイン当日はあちこちにチョコが飛び交う。それを教えてくれたのは、気のいいクラスメイトの瀬戸だった。
瀬戸は中等部からの持ち上がりで、中等部も高等部もバレンタインはお祭りみたいなもんだと笑っていた。
バレンタイン当日の朝。
昇降口には、朝からあちこちに人だかりが出来ていた。皆、大小の紙袋を持っていて、そこにはどうやらチョコが入っているらしい。どこかそわそわと華やいだ雰囲気が漂っている。
ぼくの靴箱には何も入っていなかったが、上履きに履き替えた友永が、何やら神妙な顔をしている。どうやら誰かからチョコをもらったようだ。さっと鞄に何かしまっている姿を見て、ぼくは友永に囁いた。
「……友永、もてるんだな」
「滅相もございません」
友永が無表情なまま、背筋を伸ばして答える。性格は色々問題ありだが、見かけは穏やかな眼鏡男子だ。優し気な姿は密かに人気があるのかもしれない。
ぼくは友永と廊下で別れて教室に入った。
「おはよう! 須崎」
「おはよう、瀬戸。すごいな、それ全部チョコ?」
「ああ、みんな優しいよな! 当分俺はこれで食いつなぐ!!」
瀬戸は白い歯を輝かせて、にこにこ笑っている。両手に大きな紙袋を抱えている。朝練で部員たちにもらったんだよと言うので見せてもらうと、業務用の割れチョコ詰め合わせや大袋入りのチョコ菓子が幾つも入っていた。レスリング部は、質より量なんだろうか……。
可愛いラッピングのものも結構あったから、友チョコばかりではないのかもしれない。瀬戸はインハイに出るぐらいだから、憧れている子も多いんだろう。
「瀬戸は人気者だな」
「いや、俺なんかまだまだ! 人気のある部活の部長や生徒会役員なんかは、そりゃあすごいよ!」
それを聞いた途端、ぼくの胸はぎゅっと掴まれたように痛んだ。
(……絶対、一星はたくさんもらってる)
チョコをもらわないでほしい、なんてもちろん言えるわけもない。
せめて、ぼくも一星にあげたいと思って準備したけれど、受け取ってくれるだろうか。自分の作ったものが、何だか急につまらないものに思えてくる。
机の中に入れたスマホが震えているのに気が付いた。慌てて見れば、一星だ。
『一緒に帰ろう』
ドクン、ともう一度大きく胸が鳴る。
(一星も、瀬戸みたいにたくさん抱えてくるのかな)
ぼくはそんなことばかり考えてしまって、まともな返事が考えられなかった。了解、とだけスタンプを返すとすぐに、「放課後、昇降口に迎えに行く」と返信があった。
朝の様子を思い出すと、一星が昇降口に来て大丈夫だろうかと不安になる。ぼくは一日中落ち着かず、授業が終わったらすぐに、教室から走り出した。
一星がどこにいるかなんて、探さなくてもすぐにわかった。昇降口を出て少し離れた立木の下だ。人だかりの中心に、頭一つ分背の高い姿が見える。
遠巻きにしながら話すタイミングを狙っている子たちもいて、ぼくはどうやって近づいたものかと悩んだ。立ち尽くしていると、一星が顔を上げてぼくを見つける。彼はすぐに満面の笑みを浮かべて、周りの子たちをかきわけて歩いてきた。
「千晴!」
「はいっ」
思わず背を伸ばすと、一星がくすりと笑う。
ぼくは思わず、一星を上から下まで眺めた。一星は学校指定の鞄以外、何も持っていない。
(チョコは……どこにあるんだろう? あまりにたくさんあって持ち帰れないから、ロッカーに置いてあるんだろうか?)
「千晴? どうかした?」
「ううん。何でも……ない」
「そう。あの……。手を繋いでも、いいかな?」
「……え? うん!」
差し出された手をぼくはぎゅっと握った。一星の手は大きくて温かい。何だかすごく嬉しくなって、頬が緩む。一星はぼくを見て、堪えきれないように笑った。
「ほんと、千晴って」
「え?」
「いや、素直だなって思って」
一星は微笑みながら、ぼくの手をしっかり握って歩き始める。あちこちから鋭い視線を感じるけれど、一星から漂ってくる爽やかな香りですっと心が楽になる。
「だって、一星と一緒にいたら嬉しいし」
「うん」
「すごく、いい香りがしてほっとするし」
「……うん」
見上げると、一星は蕩けるような笑顔を浮かべている。綺麗な瞳を見ていると、ぼくは最近、いつもドキドキが収まらなくなるんだ。慌てて目を逸らすと、一星が立ち止まった。
「俺は千晴といたら……ちょっと安心はできないんだけど」
「えっ?」
思いがけない言葉にぼくも立ち止まる。
一星が身を屈めて、ぼくの耳元で囁いた。低く甘い声が聞こえる。
「ねえ、千晴。家に寄って行かない?」と。
一星の声を聞いた途端、ぞくぞくと体が震える。ぼくはただ、頷くことしか出来なかった。
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