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番外編 王太子の訪問
2.兄の来訪
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そして、人の口に戸は立てられない。
『王子の翼は次期当主の愛情と大神の祝福の証である』
エドマンドと神官長が流した噂は、たちまち城から城下へ、さらには噂を聞いた商人たちの口から領地の内外へと広まっていった。
城内での混乱は収まり、僕の翼に驚く者はいなくなった。廊下ですれ違う時も皆、にこやかな笑みを浮かべながら頭を下げていく。庭を散策していると、庭師から咲いたばかりの花を渡される。人々の温かさに触れて、世界が薔薇色に見えた。そう、全てが晴れ晴れとして清々しい気持ちだったのだ。
――兄である王太子が、突然王宮からやってくるまでは。
兄の来訪を告げたペテルに、僕は思わず聞き返した。
「兄上が? なんで? 先触れも無く??」
「お忍びでお越しとのことにございます。護衛もわずかのご様子」
「王太子が護衛もろくに連れずにやってくるなんて……」
お忍びって、それは対外的な話で内々には知らせるものじゃないのか。それに、辺境伯領と王都は簡単に行き来できる距離じゃない。
あんまり驚くと、人は見えているはずの者が見えなくなるらしい。すっとペテルの後ろから進み出た家令に仰天した。
「……王太子殿下は、王宮と我が辺境伯家を繋ぐ転移魔法陣をお使いです」
「!?」
「火急の用件がある場合のみ使用が許されるものです。魔術師の力が必要ですが、魔法陣を使えば素早く移動ができます」
(……知らないんだけど? どこにあるの、それ)
王宮には確かに王宮魔術師がいた。彼らは父王や宰相の指示の元に動く。当然、次期国王である兄とも関わりが深いのだろう。
だが、僕のように王位から遠い王子は魔術師たちからも遠い。彼らの黒ずくめの姿を見たことがあるだけだ。
(兄上はその魔法陣を使ってまで何をしに来たんだろう?)
次々に疑問が湧き起こる中、ペテルが僕の困惑を断ち切るように言った。
「殿下、すぐに参りましょう。王太子殿下はもう貴賓室でお待ちです」
急いで貴賓室に入ると、兄は護衛騎士たちを後ろに控えさせて椅子に深々と座っていた。いや、俗な言い方をするなら、足を組んでふんぞり返っていた。大変行儀が悪いが、僕と二人の時はよくこんな格好をしている。
「お久しゅうございます、兄上」
部屋に入って声をかけた途端、兄は椅子から飛び上がった。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました」
「……まさか本当に翼があるとはな」
挨拶はどうでもよかったようだ。
晴天の空のように美しい瞳が、まっすぐに僕を射た。上から下までじろじろと見たかと思うと、さっと後ろに回って翼を眺めている。再び真正面に来ると、兄は片眉を上げて口元をゆがめた。父とそっくりな華やかな顔立ちが、ひどく意地が悪そうな顔に変わる。
「其方が呪いを受けて、背に翼を生やしたと聞いた。可愛い弟を守るのは兄の務め。呪いをかけた者を捕らえるか、魔術師どもに翼を消させるか。……エドマンドめ、側にいながらこんな目に遭わせるとは」
「え? いや、こんな目って」
「ゾーン、これへ!」
兄の言葉に、黒ずくめの魔術師が床から湧いて出た。するりと現れた姿にぎょっとして声が出ない。
「ミシューの翼を調べろ。呪いを失くすことができるのかを」
「はっ!」
魔術師の両手から金色の光が湧いて、たちまち僕の体を包みこむ。
「ちょ、ちょっと待って。いらない! 兄上! 結構ですッ!!」
全く僕の言葉を聞かない兄と、兄の言葉以外聞きそうにない魔術師と。部屋の中には、僕の必死の叫び声だけが響き渡った。
『王子の翼は次期当主の愛情と大神の祝福の証である』
エドマンドと神官長が流した噂は、たちまち城から城下へ、さらには噂を聞いた商人たちの口から領地の内外へと広まっていった。
城内での混乱は収まり、僕の翼に驚く者はいなくなった。廊下ですれ違う時も皆、にこやかな笑みを浮かべながら頭を下げていく。庭を散策していると、庭師から咲いたばかりの花を渡される。人々の温かさに触れて、世界が薔薇色に見えた。そう、全てが晴れ晴れとして清々しい気持ちだったのだ。
――兄である王太子が、突然王宮からやってくるまでは。
兄の来訪を告げたペテルに、僕は思わず聞き返した。
「兄上が? なんで? 先触れも無く??」
「お忍びでお越しとのことにございます。護衛もわずかのご様子」
「王太子が護衛もろくに連れずにやってくるなんて……」
お忍びって、それは対外的な話で内々には知らせるものじゃないのか。それに、辺境伯領と王都は簡単に行き来できる距離じゃない。
あんまり驚くと、人は見えているはずの者が見えなくなるらしい。すっとペテルの後ろから進み出た家令に仰天した。
「……王太子殿下は、王宮と我が辺境伯家を繋ぐ転移魔法陣をお使いです」
「!?」
「火急の用件がある場合のみ使用が許されるものです。魔術師の力が必要ですが、魔法陣を使えば素早く移動ができます」
(……知らないんだけど? どこにあるの、それ)
王宮には確かに王宮魔術師がいた。彼らは父王や宰相の指示の元に動く。当然、次期国王である兄とも関わりが深いのだろう。
だが、僕のように王位から遠い王子は魔術師たちからも遠い。彼らの黒ずくめの姿を見たことがあるだけだ。
(兄上はその魔法陣を使ってまで何をしに来たんだろう?)
次々に疑問が湧き起こる中、ペテルが僕の困惑を断ち切るように言った。
「殿下、すぐに参りましょう。王太子殿下はもう貴賓室でお待ちです」
急いで貴賓室に入ると、兄は護衛騎士たちを後ろに控えさせて椅子に深々と座っていた。いや、俗な言い方をするなら、足を組んでふんぞり返っていた。大変行儀が悪いが、僕と二人の時はよくこんな格好をしている。
「お久しゅうございます、兄上」
部屋に入って声をかけた途端、兄は椅子から飛び上がった。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました」
「……まさか本当に翼があるとはな」
挨拶はどうでもよかったようだ。
晴天の空のように美しい瞳が、まっすぐに僕を射た。上から下までじろじろと見たかと思うと、さっと後ろに回って翼を眺めている。再び真正面に来ると、兄は片眉を上げて口元をゆがめた。父とそっくりな華やかな顔立ちが、ひどく意地が悪そうな顔に変わる。
「其方が呪いを受けて、背に翼を生やしたと聞いた。可愛い弟を守るのは兄の務め。呪いをかけた者を捕らえるか、魔術師どもに翼を消させるか。……エドマンドめ、側にいながらこんな目に遭わせるとは」
「え? いや、こんな目って」
「ゾーン、これへ!」
兄の言葉に、黒ずくめの魔術師が床から湧いて出た。するりと現れた姿にぎょっとして声が出ない。
「ミシューの翼を調べろ。呪いを失くすことができるのかを」
「はっ!」
魔術師の両手から金色の光が湧いて、たちまち僕の体を包みこむ。
「ちょ、ちょっと待って。いらない! 兄上! 結構ですッ!!」
全く僕の言葉を聞かない兄と、兄の言葉以外聞きそうにない魔術師と。部屋の中には、僕の必死の叫び声だけが響き渡った。
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