『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音

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Day 12:さよなら、「強がっていた」私

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 その電話は、昼下がりの穏やかな時間に、突然かかってきた。窓の外では、雲がゆっくりと流れている。

 スマートフォンの画面に表示された「母」の二文字に、一瞬、身体がこわばる。

 一番、話したくない相手かもしれない。

 母には、優也のことを何度も話していたし、結婚も考えていると伝えていたからだ。

 深呼吸をして、通話ボタンをスライドさせる。

 ◇

「もしもし?」

「あら、こころ? 元気にしてる?」

 受話器の向こうから聞こえてきたのは、何も変わらない、少しだけ甲高い母の声だった。

 その「元気?」という、何の変哲もない挨拶が、今の私には何よりも重く、そして鋭い質問に聞こえた。

「うん、元気だよ。どうしたの、急に」

 声が、自分でも驚くほど上ずっていた。平静を装えば装うほど、声は裏返り、震える。

「別に、どうもしないけど。最近連絡ないから、どうしてるかなと思って」

 母は、何かを察しているのかもしれない。あるいは、ただの母性的な勘というやつか。

 ◇

「仕事、忙しいの?」

「うん、まあ、ちょっとね」

 嘘ではない。でも、本当の理由でもない。

 当たり障りのない会話を続けながら、私の心臓は早鐘のように鳴っていた。

 いつ、彼のことを聞かれるか。その質問に、私はどう答えればいいのか。

 しばらく、世間話が続いた。親戚のこと、実家の犬のこと、近所のスーパーの特売のこと。

 そのすべてが、ひどく平和で、私のいるこの荒んだ世界とは別の次元の話のようだった。

 そして、会話が途切れた一瞬の沈黙の後、母は、私が一番恐れていた、しかしどこかで待っていた質問を、投げかけた。

「……優也さんは、元気にしてるの?」

 ◇

 その瞬間、喉の奥がぐっと詰まった。息ができない。

 今まで必死に築き上げてきた、泣かない自分。冷静な自分。前に進もうとする自分。

 そのすべてが、母のたった一言で、砂上の楼閣のように崩れ去っていく。

「……別れた」

 かろうじて、それだけを絞り出した。声は、もう震えを隠せていなかった。

 今まで必死に築き上げてきた、泣かない自分。る自分。

 そのすべてが、母のたていく。

 電話の向こうで、母が息を呑むのがわかった。うに崩れ去っ言で、砂上の楼閣のよった一。前に進もうとす冷静な自分

「そう……だったの」

 母は、それ以上何も聞かなかった。

 いつ、とか、どうして、とか、そういう無粋な質問は一切しなかった。

 ただ、一言。

「ちゃんと、ご飯は食べてるの?」

 ◇

 その言葉が、私の涙腺を完全に破壊した。

「うん」と答えようとしたのに、声にならず、嗚咽だけが漏れた。

 スマートフォンを握りしめ、声を殺して泣いた。子供のように、わんわんと。

 親の優しさほど、残酷なものはないのかもしれない。

 心配させたくない、という見栄や強がりを、いとも簡単に溶かしてしまう。

 大丈夫なフリをしていた自分を、根底から否定してくる。

 親の優しさほど、残酷なものはないのかもしれない。

 心配させたくない、という見栄や強がりを、いとも簡単に溶かしてしまう。

 大丈夫なフリをしていた自分を、根底から否定してくる。

 母は、私が泣き止むまで、何も言わずにただ、電話の向こうで静かに待っていてくれた。

 受話器から聞こえる、母の微かな息遣いだけが、私が一人ではないことを教えてくれていた。

 ◇

 ようやく落ち着いた頃、「ごめん」と私が言うと、母は笑って言った。

「いいのよ。いつでも帰りたくなったら、帰ってきなさい」

 その言葉に、また涙がこぼれそうになったのを、ぐっと堪えた。

 電話を切った後も、私はしばらく動けなかった。

 でも、さっきまでの涙は、孤独や絶望の涙ではなかった。温かい、浄化されるような涙だった。

 一人で戦っているつもりだった。でも、そうじゃなかった。

 見えない場所で、ちゃんと私を支えてくれている人がいる。

 その事実に気づけただけで、世界は昨日よりもずっと、優しい場所になった。

 世界は、まだ優しさに満ちている。
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